2023年09月13日
【短編小説】『お金は神よりも神』2 -最終話-
⇒【第1話:通貨は、国の商品】からの続き
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・本作の舞台
紀元前700年頃
アナトリア地方『ナディア王国』
・同国の通貨単位
エレクト
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第2話:悪貨は、良貨を駆逐する】
<城下町のパン屋>
パン職人A
『よいしょ、兵士さんの食料分はこっち。』
『お店で売る分はこっち、と。』
パン職人B
『商売繫盛なのは嬉しいけど。』
『最近、コインの質がますます落ちてない?』
パン職人A
『落ちてるよね。』
『このコインなんか錆びてて、100の文字も見えない。』
パン職人B
『国王さまを疑うわけじゃないけどさ。』
『こんなコインが、いつまでも100エレクトなわけないよね。』
パン職人A
『うん、いつ価値が落ちるかわからない。』
『今の値段、パン1個2エレクトでも不安…。』
パン職人B
『…また、値上げする?』
パン職人A
『うん、仕方ない。』
『1個3エレクトに値上げしましょう。』
ーー
<王宮>
国王
「大臣よ、隣国との戦況はどうだ?」
大臣
『順調に侵攻を続けております。』
『すでに隣国の領土の3分の1を占領しました。』
国王
「上出来。首都の陥落も間近だな。」
大臣
『ですが1つ問題が。』
国王
「何だ?」
大臣
『我が軍の物資の不足が目立ってきました。』
国王
「む…懸念した通りか。」
「あれだけの資金でも足りぬとは。」
「早急に武器や食料を調達したい。」
「もっとコインを作れないか?」
大臣
『それが…材料の銀が底を尽きかけています。』
『採掘場からは”枯渇が近い”との報告もあります。』
国王
「銅でも何でも、混ぜればいいではないか。」
大臣
『混ぜるための金属も不足してきました。』
『もっと質の落ちる合金を使うしかありません。』
国王
「構わぬ。コインの価値は私が決めるのだ。」
「粗悪品でも私が100エレクトだと言えば100なのだ。」
大臣
『…かしこまりました。』
どうやら、資金面で不安が出てきたようです。
とはいえ隣国との「祖国防衛戦」は、
ナディア王国が優勢のようですね。
「もっともっとコインを作ろう」
「戦争へつぎ込もう」
そう躍起になる国王さまは、
気づいていませんでした。
城下町では静かに、確実に、
モノの値段が上がり続けていることに。
たとえ100エレクト持っていても、
今日のパン1個も買えなくなりつつあることに…。
ーーーーー
<さらに1年後、王宮>
役人
『国王さま!』
国王
「どうした?」
役人
『王宮の入口に、国民が集まっています!』
国王
「反乱か?!」
役人
『いえ、嘆願のようです。』
国王
「嘆願?」
役人
『”助けてください”』
『”物価が上がり過ぎて食べ物が買えません”と。』
国王
「物価?今のパン1個の相場は?」
役人
『今、パン1個1万エレクトで、昨年は1エレクトでした。』
『塩は1グラム5万エレクトで、昨年は5エレクトでした…。』
国王
「1年で1万倍の物価上昇だと?」
「いったい何が起きている?」
役人
『…国民は混ぜものコインしか使っていないようです。』
国王
「なぜだ?」
役人
『”価値は同じ100エレクトだ”』
『銀100%のコインを使う必要がない”と言って…。』
『国内には、粗悪品のコインばかり大量に流通しています。』
国王
「くっ…!それでコインの価値が下がったのか…!」
国王さま、お願いです、助けてください!
このままでは飢え死にしてしまいます!
子どもにパン1個も買ってあげられません!
ママー!おなかすいたよー!
