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2018年07月05日

世界1周の旅:アジア編 I【ヨルダン】 月の谷ワディ・ラムで綱渡り体験?

A voyage round the world : Asia Edition I 
Ropewalking Experience in "Moon Vally" Wadi Ram? 【February 2011】

今度はアカバでナンパされる
翌朝7時、すこぶる快調な目覚めを迎える。
こんこんと眠ったことで溜まった疲れが浄化されたのか、すっきりした気分で何か良いことが起こりそうな、滅多に経験できないようなご機嫌な朝だった。

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    大型客船だけでなく、巨大なタンカーが目立つアカバの海岸。

シャワーを浴びた後ポカポカした陽気に誘われ、朝食をとるため周辺を歩いて見つけたベーカリーカフェのデニッシュが絶品! 

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さすが5つ星モーベンピック・ホテルのベーカリー・カフェだけある。私の他に客はおらず、黄色いメイド服の店員さんがフレンドリーにチョコレートデニッシュとホットココアをサーブしてくれたので、昨日のみじめな一日を帳消しにできるくらい満ち足りた気分のまま海に向かって散歩してみる。

暖かいけれど今日は風がものすごく強い。時々目も開けていられないくらい砂粒が飛んでくるのには参った。

紅海の北端に位置し、国際タンカーが沖を行き交うアカバ湾に面した北側はもうイスラエル、西側はエジプト、中東だけでなく欧米から訪れる人も多い中東随一のリゾート、アカバ。
強風に椰子の木もしなり、海は白波を立てている。対岸に見えるエジプトのシナイ半島では街区のすぐ後ろに山岳地帯が迫り、荒々しい土と岩の風土を感じさせる。

このビーチを女一人で歩くのには勇気がいる。
あまりに無遠慮な視線の矢に、芸能人のツラさがわかる気までしてくる。
確かに東洋系の女性はまず見なかった。オシャレなカフェで見かけるのは、大体がキャミソールとショートパンツからこれみよがしに長く白い手足を出した開放的な欧米人女性、それも若い子のグループだ。

なんか本当に場違いなところに迷い込んだ子羊さながら肩身の狭い思いをしつつも、この暖かさと心浮き立つ海の香りに癒されてもう一日ゆっくりしようと考えていた矢先、私は会ってしまったのだ、あの男に。

「写真撮りましょうか?」と流暢な英語で話しかけてきたその男は、撮影後も隣りを歩きながらさりげなく会話を続ける。
女性を誘うのに慣れた男だというのはすぐにわかった。彼はきっとしばらく私を観察していたのだろう。的確に私の状況を言い当て、お茶に誘う。

ヨルダン人とイタリア人のハーフだという彼ナーサは、普段はイタリア、ミラノの旅行会社で働いているが、年に2回アカバの家を拠点にヨルダン国内旅行を楽しみ、現地に友人も多いのだという。
普段なら即座にノーなのだが、リゾート特有の解放感とちょっとした興味から、私は彼と一緒にカフェに入ることにした。

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      対岸(西側)のかなり近代的な街並みはもうイスラエル領。


旅人は砂漠をめざす

実はネパールで会ったエミちゃんに学んだことがある。
彼女は現地の人に話しかけられると、必ず丁寧に対応しすぐに仲良くなるのだ。

一方私はいつも危険を少しでも回避するためにあえてひたすらノーと言い続けてきた。
だが、それではせっかく旅をしているのに、行った先の人々とのコミュニケーションが全くない。
名前も知らないただの通りすがりではあまりに寂しいし、現地の遺産や絶景を楽しむだけなら今はテレビやDVDで鮮明な映像が見られる。

そこに行かなくては見えないもの。
「やっぱ旅は人だよ」そう教えてくれたのがエリちゃんだった。
とはいえ旅先での軽はずみな行動で危険な目に遭った事例は世の中に幾つもある。
どこまで他人を信用するかは、一人旅では特に、本当に危険な賭けなのだ。

ナンパ男ナーサの提案は、彼の友達のタクシーでワディ・ラムに向かい、ジープに乗り換え砂漠の中のキャンプで1泊、翌日タクシーでペトラヘ行く、というものだった。
人数が多い方が安い料金で旅ができるし、スウェーデンの女の子のグループと途中で合流する予定だという。

私にとってこの提案が魅力的だったのは、第一に諦めていた砂漠地帯ワディ・ラムへガイド付きで行けるということ。
第二にツアーをお一人様で申し込むと高額になる砂漠のテントが複数になることで安くなり、更にベドウィン(遊牧民)の友人価格で経費が浮くこと、だった。

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   少ししか歩いていないのに、テント群がとても遠くに見える

月の谷 ワディ・ラム
彼の友人だという運転手のタクシーでワディ・ラムへ行く途中は、怪しい所へ連れていかれて身ぐるみ剥がされたらどうしよう、など恐ろしい想像をしないでもなかったが、直感は安全だと私に伝えていた。

途中大きなスーパーで夕食の食材やビールを買うのだと嬉々として車を降りたナーサのくしゃくしゃの笑顔は、とてもこれから強盗を働こうという人間のものには見えなかった。
そんな人が豹変する可能性もなくはないが、安心なアカバを急遽出立してタクシーに乗ってしまった以上、心配しても始まらない。なるようになるのだ。

そんな行き当たりばったりな旅も初めての経験だし、いいんじゃないの、と珍しく楽天的になり、このチャンス(?)を楽しむことに決めた。
途中で合流するはずのスウェーデン人の女の子達は都合が悪くなったと言われたが、最初から私を安心させるための口実に過ぎないことは何となく感じていた。

