2023年12月02日
【短編小説】『声援は 補欠選手の 悲鳴なり』5 -最終話-
【第4話:試合に出るから上手くなる】からの続き
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<登場人物>
・三鼓 詠澪(みつづみ えいれ)
主人公、17歳(背番号7)
とある公立高校女子バスケ部の2年生
入部以来、1度もベンチ入りできない補欠選手
・石堂 満温杏(いしどう まのあ)
詠澪と同じ高校に通う17歳(背番号6)
女子バスケ部の2年生エース
1年時から頭角を現し、チームの主力を担う
・石堂 実温莉(いしどう みおり)
18歳、女子バスケ部のキャプテン(背番号4)
詠澪と満温杏の1学年上
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【第5話:補欠選手が飛べる空】
実温莉
『満温杏、本音を話せてよかったね。』
『詠澪さんへの後ろめたさは晴れた?』
満温杏
『お姉ちゃん?!先に帰ったんじゃ…?』
詠澪
「え?お姉ちゃん…?実温莉さんが?」
「そういえば苗字が同じ…石堂?」
満温杏
『うん、キャプテンは私のお姉ちゃん。』
詠澪
「えぇーー?!(驚)」
実温莉
『ごめんね。あまり口外しないようにしているの。』
『妹だからって手心を加えないためにね。』
『みんなには最初からバレているけど。』
詠澪
「そ、そうだったんですか…。」
満温杏
『詠澪、本当に気づかなかったの?』
詠澪
「うん…私って余裕なさすぎ…(汗)」
満温杏
『ま、まぁ…あえて言うほどのことでもないし…ね?(汗)』
実温莉
『…ともかく、妹なりに悩んでいたの。』
『”元・補欠”の自分が、詠澪さんと親友でいてもいいのか。』
『自分より上手いのに補欠の詠澪さんにどう声をかけたらいいのかって。』
詠澪
「私こそ…満温杏に負担をかけてばかりでした!」
「満温杏と一緒にプレーする資格があるのかなって…。」
実温莉
『…ありがとう…妹を大切に思ってくれて。』
『けど、これで確認できたんじゃない?』
『妹には詠澪さんの声が1番届いているって。』
満温杏
『私は元・補欠だから、試合中の声援…。』
『いいえ、”補欠選手の悲鳴”を聞いたら力が出てくるの。』
『あの子たちの、詠澪の悲鳴は、昔の私の声だから。』
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5年後。
私・三鼓 詠澪は大学を卒業し、社会人になった。
今は社会人のクラブチームで、
親友・石堂 満温杏とのダブルエースとして
チームの主力を担っている。
私の高校バスケは、控え選手として
少し試合に出られるところまでで終わった。
高校卒業後、私は大学バスケ部に入らず、
社会人クラブチームを探して入団。
満温杏は大学からの推薦で女子バスケ部へ入団。
そこでもエースとして活躍後、私と同じチームへ入団した。
私は部活という環境から離れた途端、
それまでがウソのように上達した。
社会人のクラブチームには、
基本的に補欠は存在しない。
下手だから見学とか、
補欠はコート外で球拾いなんてこともない。
重要な試合では
プレイタイムに差が出ることはあるけど、
多くの試合経験を積める環境が整っている。
淡水魚は海では生きていけない。
人間も同じ。
自分を活かすためには、
伸びる環境に身を置くことが大切。
部活という水槽で伸びる人もいれば、
私のように自由な環境で伸びる人もいる。
ーー
満温杏
『詠澪!聞いて聞いて!』
『お姉ちゃん、ついにウチへ入団してくれるって!』
詠澪
「本当?やったぁ!」
「実温莉さん、バスケを再開してくれるんだね!」
満温杏の姉・実温莉さんは大学バスケで活躍後、
しばらくバスケを離れてしまった。
プロチームの入団テスト受験も薦められたが、
その道には進まなかった。
満温杏が理由を聞くと、
実温莉さんは『バスケが息苦しくなった』と答えた。
実温莉
『バスケをすると、部活の息苦しさを思い出して苦しくなるの。』
『ミスしたら怒鳴られたり、多くの補欠選手が苦しんだり。』
『もしプロへ進んでも、あんな思いでバスケをするのかな…。』
『そう考えたら”もういいや”と思っちゃって。』
バスケが大好き。本当は辞めたくない。
けど、今は楽しさより苦しさが先立ってしまう。
自分は補欠として過ごす時間が短かった。
それはとても幸せだけど、妹や妹の親友が
補欠で苦しんでいる姿を見るのは辛かった。
かといって、試合に出ている自分には
励ます資格がないと思った。
ようやく妹と妹の親友が、
揃って自分を活かせる環境へたどり着いた。
今は2人の楽しそうな姿をコート外から見るのが幸せ。
もしこの幸せをコート上で見たくなったら、
その時は練習の見学に連れて行ってくれたら嬉しい。
それが、ここ数年の実温莉さんの返事だった。
将来のプロや代表にとっては損失かもしれない。
けど実温莉さんは、私と満温杏にとっては
一生の趣味を分かち合える大切な人。
そんな大切な人と、
また同じチームでバスケができるなんて幸せ。
私はこれからも、
この幸せを大切にしながらバスケを楽しみたい。
ここはもう、補欠に苦しむ部活じゃないんだ。
ーーーーーENDーーーーー
<あとがき>
日本の部活は”補欠選手”を量産するシステムです。
もちろん、部活の環境で伸びる人はいます。
が、その何十何百倍もの補欠選手が
ベンチの外で飼い殺されています。
ヘタだから補欠?上手いから試合に出られる?
逆です。”試合に出て経験を積む”から上手くなるんです。
大多数の選手にその機会すら与えない”補欠制度”
そのスポーツが生涯の趣味になり得たのに、
嫌いになってしまう人を量産する”補欠制度”
そろそろ辞めませんか?
「補欠でも我慢してチームに尽くすのが美徳」
そんな奴隷教の教義、疑ってみませんか?
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⇒他作品
【短編小説】『なぜ学校にはお金の授業がないの?』全2話
【短編小説】『慰めの代打をさせないで』全3話
⇒参考書籍
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