2023年06月22日
【短編小説】『天に抗うカサンドラ』1
<登場人物>
・古城 姫真浬(こじょう ひまり)
主人公、22歳
少し変わった父親と意思疎通できず、
”親に共感してもらう体験”がないことに悩む
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【第1話:パパは”一方通行”】
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昔々、ギリシャの対岸に、
トロイアという大国がありました。
トロイアの王女カサンドラは、
アポロン神の寵愛を受け、予言の力を授かりました。
ところが、カサンドラは見てしまったのです。
トロイアは、いずれ侵攻してくるギリシャ軍に敗れ、
落城する未来を。
カサンドラは慌てて、そのことを皆に伝えました。
しかし、誰も彼女の話を信じようとしませんでした。
それは、
カサンドラがアポロン神の愛を拒絶したことで、
”カサンドラの予言を誰も信じない”
という呪いをかけられていたためでした。
その後、トロイアはカサンドラの予言通り、
ギリシャ軍に滅ぼされてしまいました…。
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皆さんは”発達障害”を知っていますか?
脳の発達の偏りによる特性から、
社会生活での”生きづらさ”を引き起こします。
”変わり者””わがまま”
”空気が読めないヤツ”とレッテルを貼られ、
いじめの標的にされることもあります…。
発達障害の特性の1つに、
”人の気持ちを想像できず、コミュニケーションが難しい”
があります。
決して本人が悪いわけではありません。
が、家族や配偶者にその特性があると、
パートナーは気持ちを理解されず孤立感に苦しみます。
まわりへ訴えても、
発達障害は見た目ではわからないので、
苦しみを理解してもらえません。
そんなパートナーの孤立は、
トロイア王女カサンドラの苦悩にちなんで、
こう呼ばれます。
『カサンドラ症候群』と。
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私は古城 姫真浬(こじょう ひまり)。
22歳の社会人。
私は幼い頃から、
ちょっと変わったパパとうまくいかずに悩んできた。
おばあちゃんの話では、
パパは子どもの頃から計算が大好きだったらしい。
それで数学にのめり込み、若くして大学准教授になった。
数学界では注目の若手で、教授になる日も近いみたい。
私は、パパはすごい人だと思ってる。
けど、パパと接すると、何かが”違う”。
うまく説明できないけど、
私が何を話しても”伝わらない”感じがする。
幼い私にとって、パパはまるで”宇宙人”のようだった。
ーー
私のパパは、
人の気持ちを想像することが苦手みたい。
私は小学生の頃、算数が不得意だった。
そこで、わからない問題をパパに聞いてみた。
パパは嬉しそうに教えてくれたけど、
その後、
父
「この数式の成り立ちはどう」
「最新の論文での見解はこう、であるからして…。」
パパは興奮すると、話が止まらなくなった。
小学生の私には、
理解できない研究や論文の話まで持ち出してきた。
しかも、
姫真浬(ひまり)
「パパ…もう1時間もしゃべってる…。」
という、私のウンザリにも気づいてないみたい。
以来、私は勉強のことで
パパに話しかけることがなくなった。
ーー
私のパパは、
その場にふさわしい言動を読み取るのが苦手みたい。
静かにした方がいい場面でも、
おかまいなしに大声でしゃべったりする。
パパが好きなものの話になったときや、
イヤなことを思い出したときには、
まわりが静かでも、
父
『そうそう、パパなんてな、ああでこうで…。』
『アレが好きなんだよ!あのときのアレが許せなくてな…。』
興奮して、まわりが見えてないのかな?
それとも、わざと?わからない…。
それは私を叱るときも同じ。
以前、私がショッピングモールで服を選んでいたとき、
父
『姫真浬(ひまり)、どっちがいいんだ?ハッキリ選べ!』
『何が言いたいんだ?ハッキリしゃべれ!』
パパは大勢のお客さんの前で、私を怒鳴りつけた…。
お店の人も、まわりのお客さんもびっくりして、
こちらに注目した。
けど、パパはまったく気にしてない…。
パパが怖くて何も言えないでいると、
パパの怒号がエスカレートし、パパの気が済むまで続いた。
私にとって、パパとのお出かけは、
いつ執行されるかわからない公開処刑…。
ーー
私の友達は、
学校でイヤなことがあったとき、
パパが話を聞いてくれたと言っていた。
私はそれがうらやましくて、
パパに学校であったことを話してみた。
けど、
父
『あーそれはな、こうしてこう対処すればいいんだ。』
『パパの対処法は数学的に言うとだな、ああでこうで…。』
私の言葉はさえぎられ、パパの独演会が続いた。
姫真浬(ひまり)
「どうして私のパパは、人の話を聞こうとしないんだろう?」
悩んだ私は何度も、ママに相談した。
そのたびに、
母
『パパはああいう人だから仕方ないの…。』
『悪いけど、わかってあげてちょうだい。』
ママはパパを擁護するばかりで、
私の気持ちを理解してくれなかった…。
友達に相談しても、
友人
『えー、なんで?』
『姫真浬(ひまり)のパパ、背が高くて、優しそうで、かっこいいじゃん?』
『ちゃんとパパと話したの?』
パパは長身で、顔もかなり整っている。
若くして大学准教授という社会的地位もある。
それもあって、
友達にも私の悩みを理解してもらえなかった。
(この孤立感は、いったい何なの?出口はあるの?)
私はこの頃から
”カサンドラ症候群”に陥っていたことに、
まったく気づかなかった。
⇒【第2話:私もママも”カサンドラ”】へ続く
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