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2023年10月29日

【短編小説】『アロマンティックと孫のカオ』2 -最終話-

【MMD】Novel Aromantic SamuneSmall2.png

【第1話:恋愛できない罪悪感】からの続き
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<登場人物>
西谷 永愛(にしたに えれん)
 主人公、24歳の社会人
 幼少期から”恋愛感情を持てない”
 ”恋バナや恋愛ドラマに共感できない”ことに悩む

西谷 智美(にしたに ともみ)
 永愛の母親、水橋 ヒサエの長女

水橋 ヒサエ(みずはし ひさえ)
 永愛の祖母、西谷 智美の母親

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第2話:本音でも建前でもあるの】



ヒサエばあちゃんの通夜が終わった。
集まった親戚たちは、昔話に花を咲かせた。

そんな中、
母が私を里帰り出産した時の話になった。

叔母
『永愛はばあちゃんの初孫だから、それはもう喜んでね!』
『毎日、永愛をお風呂に入れる役を買って出たのよ。』


親戚
『そうそう、智美から永愛を取り上げる勢いでね!』
『目に入れても痛くないくらい、かわいがっていたの。』


私の胸の奥から、
幸せな気持ちがじわっと広がってきた。

私はこんなに愛されていたんだと。



ただ、すぐさま罪悪感が押し寄せてきた。

初孫を喜んだヒサエばあちゃん。
私はお母さんに同じ喜びを届けることができない。

そのことへの罪悪感が。


葬儀場では相変わらず、
私が赤ちゃんの時の話で盛り上がった。

幸せな時間のはずなのに、
私は1人で居たたまれなくなった。



私は恋愛に興味を持てない。

そんな自分の気持ちに素直になったら、
お母さんをがっかりさせるかもしれない。

好きではない人と結婚して、
お母さんに初孫の幸せを届けたら、
パートナーと私を裏切ることになる。

八方塞がり…。

私は罪悪感に耐えきれなくなり、

永愛
「ごめん、職場から電話来た。」
「ちょっと出てくるね。」


私は適当なウソで、その場から逃げてしまった。


ーー


私は親族の控室へ引きこもり、
自責の念を解放させた。

永愛
「どうして私はアロマンティックなの?」
「何十億人の中で、どうして私なの?」
「どうして私にこんな選択をさせるの?!」


涙が止まらなかった。

誰かと比べたって不毛。
そんな理屈はわかり切っていた。

誰かの期待のために生きたって、
幸せになれないことも。

それでも、私は自分のことを
「大切な何かが欠落している」
としか思えなかった。

その時、



智美
『永愛、ハンカチ…使って?』




永愛
「……お母さん……?」


智美
『孫の話…辛かったんでしょう?』


永愛
「…気づいていたの…?」


お母さんは、
家では私にあまり話しかけなかった。

私から元彼の話をした時も、
詳しく聞いたり『孫が見たい』と言ったりしなかった。

娘のことを深く聞かないお母さんは、
「私に興味がないの?」と思ったこともあった。



智美
『永愛、無理して期待に応えなくていいんだよ?』


永愛
「期待?」


智美
『「お母さんに孫の顔を見せなきゃ」って。』


永愛
「どうしてわかるの?!」
「お母さん、私のこと何も聞かなかったのに…。」


智美
『それは本当にごめんなさい。』
『永愛に興味がなかったわけじゃないの。』
『あなた、彼氏や孫の話になると辛そうな顔をするでしょう?』


永愛
「…バレていたの…?」
「上手く隠してきたつもりなのに…。」


智美
『うふふ、見逃すわけないじゃない?』
『これでも永愛の母親歴は長いんだから。』


永愛
「じゃあ『孫の顔が見たい』って言わなかったのは…。」
「私を傷つけないため……?」


智美
『ええ…そう。』
『思えば、私も不器用だったね…。』


永愛
「それじゃあ、お母さんはずっと…私のために…。」
「けど、お母さんだって『孫の顔が見たい』と思うでしょ?!」


智美
『そりゃあね。』
『思わないって言ったらウソになるわ。』
『”永愛が幸せならそれでいい”なんて、本音でも建前でもあるの。』


永愛
「やっぱりそうだよね…。」
「お母さんも、私の子どもの顔が見たいよね…。」


