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2019年01月06日

スペイン巡礼記㉖ 29日目:暗闇の中の小さな光が旅人を救う

Pilgrimage in Spain ㉕ Day29:A tiny light in the darkness saves a pilgrim【4.2011】

4月29日(巡礼29日目)  Ponferrada ポンフェラーダ〜 Villafranca del Bierzo ビジャフランカ・デル・ビエルソ (23km or 31km)

カルロスにランチをご馳走になった28日は、すでにアセボからポンフェラーダまでの16.5キロを歩いたうえに城の見学などもして足腰が疲れていたので、買い物もしたかったこともあり、旧市街のアルベルゲではなく、新市街の方へ出ることにした。だって一度公営アルベルゲまで行ったんだけど、2時まで開かないっていうんだもの、待てなかったのよ〜!

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           テンプル騎士団の城の周囲は石畳で覆われている。

そして5日前にレオンで4つ星ホテルに泊まったばかりなのに、またしてもポンフェラーダで3つ星ホテルに泊まってしまった。

さて翌朝、温かいシャワー、静かなプライベート・ルーム、広いベッドのホテルで快適に過ごした翌日はいつもツラいものだが、今回は特に峠越えの疲れが足に来たようで歩くのがキツかったし、久々に荷物の重さを肩に感じた日だった。

前半はほとんどが大きな車道の脇道でストレスが溜まったうえに、迂闊にも道を間違えて8キロ程余計に歩く羽目に。時々あるのだ、本来の巡礼路から外れた村が勝手に道路に黄色い矢印とcaminoという文字を描いて回り道へ誘導するという困ったことが…

容赦ない午後の日差しに照らされて頭はクラクラだし喉は渇くし、息も絶え絶えだったので、小さな集落にあったバルでラザニア(電子レンジでチンするやつだった…)を食べる。ここで腹ごしらえしておかなければ、その後更に悲惨なことになるところだった。

村を出て山中を彷徨い始めてしばらくすると、なんと雷が鳴り始めるではないか。
村に誘導して巡礼者を惑わせたなら、本来の道へ戻る途中にも道標なり矢印なりをちゃんと示しておいてくれ〜!

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山に入ってから何も目印がないし、道はどんどん登っていくし、全く誰にも会わないし、午前中はピーカンだった空も急に雲行きが怪しくなるしで、ますます不安をかきたてていく。

山道を歩く途中で本来の巡礼路と合流しているはずだが、それがどの地点かわからない。つまり自分が今どの辺りを歩いているのかもわからない、という恐ろしいことになる。

山中で迷って野犬にでも襲われたらどうすればいい?そろそろ本道と合流しているはずなのに、何故誰とも会わないの?かれこれもう2時間近く山道を歩いているけど、一向に集落が見えてこないし、こんなに登り道のはずがない。

もう4時過ぎなのに巡礼路ではない山奥に入って行ってしまったら夜が来て真っ暗になってしまう。
どうしよう、と焦れば焦るほど悪い想像ばかり浮かんできて、私はもう半泣き状態だった。

声に出して「お父さん、お母さん、助けて。お願い神様、助けてください!」と呟きながら、陽がかなり傾いて薄暗くなり始めた山道を、歯を食いしばって一体どのくらい歩いたろうか。気の遠くなるほど長い時間のように感じられ、涙が目からこぼれそうになったその時、突然前方に光が現れた。

鬱蒼とした森の中に現れたたったひとつのオレンジ色の光がどれ程嬉しかったことか。
思わず疲れた体ながらも小走りになり、突如現れた山中の一軒家の呼び鈴を天に祈るような気持ちで何度か鳴らす。
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誰もいないのか、天は私を見捨てるのか…と諦めかけたそのとき、不審そうな表情をありありと浮かべた女性が、ドアをほんの少し開けて顔を出した。

何時間かぶりで人に会った嬉しさにパニックしながらも、ビジャフランカ・デル・ビエルソに行きたいのだがあとどれくらいかかるのかを尋ねた。英語が通じず、若奥さんらしい彼女は眼を白黒させていたが、ビジャフランカ・デル・ビエルソという言葉はわかったらしく、私の行く手を指してシィ、シィ(イエス、イエス)と言う。

この道は巡礼路なのか確かめたくて家の前の道を指して「カミーノ?」と訊くと「シィ、シィ、カミーノ」との答え。良かった、正しい道を歩いているのだ!

とりあえず目的地に向かって進んでいることは確かなようなので、私は気を取り直して再び薄暗い森の中の、どデカい蚊がウヨウヨ飛んでいる山道を進み始めた。

人生でも時に、自分の進んでいる道がわからなくなることがある。回り道をして時間を無駄にしていると思えることもしばしばだ。
でも回り道したとしても、きっと必ず本来の道に戻るようになっているのではないだろうか。そしてその回り道で経験したことは、けして無駄にはならないないはずだ。

あとどれくらい頑張ればゴールにたどり着くか、そんなこと知らなくていい。
いつか辿り着くと信じてさえいれば。
そして助けを求めれば、それもきっと叶えられる。

今となっては、何故あんな人里離れた山奥にたった一軒家が建っていたのか不思議だし、本当にあったのかさえ定かではない。神様が私のためだけに、あの時だけあそこに家を出現させてくれたような気さえする。

間もなく道はゆるやかに下り始め、15分後、谷の底のような山と山の間に突如として集落が現れた。
そこへ降りていく道が現れないのでもう少し進むと、今度は木々の間に古い城壁がチラチラと見え始めた。

そしてついに、ビジャフランカ・デル・ビエルソの町の標識と巡礼路であることを示す黄色い矢印が…!

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       ビジャフランカ・デル・ビエルソの町の外れにある古い城塞。


ああ、助かった…!
太陽は最後の光を地上に投げかけるように西の山裾に沈もうとしていた。

午後5時、長い一日の末、私は生き延びた。
お父さん、お母さん、神様、ありがとう。


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