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      広大な砂漠では何もかもが巨大すぎて、距離感がなくなってしまう。

ワディ・ラムの村のバス停で待っていた黒い長衣にカフィーヤを被ったベドウィンのオジサンのジープに乗り換え、ついに砂漠へ入って行く。

チュニジアの砂漠でラクダに乗ったり、砂丘から昇る朝日を見たことがある。
だが、ワディ・ラムこそは私たちがイメージする砂漠であり、照り付ける巨大な太陽と生を拒むような果てしない砂の拡がり、圧倒的な威容で立ち塞がる岩山に、映画「スター・ウォーズ」に出てくる惑星タトゥイーンに迷い込んだような錯覚を起こす。

自分がミクロ化された気がするほど全てが巨大なその景色の中で、私は口を開けたままただ流れてゆく壮大なランドスケープに見惚れていた。

「月の谷」と呼ばれるワディ・ラムは、イギリス人のロレンスがベドウィンと暮らした砂漠。最も高いラム山は標高1754メートルもあるという。映画「アラビアのロレンス」もこの周辺で撮影された。

キャンプ場はオフシーズンで客がおらず貸切だった。
ナーサが夕食を作っている間、あまり遠くに行くなと言われながらも付近を歩き回る。

全てが巨大で距離感がつかめずに、気付くとかなり遠くまで来ていてテントが砂粒のようにしか見えずに焦ったりする。
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ロッククライミングのように岩山に這い上がると、少し登っただけでも壮大な景色が眼下に広がり、西に傾きオレンジ色を増した太陽を眺めながら心に去来するものと向き合った。
今自分が、見知らぬ男と砂漠の真ん中にいる、という不思議。

巨大な岩山の間に沈む大きな赤い夕陽を、毛布に包まって砂の上に座って見た。
時がスローダウンして、原始の燃える太陽を見ているようだった。
あの戦慄に似た感覚は、ちょっと他では味わえない。


砂漠のテントで貞操の危機!

濃紺の空に散らばる星々。
その中で月は一際明るく輝いて、いつまでも私の目を捕えて離さない。

こんな見渡す限り砂と岩の、風の音しか聞こえない砂漠にたった一人で夜を明かすとしたら相当な恐怖との闘いだろうが、ガールハントしたつもりでいる男性をかわすのも骨が折れるものだ。

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当初はずらりと30棟ほど並ぶ4人用の個室テントに一人ずつ泊まる予定だったのだが、まだ2月、あまりに砂漠の夜が冷え込むので、食事をしたりする大きなテントに火を熾して煙の充満を防ぐため入口の布を少し開けたままその中で共に眠ることになった。

横になった途端迫ってきた彼に、そういうことはしないと約束したよね、と言ってみるが向こうは処女でもあるまいし勿体ぶるなよ、とばかりに口説き始めたのだ。

きっと今まで彼がハントした女の子たち(彼が私を20代だと思ってナンパしたのは間違いない)は、そういった旅先でのアバンチュール的な出来事にもオープンな対応をしてくれたのだろう。
実際日本人女性とも寝たことがあるとも言っていた。

まあ、そういう目的もあって誘ってきたことはうっすら承知してはいたが、夕食前に「君のテントに夜這いしたりしないよ」という言質を取っていたので、この豹変には正直うんざりした。

生理中でもあったし、好みのタイプではなかったので(イケメンでも拒否できたかは自信がない…)丁重にお断りしたのだが、ヨルダン人特有の図々しさとイタリア人独特のしつこさで「レッツ・メイク・ラブ!」攻撃を繰り返し、言葉を尽くして口説いたり拗ねてみたりと迫りまくること数時間。

ひたすら頑固にノーを繰り返した私はいい加減眠くなり毛布二枚に包まって寝たふりをすることにした。
遥か遠くにポツンと見えた隣りのキャンプ場までは恐らく直線距離でも5キロはある。
彼は襲おうと思えば出来たはずだが、私は無事に朝を迎えた。

これは「運が良かった」という一言に尽きる。
強姦されるとか、ヘタしたら死体で発見された可能性だって否定できないのだ。

「日本に彼氏がいる。愛してるから他の男とは寝ない」とか「二日後にアンマンで友人と合流する予定だ」などと嘘の予防線を張った効果もあるだろう。
とにかく、事態を悪くするのも良くするのも自己責任なのが一人旅だ。

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   太陽が信じがたいほど巨大に見える。夕陽は本当に燃えているようだった。

ただそれは、幸か不幸か私に男性を狂わせるような女性としてのフェロモンが欠けていたからであり、あくまでも彼が私を誘った理由が「砂漠で一人は寂しいから連れがいるといいなぁ。ついでに一夜のアバンチュールなんかできたらもっといいなぁ」程度だったからで、もし彼が現地の男達と良からぬ結託などをしていたら、間違いなく私は自分の身を守ることが出来なかったと思う。

深夜までイタリア語と英語を駆使して口説かれ続けたので、イタリア男に対する嫌悪感がこの時に植え付けられたのは間違いない。イタリア語の響きにすら拒否反応を示すようになってしまった。恨んでやる、ナーサ(笑)。
まぁ、当のイタリアではナンパのナの字にも引っ掛からなかったのだが。

「君はなんて頑固なんだ!」と愚痴る彼とそれ以上行動を共にしたくなかったので、ジープを降りると私は彼に別れを告げ、一人路線バスに飛び乗ったのだった。


世界一周旅の始まりはこちらから。
ヨルダンでロケが行われた映画の記事はこちら
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