2023年07月31日
【短編小説】『もし自己肯定感の高さが見える世界になったら』6 -最終話-
⇒【第5話:幸せを遠ざける”他人との比較”】からの続き
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<登場人物>
・沢田 イリス
主人公
23歳、身長145センチ
怖い父親の影響で、大人になっても男性恐怖に悩む
<この世界へ普及している発明品>
『プライド・ビューワー』
スイッチを入れると
相手の自尊心(自己肯定感)の高さが可視化される
高い⇒バスケットボールより大きく
低い⇒ゴルフボールより小さく
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【第6話(最終話):ダメな自分でも”幸せ”になっていい】
ある朝のニュースで、
プライド・ビューワーの開発中止が発表された。
「アイツよりはまだマシ」というマウント合戦や、
逆ギレによるトラブル多発を重く見て、とのこと。
プライド・ビューワーを開発したチームの
記者会見が始まった。
研究チーム
『心の中が見える発明は、我々人間には早すぎた。』
『他者との比較や、優越の欲求を抑えられるほど、人間は高尚な生き物ではない。』
イリス
「本当にね…。私も、やらかしたし。」
苦い思い出が蘇った。
もしもあのとき、通行人が警察を呼んでくれなかったら。
きっと、私の人生は大きく狂っていた。
研究チーム
『今回の挑戦は失敗に終わった。』
『だが反省とともに、幸せになる方法の一端を示せたと思う。』
『不幸になりたければ、他者と比べればいい。』
『幸福になりたければ、昨日の自分と比べればいい、と』
すでに出回っているプライド・ビューワーは、
順次サポートを終了していく。
多くの発明と同じように、
「昔、そういうのあったね」と言われるだろう。
イリス
「これで、”あの人、本当は自信ないんだ”ってわからなくなる。」
「あーあ。そしたらまた来るのかなぁ?クレームのお客さん。」
「でも、今度は大丈夫な気がする。」
今まで、やみくもに怖がっていた私とは違う。
プライド・ビューワーはなくなったけど、
おかげで私は多くを学ぶことができた。
男性の怖いしぐさを見ても、
(本当は怯えているのかも)
(本当は怖くて怒鳴っているのかも)
そう思うと、心に余裕が持てそう。
イリス
「今度こそ、幸せな恋愛ができるかな?」
「こんな私が誠実な人に好かれるはずがない?」
「コラ!また始まったよ!自己否定!」
そう。比べるのは他人じゃなく、昨日の自分。
イリス
「大丈夫!私、昨日より成長したから!」
「変な男に引っかかったり、危ない目に遭ったけど…。」
「それも今の私を作ってくれたの!」
私は私だ。
失敗しても、恥をかいても、誰に何を言われても。
ーーーーー
私は沢田 イリス。
最近、気になる男の人がいる。
去年、ウチの書店に配属された後輩社員。
彼は、今まで私にアプローチしてきた男性とぜんぜん違う。
もの静かで、休憩時間はいつも隅っこで本を読んでいる。
彼は女性に免疫があまりないみたい。
仕事中、私や他の女性社員と話すとき、明らかに緊張している。
普段の彼は、少し頼りなさそうに見える。
けど仕事モードになると、とたんにキリッとした表情になる。
過去の私だったら、きっと彼に興味を持たなかった。
「いい人だけど、もの足りない、面白みがない」
それで終わっていた。
けど、なぜだろう。
普段の無害な彼の近くにいると、すごく落ち着く。
そして、ときおり見せる”仕事モード”になる瞬間に、
ドキッとさせられる。
イリス
「もしかして私、変われたのかな…?」
今までは無意識に、暴力的な男性ばかり引き寄せてきた。
「こんな私が、誠実な人に愛されるわけがない」
という自己否定があったから。
今では、一緒にいて安心できそうな人を
好きになりかけている。
それは
「私は誠実な人に愛されていいんだ」
と思えるようになった証拠。
イリス
「恋愛の刺激もロマンスもいいけど、それだけじゃない。」
「平凡で、安らげる人間関係もいいかも。」
そんなことを考えていた、ある日の夕方。
後輩
『あの…沢田先輩!』
イリス
「なぁに?」
振り返ると、顔を真っ赤にした後輩社員がいた。
彼はもじもじしながら、覚悟を決めた口調で言った。
後輩
『今週の金曜、何かご予定ありますか?』
イリス
「ないよ。」
後輩
『じ、じゃあ…よかったら仕事終わりに…。』
『2人で食事に行きませんか…?!』
(彼、まさか私のこと…。)
私はあふれる期待を抑えながら答えた。
イリス
「…いいよ。行こっか。」
後輩
『ありがとうございます!』
『まさかOKしてもらえるなんて…嬉しいです!』
イリス
「…(ニコッ)」
”ダメな自分も受け入れ、心を育てる”
それができたとき、
人生はきっと、良い方向へ動き出す。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『反出生の青き幸』全4話
【短編小説】『恋の麻酔と結婚教』全4話
⇒参考書籍
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