2020年01月25日
モロッコ in『ボーン・アルティメイタム』
これぞ映画館で見るべき作品。その緊迫感に酔え!
世界を股にかけるスパイ映画。なかでもこの『ジェイソン・ボーン・シリーズ』は私の代のお気に入り。平和だけれど同じ毎日に少し刺激が欲しい時、ぜひ観てほしいスパイ・アクションの傑作だ。
久々の三ツ星作品である。「手に汗握る」というが、私は背中にまで汗をかいてしまった。『ユナイテッド93』でも見せた、ポール・グリーングラス監督の緊迫感を保つ手腕はすごい。
そして高まる期待と一抹の不安の中で公開された最終章『ボーン・アルティメイタム』は、全てがパワーアップして、完璧な姿を我々の前に顕わしてくれた。文句なくぶっちぎりの1位!
アクション映画のスタイルを変えたといわれるこのシリーズが今までのアクション映画と違う点は、徹底的なリアリズムだ。ドキュメンタリータッチの演出、細かなカット割りが、まるでその場にいるかのような臨場感をもたらす。
スローモーションなどを使ったある意味「ありえねーし」という『マトリックス』のような超現実的なアクション映画ではなく、普通の早さでの撮影でも、ごく細かなカット割りによって瞬きする暇もないほどの緊迫した効果を出している。『マトリックス』シリーズ三作目となるこの『ボーン・アルティメイタム』では、その編集技術が見事にリアリズムとの相乗効果で最高の緊迫感を観客に与えることに成功した。
またオリバー・ウッドによる、手持ちカメラによる撮影は最初酔ってしまうかとも思ったが、実は素晴らしく計算されたカメラワークで、見る者を惹きつけて離さない。アクション映画にありがちな、ただ悪戯に揺れるだけのカメラではなく、見せるべきところをギリギリまで見せるスピード感を持ったカメラワークなのだ。だから、見る方も一瞬として気が抜けない。
このラストまで持続して突っ走る緊迫感はもちろん、優れた脚本なしにはあり得ない。シリーズ全三作で脚本に参加しているトニー・ギルロイは2007年ジョージ・クルーニー主演の『フィクサー』で監督デビューしており、アカデミー賞レースにも絡むほどその才能がうかがえる。
私がボーン・シリーズ3部作に惚れたもう一つの理由は、世界各地で行われたロケである。今回もボーンは、モスクワ、パリ、ロンドン、マドリッド、タンジール(モロッコ)、そしてニューヨークと、ヨーロッパからアフリカ、北米と三大陸を駆け巡る。現地でのロケはリアリティを追求する映画では欠かせない。そして観客にとっては、映画を見ながら世界を旅できるなんて、こんな素敵なことはない。
迷路のようなタンジールの街で、家々の屋根づたいに駆け抜けながら暗殺者と対決するジェイソン・ボーン
今回、一作目からのキーワードである「トレッド・ストーン計画」に加え「ブラック・フライアー計画」なるものの謎を追いながら三大陸を移動する孤独なボーンにも、至る所で協力者が現れる。それがまた何故か、ニッキーやパメラといった女性ばかりなのだ。前二作でも彼の味方は恋人マリーだけだった。ボーンはハンサムなわけでも、面白いわけでもない。ただ危険なだけの男にも、女は最後までついて行こうとはしないものだ。しかも今回、ニッキーやパメラは敵側の人間である。それでも彼女たちがボーンを助ける行動に出たのはなぜか?
