2012年12月09日
みかん農家の看板犬
今日は朝一番から事件が起こりました。
それは、母の「リックが死んだ」という泣きじゃくる声とともに始まった。
リックとは、この家で飼っていたオス犬のことで、実は先月外科手術を終えて養生しているところだった。
病気というのは、脇の下に腫瘍ができたというものであり、その辺をごっそり切除するという大掛かりなものだった。術後、その腫瘍を病理検査に出して見ると、実に悪性のものだということがわかり、手術をしたものの、その運命はもう覚悟していた。
家族みんな覚悟をしていたものの、エサをやりに小屋に行った母はなきじゃくりながら、その遺体を抱え込んで部屋に入ってきた。
いざその時を迎えてみると、その現実があまりにも悲しく、母は何度も「リックが死んだ」と言うばかり……。
その様子に、父と俺もそばに駆け寄った。
「まだ、温かいのよ。たぶん、朝方死んだんだろうね……」とようやく母が違う言葉を発した。
「リック…。リック! おい!」父親が呼びかける。
しかし、返事はなくぐったりとしている。その身体は力なく母親にだっこされている。
俺はついに来る時が来たかとがっくりソファに横たわった。
リックとの出逢いは、ほんの4年半前のことだった。
4年半前、かねてより寝たきりだった祖母が亡くなった。父にとっては、戦争で父をなくしてから女手一つで育ててくれた母だった。
気丈に葬儀を仕切るものの、いつも元気な親父らしくなく力がないのが側にいてわかった。まるで、魂が抜け出ているかのようにエネルギーが感じられなかった。
その様子を見ていて、心配になった俺は、葬儀が終わった後「犬でも飼ったら?」と勧め、その日のうちにペットショップに犬を見にいった。母は、「見て来るだけよ」と言っていた。
俺と親父も、半分見るだけのつもりで行ったのだが、そこで目が合ったのがリックだった。まだ生後2週間ぐらいの子犬だったが、元気ですぐに俺や親父の手をぺろぺろと舐めた。
すぐに二人とも気に入って買って帰った俺達に、母は「やっぱり……」と呆れていた。
家に連れ帰った後も、とにかく元気でぴょんぴょんリビングを駆け回っていた。犬種はジャックラッセルテリア。飼い始めた後に知ったのだが、中型犬の身体に大型犬が入っていると言われるほどのやんちゃな犬なのだった。(映画マスク2を見たことのある人ならご存知のあの行動力のある犬種である)
このリック、とにかく人懐っこく、人が来るたびによろこんで飛び跳ねる犬で、あっと言う間にこの狭い集落の中で、ポンカン農家の看板犬として人気者になった。よく言われていたのは「あんたのとこの犬は、番犬にはならんな〜」というほど、人に対して吠えなかった。
そしてやんちゃで食いしん坊でみかん好きなこの次男坊は、散歩が日課の両親の愛犬として4年半暮らしてきたのである。
その遺体の側で、まだ「リック。リック……。元気出さんかい」と呼びかけ続ける父親。祖母の葬式でも泣くのをこらえていた親父の涙を、生まれて初めて見た。
「目が動いたぞ。まだ生きとっとじゃなかか?」と何度か言っているのに、何も返す言葉がなかった。
やや落ち着いて、午後天候も回復したので、リックを埋葬することにした。場所は我が家のお墓のある場所の横。海の見晴らせる場所で、看板犬らしく墓地の入り口で、お墓に参る人々を迎える場所だ。近所の石屋からちゃんと墓石ももらってきた。
リックの死を聞いた近所の人が言った言葉。
「犬は家につくと言われていて、家の禍ごとを背負っていってくれる」
その言葉を聞いた母は、早速最近傷んでいた肩の痛みが引いてきたと言っていた。
今年は俺にとってもいろいろあった年だったので、それも背負って行ってくれたんだと思う。
あ〜、悲しい話ですいませんでした。m(_ _)m
人気ブログランキングへ
にほんブログ村
