2024年02月01日
【短編小説】『夜蝶の手記』1
<登場人物>
◎水嶋 クレア
主人公、23歳
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【第1話:嫉妬の楽園】
皆さんどうもこんばんは、水嶋 クレアです。
とある夜のお店のキャストやっとります。
ナンバー1ではないけど、
3年目でそこそこ売れるようになりました。
仕事柄、色んな人の話を聞くんだけど、
なんだかんだ面白いことも苦労もあるよ。
なので今日はこぼれ話に付き合ってくれる?
え?はよ始めろ?
ありがとうございます、指名よろしく。
ただ最初に言っておきたいのは、
「これだから男は(女は)」的なことを
言いたいわけじゃないってことね。
私はフェミニストでもないし、
今の時代「男だから女だから」ってのもマズいし。
とあるキャストの独り言だと思って流してね。
という予防線を展開したところで、本編どーぞ。
ーー
私、夜のキャストやってるけど、
実はすっごいコミュ障なのよ。
この世界に入る前は
コンビニのバイトとか居酒屋の店員とか、
いろいろやったけどクビ祭りでした。
私、人と話すと石化する設定らしいのよ。
ドラクエの呪文「アストロン」発動中って
こんな気持ちなのね。
そんな体たらくだから、
お客さんにまともな説明もできなくて
クレーム製造機になっちゃったんよね。
で、店舗の仕事はアカンと思い、
会社員(内勤)をやったこともあったよ。
けど私、早起きも苦手で遅刻しまくったのよ。
学生の頃から寝坊の常習犯だったしね。
そんな感じで、いろいろポンコツな私。
とりあえず早起きしなくていい働き方にしたら、
なんやかんや続いてます。
コミュ障の私にどうしてキャストが務まるのかって?
「聞き上手キャラ」がうまいこと人気になったのよ。
私、話そうとすると石像になるけど、
なぜか「話を聞く力」が高くてさ。
子どもの頃から、
親のろくでもない愚痴の聞き役を
やらされてきた経験が生きてるのかな?
当然「おもしれー話」なんてできないから、
そういうお客さんの楽しませ方は早々に捨てて、
「聞いて、持ち上げる」に全振りしたのよ。
そしたら「親身に話聞いてくれて癒される」って、
人気になったけふこのごろ。
なんつー怪我の功名。
動機は消去法だけどね。
なので接客っつてもほぼ話聞いて相づちです。
聞き上手はモテルって聞いたことあるけど、
業務的にモテルって意味か?
恋愛?おいそこ、喪女に聞くな。
ーー
で、そこそこ売れてきたら売れてきたで、
あるじゃん?嫉妬した先輩からのイビリイベント。
ドラマなら主人公のピンチで盛り上がるシーンね。
私は「そんなモン現実にあるんか?」
と思ってたけど、女の嫉妬力をナメてたわね。
ありましたよ。
ある日出勤したら、私のドレスが見事に破られてた。
それも明らかに着られない感じじゃなくて、
絶妙に男のチラリズムを刺激するデザインね。
こりゃ高度だわ。
ドレス破り慣れてるんかな?
もちろん犯人が名乗り出るわけないけど、
ある先輩方が私を見てニヤついてたからすぐ察したわ。
ポーカーフェイスって難しいのね。
先輩的には、
私が泣き伏してくれると期待したんだろうけど、
私の自己肯定感の低さは計算外だったんかね?
こちとらハナから捨て身。
今さら見られたところで、
削られる羞恥心なんか持ち合わせてないのよ。
破れたドレスのまま登場してやりました。
そしたら案の定、
あざとさと露出補正で男性諸氏の視線は釘付け。
もうダメージデニムのカテゴリーでよくない?
そんで、お客さんや黒服さんが心配してくれて、
「誰がやったんや」って騒ぎに発展。
その後はご想像に任せるけど、
その先輩方、いつの間にか移籍してました。
彼女、この前ヘルプに行った系列店でバッタリ会ってね。
「ごきげんよう(汗)」って顔してて気まずかった。
先輩よかったね、クビじゃなくて。
なるべく敵を作らないって大事ね。
ーー
そんな感じで、女の競争社会には
そこかしこにイビリイベント地雷が埋まってるのよ。
私は適当人間だから受け流せてるけど、
真面目で繊細な人だったらメンタル崩壊してるわ…。
私が入店した当時から、
お世話になってる人が売上ナンバー1でね。
優しくて気遣い上手で、
こーいう「嫉妬の楽園」界隈じゃ
真っ先にメンタル粉砕されそうな人なのよ。
で、彼女も上位になった当初は
周りからの嫉妬やイビリがエグすぎて、
闇墜ち一歩手前までイッたんだって。
店長に当時の彼女がどんな目に遭ってたかを聞いたら、
青ざめて無言になったからね。
よっぽど恐ろしかったんだろうね。
ごめんね店長、トラウマに塩ブチまけちゃって。
私の「ダメージデニム加工ドレス事件」なんて
ヌルゲーなんかね?
彼女、それでも這い上がってきたからすごいよね。
なんか、たたずまいからしてオーラが違うもん。
ただ、彼女は今でも
「私は夜のキャストに向いてない」って言うのよ。
ナンバー1よ?当時も今も。
そこまで上り詰めた人がそんな弱気?
って、未だに不思議に思う。
私、鈍感力Maxでほんと助かった…。
これ以上、内ゲバをエグるのもアレだから、
話題を変えましょうか。
次回は私の個性的なお客さんの話。
乞うご期待ってことで、おやすみなさい。
⇒【第2話:癒しの避難所】へ続く
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