2021年12月04日
音楽家の人生を描いた映画8選プラス1!
見どころは、スバリその音楽!
映画を彩る名曲の数々に酔いしれつつ、芸術家の人生を知ることができる映画、集めました。
名作『アマデウス』から、スキャンダラスな『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』まで、天才ゆえに苦悩を抱えたアーティストたちの物語8作とフィクション1作をご紹介します。
天才ゆえに、常人には理解しがたい孤独や苦悩を抱えたモーツァルト像が浮き彫りにされる。
158分と長いが、2002年に出たディレクターズ・カット版は、180分とさらに長い。
1984年のアカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞ほか8部門で受賞した。
天才と呼ばれる人には、奇人変人が多いものだが、モーツァルトはその代表かもしれない。
【ロケ地:プラハ】
映画の舞台は主にウィーンだが、ロケのほとんどがミロシュ・フォアマン監督の出身国であるチェコ(撮影当時はまだチェコスロバキア)のプラハで行われた。
かなり観光名所が映っているので、プラハ観光前には必見の映画!
●フラッチャニ広場・・・プラハ城正門前の広場。劇中何度も登場する。
●司教館・・・プラハ城内にある大司教の住んでいた宮殿。宮廷のシーンで登場。
(写真左。写真右はモーツァルトが滞在したベルトラムカ)
●エステート劇場・・・実際に『ドン・ジョバンニ』の初演や『フィガロの結婚』なども上演された劇場。
●ヴァルトシュタイン宮殿・・・皇帝のためのコンサートシーン。プラハ城とブルタバ(モルダウ)川の間に位置する美しい庭園を持つ宮殿で、現在は上院議会が置かれている。
●カノヴニツカー通りのピンクベージュの壁を持つ家・・・モーツァルトの住居として登場。
●ストラホフ修道院・・・美しく荘厳な天井を持つ哲学の間は『007カジノ・ロワイヤル』のロケでも
使われた。世界遺産『プラハ歴史地区』にも含まれている。
ベートーヴェンを演じるのは『トゥルーマン・ショー』『ポロック』のエド・ハリス、アンナ役は『トロイ』『ナショナル・トレジャー』のダイアン・クルーガー。
『太陽と月に背いて』の女性監督による少々陶酔気味の描写が多いが、ベートーヴェンを楽しむには最適の映画。ベートーヴェンに心酔している人は少し難癖をつけたくなるかもしれない。しかし、「クラシック音楽は初心者レベル」という私にはやはり、ほとんど耳の聴こえないベートーヴェンがアンナの助けを借りて第九を指揮するシーンに圧倒された。
疑似セックスのような恍惚とした表情(ベートーヴェンの指揮する手の動きに挟まれるようなアンナの顔のアップ)には少し「引くわ〜」と感じたが、師弟愛以上の感情をこの女性監督は描きたかったのだろう。
終盤の、迫力の第九シーンに注目!年末は、第九を聴きながら映画を楽しもう!
