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2023年06月23日

【短編小説】『天に抗うカサンドラ』2

【MMD】Novel Cassandra SamuneSmall1.png


【第1話:パパは”一方通行”】からの続き
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<登場人物>
古城 姫真浬(こじょう ひまり)
 主人公、22歳
 少し変わった父親と意思疎通できず、
 ”親に共感してもらう体験”がないことに悩む
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【第2話:私もママも”カサンドラ”】




私は古城 姫真浬(こじょう ひまり)の母親。

大学准教授の夫と娘との3人暮らし。
日中はパートで働いている。

私は夫に”話が通じない”ことで悩んでいる。

付き合っていた頃から、
夫は1つのことにのめり込む人だと知っていた。

私は、数学に没頭する夫の姿に惚れた。
今もそれは変わらない。

ただ、結婚する頃から少しずつ違和感が生まれた。
私の心が”置いてけぼり”になっていく違和感に。



夫は、働き過ぎなくらい働く。
家事も、声をかければ手伝ってくれる。
反対に、私が声をかけないと、食事も睡眠も取らずに没頭する。

夫は、会話のキャッチボールができない。
私が何を話しても、夫が話したい話題ばかり返ってくる。

コミュニケーションが一方通行。
指摘したこともあるけど、


『ところで昨日の数学の問題で、こんな面白いのがあって…。』


こういうところは、
姫真浬(ひまり)が生まれてからも変わらなかった。



娘も、成長するにつれて気づいたみたい。

姫真浬(ひまり)
「ねぇママ、パパはどうして私の話を聞いてくれないの?」


ある日、娘は私にパパの相談をしてくれた。
けど…。


『パパはああいう人だから仕方ないの…。』
『悪いけど、わかってあげてちょうだい。』


私は娘ではなく、
パパの肩を持つようなことしか言えなかった。
そのうち、娘は私に相談してくれなくなった…。



わかってる。
あのときの私は娘の心より、自己保身を優先したことを。


後悔してる。
私を信じて、胸の内を話してくれた娘を突っぱねたことを。

いつか、成長した娘に、

姫真浬(ひまり)
「ママは私を見捨てて、パパへの経済的な依存を選んだんでしょ?!」


そう罵られる覚悟を決めなきゃ…。

せめて、言い訳だけでもさせてちょうだい。
私も、つらいの。私の心も、孤立してるの。

…カサンドラ王女みたいに。



ーーーーー



私は古城 姫真浬(こじょう ひまり)
話が通じないパパに、ずっと悩んできた。

あるとき、
私は学校で、ギリシャ神話の学習マンガに出逢った。
その本で、トロイア王女カサンドラの悲劇を知った。

予言の力で見た”国が滅びる”という未来。
それを必死で訴えても、誰も信じない。

そうこうしているうちに、
侵攻してきたギリシャ軍に破れ、トロイアは滅亡。

カサンドラ王女はギリシャへ連れ去られ、
非業の最期を迎えた。



姫真浬(ひまり)
「これ…まるっきり私………?」




孤立するカサンドラ王女が、私と重なった。

私には親がいるようで、いない。
友達のパパみたいに守ってくれたり、
心を受け止めてくれる存在がいない。

友達は、私のパパを見て、
「優しそうで、立派なパパ」と言う。

私の孤立感も、意思疎通できない苦しみも、
信じてもらえない。

「誰もカサンドラの予言を信じない」
という呪いをかけられた王女と同じように。


姫真浬(ひまり)
「私も、カサンドラ王女と同じ最期を迎えるのかな…?」


私はただ、人生を悲観した。
ママも同じ”孤立したカサンドラ”だと、気づかないまま。



私も、パパも、ママも、親子ではなかった。
互いの心が遠すぎて、同居しているだけの”あの人”だった。

私は、家にいるときの孤立感から逃れたくて、
受験勉強に打ち込んだ。

そして大学進学を機に、一人暮らしを始めた。



ーーーーー



数年後。

大学を卒業した私は、何とか就職できた。
が、仕事を始めた途端、心身の不調が次々に出てきた。

パパにもママにも相談できず、
何でも1人で抱え込んできたツケだった。

私は仕事を休みがちになり、ついに病院へ行った。
が、検査しても異常は見つからなかった。

「心因性かもしれません」と言われた。



私は勇気を出して、
精神科医がやっているカウンセリングに申し込んでみた。

当日、私は緊張しながら、
カウンセラーさんへ生い立ちや家庭環境を詳しく話した。

カウンセラーさんは、私の話をさえぎらなかった。
否定せず、最後まで聞いてくれた。

それは私にとって、初めての経験だった。
それだけで私は救われた気がした。



ーー


何度目かのカウンセリングの日。
軽い質疑のあと、カウンセラーさんは言った。

カウンセラー
『失礼を承知で申し上げます。』
『お父さんの特性から、”発達障害”かもしれませんね。』


姫真浬(ひまり)
「発達…?障害…?」


私は初めて”発達障害”という言葉を聞いた。
パパはあんなに頭がいいのに、障害?

知能や学習能力に問題がなくても、

・人の気持ちを想像できない
・空気を読んだ言動ができない
・こだわりやマイルールが強固
・コミュニケーションが一方通行


などの特性があるという。



姫真浬(ひまり)
「これ……パパだ…!」




私は発達障害について、さらに詳しく聞きたくなった。

姫真浬(ひまり)
「父は興奮すると、相手が理解できない話もおかまいなく続けました。」
「それに、人の話を聞こうとしませんでした。」
「それも発達障害の特性でしょうか?」


カウンセラー
『おそらくそうです。』
あなたの気持ちの想像や、適切な話題の選択が難しいからでしょう。』


姫真浬(ひまり)
「父は外出先でも、気に入らなければ私を怒鳴りました…。」
「まさかそれも?」


カウンセラー
『そうかもしれません。』
まわりの人が怖がることや、あなたが恥をかくことが想像できないんでしょう…。』


姫真浬(ひまり)
「父はハッキリしない態度が嫌いで、何でも白黒つけたがりました。」
「そういえば、数学は得意だけど国語が苦手だったみたいです。」


カウンセラー
『得意科目については何とも言えません…。』
白黒つけたがるのは、答えのない”曖昧な部分”の想像が難しいからでしょう。』


姫真浬(ひまり)
(パパが数学が得意なのは…ハッキリした答えがあるから…?)
(国語が苦手なのは…答えのないグレーゾーンの想像が難しいから?)



ーー


私を覆っていた、すべてのモヤモヤが晴れた。

パパは人の気持ちを想像したり、
静かにしたり”しない”んじゃなくて”できない”?


家族じゃなく同居している”あの人”に感じるのも、
家族の食卓なのに1人で食べているように感じるのも、

姫真浬(ひまり)
「パパには”共感する回路”がないから…?」


さらに、

姫真浬(ひまり)
「カサンドラ症候群…?!」


カウンセラー
『発達障害の家族やパートナーとのコミュニケーションの悩みです。』
『まわりの誰にも理解してもらえない苦しみをそう呼びます。』




私の苦しみに、名前が付いた。
それは救いであり、絶望の入口でもあった。

パパに娘の気持ちを共感してもらう体験は、
きっとこの先も”できない”。


私は、いつか読んだギリシャ神話の
カサンドラ王女を思い出した。

戦利品として、ギリシャへ連れ去られる船上で、
彼女はどんな気持ちになったんだろう。

もしかしたら、今の私と同じ気持ちで、
海を見つめていたのかもしれない…。



【第3話(最終話):”誰も、悪くない”】へ続く

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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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