2024年02月03日
【短編小説】『夜蝶の手記』3 -最終話-
⇒【第2話:癒しの避難所】からの続き
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<登場人物>
◎水嶋 クレア
主人公、23歳
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【第3話:優しくて誠実な2番手】
皆さんどうもこんばんは、水嶋 クレアです。
前回はすこーし会話が独特なお客さんと、
夜のお店は男の避難所って話だったね。
今夜は、個人的に恋愛市場で割を食ってると思う
「優しさと誠実さが売りの男」の話。
ゆっくりしていってね。
ーー
夜のお店って”疑似恋愛”を提供する商売よね。
来店する男の人もそれぞれで、
割り切ってる人も、あわよくば狙ってる人もいるのよ。
そういう男の人にとっては勝負の場でもあるんかな?
で、そんな恋愛戦場で働く身としては、
ちょっと失礼だけど感じるのよ。
(この人はモテそうだなぁ)
(この人は苦労してそうやなぁ)
って。
もちろん、お店での立ち振る舞いが
その人のすべてじゃないよ?酒も入ってるし。
けど、なんだろうね。
言葉で表すのが難しい雰囲気とかオーラ?
控え室で同僚の話を聞いてるとさ、
接客した男の人の話でけっこう盛り上がってるのよ。
「あんな人を彼氏にしたい」
「あの人は優しいけど本命じゃないかな」
面白いのは、
その人の年齢はあんまり関係ないところ。
若い人だから良いとか、
年齢を重ねてるからちょっと…
とかいう話はあんまり聞かないんよね。
むしろ年齢を重ねて経験豊富な人がいいって意見も多いよ。
そーいう話を聞いてると、
「俺はもう若くないから」なんて
悲観する必要はぜんぜんないと思う。
ただね…。
私も「この人はモテそうやなぁ」とか、
判定じみたこと言っといて申し訳ないけど、
女性ウケの基準って、そんな単純じゃないっぽいのよ。
それが私のお客さんの話。
歳は私より2〜3コ上かな?けっこう若い人。
見た目はシュッとした爽やかイケメン。
最初は会社の先輩に連れられて来たんだけど、
その理由が、
「彼女いない歴=年齢がコンプレックス」
なんだって。
女性にアプローチしたことは何度かあるらしいのよ。
けど全敗して、いよいよ自信喪失して。
先輩社員がそれ聞いて、
「まずは女性と話すことに慣れようぜ」
ってことで連れて来たらしいの。
確かにちょっと自信なさそうに見えるよ。
万人受けはしないだろうけど、
私的には「なんでこの人に彼女できないの?」って思ったのよ。
それで、私が後輩くんの席に付いたんだけど、
なんということでしょう。
後輩くん、私よりずっと聞き上手でした。
話の引き出し方が上手いのなんの。
こっちが話すペースに合わせてくれるし、
話を広げる質問も上手くてびっくり。
お主、実はカウンセラーか?
人と話すと石化する私でさえ、
最後まで話が途切れなかったわ。
たぶん、人生で初めて
「会話はキャッチボール、50:50が理想」
っていう幻想を信じた瞬間だった。
いるんだね、こんな稀少種。
しかも、本性はガサツな私よりずっと気遣い上手。
私の飲み物が減ってたり、
携帯してるハンカチを気にしてたら声をかけてくれる。
「指名のお客さんがいたらそちらへどうぞ」とか
「バックヤードへご用ですか?」とか。
かといって世話焼きって感じでもなくて、
すっげー自然にやってくれるのよ。
こーいう気遣いムーブを
恋愛テクニックとして使ってくる男もいるんだけど、
バレるのよね、なんか不自然で。
けどこの人は小手先感がしなくてさ。
なんだおめー?レディファーストマシンか?
そんで、向こうも居心地がよかったらしく、
ちょくちょく指名してくれるようになったのよ。
ーー
とまぁ、私のお客さんの中では飛び抜けて誠実な人。
なんだけど、
控え室で言われてるのは、
「あのお客さん、優しいけど物足りないよね」
「ドキドキしないし、ちょっと面白味に欠ける」
「いい人だけど、彼氏にするまででもないかな」
「よくて2〜3番手かな。いいお友達なら、まぁ…」
なんでだよオマエラーー。
…いやわかるよ。
確かに彼氏ってよりか
「面倒見のいいお兄ちゃん」だし、
「包んでくれるお母さん」的な雰囲気よ。
常にリードを求めるのはキツイし、
ガツガツきてほしい人には物足りないよ。
一緒にいると落ち着くけど、
非日常のドキドキはあんまりないかもよ。
けど、けどさ…オマエラ…
男から
与えてもらえることばっかり
値踏みしてんじゃねーよ!!!
