2023年05月30日
【短編小説】『孤独の果てに自由あり』5 -最終話-
⇒【第4話:2度の大戦、自由から”逃げる”人々】からの続き
<登場人物>
・白林 由羽璃(しらばやし ゆうり)
主人公
厳格な両親からの圧力や社会の歯車に疲れ、
自由な人生とは何かを考え始める
・リベルタス
自由を司る女神
ブラック企業で消耗する主人公に声をかけ、
自由の歴史を見る旅を持ちかける
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【第5話:自由は、孤独を楽しむその先に】
<現代>
由羽璃(ゆうり)
「…ハァ…!!ハァ…!!…ここは…?」
リベルタス
『現代よ。おかえりなさい。』
由羽璃(ゆうり)
「…良かった…。」
リベルタス
『(クスッ)…悪い夢でも見てきた?』
由羽璃(ゆうり)
「…とても、悪い夢を。」
リベルタス
『もう大丈夫よ。安心して。』
『ところで、とても”魅力的”な演説を聞いたようね?』
由羽璃(ゆうり)
「ええ…魅力的…ですが、とても危険な思想でした。」
「彼らに従う先に、幸せが待ってるとは思えませんでした。」
「なのに、多くの人たちが熱狂して、付いていきました…。」
「私も、彼らに連れて行かれそうになって…。」
リベルタス
『ええ、危なかったわ。』
『あなたの引き上げが間に合ってよかった。』
由羽璃(ゆうり)
「でも私、あのとき、おかしかったんです。」
リベルタス
『おかしい?』
由羽璃(ゆうり)
「私の心にも響いてきたんです。」
「”仲間になれば孤独から逃れられるよ”って。」
リベルタス
『そう…。それで、どう思ったの?正直に聞かせて?』
由羽璃(ゆうり)
「イヤだったのに、どこか安心した…。」
「もう少しで付いて行きそうになった…。」
「自由になった孤独から逃れたくて、自由から逃走するところでした…!」
リベルタス
『大切なことに気づいたわね。』
『そうよ。自由には孤独がつきもの。』
『それは自由が行き渡った現代でも同じじゃない?』
由羽璃(ゆうり)
「その通りです。」
「私、今の人生は不自由だと思ってたけど、違いました。」
「ブラック企業で、社会の歯車をしていることに安心している自分がいました。」
リベルタス
『…言いにくいけど、私が声をかけたときのあなたは、そう見えたわ。』
由羽璃(ゆうり)
「ええ、今ならわかります。」
「抜けだしたら自由になる代わりに孤独になる。」
「それが怖くて抜け出せなかった。」
「自由になる勇気がなかった…!」
その言葉を聞いて、
自由の女神さまは嬉しそうに微笑んだ。
リベルタス
『それだけわかっていれば、もう十分よ。』
ーー
由羽璃(ゆうり)
「自由はどこにあるんですか…?」
「自由を司るあなたなら知ってるでしょう?」
リベルタス
『残念だけど、すべての人に共通する自由はないの。』
『自由とは何か、それは神である私にすらわからないわ。』
由羽璃(ゆうり)
「じゃあ、私は自由になれないんでしょうか…?!(涙)」
リベルタス
『落ち着いて。』
『あなたはもう、自由になるヒントをもらってるはずよ。』
由羽璃(ゆうり)
「ヒント…?」
リベルタス
『最初に行った中世ヨーロッパで会ってきたでしょう?』
『おしゃれな靴職人さんに。』
由羽璃(ゆうり)
「あッ…!」
リベルタス
『もう1つヒントをあげる。』
『あなたが子どもの頃、絵を描いてるときにどう感じたか、思い出してみて?』
由羽璃(ゆうり)
「私が…私でいられる気がして…。」
「もしかして、創作?」
-----
靴職人の女性
『私の靴は、この街のおしゃれに一役買ってる。』
『そう思うと、何だか力が湧いてくるんだよ。』
『”他でもない私自身が必要とされてる”感じがしてね。』
-----
由羽璃(ゆうり)
「私の中だけにあるものを出すことが、私の自由…?」
リベルタス
『ええ、あなたが今日まで生きてきた経験と、そこで培ってきた心。』
『それは誰にもマネできない、あなたの自由よ。』
『それを思う存分、表現すればいいの。』
由羽璃(ゆうり)
「私だけが描ける絵、私だけが創れる作品…?」
リベルタス
『自由に表現すれば、ときに孤独になるでしょう。』
『自分のツノを折って、森の中の木になった方が楽かもしれません。』
由羽璃(ゆうり)
「そうですね…たくさん、見てきました…。」
リベルタス
『それでも、自分にしか表現できないことを積極的に表現すること。』
『それが、自由の1つの答えではないでしょうか?』
由羽璃(ゆうり)
「…ありがとうございます、女神さま!」
「私、絵を再開します!」
「”他でもない私自身でいる喜び”のために!」
ーー
それから間もなく、私はブラック企業を辞めた。
今はほどほどに働きながら、趣味でイラストを描いている。
定期的にネットへアップしてみると、意外にも好評。
小説家など、クリエイターさんから表紙の依頼が来るようになった。
まだ、イラスト1本で生活できるわけじゃない。
けど、イラストを描いているとき、私は間違いなく”自由”だった。
イラストは私が子どもの頃、親が「ムダ」と切り捨てたもの。
確かに、イビツな形の歯車は、社会にとって「ムダ」かもしれない。
けど、その「ムダ」の中に、私が求める自由が隠されていた。
私は、自由から逃げない。
私は、孤独から逃げない。
孤独を楽しむその先に、自由があると信じてるから。
ーーーーーENDーーーーー
⇒他作品
【短編小説】『ツンデレという凶器』全3話
【短編小説】『天に抗うカサンドラ』全3話
⇒この小説のPV
⇒参考書籍
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