【ロケ地:ブダペスト】
ロケ地がブダペストやショプロン(ハンガリーの小さな町)ということで、それだけで私には嬉しい映画だ。
浅田真央選手がソチ・オリンピックで、前日のショートまさかの16位から6位へと巻き返した伝説のフリー・プログラム。あの時の音楽がラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」。
そんな、時代を越えて今も多くの人々を魅了するラフマニノフの名曲の数々がドラマを彩る。
ラフマニノフ自身の祖国ロシアが制作した映画だけあり、舞台となるロシアの素朴な風景が胸に沁みる。終始流れるロマンティックなラフマニノフ作品の旋律に、雰囲気だけでも酔える映画。雨に打たれながら邸宅の庭で転げ回る家族の姿が印象的だ。
偉大な芸術家の影に献身的な女あり、の見本。いつの時代も、どの芸術家にとっても、女性はやはりインスピレーションを与えてくれるミューズなんでしょうか。周囲の支えがあってこそ、世に出ることができるのかもしれません。
主演のアナ・ムグラリスはシャネルのミューズとしても活躍するモデル。アナが劇中で着用する、本物のシャネルの衣装や装飾品はため息ものだ。登場する調度品も、アールデコ好きにはたまらないはず。
モノトーンで強調されたアンニュイなシャネルの世界観が、オトナの雰囲気を漂わせるこの映画では、『火の鳥』『春の祭典』などで成功する前の、不遇時代のストラヴィンスキーが描かれる。演じるのは『007/カジノ・ロワイヤル』のマッツ・ミケルセン。舞台はすでに富を得て未だ美しい「時代のアイコン」ココ・シャネルの生きるフランス。
同じ頃、3本のシャネル映画が作られたが、ストラヴィンスキーに焦点を絞った映画はこれだけ。他の2作ではほとんどか全く彼には触れていない。ちなみに『ココ・アヴァン・シャネル』(オドレイ・トトゥ主演)では彼女のサクセス・ストーリーが、『ココ・シャネル』(シャーリー・マクレーン主演)では晩年のシャネルが描かれている。
ふたりの間に一体何があったのか。
真実は誰にもわかりませんが、一つの仮定として、偉大な音楽家とデザイナーとの邂逅に想いを馳せてみてはいかがでしょうか?
ブラームス家の末裔に当たる監督が、これまではタブーとされてきたクララとブラームスの関係に、親族ならではの大胆さで深く切り込んだストーリーが見どころ。
キャサリン・ヘップバーン、ナスターシャ・キンスキーの主演で映画化されてきたクララ・シューマンの生涯を、今回はドイツを代表する女優マルティナ・ゲデック(『善き人のためのソナタ』『マーサの幸せレシピ』)が演じる。
家庭に入った女が才能を発揮して社会に認められることが難しかった時代。自分の意思と世間体、そして心の叫びと夫への忠誠の間で悩み苦しんだひとりの女性であり、アーティストであったクララ。
先輩の妻に若い後輩が惹かれるという三角関係は、意外に多い。それが天才たちだとどうなるか…。こちらも真実は彼らのほかに知る由もありませんが、自分なりの解釈をしてみてください。
愛が芸術に与えるインスピレーションの強さを目の当たりにする映画。
監督は『ヒマラヤ杉に降る雪』のスコット・ヒックス。
天才ピアニスト、デヴィッドを演じるのはオーストラリア出身の俳優『パイレーツ・オブ・カリビアン』のバルボッサ、『顔のない鑑定士』のジェフリー・ラッシュ。
この演技でアカデミー主演男優賞始め各賞を総なめにして、ハリウッドで活躍するようになった。劇中使われているのはデヴィッド本人の演奏だが、この映画のためにジェフリーもラフマニノフをマスターしたという。役者魂恐るべし。だから演奏に現実味があるんですね。
名声の影につきまとう苦悩。この映画を見ると、非凡な才能を持ってなくて良かった…と逆に安心するかもしれない。
ジャクリーヌを熱演したのは『奇跡の海』での衝撃的な演技が記憶に残るエミリー・ワトソン。
映画を観て「満身創痍の音楽家」というイメージが浮かんだ。私のお気に入り、エルガーの「チェロ協奏曲」やバッハの「無伴奏チェロ組曲」などが彼女の痛々しい人生を浮き彫りにするかのように物悲しく響く。チェロ曲もいいなあ、とYoutubeで探したくなること間違いなし。
余談だが、ダニエル・バレンボイムに配慮して、この映画は彼の出身国フランスでは上映されなかったという。スキャンダラスな内容ではあるが、ジャクリーヌという気の強いアーティストの「ひとりの女としての人生」に、心が締めつけられる。
★神に恩寵を与えられ、悪魔と契約を交わしたといわれる天才
“神は私に恩寵を与えた。才能という恩寵を。そして世界に放り出した。”