…私、ちょっと悲しいのよね。
こんだけ誠実な男の人が「いい人止まり」だったり、
彼氏候補から除外っていう現実が。
人としては素晴らしいけど
男性としては評価されないってのが。
夜の世界も私の周りも
「スレてる人」が多いからね。
動くお金の量もケタ違いだし、
スペックあってなんぼの世界では厳しいかもね。
男にいろいろ求めちゃうのもわかるのよ?
狩猟採集時代は
強い男が女性を守ってたんだから、
本能でそれを求めてるってのも。
力では勝てないから、
力を自分に向けない男を厳選するのもわかるよ。
けどさ、
「自分が何をあげられるか」も考えようよ。
「ヤサ男はつまらない」って切り捨てる前に、
やすらぎを与えてくれる人って一面も見ようよ?
四六時中ドキドキしてたら疲れるよ?
私、ここまでエラソーなこと言ったけど、
彼女たちが言いたいのは、
「優しいのはすばらしいけど、それは大前提」
「強さもほしい、理想は優しいボディーガード」
だと思うのよ。
少女マンガでヒロインと恋に落ちる男性って、
そんなキャラが多いよね。
『ベルサイユのばら』だったら
フェルゼンとアンドレが理想の男ってことよね。
さすがに私のために国や片眼を捨てろとか、
盾になれっていうほど求めてはいない…と思いたいけど。
でさ、「誰にでも優しい男」には
その素養がないって判定されてるのが納得いかんのよ。
そりゃ一途であってほしいよ?
誰にでも優しいと
「自分だけ特別じゃないんだ…」って思うのもわかるよ?
けど考えてみ?
優しさや穏やかさって簡単には身に付かんよ。
たとえ自信のなさや処世術だとしてもよ。
自分を律したり相手の希望を立てたりできるって、
精神的にけっこうタフだと思わん?
なのに「優しそう」は褒め言葉じゃなくて
「男としては魅力ない」って意味?
それって、あまりに過程を想像してなさすぎじゃない?
物足りなさって、長く安定した関係になるには必要よ?
魅力だって”今はまだ”足りないだけかもしれないじゃん?
一時の刺激ばっかり追ってると、
すげーでかい魚を逃がして後悔するかもよ?
…うん、いったん落ち着くわ。酒をくれ。
ーー
で、例の後輩くんも、
同じ理由でフラれてきたっぽいのよ。
「いい人だけど恋愛対象じゃない」
的なことを言われて傷ついたって言ってたよ。
さすがに落ち込んで、
ワルイヤツになろうとしたけど、
根が優しいからイキれなくて失敗したんだって。
よかったね、闇墜ちしなくて。
確かに現実世界では正直者がバカを見るよ?
まっとうに生きてたって報われないことの方が多いよ?
けどさ、私は女だけど、
ヤサ男が報われないって理不尽すぎると思うのよ。
私が男だったら
「じゃあ、どうしろと?」
「求められる性格を演じろと?」って途方に暮れるよ…。
それでも後輩くん、お店に通ううちに
ちょっと自信ついてきたみたいでね。
先輩の狙い通り
「女性と話すことに慣れてきた」のよ。
すごいね。
男の人って自信が付くだけでこうも変わるんだ。
このままいけば近いうちに彼女ができて、
お店に来なくなるかもね。
あーあ、指名客が1人減っちゃうなぁ。
え?惚れたのかって?
そ、そんなわけないでしょ?!(汗)
ただのビジネスよ…ただの…。
ーー
私、この先どうなるんだろうね。
それなりにやってきたけど、
この仕事をいつまで続けるかは未定。
早起きは苦手だけど、私も一応ヒト科だからね。
日中に活動したいわ。
そんで、喪女だけど恋愛諦めてないからね。
ほ、本当だからね?!
夜の仕事をしてるとさ、
まかり間違って昼間の彼氏ができても、
起きてる時間帯が合わないのは避けたいよね。
未来はわからんけど、
今は目の前のリクエストに応えましょうか。
あの日、優しい先輩方が
ダメージデニム加工してくれたドレスあるじゃん?
アレ、やたら人気になっちゃったのよ。
恥じらいド底辺の私だから着るけどさ、
これって反則技な気がする。
あんまりあざといと、
また先輩のイビリイベント地雷を踏んじゃうから面倒ね。
まぁ、しばらくは「彼氏ほしい」とか毒とか吐きながら
ゆるっと過ごしますわ。
人生、意外と悪くないモンよ。
とりあえず生きとけ、なるようになる。
水嶋 クレアでした。おやすみなさい。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
『どんな家路で見る月も』1話完結
『まもりたいもの1つ』1話完結
⇒参考書籍
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