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2023年03月11日

【短編小説】『あなたの後悔、死神が癒します』後編

【MMD】Novel Koukai Shinigami SamuneSmall1.png

前編からの続き
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<登場人物>
八神 水逢(やがみ ゆあ)
 主人公、職業は死神、担当地域は日本周辺
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葬儀が終わったのは正午。
気持ちのいい青空は、気づけば茜色に染まっていた。

「私は長男に期待しすぎていたのかもしれません。」
「厳しくしすぎました。」

落ち着いた彼は、遠い目をしながらつぶやいた。

「1人目の子どもで、私たちも手探りでした。」
「ですが私は、無意識に自分と同じレベルを長男に求めていたんです。」
「そして、結果が私の理想と違えば、いろいろと口出ししてしまった。」

「長男が私を避けるようになったのは、幼い彼には重すぎたからでしょう。」

『大きな期待を、されていたんですね。』

「ええ。」
「常々”結婚できる18歳になったらこの家には置かない”と言い聞かせました。」
「それは長男の能力を買っていたからでした。」

『それは、下のお子さんたちにも伝えていたんですか?』

「いいえ。いま思えば、これがまずかった…。」
「彼は”自分だけが追い出された”と思ってしまったようです。」
「妻から”自分は家族ではなく居候なんだろう?”と言っていたと聞きました…。」


『居候…ですか…。』

「1度、彼が仕事でつまづいて実家に来たことがありました。」
「そのとき、私は逆に彼を追い詰めるようなことばかり言ってしまったんです…。」

『よければ、長男さんにどんなことを伝えたか聞いてもいいですか?』

「”お前は社会を舐めている”」
「”仕事がつらいなんて言うのは甘えだ”」
「”家族どころか自分1人すら養えないお前は男として失格だ”、と。」


『…!!…。』

--

私は、聞いておいて絶句した。
確かに、根性論が色濃い時代なら、まかり通る主張。

しかし実際に言われてみると、
他人の私ですら、心をえぐられた。


「当時は、悪いことをしたなんて、まったく思いませんでした。」
「むしろ、私と正反対の価値観の長男はまちがっている。」
「それを矯正してやるのが親の務めだとさえ思っていた。」

「ですが、それが決定打となって…。」



「子どもを無自覚に追い詰めた結果、親の葬儀で泣いてくれなくなったんです…。」
「自業自得ですが…悔しい!」

「どうして生きていたときに、アイツと向き合えなかったんでしょう…!」
「後悔しても、しきれません…!」




『…。』
『私たちの姿は、生きている者には見えません。』
『だから、安心してください。』


私がそう伝えると、彼はこらえていた涙を溢れさせた。

「う…うぅ……。」
「私はアイツの逃げ道を…ふさぐようなマネを…。」
「和解のチャンスを…安いプライドに固執して…逃してしまった…!」

「もう1度だけ…声が聞きたかった…!」
「”お父さん”と、呼んでほしかった…!」
「2人で酒を…飲みたかった…!」

「アイツの本音を…知りたかった!」
「すまなかった…!本当にすまなかった!」


彼は文字通り、人目もはばからずに泣いた。
長男への懺悔と、自身への後悔を叫びながら。

私は、むせび泣く彼の背中を、そっと撫でた。


ーー


茜色の空は、いつの間にか紺碧を彩っていた。
彼の懺悔が終わるころを見計らい、私は声をかけた。

『あなたが亡くなる前日に、長男さんが来たのを覚えていますか?』

「い、いえ。覚えていません。」

彼は自宅療養していたが、長男が来たときは危篤状態だった。

「妻はずっと長男に”父さんに会いに来てくれ”と頼んでいました。」
「ですが、よほど私を恨んでいたんでしょう。来てくれませんでした…。」

『ええ…。ですが、長男さんは最後に、来てくれたんですよ。』

「そ、そうですか。私はたぶん、もう意識がなくて…。」
「ですが、なんとなくアイツの声が聞こえたような気がしたんです。」
「気のせいかな…。」

『聞きますか?長男さんの声。』

「…どうやって?」

『私は死神ですよ?あのときの映像と音声くらい残してあります。』
『今から、あなたの頭の中へ、記憶として流します。』


ザ、ザー…

私の寝室。チューブをつながれ、ベッドに横たわる私。
誰かを連れて、部屋に入る妻の声。

”お父さん、お父さん、起きてる?長男が来たよ。”

そう言いながら、私の身体をゆする妻。
その後ろには、ひときわ背の高い、見覚えのある姿。

彼は、妻の隣にひざをつく。
そして、私の寝顔をのぞきこみ、小声で呼びかける。



 『父さん、来たよ。』



「…あ…あ…!」
「この声は、アイツの…!」


感極まった彼の目から、枯れたはずの涙が溢れた。

その人の人生で1番の後悔を、やわらげる贈り物をする。
それが、私たち死神の、最大で最高の仕事。


彼らの喜びを間近で見られる、
それこそ、私がこの仕事を好きな理由。

だから私、
怖い死者さんに怒鳴られても、生き返らせろと迫られても、
死神を辞められないんだ。

「ありがとう…ありがとう…!!」
「死神さん…!水逢(ゆあ)さん…!」


へへ、いつもながら、照れくさいや。
名前の登場?そういえば、オープニング以来だ。



『そろそろ、行きましょうか。』
『死後の世界へ。』


「…ええ。よろしくお願いします。」

『さっきの記憶、保存しましたか?』

「もちろんです!」
「あちらへ着いたら、何度でも再生しますよ。」

『ふふっ、お役に立ててよかった。』

私は、清々しい表情の彼を連れ、夜空を昇っていく。


ーー


最後に死神から、生きている皆さんへ。

人生の終わりに差し掛かった人が、最も後悔することは、
「やらなかったこと」です。

あなたの人生が終わるとき、
私たち死神が助けてあげられるとは限りません。

だから、私たちが迎えに行くまでに、
少しでも「やらなかった後悔」を減らしておいてください。

照れくさくても、恥ずかしくても、
大切な人へ気持ちを伝えてくださいね。
生きているうちにしか、できないことだから。




ーーーーーENDーーーーー



⇒他作品
【短編小説】『敗者復活の鎖』全2話

【短編小説】『もう1度、負け組の僕を生きたいです』全5話



⇒参考書籍











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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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