2023年07月30日
【短編小説】『もし自己肯定感の高さが見える世界になったら』5
⇒【第4話:”私だけは大丈夫”という自惚れ】からの続き
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<登場人物>
・沢田 イリス
主人公
23歳、身長145センチ
怖い父親の影響で、大人になっても男性恐怖に悩む
<この世界へ普及している発明品>
『プライド・ビューワー』
スイッチを入れると
相手の自尊心(自己肯定感)の高さが可視化される
高い⇒バスケットボールより大きく
低い⇒ゴルフボールより小さく
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【第5話:幸せを遠ざける”他人との比較”】
<数ヶ月後、とある公園>
私は男性を見下さなくなったものの、
恋愛がうまくいかずに落ち込んでいた。
世界はプライド・ビューワーのおかげで、
理不尽には「No」と言えるようになった。
が、反撃を「自分そのものの否定」と捉えた者が逆ギレ。
そこからのトラブルが多発するようになった。
自尊心が高い者が、低い者をバカにする。
優越感の奪い合い。
いつしか、誰もが
「アイツより、私の方がマシ」
という比較でしか、自分を認められなくなった。
イリス
「ハァ…私、どうすればいいのかな…。」
私は公園のベンチで、途方に暮れていた。
公園の砂場を見ると、
子どもたちが楽しそうに遊んでいた。
ほとんどの子はグループで砂遊びをしていた。
砂場の隅で、1人の女の子が黙々と砂の山を作っていた。
グループの男の子A
『お前!隅っこで何を作ってんだよ?!へたくそ!』
『オレたちの山の方が大きいだろ?』
グループの男の子B
『そうだそうだ!なんで1人なんだよ?!』
『ぼっちは出てけよ!』
イリス
(ひどい…もしかしてイジメ?!)
(止めた方がいいのかな?親御さんに言った方がいいの?)
私はオロオロしながら辺りを見回したが、
親御さんらしき人は見当たらなかった。
グループの男の子A
『そんなへたくそな山、オレたちが壊してやるよ!』
グシャッ
グループの男の子B
『ほら!ぼっちは出ていきな!』
女の子が作っていた砂の山は、
男の子たちに踏まれてしまった。
イリス
(いくらなんでもやりすぎ!)
(私が何とかしなきゃ!)
私は我慢できなくなり、ベンチから立ち上がった。
が、すぐにその必要はないとわかった。
その女の子は泣きもせず、毅然と立っていたから。
プライド・ビューワーで見る彼女の”大きな自尊心”は、
少しも揺らいでいなかったから。
女の子
『ねぇ、あなたたち、わたしと比べないと立ってられないの?』
ギクリ。
女の子からの強烈な”圧”によって、男の子たちは怖気づいた。
『私は私のままでいい。誰と比べる必要もない。』
彼女から放たれる、圧倒的な存在感。
グループの男の子A
『…お、おい。あっち行こうぜ…。』
グループの男の子B
『…ああ。なんか怖いし。』
静かになった砂場で、
彼女はまた、黙々と砂遊びを始めた。
ーー
私は女の子の姿を見て、ハッと気づいた。
いえ、目を逸らしていた事実に向き合った。
イリス
「人間から幸せを奪っているのは、低い自尊心じゃない。」
「他人との”比較”だ…!」
私はダメだ
私には価値がない
私には愛される資格がない
そうやって自己否定するたび、自尊心が下がる。
じゃあ、私はどうなれば価値があるの?
誰と比べてダメなの?
それは、いつの間にかできていた「理想の私」
そして「理想の私」の正体は、
他人や社会がすり込んだ”こうあるべき”の集合体。
いくら理想に近づいても、他人は無限に求めてくる。
『あの人より優越しなさい』
『あの人より劣っているあなたはダメ』
『あなたは理想の人になりなさい、”私を”満足させるために』
その圧力に負けて、ついに私自身も言い始める。
「他人と比べて劣っている私はダメだ」と。
イリス
「私は、他人が勝手に言ってくる評価の方が大事なの?」
「違うでしょう?私は私。誰がどう言おうと、私はここにいる!」
小柄なところ、男性が怖いところ、
自分に自信がないところ、恋愛が上手くいかないところ…。
ダメなところも、全部ひっくるめて私なの!
誰かと比べる必要なんてないの!
私は、プライド・ビューワーのスイッチを入れなかった。
もう、見る必要がなくなったから。
⇒【第6話(最終話):ダメな自分でも”幸せ”になっていい】へ続く
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