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2017年12月12日

―皐月雨―・13(半分の月がのぼる空・しにがみのバラッド。・シゴフミ・クロスオーバー二次創作)

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 作成絵師:ぐみホタル様(https://skeb.jp/@Gumi_Hotaru

 二次創作「皐月雨」、第13話掲載です。
 話の区切り上、随分と短くなってしまいましたが、ご了承くださいませ(汗)





             ―青い空と郵便配達―


 日が登ってしばし。僕と里香は探しに来た看護師さん達に発見された。当然と言うべきか、里香は滅茶苦茶怒られていた。あ、僕はどうしたって?夜間スタッフの中に、亜希子さんがいた。これだけ言えば分かるだろう。ああ、そうさ。頭が身体にめり込むくらいの勢いで殴られた。その後、落ちてたザイルを見つけられた。何だこれはと問い詰められて、答えに詰まった所を悟られた。そして、今度は頭が真後ろを向くくらいぶん殴られた。
 正直、これで死ぬんじゃないかと思った。
 ちなみに、モモと郵便配達はいつの間にか消えていた。……アフターケアくらい、していって欲しいんだけどな……


 それから、一週間が経った。
 あの晩から、里香は順調に回復していった。繋がれていた計器の類も外れて、自分の足で歩けるくらいに筋力も戻った。面会の制限も解けて、見舞いに来た同級生達と談笑もする様になった。もちろん、油断は出来ない。でも、それは今までと同じ事。里香は歩いていく。今までと変わらずに。暗闇の中、真っ直ぐに伸びた細い平均台。いつかは終わるその上を、一歩一歩、ゆっくりと。


 その日、里香の元には吉崎多香子と綾子が訪れていた。里香はベッドに座って彼女達と談笑していた。女同士の話だ。男の僕は、ちょっと場違い感が強い。なので、ちょっと席を外す事にした。さて、どこで暇を潰そうか。そう思いながら窓の外を見ると、真っ青に澄み渡った空が見えた。あの長かった雨が過ぎ、訪れたのは晴天が続く日々。今日もよく晴れていて、柔らかい日の光がさんさんと降り注いでいる。ああ、そうだな。久しぶりに、日向ぼっこでも決め込もうかな。そんな考えが浮かんで、僕は足を屋上へと向けた。その途中で、ディルームの前を通りかかる。ふと目に入るのは、ディルームの入口に置かれた本棚。その中に収められた、「心臓移植を考える」の題字。それを一瞥すると、僕はその場を通り過ぎた。


 屋上のドアを開けると、思った通りそこは暖かい陽の光が満ち溢れていた。
 僕は手頃な場所をザッザッと足で払うと、そこにゴロリと寝っ転がった。日光に温められたそこは、思った通りポカポカしている。その温もりに身を任せると、僕は腕枕に頭を乗せて目を瞑った。
 身を包む温もりに、しばしうつらうつらとする。
 ――と、
 「結構なご身分ね。空いた時間はもっと有意義に使うべきだと思うけど」
 『それ、文伽が言うかなぁ?時間を大切になんてまんまブーメラ……イタァ!!』
 そんな悲鳴と共に、何かが床に打ち付けられる音がした。……ああ、うるせぇな。こいつら……。
 「おい、うるさいぞ。病院なんだからもっと静かにしろよ」
 ブツブツ言いながら身を起こした僕を、澄ました顔が見下ろす。
 「この間、大騒ぎしてた身で言う事じゃないわね。それこそ、ブーメランよ」
 「何言ってんだ?あれだって原因はお前らだろ?こっちだって言われる筋じゃねぇよ」
 「相変わらず、屁理屈は回るわね」
 そんな言葉とともに、そいつ――郵便配達が僕の顔を覗き込んできた。
 近い。
 意思に反して心臓がドキドキする。僕はたまらず顔を逸らした。
 『駄目だよ、文伽。純真な青少年を誘惑しちゃ』
 「……もう一回、床叩きをしたいのかしら。マヤマ」
 剣呑な目つきで、手に持つ杖を睨む郵便配達。その間に、僕は火照った顔を風に晒した。
 そんな僕をよそに、屈めていた身体を起こすと、郵便配達はこう言った。
 「とりあえず、変な憑き物は落ちたみたいね。まったく。手間をかけさせてくれたわ」
 『ほんとほんと。お陰でスケジュールが滅茶苦茶だよ』
 ……肝心の所じゃよく気が合うな。何だかんだで結局、いいコンビって事か。だけど何だよ。変な憑き物って。人を霊障害持ちみたいに言うな……と反論しようと思ったけど、割りと的を得てもいそうな気がしたので黙っている事にした。
 「……で、何の用だよ。仕事は終わったんじゃないのか?手紙は、もう里香に渡したんだろ?」
 そう。郵便配達(こいつら)が何者なのかは里香から聞いて、知っていた。そして、その役目も。こいつらがここに来たのは、里香に父親の手紙を渡すため。もう、仕事は終わってる筈だ。
 「そうね。”そっち”の方は、終わったわ。だから……」
 すると、郵便配達が肩にぶら下げていたがま口の鞄をパクリと開けた。その時、いっぱいに詰まった手紙が見えた。彼女達が運ぶのは、死した人達の想い。なら、あの大きな鞄の中にあるのは、そんな大切な想いの数々。それらが、大切な人に届けられるのを今か今かと待ち詫びているのだろう。それなら、こんな所で僕なんかにかかずらわっている暇なんてないと思うんだが。
 そんな僕の疑念を他所に、郵便配達は鞄の中を物色する。やがて、一枚の便箋を取り出すと、それを僕に向かって差し出してきた。
 「はい」
 「え?」
 突然の事に驚く僕に構わず、郵便配達は言う。
 「戎崎裕一、あなたに手紙よ」
 「オレに……?」
 「そう。あなたの父親、”戎崎誠一“からね」
 「―――っ!!」
 思いもがけない言葉。僕は声を失ったまま、目の前に差し出された黒い切手の便箋を呆然と見つめた。


                                 続く
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