この三部作で恋人といる時以外、ボーンは笑わない。三作目では、ついぞ笑顔を見せなかった。マット・デイモンの、感情を一切外に出さない無表情な演技は、ジェイソン・ボーンという男の存在にリアリティを与えている。タンジールのホテルで、無言で向き合うにニッキーとボーンのシーンでは、言葉では決して与えられない安心感を彼が醸し出しているのを感じる。「この男ならけして私を見捨てない」という信頼。
髪を切り黒く染めて過去と決別してまで、ジェイソンを助けることを決意したニッキー
自分が追われながらも、タンジールの迷宮のような街の中でボーンは必死にニッキーを見つけ出し、守り抜いた。嘘の欠片も感じさせないボーンの誠実さが女たちを引き寄せ、ラストシーンで殺し屋を翻意させたのだ。
この役はマットが演じたからこそ生きた、といえる。もしボーン役が私の愛するヘイデンだったら、美しすぎる顔のせいで恐らく信頼に足りないだろう。現実世界でも「ハンサムではないのに女優にモテる」と評判のマットだからこそ説得力があるのだ。
キャスティングの絶妙さは、3部作を通じて言えることだ。キーマンとなるCIAの元上司コンクリン役クリス・クーパー、3作目で執拗にボーンを追い、隙あらば抹殺しようと目論むCIAのノア・ヴォーゼン役デヴィッド・ストラザーンは共に名脇役として有名で、出しゃばり過ぎない演技で常に主役を盛り立てる。
そして、恋人マリー役のフランカ・ポテンテ、CIA職員ニッキー役のジュリア・スタイルズは美人ではないところが現実的だ。また敵側でありながらボーンを理解する準主役のパメラ・ランディに、名助演女優として名を馳せるジョアン・アレンをもってくるところなど、文句のつけようがない。
左:ボーンを殺そうとするCIA上層部に疑問を持ち、ボーン擁護へと傾いていくパメラ(ジョアン・アレン) 右:執拗にボーンを抹殺しようとするパメラの上司ノア・ヴォーゼン(デヴィッド・ストラザーン)
そして堂々ピンで主役を張ったマット・デイモン。このシリーズを見て初めてマットをカッコいいと思った私のような人もいるはずだ。それら全ての要素が絶妙にマッチして、この3部作、ひいては最終章『ボーン・アルティメイタム』が完結したことに、驚嘆を禁じ得ないのである。
世界を股にかけた、暗殺者とCIAの頭脳戦。恐ろしく回転の速い部脳を持つ選ばれた者たち。そしてポール・グリーングラス監督の緊迫映像マジック。果たしてあなたはこのマジックについて来られるか?!
これだから、優れたスパイ映画はたまらない。ぜひ1作目からシリーズで見てほしい。この映画を見ている間は全ての心配事を忘れていられることをお約束する。
世界を股にかけるスパイ映画。なかでもこの『ジェイソン・ボーン・シリーズ』は私の代のお気に入り。平和だけれど同じ毎日に少し刺激が欲しい時、ぜひ観てほしいスパイ・アクションの傑作だ。
『ボーン・アルティメイタム The Bourn Ultimatum』 (2007/米 監督:ポール・グリーングラス) ♪ Remember everything. Forgive nothing. ♪ 記憶を失ったCIAスパイ、ジェイソン・ボーンの孤独な戦いを描くスパイ・アクション・シリーズ3部作完結編。新たな協力者を得て過去と決着をつけるべく、ついにボーンがCIAの本拠地ニューヨークへと乗り込む。 |
久々の三ツ星作品である。「手に汗握る」というが、私は背中にまで汗をかいてしまった。『ユナイテッド93』でも見せた、ポール・グリーングラス監督の緊迫感を保つ手腕はすごい。
3部作の1作目、ダグ・リーマン監督の『ボーン・アイデンティティ』は、記憶を失くしたスパイ、ジェイソン・ボーンが失われた記憶を取り戻すべく、偶然出会った女性の助けを借りながら、自分を殺そうと執拗に彼を追うCIAに立ち向かう。 斬新な演出と荒唐無稽さを排除したリアリティに「アクション映画にしては良く出来てる」と思った。ボーンを演じたマット・デイモンに関しても「身体を良く作りこんで新しい顔を見せてくれた」と好感を持った。 |
ポール・グリーングラスを監督に迎え、ダグ・リーマンは製作に回った2作目『ボーン・スプレマシー』では、恋人と静かに暮らすボーンをCIAが見つけ出して差し向けた暗殺者により、彼女が死亡。今度こそ記憶を取り戻して真実を突き止めるべく、再びボーンが動き出す。 この2作目は私の中でその年の第2位を獲得するほどの出来栄えで、主演マット・デイモンのアクションのキレは冴え、記憶を失くした暗殺者としての顔も板についていてびっくり。 |
そして高まる期待と一抹の不安の中で公開された最終章『ボーン・アルティメイタム』は、全てがパワーアップして、完璧な姿を我々の前に顕わしてくれた。文句なくぶっちぎりの1位!
