2024年02月02日
【短編小説】『夜蝶の手記』2
⇒【第1話:嫉妬の楽園】からの続き
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<登場人物>
◎水嶋 クレア
主人公、23歳
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【第2話:癒しの避難所】
皆さんどうもこんばんは、水嶋 クレアです。
前回は先輩のイビリが
神アシストになった話だったね。
今回は私のお客さんの話に付き合ってね。
最近は女性のお客さんも増えてきたけど、
基本的に男の人がお姉さんを求めて来るお店よね。
で、その現場で仕事してて思うのよ。
こーいう業界って、男の「イバリたい願望」を
収益化して成り立ってるんだなぁって。
自然界じゃオス同士で序列を争って、
強いオスがメスを総取りだもんね。
それは人間にも当てはまるみたい。
もはや男のイバリは強さのアピールのため。
DNAに刻み込まれた本能かもね。
お店にはいろんな「イバリたい願望」を
抱えた男の人が来るけど、たまに厄介な人がいるのよ。
私が1番苦手な
「どんな話題も自分の話に自動変換して返す機能」を
初期搭載した人ね。
最初の二言三言ですぐわかるの。
「あぁ、話通じないタイプか(棒)」って。
もちろん、お酒が入って
気が大きくなってるのもあるかもだけど。
たとえば私が
「お客さんの誰々に怒られちゃったんです。」
って話題を振った時ね。
ある程度、話を聞く力が高い人なら、
『それは大変だったね…どんなことで怒られちゃったの?』
みたいな、
共感しつつ話題を広げるムーブができたら
相手の好感度が上がると思うのよ。
けど、この手の人には自動変換機能があるから、
『あの人?なんで?俺にはすごくいい人だよ?』
『この前なんて俺のためにこんなことしてくれてさぁ…。』
って、自分語りに持っていくのよ。
こーいうの「会話泥棒」っていうのよね?
お金を払ってる私相手だからいいけど、
これシラフで家族とか友人にやったら
人が離れていくパターンよね…。
「この人には話が通じない」とか
「自分をアピールしたいだけ」とか思われてさ。
それで話し相手が減って、
話したい欲求が満たされなくなって。
たまーに人と話せたら、そりゃ
「このチャンス逃してなるものかァァ!!」ってなるよね。
そこで自分語りばっかりするから、
余計に人が離れていくっていう悪循環ね。
私の経験に限るけど、
そういう人ってパッと顔を見ると違和感がある。
なんつーか、目の焦点が定まってないのよ。
いや、眼球自体はシッカリと
私の身体とか身体とかに向いてるのよ?
けど、実はグルリと自分にしか
「関心の視線」が向いてないというか。
視界には入ってるけど眼中にはないというか。
虎視眈々と自分アピールのスキを狙ってる?
みたいな独特の眼球運動なのよ。
うん、うまく表現できないわ。
とりあえず、すげー失礼なこと言ってる、ごめんて。
ーー
失礼ついでだけど、
私ずっと聞き役やってきて最近
「自分ってお母さん役か?」って思うのよね。
さっきの「自分語り初期搭載型」の人に限らず、
みんな話聞いてほしいって飢えてるのよ。
外見は大人だけど、目ぇギラギラさせて
「ねぇお母さん、聞いて聞いて!」
って叫んでるように見えるの。
そう見えてくるとさ、
ちょっとかわいくも、かわいそうにも思えるのよね。
小さい頃、お母さんやお父さんに話聞いてもらえなくて
寂しかったんやろなぁ、って想像しちゃってね。
すげーわかるよ、私だってそうだったから。
ただそれを全面に押し出すと、
対人関係的にマズいってことよね。
そんで、世の中には
「お母さん聞いて聞いて!」に飢えてる人がいっぱいるから、
聞き上手は希少価値が高いってことね。
お?コミュ障の私の性格、意外とカネになるかも?
聞き上手で売れてる本性、だいぶ腹黒いな。
ーー
私、ここまでエラソーに
「男のイバリたい願望を満たしてる」
的なこと言ってるけど、男って大変ねって思う。
もちろん女も大変よ?
けど男の大変さって、女とちょっと違うのよ。
程度は人によるけど、
お店に来る男の人って”競争”に疲れた顔をしてるの。
とにかく学歴とか年収とか肩書きとかで競い合って、
勝ち続けないと捨てられる、みたいな逼迫感があってね。
どこかで
「男は生まれた瞬間から”結果出そうレース”が始まる」
って聞いたことあるけど、言い得て妙よね。
オスがモテたい、子孫を残したいってなったら戦闘力、
現代社会ならお金を稼ぐ力がないといけない、
ってことで必死なんだと思う。
ほんと、競争社会って残酷ね。
こんな世界に誰がした。
ついでに私に彼氏よこせ(切実)
ーー
そんなわけで、ポンコツな私でも
いろいろ考えて夜を生き残ってるわけよ。
意外とマジメでしょ?
マジメついでにぶっちゃけるけど、
最近、夜の世界って必要悪なんだと思う。
もちろん男にオラつかれたりイバられるのはアレよ?
アレだけど、ここって疲れた男の癒しの場所でもあるのよ。
競争に勝った男が自分の力をイバルところ
っていう光と、
競争に負けて惨めな思いをしてる男が
お金を払ってイバルことを許されるところ
っていう闇。
私は職業に貴賤はないと思うけど、
夜の仕事に独特のイメージがある人は
多いんじゃないかな。
けど、そこで働いてる人は
男のささやかなプライドを守ってるわけよ。
そう考えると、ちょっとやる気が出るよね。
今夜はかなり暴言を吐いちゃった。
酔ってんのかな。
今回も付き合ってくれてありがと。
次は最終回「男って大変よね」に関係する話ね。
個人的に
「優しさと誠実さが売りの男」って
恋愛市場で謎に割を食ってると思うのよ。
で、まさに私のお客さんにそんな人がいるから、
その男の人の話をするね。
おやすみなさい。
⇒【第3話(最終話):優しくて誠実な2番手】へ続く
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