というパガニーニのセリフが表すとおり、革新的すぎて最初は聴衆にバカにされていた彼の才能は、敏腕マネージャーのように彼を操るウルバーニという人物に出会うことで天才として開花し、熱狂的に受け入れられる。
パガニーニを始め後世に名を残すような音楽家は皆、神に恩寵を与えられた稀有な人間であり、普通の人と同じような生き方はできないように生まれついていることを実感する。彼が悪魔に魂を売り渡したヴァイオリニストと呼ばれたのはその神がかり的な演奏だけでなく、堕落した生き方ゆえだ。女性にだらしなく、金銭感覚もまともでなくすぐにギャンブルなどで使ってしまうのも、普通の人とは感覚が違ったからだろう。
この映画では、ウルバーニが彼を唆した悪魔のように描かれているが、パガニーニは自分が神に愛されている神の子だという自覚があったに違いない。普通の幸せを手に入れられないのはもう宿命というほかないだろう。
行く先々で新聞記者や熱狂的なファンに取り囲まれ、女性の黄色い声があがるシーンは、まるでマイケル・ジャクソンなど現代の超人気アーティストと同じような人気だったのだと想像できる。彼が降りてくるのは黒塗りのリムジンではなく馬車であるが。
【ロケ地:ウィーン、イタリア】
後半霧の都、ロンドンが舞台になるが、実はロンドンでのロケは一切行われていない。撮影は主にウィーンで、シェーンブルン宮殿劇場、ホーフブルク宮殿、スペイン乗馬学校、中央墓地など、またイタリアの古城や宮殿での撮影ということ。ロンドン名物の霧は、霧製造機とCG。
●天才と呼ばれる人たちは、その影で一般人にはわからない苦悩を抱えていることが、これらの映画を通してよくわかるでしょう。世界中の称賛を手に入れても、その一方で失うものは誰にでもあるんですね。
最後に、正確には伝記ではありませんが、実話をもとにしたフィクション映画をひとつご紹介。
危うく美しい旋律の曲、『暗い日曜日 Gloomy Sunday』。
欧米でこの曲を流しながら自殺する人が跡を絶たず、一時発禁処分に。が、レイ・チャールズやビヨークなど、世界中で今も歌い継がれるこの曲をイメージして、1930年代から現代に至る物語にしたのが本作。
「自殺の聖歌」と呼ばれるひとつの曲が紡ぐ愛憎劇に潜む、人間の欲望や嫉妬、恨みといった深い感情を執拗に、そしてドラマティックに描ききる。良くも悪くも強い印象を残すエモーショナルな映画。ちょっとドロドロした人間ドラマを観たい人には超オススメ。最後の最後、驚きの種明かしが待っている。
【ロケ地:ブダペスト、ドイツ】
ブダペストの象徴、鎖橋はもちろん、東駅などが映画に登場。
ブダペスト市内のレストラン、キシュピパ Kispipaは、第2次世界大戦中に流行した『暗い日曜日』を作曲したセレシュ・レジェーがピアノを弾いていたレストランだが、劇中のレストラン「サボー」のロケは残念ながらドイツのセット。
あの時代の暗い東欧のイメージが凝縮された映画なので、これを観てブダペストに旅する人が結構多い。
◆サントラが欲しくなるかもしれません。はい、もちろん私も買っちゃいました…
映画を彩る名曲の数々に酔いしれつつ、芸術家の人生を知ることができる映画、集めました。
名作『アマデウス』から、スキャンダラスな『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』まで、天才ゆえに苦悩を抱えたアーティストたちの物語8作とフィクション1作をご紹介します。
作曲家:モーツァルト
★彼は神に愛されたのか、それとも弄ばれたのか? 『アマデウス Amadeus』 (1984/米/158分)監督:ミロシュ・フォアマン モーツァルトの死をめぐる豪華絢爛な舞台劇を、見事にフィルムに転化した傑作。 物語はかつて宮廷音楽家だったサリエリの回想から入り、モーツァルトの人物像を追っていくのだが、そこに様々な音楽的見せ場やミステリーの要素を散りばめ、一瞬たりとも飽きさせない作りになっている。この映画を観れば、モーツァルトがいかに型破りな人間だったかがわかるだろう。 |
158分と長いが、2002年に出たディレクターズ・カット版は、180分とさらに長い。
1984年のアカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞ほか8部門で受賞した。
天才と呼ばれる人には、奇人変人が多いものだが、モーツァルトはその代表かもしれない。
【ロケ地:プラハ】
映画の舞台は主にウィーンだが、ロケのほとんどがミロシュ・フォアマン監督の出身国であるチェコ(撮影当時はまだチェコスロバキア)のプラハで行われた。
かなり観光名所が映っているので、プラハ観光前には必見の映画!