アクション映画のスタイルを変えたといわれるこのシリーズが今までのアクション映画と違う点は、徹底的なリアリズムだ。ドキュメンタリータッチの演出、細かなカット割りが、まるでその場にいるかのような臨場感をもたらす。
スローモーションなどを使ったある意味「ありえねーし」という『マトリックス』のような超現実的なアクション映画ではなく、普通の早さでの撮影でも、ごく細かなカット割りによって瞬きする暇もないほどの緊迫した効果を出している。『マトリックス』シリーズ三作目となるこの『ボーン・アルティメイタム』では、その編集技術が見事にリアリズムとの相乗効果で最高の緊迫感を観客に与えることに成功した。
またオリバー・ウッドによる、手持ちカメラによる撮影は最初酔ってしまうかとも思ったが、実は素晴らしく計算されたカメラワークで、見る者を惹きつけて離さない。アクション映画にありがちな、ただ悪戯に揺れるだけのカメラではなく、見せるべきところをギリギリまで見せるスピード感を持ったカメラワークなのだ。だから、見る方も一瞬として気が抜けない。
このラストまで持続して突っ走る緊迫感はもちろん、優れた脚本なしにはあり得ない。シリーズ全三作で脚本に参加しているトニー・ギルロイは2007年ジョージ・クルーニー主演の『フィクサー』で監督デビューしており、アカデミー賞レースにも絡むほどその才能がうかがえる。
私がボーン・シリーズ3部作に惚れたもう一つの理由は、世界各地で行われたロケである。今回もボーンは、モスクワ、パリ、ロンドン、マドリッド、タンジール(モロッコ)、そしてニューヨークと、ヨーロッパからアフリカ、北米と三大陸を駆け巡る。現地でのロケはリアリティを追求する映画では欠かせない。そして観客にとっては、映画を見ながら世界を旅できるなんて、こんな素敵なことはない。
迷路のようなタンジールの街で、家々の屋根づたいに駆け抜けながら暗殺者と対決するジェイソン・ボーン
今回、一作目からのキーワードである「トレッド・ストーン計画」に加え「ブラック・フライアー計画」なるものの謎を追いながら三大陸を移動する孤独なボーンにも、至る所で協力者が現れる。それがまた何故か、ニッキーやパメラといった女性ばかりなのだ。前二作でも彼の味方は恋人マリーだけだった。ボーンはハンサムなわけでも、面白いわけでもない。ただ危険なだけの男にも、女は最後までついて行こうとはしないものだ。しかも今回、ニッキーやパメラは敵側の人間である。それでも彼女たちがボーンを助ける行動に出たのはなぜか?
この三部作で恋人といる時以外、ボーンは笑わない。三作目では、ついぞ笑顔を見せなかった。マット・デイモンの、感情を一切外に出さない無表情な演技は、ジェイソン・ボーンという男の存在にリアリティを与えている。タンジールのホテルで、無言で向き合うにニッキーとボーンのシーンでは、言葉では決して与えられない安心感を彼が醸し出しているのを感じる。「この男ならけして私を見捨てない」という信頼。
髪を切り黒く染めて過去と決別してまで、ジェイソンを助けることを決意したニッキー
自分が追われながらも、タンジールの迷宮のような街の中でボーンは必死にニッキーを見つけ出し、守り抜いた。嘘の欠片も感じさせないボーンの誠実さが女たちを引き寄せ、ラストシーンで殺し屋を翻意させたのだ。
この役はマットが演じたからこそ生きた、といえる。もしボーン役が私の愛するヘイデンだったら、美しすぎる顔のせいで恐らく信頼に足りないだろう。現実世界でも「ハンサムではないのに女優にモテる」と評判のマットだからこそ説得力があるのだ。
キャスティングの絶妙さは、3部作を通じて言えることだ。キーマンとなるCIAの元上司コンクリン役クリス・クーパー、3作目で執拗にボーンを追い、隙あらば抹殺しようと目論むCIAのノア・ヴォーゼン役デヴィッド・ストラザーンは共に名脇役として有名で、出しゃばり過ぎない演技で常に主役を盛り立てる。
そして、恋人マリー役のフランカ・ポテンテ、CIA職員ニッキー役のジュリア・スタイルズは美人ではないところが現実的だ。また敵側でありながらボーンを理解する準主役のパメラ・ランディに、名助演女優として名を馳せるジョアン・アレンをもってくるところなど、文句のつけようがない。
そして堂々ピンで主役を張ったマット・デイモン。このシリーズを見て初めてマットをカッコいいと思った私のような人もいるはずだ。それら全ての要素が絶妙にマッチして、この3部作、ひいては最終章『ボーン・アルティメイタム』が完結したことに、驚嘆を禁じ得ないのである。
世界を股にかけた、暗殺者とCIAの頭脳戦。恐ろしく回転の速い部脳を持つ選ばれた者たち。そしてポール・グリーングラス監督の緊迫映像マジック。果たしてあなたはこのマジックについて来られるか?!
これだから、優れたスパイ映画はたまらない。ぜひ1作目からシリーズで見てほしい。この映画を見ている間は全ての心配事を忘れていられることをお約束する。
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