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2023年10月28日

【短編小説】『アロマンティックと孫のカオ』1

【MMD】Novel Aromantic SamuneSmall2.png

<登場人物>
西谷 永愛(にしたに えれん)
 主人公、24歳の社会人
 幼少期から”恋愛感情を持てない”
 ”恋バナや恋愛ドラマに共感できない”ことに悩む

西谷 智美(にしたに ともみ)
 永愛の母親、水橋 ヒサエの長女

水橋 ヒサエ(みずはし ひさえ)
 永愛の祖母、西谷 智美の母親

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第1話:恋愛できない罪悪感】



『早く曾孫の顔が見たいわ。』

ヒサエばあちゃんの通夜が粛々と進む中、
私は彼女の言葉を思い出していた。

罪悪感が押し寄せ、胸が苦しくなった。

なぜって?

私はお母さんにも、
亡きヒサエばあちゃんにも、
孫を見せてあげることができないから…。



私は社会人になってから、
「アロマンティック」と自覚した。

「アロマンティック」とは、
恋愛感情がないか、薄い人のこと。


言葉を知ったのは最近だけど、
私は小さい頃からずっと悩んできた。

 ・女友達の恋バナに興味が持てない

 ・恋愛マンガやドラマを観ても、
  ”エンタメとして”しか楽しめない

 ・自分の恋に置き換えて胸キュンしたり、
  「私も彼とあんなことがしたい」
  と思ったりできない

周りは恋愛に興味津々。
友達には次々に彼氏ができていった。

ただ、いくら惚気話を聞いても、
それに共感できない自分がイヤになった…。



大学の時、先輩に告白され、
お付き合いしたことがあった。

女癖が悪いとか、不誠実とか、
そういう噂はまったくない人だった。

私は彼を人として尊敬していたが、
恋愛感情はなかった。

こう言うと不誠実に思われるかもしれないが、
付き合ったら好きになるだろうと思った。

彼はとても誠実な人で、私を大切にしてくれた。
2人で幸せな時間を過ごせた。

けど、それは恋人同士ではなく、
親しい人と楽しんでいる感覚。


やっぱり恋愛感情は生まれなかった…。

2年後、


『ごめん…永愛のことは好きだけど…。』
『僕のことを好いてくれているのかわからない…。』


結局、私は彼に別れを切り出させてしまった。
彼の誠意と、私自身を裏切るカタチで…。



ーーーーー



「恋愛感情を持てない」
「恋愛対象として好きになれない」
「こんな私は何かが欠落しているの?」


私はしばらくの間、そんな自己嫌悪に囚われた。
大学の友達に相談したら、反応は様々だった。

『恋愛感情を感じない?』
『そういう人もいるんだね。』
『あなたの気持ちに素直になればいいんじゃない?』


そうやって理解を示してくれた子もいた。

『恋愛感情を感じない?』
『本当に好きな相手と出逢っていないだけじゃないの?』
『もっと恋をすれば、きっとわかるようになるって!』


そう言う子もいた…。

無理もない。

この世界では、
「他者へ恋愛感情を抱く」のが
”普通”で”当たり前”だと思われているんだから…。




永愛
「私はおかしいの…?」
「どうなの?!わからない…。」


私は失恋を引きずる日々に耐えかねて、
1人でヒサエばあちゃんの家に帰省した。

いきなりの帰省だったのに、
ばあちゃんは私の顔を見ると、
目を輝かせて喜んだ。

ヒサエ
『永愛、遠いところよく来たねぇ。』
『寒いでしょ?早くお上がり。』


ヒサエばあちゃんは私の手をぎゅっと握って、
あたたかく迎えてくれた。

それだけで、私は救われた。



ばあちゃんは私がテーブルに着くなり、
お茶を煎れ始めた。

私がほっと一息ついた頃、
ばあちゃんは私の向かいに座った。

たわいない雑談、大学のこと、ばあちゃんの近況。
失恋が癒えていく時間が続いたが、

ヒサエ
『そういえば、彼氏とは上手くいっているの?』


あぁ…。
そういえば言ってなかったっけ…。


何も知らないばあちゃんは言葉を続けた。

ヒサエ
『智美から聞いているよ。』
『誠実な彼でよかったねぇ。』




『卒業したら結婚は考えているの?』
『早く曾孫の顔が見たいわ…。』




永愛
「…ごめんね…別れちゃったの…。」


ヒサエ
『おやまぁ……そうかい……。』


永愛
「…うん…。」


ヒサエ
『永愛、元気出して?』
『今夜は永愛が好きな肉じゃが作るからね。』


ばあちゃんはそれ以上、彼のことを聞かなかった。
私に気を使ってくれたんだろう…。

『早く曾孫の顔が見たい』
この言葉が、私の胸に突き刺さった。


ーー


ヒサエばあちゃんに悪気なんてなかった。
純粋に私を心配してくれた。


”皆婚時代”を生きたばあちゃんと、
”自由恋愛時代”を生きる私との違い。
ただそれだけ。

わかっていても、私の葛藤は止まらなかった。

もし私が結婚して子どもができたら、
きっとばあちゃんは安心してくれる。

けど、私は恋愛感情を持てない。

好きではない人と結婚して子どもを?
そんなの、私の相手に失礼じゃないの?


私の人生、それでいいの?
ばあちゃんやお母さんを安心させるために、
自分にウソをついていいの?

「アロマンティックの私には、曾孫は無理」
そんなこと、ばあちゃんに言えるはずがない。

どの道を選んでも、
誰かの気持ちを裏切ってしまうの…?

その夜、
私は気まずさを押さえつけながら、
ばあちゃん特製の肉じゃがを頬張った。



【第2話:本音でも建前でもあるの】へ続く

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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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