王宮前には連日、
国民の悲痛な声が響きました。
急激な物価高により、
国民は飢えと貧困に苦しみました。
兵士の食料も武器も十分に買えなくなり、
戦況はみるみるうちに悪化しました。
ーー
<数ヶ月後、王宮>
国王
「くッ…!このままでは隣国に負ける…!」
「何とか物価高を抑えなければ私の立場も危うい…!」
役人
『最終防衛ラインで踏みとどまっていますが…。』
『残念ながら長くは持たないでしょう…。』
国王
「ぐぬぬ…!」
「純銀製のコインは一体どこへ行ったのだ?!」
「誰かが貯め込んでいるのだろう?」
役人
『それが…純銀のコインを溶かして…。』
『他国へ高値で売りつける輩がいるそうです。』
国王
「何だと?!」
「銀が他国へ流出するではないか!」
役人
『はい…その一部が隣国へ流れており…。』
『物質調達を助けているという情報もあります。』
国王
「貨幣の質を落とした結果がこれか…!」
「加工の疑いのある者を片っ端から逮捕するのだ!」
役人
『お言葉ですが、中には武器を鋳造する技術者もいます。』
『確たる証拠なしに捕らえては、武器の製造が…!』
国王
「背に腹は代えられぬ…。」
「まずは富の流出を抑えねば…!」
役人
『…かしこまりました…。』
その後、ナディア王国では、
コインを加工したと噂された者が
次々に牢屋へ入れられました。
これにより、
コインの加工や流出を防いだかに見えました。
しかし、
技術者を無差別に逮捕したことで、
国民の生活はますます不便になりました。
何より、
罪もない人々への横暴な仕打ちに、
国王への不信感はどんどん募っていきました。
『もう、あんな国王のために戦いたくない。』
物質不足と国王への不信感で、
兵士の士気は下がり続けました。
ボロボロになったナディア王国には、
隣国の反撃を食い止める力はありませんでした…。
ーーーーー
<1年後、旧ナディア王国・領内>
隣国・国王
「側近よ。」
側近
『はい。』
隣国・国王
「この100エレクトコイン、1枚いくらで作っている?」
側近
『1枚1エレクトで作っています。』
隣国・国王
「ということは、国へ入る利益は99エレクトか。」
側近
『はい。』
隣国・国王
「もっと儲からないか?」
「ナディア王国を征服して1年。」
「そろそろ対岸の国を我がものにしたい。」
「戦争を仕掛けたいが、軍資金が足りぬ。」
側近
『安価に作れる新しいコインを出してはいかがでしょう?』
隣国・国王
「ほう、新しいコイン。」
側近
『今、我が国には1、5、10、50、100エレクトコインが流通しています。』
『新たに1000エレクトコインを作り、国民に使わせるのです。』
隣国・国王
「1000エレクトコインか。」
「1枚いくらで作れるのだ?」
側近
『1枚1エレクトで作れるでしょう。』
隣国・国王
「1枚あたり999エレクトも儲かるではないか!」
「よし、さっそく作らせて国民へ配れ。」
側近
『御意。』
隣国・国王
「ふっふっふっ…。」
「金を作れば作るほど儲かる。」
「国民からの支持も厚くなる。」
「金を流通させることより儲かる商売が他にあるか?」
側近
『これなら、すぐに戦争の資金が貯まりますな。』
⇒第1話へ戻る…(以下、無限ループ)
ーーーーーENDーーーーー
<あとがき>
人類の歴史は、
お金に振り回される無限ループとも言えます。
@権力者がお金を安価で作る
Aお金の量が増える
Bお金の価値が下がる
C物価が上がる
D貧困から不満が溜まる
E国力が落ちて戦争に負ける
(@へ戻る)
私たちはお金を欲し、
お金に救いを求めてきました。
お金は世界のどんな神さまより、
厚く信仰されているかもしれません。
なにしろ
「お金には価値がある」と、
みんなが”信じて”いるんですから。
ーーーーーーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『恋の麻酔と結婚教』全4話
【短編小説】『スマホさん、ママをよろしくね。』全4話
⇒参考書籍
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・本作の舞台
紀元前700年頃
アナトリア地方『ナディア王国』
・同国の通貨単位
エレクト
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【第2話:悪貨は、良貨を駆逐する】
<城下町のパン屋>
パン職人A
『よいしょ、兵士さんの食料分はこっち。』
『お店で売る分はこっち、と。』
パン職人B
『商売繫盛なのは嬉しいけど。』
『最近、コインの質がますます落ちてない?』
パン職人A
『落ちてるよね。』
『このコインなんか錆びてて、100の文字も見えない。』
パン職人B
『国王さまを疑うわけじゃないけどさ。』
『こんなコインが、いつまでも100エレクトなわけないよね。』
パン職人A
『うん、いつ価値が落ちるかわからない。』
『今の値段、パン1個2エレクトでも不安…。』
パン職人B
『…また、値上げする?』
パン職人A
『うん、仕方ない。』
『1個3エレクトに値上げしましょう。』
ーー
<王宮>
国王
「大臣よ、隣国との戦況はどうだ?」
大臣
『順調に侵攻を続けております。』
『すでに隣国の領土の3分の1を占領しました。』
国王
「上出来。首都の陥落も間近だな。」
大臣
『ですが1つ問題が。』
国王
「何だ?」
大臣
『我が軍の物資の不足が目立ってきました。』
国王
「む…懸念した通りか。」
「あれだけの資金でも足りぬとは。」
「早急に武器や食料を調達したい。」
「もっとコインを作れないか?」
大臣
『それが…材料の銀が底を尽きかけています。』
『採掘場からは”枯渇が近い”との報告もあります。』
国王
「銅でも何でも、混ぜればいいではないか。」
大臣
『混ぜるための金属も不足してきました。』
『もっと質の落ちる合金を使うしかありません。』
国王
「構わぬ。コインの価値は私が決めるのだ。」
「粗悪品でも私が100エレクトだと言えば100なのだ。」
大臣
『…かしこまりました。』
どうやら、資金面で不安が出てきたようです。
とはいえ隣国との「祖国防衛戦」は、
ナディア王国が優勢のようですね。
「もっともっとコインを作ろう」
「戦争へつぎ込もう」
そう躍起になる国王さまは、
気づいていませんでした。
城下町では静かに、確実に、
モノの値段が上がり続けていることに。
たとえ100エレクト持っていても、
今日のパン1個も買えなくなりつつあることに…。
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<さらに1年後、王宮>
役人
『国王さま!』
国王
「どうした?」
役人
『王宮の入口に、国民が集まっています!』
国王
「反乱か?!」
役人
『いえ、嘆願のようです。』
国王
「嘆願?」
役人
『”助けてください”』
『”物価が上がり過ぎて食べ物が買えません”と。』
国王
「物価?今のパン1個の相場は?」
役人
『今、パン1個1万エレクトで、昨年は1エレクトでした。』
『塩は1グラム5万エレクトで、昨年は5エレクトでした…。』
国王
「1年で1万倍の物価上昇だと?」
「いったい何が起きている?」
役人
『…国民は混ぜものコインしか使っていないようです。』
国王
「なぜだ?」
役人
『”価値は同じ100エレクトだ”』
『銀100%のコインを使う必要がない”と言って…。』
『国内には、粗悪品のコインばかり大量に流通しています。』
国王
「くっ…!それでコインの価値が下がったのか…!」
国王さま、お願いです、助けてください!
