2008年01月26日
猫姫の舞踏 7
「おばさ〜ん ただいまっ
きょうはおみやげあるんだよ」
いつも笑顔で迎えてくれる宿の女主人がきょうも変わらない笑顔でふたりを迎える。
「おかえり
おや、いい匂いだねぇ
ブランちゃん、口の横、クッキーのかけらがついてるよ
お菓子食べながら帰ってきたんだね。。。ならもうごはんはいらない?」
「ええええー
ごはんとおやつは別腹だよ
ごはんごはん! おなかすいたよぉ
とりあえず着替えてくるからすぐごはんにしてね!」
大きな声で言い置きながら元気に階段を駆け上っていく。
「ブランちゃんはいつもほんとに元気だね
あんたたちみてると自分の娘みたいな気がしてくるよ
おみやげ、ありがとね
夕食のあとでみんなでいただこうね」
「うん、おばさん
いつも騒がしくてごめんなさいね
わたしも着替えてくるわ」
「騒がしいなんて思っちゃいないさ
あんたたちが静かにしてたんじゃかえって心配だよ
すぐごはんにするから早く降りておいで」
女主人はまるで母親のような暖かい笑顔でそう言った。
はやくに親と別れて、母親の顔もうろおぼえにしか思い出せないノアールは
そこに母親が立っているような錯覚に襲われて、ふと涙をこぼしそうになる。
それを隠すように背中を向けてブランが向かった部屋へと階段を上った。
食事を終え、食後のおやつも堪能して、ふたりはまた部屋へ戻っていた。
「おねえちゃん、おなかいっぱいってシアワセだよね〜
毎日こんな日ばっかりだといいなぁ」
「そうね。。。
でも、もうそろそろこの町ともお別れしなきゃいけないわ」
「ええっ!?
まだいいじゃない・・・
わたしたちのこと変な目で見る人もいないし
もちろん正体バレてもいないんだし・・・
なにも問題なんてないじゃない
もう少し・・・ね?
わたし、あのおばさんのいるこの宿に泊まっていたいわ・・・」
「わたしだって同じ気持ちよ
まるで、ほんとのおかあさんといるみたい・・・
でも・・・だからこそもうここにはいちゃいけない気がするの
わたしたちの旅の目的を思い出さなきゃいけないわ・・・」
「わかってるけど・・・
今回はほんとにつらいよ・・・
できることならもうずっとここに住んでいたいくらいなのに・・・」
「同じ気持ちなのよ
でも、このままじゃいずれおばさんに迷惑をかけることになる
そうなってからじゃ・・・いまみたいな笑顔みれなくなっちゃう
あの笑顔があるうちに、ね
次の町へ出発しよう」
「わかった・・・」
ノアールもブランもそれぞれの胸に痛みを感じながら床についた。
やがてかすかな寝息が聞こえはじめる。。。。
どれくらい静寂が続いたのか、ふとノアールの耳がピン!と立った。
ほぼ同時にブランの耳も立ち上がる。
「おねえちゃん・・・・」
「しっ」
月明かりが差し込む窓にひとつの黒い影が浮かんだ。
(キリン)