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2021年10月23日

アイリッシュコーヒーと凍りついた笑顔と



笑顔が凍りついた経験はあるだろうか。

二十歳をこえた田舎学生の頃、バイトでためたカネで免許とバイクを買い、
電車+バイクで通学時間は約半分になった。これは大きい。
幸か不幸か、自宅と学校がそれぞれ違う盆地にあった。
あたたかいはずの近畿地方でも、山に囲まれた盆地の朝晩は寒い。

この乗り物、ベルトの風車に風圧を受けるためでなく、もともと物理的に風を切って移動する構造。
夏が終われば真冬を待たず、手先足先関節wはかじかみ、こわばり、
ジェットヘル(メット)だったので顔面も同様、学校に着いてすぐは口までうまくまわらない。
そこで気づいた。
笑顔を、凍らせることができるのではないか?
駅前の駐車場から学校まで、満面の笑みをたたえたまま走ればどうだろうか?

エンジンを始動、軽く暖気する。
「い」の発音で唇を閉じ、口角をぐっとあげると、表情筋が盛り上がり、
ほうれい線をそってあごのほうまで深いしわが発生するのをミラーで確認すると、
ヘルメットのシールドを下げ、後方確認、クラッチをつなぎ走り出す。
走る。曲がる。停まる。
交差点を、国道を、農道を。その間、満面の笑みはホールドだ。

最後のスロープをゆっくりと駆け上がり、学校の駐車場に停める10分ほど前には、
想定どおり、完全に笑顔は凍りついていた。
「どしたん、その顔?」
「笑顔を、凍らせてみた。」
見ている方は半笑いだ。こちらはなかなか凍らんもんだ。

では、凍った笑顔を解凍するか。
学生ホールのカップコーヒーの自販機。インスタント、無糖のカフェオレなら、当時一杯60円。
ポケット瓶キャップ一杯分のトリスを熱々のカフェオレに放りこんで、即席アイリッシュコーヒーのできあがり。
ブランデーをおとした紅茶のように、香りを楽しみながら、ゆっくりといただくと、
体の末端まで血流が循環していることを体感しつつ、
飲み終える頃にはなんとか、表情筋も通常運転にもどっている。
さあ、一時限目、気合は十分、スタンバイOKだ。

昭和の豪気なおハナシさ。時効、時効。
寒い朝、無性にインスタントのカフェオレを飲みたくなるときがある。
渇望しているのは風味だけでなく、裏づけのない自信と希望、なのかもしれない。



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