●司教館・・・プラハ城内にある大司教の住んでいた宮殿。宮廷のシーンで登場。
(写真左。写真右はモーツァルトが滞在したベルトラムカ)
●エステート劇場・・・実際に『ドン・ジョバンニ』の初演や『フィガロの結婚』なども上演された劇場。
●ヴァルトシュタイン宮殿・・・皇帝のためのコンサートシーン。プラハ城とブルタバ(モルダウ)川の間に位置する美しい庭園を持つ宮殿で、現在は上院議会が置かれている。
●カノヴニツカー通りのピンクベージュの壁を持つ家・・・モーツァルトの住居として登場。
●ストラホフ修道院・・・美しく荘厳な天井を持つ哲学の間は『007カジノ・ロワイヤル』のロケでも
使われた。世界遺産『プラハ歴史地区』にも含まれている。
作曲家:ベートーヴェン
★難聴に苦しむベートーヴェンを、陰で支えた女性がいたことを知っていますか? 『敬愛なるベートーヴェン Copying Beethoven』 (2006/英=独=藩/104分)監督:アニエスカ・ホランド 舞台は1824年のウィーン。 孤高の天才音楽家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンと彼のコピスト(写譜師)となった作曲家志望の女性アンナの、知られざる師弟愛を描いた感動ドラマ。 ベートーヴェンを尊敬するアンナは彼の粗暴な振る舞いに驚くが、一方のベートーヴェンはアンナが優れた才能の持ち主であることを見抜き、徐々に彼女に信頼を置くようになっていく。 |
ベートーヴェンを演じるのは『トゥルーマン・ショー』『ポロック』のエド・ハリス、アンナ役は『トロイ』『ナショナル・トレジャー』のダイアン・クルーガー。
『太陽と月に背いて』の女性監督による少々陶酔気味の描写が多いが、ベートーヴェンを楽しむには最適の映画。ベートーヴェンに心酔している人は少し難癖をつけたくなるかもしれない。しかし、「クラシック音楽は初心者レベル」という私にはやはり、ほとんど耳の聴こえないベートーヴェンがアンナの助けを借りて第九を指揮するシーンに圧倒された。
疑似セックスのような恍惚とした表情(ベートーヴェンの指揮する手の動きに挟まれるようなアンナの顔のアップ)には少し「引くわ〜」と感じたが、師弟愛以上の感情をこの女性監督は描きたかったのだろう。
終盤の、迫力の第九シーンに注目!年末は、第九を聴きながら映画を楽しもう!
【ロケ地:ブダペスト】
ロケ地がブダペストやショプロン(ハンガリーの小さな町)ということで、それだけで私には嬉しい映画だ。
作曲家・ピアニスト:ラフマニノフ
★彼に送り続けられたライラックの謎 『ラフマニノフ ある愛の調べ Lilacs』 (200/露/96分)監督:パーベル・ルンギン 類まれな天才ピアニストにして天才作曲家、セルゲイ・ラフマニノフがこの世に遺した美しい名曲に秘められた愛の物語。 コンサートのたびに匿名で届けられるライラックの謎と、彼をめぐる3人の女性たちとの関係を軸に、ロシア革命によるアメリカ亡命など、次々に襲いかかる試練の中で生み出された不滅の名曲の誕生秘話を描く。 果たして彼にライラックの花を送り続けたのは、誰だったのか? |
そんな、時代を越えて今も多くの人々を魅了するラフマニノフの名曲の数々がドラマを彩る。
ラフマニノフ自身の祖国ロシアが制作した映画だけあり、舞台となるロシアの素朴な風景が胸に沁みる。終始流れるロマンティックなラフマニノフ作品の旋律に、雰囲気だけでも酔える映画。雨に打たれながら邸宅の庭で転げ回る家族の姿が印象的だ。
偉大な芸術家の影に献身的な女あり、の見本。いつの時代も、どの芸術家にとっても、女性はやはりインスピレーションを与えてくれるミューズなんでしょうか。周囲の支えがあってこそ、世に出ることができるのかもしれません。
作曲家:ストラヴィンスキー
