シーズン1は、先行ブログのデジタルリマスターwです。
(初公開 2011年06月04日16:05)
○ ○ ○ ○ ○
最初の一歩を間違えたことがわかったら、その時点ですぐに引き返すべきだ。
リカバリーの方法は、たいていの場合、あるのだから。
もう二十年近く前のこと、後輩(女子)が久しぶりにアフリカから帰ってきたので、
後に嫁を務めた当時の彼女と3人で私の部屋に集まり、一席設けた翌日、
私は朝飯を作ろうとしていた。
***
「熱々で柔々のミートソース・オムレツを、暖かいご飯の上でくずしながらいただく」
という完成イメージを持っていた。
当然、玉子焼きが焼き固まる前に具材が入り、包まれることになる。
はずだった。
のだが、何を思ったのか私は、いきなり2〜3人前のミートソースをフライパンであたため始めていた。
オムレツ用の2〜3人前ではない。スパゲティの2〜3人前用だ。
当時の私の部屋にはガスレンジがなく、固形燃料で代用していた。
火口がもうひとつあれば、一方でソースをあたためつつ、もう一方でオムレツを作る、ということができるのだが、
前の晩の宴会の結果、ストックの燃料缶が1個しかなくなった。
(いやw そんな部屋に人を招くなw)
それならそれで、「一旦取り出す」ということをなぜしなかったのだろう。
器がなかったわけではなかろうに。
それは、ひと手間を惜しんだのではなく、明らかな間違いなのだ。
(おやぁ?)とは思ったことは記憶している。
が、その警報の意味を探しつつも、
予定していた一人あたり2個のタマゴ、そのまず最初の2個を、
ぐつぐつ言い始めたミートソースに投入した。
当然、ソースの色は変わらない。なにか、とてもいやな予感がした。
が、しばらく考えて、
「くずれているミートソース・オムレツ、または同・スクランブルエッグ、
を、暖かいご飯の上でくずしながらいただく」と完成イメージの幅を広げた。
「明らかな間違い」が「致命的な大間違い」に発展した瞬間だ。
あらためて言うが、間違いに気づいたら、そこですぐ引き返すべきだ。
ミートソースが固まり始める気配は、かけらもなかった。
本格的にいかん、と思った私は、あわてて二人目分の2個のタマゴを追加投入した。
固まり始めるどころか、あやし気な色になり始めた。
戦力の逐次投入は愚策とわかっていたが、これまたタマゴの在庫は6個しかなかく、
もうあとに引いても意味がない状況だった。
迷うすべなく、最後の2個を投入。
ミートソースは、部分的に固化した部分、半固化した部分、液体のままの部分、が
おおよそ2:3:4の比率を保ちながら、あやしい色になって沸騰した。
なすすべなくソースは「完成」した。
こういう時に限って、足し込めるモノがない。
後輩の出発時間は迫っていて、代わりの食材を買いに走る時間はなく、
食事を提供しない、という選択肢もなかった。
私は無言のまま、人数分のドンブリ飯を用意し、「ソース」をトッピングした。
せめて、パセリか三つ葉でもあったなら。気休めにはなったかもしれない。
もう一度言うが、間違いに気づいたら、すぐに引き返そう。
例えばトムとジェリー。
のぞき込む動作を強調するために、頭が縦にS字の軌道を描く、例のあれだ。
アフリカ帰りの後輩と、当時の彼女。初めて会って十数時間なのに、
あたかもシンクロナイズドスイミング・ペア演技のように、
2人の頭蓋骨が完璧な同期でS字を描き、丼を覗き込んだ。
表情がない。
いや、うつろなんだ。
テレパシーが届いた。
( ・・・・・ コ レ ハ ナ ン デ ス カ ? ? )
私は爆笑し、キッチンにくずれ落ちた。
当たり前の話だが、私は食べられるものでしか調理を行わない。
実際、味と香りには何の問題もなかった。本当だ。
問題だったのは、
「熱々でぐちゃぐちゃの、ミートソースとタマゴの香りのする
得体の知れないモノがかかったドンブリメシをしかたなくいただく」ことになった、
補ってあまりあるほどの力強く終末的なビジュアルだ。
丼のなかに、宇宙があった。
峻烈な映像は、視神経を駆け上り文字を画いた。「・・・ハ、ハルマゲ丼!」
当時の彼女がつぶやいた。「 ・・・ ゲロ丼? 」
違ーーーーーーーーーーーーーーーーーうっっっ!!!
何度も言うが、間違いに気づいたら引き返せ。
さもないと、手遅れを担いで満身創痍でド真ん中を突っ走りきらねばならないことになる。
それは「青春」かもしれないが、「料理」ではないのだ。
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