2021年02月01日
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,38
「痴人の愛」本文 角川文庫刊vol,38
ナオミはソファへ仰向けに寝転んで、薔薇の花を持ちながら、それをしきりに唇へあてていじくっていたかと思うと、その時不意に、
「ねえ、譲治さん」
と、そう言って、両手を広げて、その花の代わりに私の首を抱きしめました。
「僕の可愛いナオミちゃん」
と、私は息が塞がるくらいシッカリと抱かれたまま、袂の蔭の暗い中から声を出しながら、
「僕の可愛いナオミちゃん、僕はお前を愛しているばかりじゃない、ほんとうを言えばお前を崇拝しているのだよ。
お前は僕の宝物だ、僕が自分で見つけ出して磨きをかけたダイアモンドだ。
だからお前を美しい女にするためなら、どんなものでも買ってやるよ。僕の月給はみんなお前に上げてもいいが」
「いいわ、そんなにしてくれないでも。そんな事よりか、あたし英語と音楽をもっとほんとに勉強するわ」
「ああ、勉強おし、勉強おし、もうすぐピアノも買ってあげるから。そうして西洋人の前に出ても恥ずかしくないようなレディーにおなり、お前ならきっとなれるから」
ーーーこの「西洋人の前に出ても」とか、「西洋人のように」とかいう言葉を、私はたびたび使ったものです。
彼女もそれを喜んだことは勿論で、
「どう?こうやるとあたしの顔は西洋人のように見えない?」
引用書籍
谷崎潤一郎「痴人の愛」
角川文庫刊
次回に続く。
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