2021年02月02日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊bol,39
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,39
などと言いながら鏡の前でいろいろ表情をやって見せる。
活動写真を見る時に彼女は余程女優の動作に注意を払っているらしく、ピクフォードはこういう笑い方をするとか、ピナ・メニケリはこんな具合に眼を使うとか、ジェラルディン・ファ―ラ―はいつも頭をこういう風に束ねているとか、もうしまいには夢中になって、髪の毛までもバラバラに解かしてしまって、それを様々な形にして真似るのですが、瞬間的にそういう女優の癖や感じを捉える事は、彼女は実に上手でした。
「巧(うま)いもんだね、とてもその真似は役者にだって出来はしないね、顔が西洋人に似ているんだから」
「そうかしら、どこが全体似ているのかしら?」
「その鼻つきと歯ならびのせいだよ」
「ああ、この歯?」
そして彼女は
「いー」
と言うように唇をひろげて、
その歯並びを鏡に映して眺めるのでした。
それはほんとに粒の揃った非常につやのある綺麗な歯列だったのです。
「何しろお前は日本人離れがしているんだから、普通の日本の着物を着たんじゃ面白くないね。
いっそ洋服にしてしまうとか、和服にしても一風変わったスタイルにしたらどうだい」
「じゃ、どんなスタイル?」
「これからの女はだんだん活発になるんだから、今までのような、あんな重っ苦しい窮屈なものはいけないと思うよ」
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
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