2008年02月03日
猫姫の舞踏 9
「カイン・・・ね
話ってなに?
わたしあんまり気が長いほうじゃないのよ
さっさと話して出て行ってもらえないかしら?」
たいていの場合において冷静沈着なノアールが珍しくいらだっている。
なにより、寝ついたところに突然侵入されたのが気に入らない。
そして・・・今夜ブランと旅立ちについて話し合ったばかりだったのだ。
できることならそっと旅立ちたいと思っていたノアールには、この珍客は煩わしいだけであった。
「まぁ・・・そうイライラすんなよ・・・
っても無理はないってのもわかるがな
こんな夜中にこっそり忍び込んだのはほんとに悪かった
まじにそれは謝るぜ」
カインは本心から詫びるように頭を下げた。
「ただな
少しでも早くこうしないと・・・あんたたち出てっちまうだろ
俺があんたたちの正体バラしちまったからな
『魔眼のモノ』は人とあまり交わりたがらないってのも聞いたことある
とくに・・あんたたち、この宿のおかみさんには迷惑かけたくなさそうだしな」
「だからなんなの・・・
わたしたちがどうだろうとあなたに関係ないでしょ
謝りにきたのならもうけっこうよ
それでじゅうぶん、もうお引取り願いたいわ」
「いや・・・
もちろん謝りにもきたんだが
いやな・・・じつは・・・
うーん・・・
本題は別にあんだよな」
「なんなのよ!
ほんとに怒るわよ?
いいかげんその本題とやらを話してちょうだい
もうこんな時間・・・いつまでも付き合っちゃいられないわ!」
「あああああー
わかったわかった
イライラすんなよ・・・話すよ
あのな・・・
あんな真似しといてなんなんだが・・・
えーと
つれてってほしいんだ!」
「はぁ・・・?」
「意味わかんないんだけど・・・?」
ノアールもブランも顔を見合わせて首をかしげた。
「だから、つれてってほしいんだよ、この俺を!
あんたたち、自分らの正体知ってるやつがいるってわかったら
もうこの町から出てっちまうだろ?
俺もどうせこの町からそろそろ出ようと思ってたとこなんだ
どこへ行くってアテがあるわけでもねーし
あんたたちと一緒に行きたいんだよ
だからこんな時間にこっそりやってきたわけさ」
カインの鼻先に人差し指を突きつけてブランが小声で言った
「あんたね・・・ばっかじゃないの?
なんでわたしたちがあんたをつれてかなきゃいけないのよ
正体知ってるっても他にだれも見てないんだからね
てゆーか!
正体正体ってねー
わたしたちが「ソレ」だって証拠もなーんもないんだからねー」
ノアールも続く
「そうよ・・・
わたしたちはずっと二人で旅をしてきたの
他の人間なんて必要ないわ
というよりジャマなだけ
せっかくのお申し出だけどお断りするわ
さ、話は終わったわね
出ていってちょうだい」
「おぃおぃ
頼むよ、ほんと
あんたたちの動きに惚れちまったんだ
あれよ・・・いわゆる弟子入りしたいわけだ!」
「いい加減にして・・・
悪いけど、わたしたち猫には人間の「ウソ」がわかるのよ
なんとなくだけど・・・本能ってやつね
それに弟子なんてジャマなだけ
ますますお断りよ
これ以上居座るのならこちらにも覚悟があるけど?」
ノアールの左目がキラリと光る。
「わかった・・・わかったよ
今夜のとこは退散するさ
しかし、ダメだって言われて簡単には引き下がれねぇ
俺もそれなりに決心してんだ
ぜってーついてくからな」
カインはそう言い置いて、窓からすっ・・・と姿を消した。
(キリン)