★背徳の香りとオトナの駆け引きに酔いしれる 『シャネル&ストラヴィンスキー COCO CHANEL & IGOR STRAVINSKY』 (2009/仏/119分)監督:ヤン・クーネン ココ・シャネルとロシアの作曲家ストラヴィンスキーの、秘められた恋を描いた人間ドラマ。有名なデザイナーと天才作曲家の背徳的かつ至高の愛を、素晴らしい調度品や華やかなオートクチュールとともに見せる。 パリでの『春の祭典』の初演が不評に終わったストラヴィンスキー。前衛的な彼の作品に惚れ込んだシャネルは、成功と富を手に入れた7年後、不遇の続くストラヴィンスキーとその家族を自宅に滞在させる。そして妻のあるストラヴィンスキーとシャネルの間には、許されない感情が芽生えていく。 |
主演のアナ・ムグラリスはシャネルのミューズとしても活躍するモデル。アナが劇中で着用する、本物のシャネルの衣装や装飾品はため息ものだ。登場する調度品も、アールデコ好きにはたまらないはず。
モノトーンで強調されたアンニュイなシャネルの世界観が、オトナの雰囲気を漂わせるこの映画では、『火の鳥』『春の祭典』などで成功する前の、不遇時代のストラヴィンスキーが描かれる。演じるのは『007/カジノ・ロワイヤル』のマッツ・ミケルセン。舞台はすでに富を得て未だ美しい「時代のアイコン」ココ・シャネルの生きるフランス。
同じ頃、3本のシャネル映画が作られたが、ストラヴィンスキーに焦点を絞った映画はこれだけ。他の2作ではほとんどか全く彼には触れていない。ちなみに『ココ・アヴァン・シャネル』(オドレイ・トトゥ主演)では彼女のサクセス・ストーリーが、『ココ・シャネル』(シャーリー・マクレーン主演)では晩年のシャネルが描かれている。
ふたりの間に一体何があったのか。
真実は誰にもわかりませんが、一つの仮定として、偉大な音楽家とデザイナーとの邂逅に想いを馳せてみてはいかがでしょうか?
ピアニスト:クララ・シューマン
★シューマンとブラームス、二人の天才が魅せられた女神 『クララ・シューマン 愛の協奏曲 Geliebte Clara』 (2008/独=仏=藩/109分)監督:ヘルマ・サンダース=ブラームス 偉大な作曲家シューマンの妻にして、ブラームスのミューズでもあったピアニスト、クララ・シューマンの真実に迫る感動作。 ピアニストとしてツアーを回りながら、作曲家の夫ロベルト・シューマンの妻として、7人の子供の母親として、多忙な日々を送るクララ。そんな彼女の前に、若き新人作曲家、ヨハネス・ブラームスが現れる。自分の才能を評価してくれるクララに対し、ブラームスは敬愛の念を寄せるが… |
ブラームス家の末裔に当たる監督が、これまではタブーとされてきたクララとブラームスの関係に、親族ならではの大胆さで深く切り込んだストーリーが見どころ。
キャサリン・ヘップバーン、ナスターシャ・キンスキーの主演で映画化されてきたクララ・シューマンの生涯を、今回はドイツを代表する女優マルティナ・ゲデック(『善き人のためのソナタ』『マーサの幸せレシピ』)が演じる。
家庭に入った女が才能を発揮して社会に認められることが難しかった時代。自分の意思と世間体、そして心の叫びと夫への忠誠の間で悩み苦しんだひとりの女性であり、アーティストであったクララ。
先輩の妻に若い後輩が惹かれるという三角関係は、意外に多い。それが天才たちだとどうなるか…。こちらも真実は彼らのほかに知る由もありませんが、自分なりの解釈をしてみてください。
愛が芸術に与えるインスピレーションの強さを目の当たりにする映画。
ピアニスト:デヴィッド・ヘルフゴッド
