2008年01月11日
猫姫の舞踏 1
激しいクライマックスを終え、静かにその動きを止めたふたり。
あれだけ動いたあとだというのに息切れひとつなく、その最後のポーズを保ったまま
たくさんの拍手をあびていた。
自分たちへの賞賛を満足するまで吸い込んで
まるで生き物とは思えないほど完璧に動きを止められたその体はゆっくりとほどけるように優雅なお辞儀を観衆へ返した。
すべての観客の方向へその喝采への礼を尽くしたあと、ふたりはまたすべるような軽やかさで人ごみへと融けていく。
ふたりが踊っていたのは大きな舞台でも会場でもない
道端なのであった。
もともと人通りの絶えない大きな道の端ではあったが、その「舞台」が終わる頃にはどこからこれだけの人が湧いてきたのだろうと思えるほどの人垣ができていた。
拍手とともにあちこちから投げられた小銭や紙幣もいつのまにかきれいに消えていた。
いつのまにどこからきたのか、そしてどこへ消えてしまったのか・・・。
ふたりの「舞台」はいつもこんな風に突然はじまり、そして人々が余韻に酔っているほんのわずかな時間に消えてしまうのである。
ただ、どこから流れてきたのかわからない噂で彼女たちの名前だけは知られていた。
───ノアールとブラン───
ひとりは雪のような真っ白な毛色、もうひとりは闇に融ける黒い毛色であった。
(キリン)