2008年01月19日
猫姫の舞踏 6
男たちのことなどすぐに忘れ去ったブランは、菓子袋をもぞもぞと開けて、クッキーをつまんでいる。
「ポリポリ……、ねえ、おねえちゃん。とっさに『魔眼』使っちゃってゴメンね」
「ん……。まあ、仕方ないわよ。あの状況じゃ、ね」
「うーん……」
ブランはうつむきがちに、2つ目のクッキーをつまむ。
「でもさ――良くは、あたしも分かんないけど――危険なんでしょ? いつも、『使っちゃダメ』って言ってるじゃない。ホントに、使って良かったのかなぁ」
「使い方よ。本当に、ここだって言う時だけ、使えばいいの。
お金だってそうよ。あるからって全部、使っちゃダメよ。キチンと……」「あーあー、はいはいっ!」
ブランは半分になったクッキーをつかんだままの指をピンと立てて、ノアールの話をさえぎる。
「……ま、でも。そう言う、ホントに使わなきゃいけない時でもさ」
そこでブランは急に、神妙な顔つきをした。
「おねえちゃんには、使わせたくないな。だって、昔おねえちゃんの『魔眼』見た時、ホントに怖かったんだから」
「そう、かな?」
ノアールはすっと、自分の頬に手を当てる。
「でも、時々は使わないと。あの踊りだって、本当は……」「でも!」
ブランは菓子袋から3枚目のクッキーを取り出して、ノアールの口を押さえた。
「……でも、怖いの。ホントに、心配だから」
「……」
ノアールは差し出されたクッキーを飲み込んで、反論しようとしたが、妹の心配そうな目つきを見て、それをやめた。
妹は自分のことをとても、心配してくれているのだ。自分のことを真に、気にかけてくれるのは、もうブランしかいない。その気遣いに反論ばかりして、無下にしたくはなかった。
「……うん、気を付けておくわ。さ、早く戻りましょ」
ブランは菓子袋を閉じて、姉の言葉にうなずいた。
「うんっ」
ふわ、と夜風が流れる。風は姉妹の間をすり抜けていく。それに引かれて、彼女たちの髪も、サラサラとなびく。
髪で隠されていた、ノアールの右半面があらわになる。その右目には、何かの紋章が描かれた眼帯がきつく、はめられていた。
その眼帯の下にある、「魔眼」――この目を、そしてその目をさらした、姉の素顔を見知っている者は、今ではブラン一人だけである。
(黄輪)
2008.1.25 修正