★天才の苦悩。純粋だからこそ、心が壊れる。 『シャイン Shine』 (1995/オーストラリア/105分)監督:スコット・ヒックス 実在の天才ピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴッドの半生を描いた感動作。 デヴィッドは音楽家になれなかった父ピーターから英才教育を受けて育った。父親の反対を押し切ってロンドンに留学したデヴィッド。だが緊張と父親との対立から、彼は精神を病んでしまう。 |
天才ピアニスト、デヴィッドを演じるのはオーストラリア出身の俳優『パイレーツ・オブ・カリビアン』のバルボッサ、『顔のない鑑定士』のジェフリー・ラッシュ。
この演技でアカデミー主演男優賞始め各賞を総なめにして、ハリウッドで活躍するようになった。劇中使われているのはデヴィッド本人の演奏だが、この映画のためにジェフリーもラフマニノフをマスターしたという。役者魂恐るべし。だから演奏に現実味があるんですね。
名声の影につきまとう苦悩。この映画を見ると、非凡な才能を持ってなくて良かった…と逆に安心するかもしれない。
チェリスト:ジャクリーヌ・デュ・プレ
★芸術と狂気の狭間で、愛を求めてもがくひとりの女性 『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ Hilary and Jackie』 (1998/英/121分)監督:アナンド・タッカー 伝説のイギリス人チェリスト、ジャクリーヌ・デュ・プレの生涯を映画化。ジャクリーヌがステージではけして見せなかった苦悩や葛藤を、姉妹の確執を軸に、実姉の視点から描いていく。 幼い頃から天才と呼ばれ、チェリストとしての才能を開花させたジャクリーヌだが、実は平凡な生活を選んだ姉に羨望と嫉妬を抱いていた。やがて指揮者のダニエル・バレンボイムと結婚した彼女は幸せの絶頂期に、突如不治の病に襲われる。追い詰められていくジャクリーヌが、姉にしたとんでもないお願いとは?そして姉の下した決断は…。 |
ジャクリーヌを熱演したのは『奇跡の海』での衝撃的な演技が記憶に残るエミリー・ワトソン。
映画を観て「満身創痍の音楽家」というイメージが浮かんだ。私のお気に入り、エルガーの「チェロ協奏曲」やバッハの「無伴奏チェロ組曲」などが彼女の痛々しい人生を浮き彫りにするかのように物悲しく響く。チェロ曲もいいなあ、とYoutubeで探したくなること間違いなし。
余談だが、ダニエル・バレンボイムに配慮して、この映画は彼の出身国フランスでは上映されなかったという。スキャンダラスな内容ではあるが、ジャクリーヌという気の強いアーティストの「ひとりの女としての人生」に、心が締めつけられる。
ヴァイオリニスト:パガニーニ
★神に恩寵を与えられ、悪魔と契約を交わしたといわれる天才
『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト Paganini:The Devil's Violinist』 (2013/独/122分) 監督:バーナード・ローズ 19世紀イタリアの天才バイオリニスト、ニコロ・パガニーニのスキャンダラスな人生。1830年、謎の男ウルバーニによって売り出されたパガニーニは富と名声を手に入れるが、私生活では女や酒、ギャンブルと堕落した日々を送っており、悪魔に魂を売った天才ヴァイオリニストと呼ばれていた。イギリスの指揮者ワトソンの招致でロンドン公演を行ったパガニーニは、そこでワトソンの娘シャーロットと出会い、音楽を通して心をかよわせるが…。 監督は『不滅の恋 ベートーヴェン』のバーナード・ローズ。欧米を中心に絶大な人気を誇るドイツ人バイオリニスト、デビッド・ギャレットが主人公パガニーニ役でスクリーンデビューを飾り、名器ストラディバリウスで名曲の数々を奏でた。エンディングの”Erlkoning"も入ったサントラは音楽好き、またギャレット好きにはたまらないだろう。 |
“神は私に恩寵を与えた。才能という恩寵を。そして世界に放り出した。”