智美
『……お母さんはね。』
『それで辛い思いをする永愛を見るのが1番辛いの。』


永愛
『…え…?孫が見られないことよりも?!』


智美
『当然よ。大切な娘だもの。』
『永愛が生まれて喜んだのはおばあちゃんだけじゃない。』
『お母さんだって最高に幸せだったんだから!』


永愛
「…本当…?」


智美
『もちろん!だから無理しなくていいの。』
『幸せなんて、もうとっくにもらっているんだから。』
『恋愛や結婚に興味がないならそれでいい。』
『これからも、幸せな永愛の姿を見せてちょうだい?』


永愛
「…嬉しい…お母さん、ありがとう!」




ーーーーー



後日、私はお母さんに
アロマンティックであることを
カミングアウトした。

「恋愛感情をほとんど持たない人がいる」
初めは不思議そうにしていたけど、

智美
『やっぱりそうだったの…。』
『永愛、伝えてくれてありがとうね。』
『勇気を振り絞ったことは十分伝わるから。』


お母さんは、
私のことをちゃんと見てくれていた。
むしろお見通しだった。

そして、お母さんは私を傷つけないよう、
決して『孫が見たい』とは言わなかった。

「孫を諦める」

それは親にとって、どれほど辛いことだろう。

それでもお母さんは、
私がアロマンティックであることを理解し、
私の生き方を尊重してくれた。


私は、こんなにも
愛情に溢れた人たちに恵まれていた。

ずっと
アロマンティックである自分を嫌ってきたけど、
初めからそんな必要はなかったんだ。


ーー


1年後、ヒサエばあちゃんの1周忌。



ばあちゃん久しぶり、永愛だよ。

仕事?大丈夫。
職場の人たちは、みんないい人だから。

この前ね、
友達と海外旅行へ行ってきたの。

空港でパスポート見せる時にね、
友達がパスポートを飛行機内に
落としてきちゃってさ。

あはは。
警備員さんが集まってきて、
ちょっとした騒ぎになっちゃった。



それとね、
先月お母さんの誕生日をお祝いしたの。

お父さんがお母さんにプロポーズした時に
行ったレストランを予約したんだよ。

お母さんったら泣いちゃってさ…。
まるで私がプロポーズしたみたいになったよ(笑)

お父さんへの報告?もちろん行ったよ。
お父さんが好きだったお酒をお供えしてきたの。


お父さん、
今ごろそっちで酔っぱらっているんじゃない?

お父さんを見かけたら、義母として
『飲み過ぎよ』って言ってやってよ(笑)



曾孫?
ごめんね。それは叶えてあげられない。

私、ずっと悩んできたんだ。
ばあちゃんを安心させてあげられないことに。

こんな私は欠陥だらけだって、
自分を責めてばかりだったよ。

けど、今はもう大丈夫。

アロマンティックであることは、
私の個性だもん。


受け入れるには、
まだまだ時間がかかるけど、
私は私のまま幸せに生きてみせるよ。


私がそっちへ行くまで待っていてね。
幸せな話、たくさんするからね。

私はこれからも、
ばあちゃんが大切にしてくれたのと
同じくらい大切にするよ。



残り少ない、家族との幸せな時間を。



ーーーーーENDーーーーー



<あとがき>

全ての人が
「恋愛すれば幸せ」
「誰かを好きになるのが当たり前」
ではありません。

たとえ恋愛感情を持てなくても、
何かが欠落していると思わなくていいんです。

「あなたが幸せならそれでいい」
それは親の本音でも建前でもあるでしょう。


親だって、悪気があって
「孫の顔が見たい」と言っているのではありません。

あなたがそれを叶えてあげられなくても、
どうか自分を責めないでください。

あなたがアロマンティックでも、
そうでなくても、

親や祖父母が1番見たいのは、
「あなたが幸せに生きる姿」なんですから。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



⇒他作品
【短編小説】『恋の麻酔と結婚教』全4話

【短編小説】『片翼の人形が救われた日』全4話


⇒参考書籍







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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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