このままでは飢え死にしてしまいます!
子どもにパン1個も買ってあげられません!
ママー!おなかすいたよー!
王宮前には連日、
国民の悲痛な声が響きました。
急激な物価高により、
国民は飢えと貧困に苦しみました。
兵士の食料も武器も十分に買えなくなり、
戦況はみるみるうちに悪化しました。
ーー
<数ヶ月後、王宮>
国王
「くッ…!このままでは隣国に負ける…!」
「何とか物価高を抑えなければ私の立場も危うい…!」
役人
『最終防衛ラインで踏みとどまっていますが…。』
『残念ながら長くは持たないでしょう…。』
国王
「ぐぬぬ…!」
「純銀製のコインは一体どこへ行ったのだ?!」
「誰かが貯め込んでいるのだろう?」
役人
『それが…純銀のコインを溶かして…。』
『他国へ高値で売りつける輩がいるそうです。』
国王
「何だと?!」
「銀が他国へ流出するではないか!」
役人
『はい…その一部が隣国へ流れており…。』
『物質調達を助けているという情報もあります。』
国王
「貨幣の質を落とした結果がこれか…!」
「加工の疑いのある者を片っ端から逮捕するのだ!」
役人
『お言葉ですが、中には武器を鋳造する技術者もいます。』
『確たる証拠なしに捕らえては、武器の製造が…!』
国王
「背に腹は代えられぬ…。」
「まずは富の流出を抑えねば…!」
役人
『…かしこまりました…。』
その後、ナディア王国では、
コインを加工したと噂された者が
次々に牢屋へ入れられました。
これにより、
コインの加工や流出を防いだかに見えました。
しかし、
技術者を無差別に逮捕したことで、
国民の生活はますます不便になりました。
何より、
罪もない人々への横暴な仕打ちに、
国王への不信感はどんどん募っていきました。
『もう、あんな国王のために戦いたくない。』
物質不足と国王への不信感で、
兵士の士気は下がり続けました。
ボロボロになったナディア王国には、
隣国の反撃を食い止める力はありませんでした…。
ーーーーー
<1年後、旧ナディア王国・領内>
隣国・国王
「側近よ。」
側近
『はい。』
隣国・国王
「この100エレクトコイン、1枚いくらで作っている?」
側近
『1枚1エレクトで作っています。』
隣国・国王
「ということは、国へ入る利益は99エレクトか。」
側近
『はい。』
隣国・国王
「もっと儲からないか?」
「ナディア王国を征服して1年。」
「そろそろ対岸の国を我がものにしたい。」
「戦争を仕掛けたいが、軍資金が足りぬ。」
側近
『安価に作れる新しいコインを出してはいかがでしょう?』
隣国・国王
「ほう、新しいコイン。」
側近
『今、我が国には1、5、10、50、100エレクトコインが流通しています。』
『新たに1000エレクトコインを作り、国民に使わせるのです。』
隣国・国王
「1000エレクトコインか。」
「1枚いくらで作れるのだ?」
側近
『1枚1エレクトで作れるでしょう。』
隣国・国王
「1枚あたり999エレクトも儲かるではないか!」
「よし、さっそく作らせて国民へ配れ。」
側近
『御意。』
隣国・国王
「ふっふっふっ…。」
「金を作れば作るほど儲かる。」
「国民からの支持も厚くなる。」
「金を流通させることより儲かる商売が他にあるか?」
側近
『これなら、すぐに戦争の資金が貯まりますな。』
⇒第1話へ戻る…(以下、無限ループ)
ーーーーーENDーーーーー
<あとがき>
人類の歴史は、
お金に振り回される無限ループとも言えます。
@権力者がお金を安価で作る
Aお金の量が増える
Bお金の価値が下がる
C物価が上がる
D貧困から不満が溜まる
E国力が落ちて戦争に負ける
(@へ戻る)
私たちはお金を欲し、
お金に救いを求めてきました。
お金は世界のどんな神さまより、
厚く信仰されているかもしれません。
なにしろ
「お金には価値がある」と、
みんなが”信じて”いるんですから。
ーーーーーーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『恋の麻酔と結婚教』全4話
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