2023年06月02日
【短編小説】『ツンデレという凶器』1
<登場人物>
・麻上 紫依良(あさがみ しえら)
主人公、20歳
幼馴染みの怜紫(りむ)に好意を寄せているが、
素直になれず悪態ばかりついてしまう
・百瀬 怜紫(ももせ りむ)
紫依良(しえら)の幼馴染み、20歳、マンガ家の卵
気弱な性格で、紫依良(しえら)に言われるままになっている
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【第1話:裏腹の槍】
私は麻上 紫依良(あさがみ しえら)、大学2回生。
小さい頃から、
幼馴染みの百瀬 怜紫(ももせ りむ)に好意を寄せている。
私と怜紫(りむ)は家が近所で、保育園から大学まで同じ。
毎朝、私が怜紫(りむ)の家に迎えに行き、一緒に登校する。
怜紫(りむ)の両親が仕事で忙しいときは、
私がお弁当を作って渡したりする。
家族ぐるみの付き合いだから感謝される。
それは嬉しいけど、私が彼を好きだからやっている。
むしろ毎日お弁当を作ってあげたい。
それくらい彼のことが好き。
怜紫(りむ)は小学生の頃からマンガを描き始めた。
中学、高校、大学と漫画研究部で活動しながら、
SNSで自作マンガの連載を続けている。
彼が高校1年生の頃から少しずつ人気が出てきて、
今やフォロワー数万人。
いくつも賞を受賞し、
各種メディアから興味を持たれている、
有望なマンガ家の卵。
私はそんな彼のファン第1号。
彼の最初のマンガ投稿から、
欠かさず応援コメントを届けている。
でも、恥ずかしくて
未だにそのアカウントが私だと伝えられていない。
それだけならまだしも、
紫依良(しえら)
「マンガなんて描いて何がおもしろいの?」
「そんなインドアな趣味してるから男子にバカにされるんだよ?!」
怜紫(りむ)
『ご、ごめん…。』
私はどうしても、自分のツンデレを直せずにいる。
本当はリアルでも彼を応援したいのに、
ついキツイことを言ってしまう。
紫依良(しえら)
(私のバカ…どうして素直になれないの…?)
照れ隠しで、悪態をついてしまう。
好きで好きでたまらないのに…。
こんな私なのに、怜紫(りむ)は一緒にいてくれる。
紫依良(しえら)
「早くして!遅刻するよ!」
「まったく、のんびり屋なんだから…!」
マイペースな彼にキツく当たってしまっても、
一緒に登校してくれる。
対面では素直になれない、SNSでは応援、
という関わりが続いて8年目になる…。
ーー
ある日、怜紫(りむ)の新作マンガ
『紫苑の花、枯れるまで』がSNSで大ヒットした。
気弱で控えめな男子高校生と、
幼馴染みのツンデレ女子の青春ラブストーリー。
彼への好意の裏返しで、
ついキツく当たってしまう女子。
弱気な彼は「ごめん」と言いながら、
なんだかんだ彼女と一緒にいる。
よくある設定ではあるけど、
「2人の心理描写の表現がすばらしい」と
共感の嵐を呼んでいる。
紫依良(しえら)
(彼が恋愛モノを描くなんて珍しい…。)
(あれ?もしかして…モデルは怜紫(りむ)と私…?)
気になった私は、彼にそれとなく探りを入れた。
怜紫(りむ)
『今作も読んでくれてるの?』
紫依良(しえら)
「か、勘違いしないで!」
「ヒマだったからチラッと見ただけ!」
怜紫(りむ)
『そっか、いつもありがと。』
紫依良(しえら)
「こ、この2人ってさ、モデルは身近な人…?」
怜紫(りむ)
『…まぁね…。』
彼は言葉を濁した。
紫依良(しえら)
「あーもう!ほんとハッキリしないんだから!」
「そういうところがダメなの!」
怜紫(りむ)
『…うん…。』
…また、やっちゃった…。
いつもいつも、
出てくるのは気持ちとは裏腹な言葉。
結局、私が突き放して終わってしまった。
それにしても、
作品のタイトルはどういう意味なんだろう?
青春ラブストーリーにしては暗い印象。
気になったけど、自己嫌悪が勝り、
すぐに忘れてしまった。
ーー
紫依良(しえら)
「怜紫(りむ)、今日はお休みですか?」
怜紫(りむ)の母
『ええ。最近、体調がよくないみたいでね。』
『いつも迎えに来てくれるのにごめんなさいね。』
高校は皆勤だったし、
アイツ、めったに体調を崩さないのに、珍しいナ…。
1人で登校なんて何年ぶりだろう。
一緒に登校するのが当たり前になっていたから、
なんだか落ち着かないなぁ。
紫依良(しえら)
(あれ?どうしてこんなに空っぽな気持ちになるの?)
違う、1人でいることが空っぽなんじゃない。
”隣に怜紫(りむ)がいないこと”が空っぽなんだ…。
この日、私の胸には小さな違和感と、
大きな”嫌な予感”が生まれた。
ーー
大学でも怜紫(りむ)のマンガのファンが増えてきた。
そのことで、彼は女子から声をかけられることが増えた。
怜紫(りむ)は自分のマンガが賞を取っても、
それを鼻にかけるような言動は一切しない。
私は、彼のそんな謙虚なところも好きなんだ。
けど、このままじゃ
かわいい女子たちが彼の魅力に気づいてしまう。
私みたいに素直じゃない女子より、
素直でかわいい子の方が好みだよね…。
わかってる…。
今までずっと、
気持ちと裏腹なことばかり言っちゃったけど、
いい加減、素直にならなきゃ!
彼を他の誰かに取られて、後悔する前に。
⇒【第2話:闇の予感】へ続く
⇒この小説のPV
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