というパガニーニのセリフが表すとおり、革新的すぎて最初は聴衆にバカにされていた彼の才能は、敏腕マネージャーのように彼を操るウルバーニという人物に出会うことで天才として開花し、熱狂的に受け入れられる。
パガニーニを始め後世に名を残すような音楽家は皆、神に恩寵を与えられた稀有な人間であり、普通の人と同じような生き方はできないように生まれついていることを実感する。彼が悪魔に魂を売り渡したヴァイオリニストと呼ばれたのはその神がかり的な演奏だけでなく、堕落した生き方ゆえだ。女性にだらしなく、金銭感覚もまともでなくすぐにギャンブルなどで使ってしまうのも、普通の人とは感覚が違ったからだろう。
この映画では、ウルバーニが彼を唆した悪魔のように描かれているが、パガニーニは自分が神に愛されている神の子だという自覚があったに違いない。普通の幸せを手に入れられないのはもう宿命というほかないだろう。
行く先々で新聞記者や熱狂的なファンに取り囲まれ、女性の黄色い声があがるシーンは、まるでマイケル・ジャクソンなど現代の超人気アーティストと同じような人気だったのだと想像できる。彼が降りてくるのは黒塗りのリムジンではなく馬車であるが。
【ロケ地:ウィーン、イタリア】
後半霧の都、ロンドンが舞台になるが、実はロンドンでのロケは一切行われていない。撮影は主にウィーンで、シェーンブルン宮殿劇場、ホーフブルク宮殿、スペイン乗馬学校、中央墓地など、またイタリアの古城や宮殿での撮影ということ。ロンドン名物の霧は、霧製造機とCG。
●天才と呼ばれる人たちは、その影で一般人にはわからない苦悩を抱えていることが、これらの映画を通してよくわかるでしょう。世界中の称賛を手に入れても、その一方で失うものは誰にでもあるんですね。
最後に、正確には伝記ではありませんが、実話をもとにしたフィクション映画をひとつご紹介。
ピアニスト:セレシュ・レジェー
★人間の心の奥に潜む闇に、感情を揺さぶられる 『暗い日曜日 Gloomy Sunday』 (1999/独=藩/115分)監督:ロルフ・シューベル 舞台は第二次世界大戦直前、ハンガリーの首都ブダペスト。 ユダヤ人のラズロは、恋人イロナとふたりでオープンしたレストランにピアニストのアンドラーシュを雇い入れる。アンドラーシュと恋に落ちたイロナだったがラズロとも関係を続け、3人は微妙なバランスで愛を共有し合うように。やがてアンドラーシュの書いた曲「暗い日曜日」がヒットするが、この曲を聴きながら自殺する人が続出。そこへドイツがハンガリーに侵攻、3人の運命の歯車も狂い始める。 |
欧米でこの曲を流しながら自殺する人が跡を絶たず、一時発禁処分に。が、レイ・チャールズやビヨークなど、世界中で今も歌い継がれるこの曲をイメージして、1930年代から現代に至る物語にしたのが本作。
「自殺の聖歌」と呼ばれるひとつの曲が紡ぐ愛憎劇に潜む、人間の欲望や嫉妬、恨みといった深い感情を執拗に、そしてドラマティックに描ききる。良くも悪くも強い印象を残すエモーショナルな映画。ちょっとドロドロした人間ドラマを観たい人には超オススメ。最後の最後、驚きの種明かしが待っている。
【ロケ地:ブダペスト、ドイツ】
ブダペストの象徴、鎖橋はもちろん、東駅などが映画に登場。
ブダペスト市内のレストラン、キシュピパ Kispipaは、第2次世界大戦中に流行した『暗い日曜日』を作曲したセレシュ・レジェーがピアノを弾いていたレストランだが、劇中のレストラン「サボー」のロケは残念ながらドイツのセット。
あの時代の暗い東欧のイメージが凝縮された映画なので、これを観てブダペストに旅する人が結構多い。
◆サントラが欲しくなるかもしれません。はい、もちろん私も買っちゃいました…
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