それは、母の「リックが死んだ」という泣きじゃくる声とともに始まった。
リックとは、この家で飼っていたオス犬のことで、実は先月外科手術を終えて養生しているところだった。
病気というのは、脇の下に腫瘍ができたというものであり、その辺をごっそり切除するという大掛かりなものだった。術後、その腫瘍を病理検査に出して見ると、実に悪性のものだということがわかり、手術をしたものの、その運命はもう覚悟していた。
家族みんな覚悟をしていたものの、エサをやりに小屋に行った母はなきじゃくりながら、その遺体を抱え込んで部屋に入ってきた。
いざその時を迎えてみると、その現実があまりにも悲しく、母は何度も「リックが死んだ」と言うばかり……。
その様子に、父と俺もそばに駆け寄った。
「まだ、温かいのよ。たぶん、朝方死んだんだろうね……」とようやく母が違う言葉を発した。
「リック…。リック! おい!」父親が呼びかける。
しかし、返事はなくぐったりとしている。その身体は力なく母親にだっこされている。
俺はついに来る時が来たかとがっくりソファに横たわった。
リックとの出逢いは、ほんの4年半前のことだった。
4年半前、かねてより寝たきりだった祖母が亡くなった。父にとっては、戦争で父をなくしてから女手一つで育ててくれた母だった。
気丈に葬儀を仕切るものの、いつも元気な親父らしくなく力がないのが側にいてわかった。まるで、魂が抜け出ているかのようにエネルギーが感じられなかった。
その様子を見ていて、心配になった俺は、葬儀が終わった後「犬でも飼ったら?」と勧め、その日のうちにペットショップに犬を見にいった。母は、「見て来るだけよ」と言っていた。
俺と親父も、半分見るだけのつもりで行ったのだが、そこで目が合ったのがリックだった。まだ生後2週間ぐらいの子犬だったが、元気ですぐに俺や親父の手をぺろぺろと舐めた。
すぐに二人とも気に入って買って帰った俺達に、母は「やっぱり……」と呆れていた。
家に連れ帰った後も、とにかく元気でぴょんぴょんリビングを駆け回っていた。犬種はジャックラッセルテリア。飼い始めた後に知ったのだが、中型犬の身体に大型犬が入っていると言われるほどのやんちゃな犬なのだった。(映画マスク2を見たことのある人ならご存知のあの行動力のある犬種である)
このリック、とにかく人懐っこく、人が来るたびによろこんで飛び跳ねる犬で、あっと言う間にこの狭い集落の中で、ポンカン農家の看板犬として人気者になった。よく言われていたのは「あんたのとこの犬は、番犬にはならんな〜」というほど、人に対して吠えなかった。
そしてやんちゃで食いしん坊でみかん好きなこの次男坊は、散歩が日課の両親の愛犬として4年半暮らしてきたのである。
その遺体の側で、まだ「リック。リック……。元気出さんかい」と呼びかけ続ける父親。祖母の葬式でも泣くのをこらえていた親父の涙を、生まれて初めて見た。
「目が動いたぞ。まだ生きとっとじゃなかか?」と何度か言っているのに、何も返す言葉がなかった。
やや落ち着いて、午後天候も回復したので、リックを埋葬することにした。場所は我が家のお墓のある場所の横。海の見晴らせる場所で、看板犬らしく墓地の入り口で、お墓に参る人々を迎える場所だ。近所の石屋からちゃんと墓石ももらってきた。
リックの死を聞いた近所の人が言った言葉。
「犬は家につくと言われていて、家の禍ごとを背負っていってくれる」
その言葉を聞いた母は、早速最近傷んでいた肩の痛みが引いてきたと言っていた。
今年は俺にとってもいろいろあった年だったので、それも背負って行ってくれたんだと思う。
あ〜、悲しい話ですいませんでした。m(_ _)m
人気ブログランキングへ
にほんブログ村
【このカテゴリーの最新記事】
-
no image
この記事へのコメント