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2021年01月22日

江戸川乱歩「生腕」本文vol,1(全8記事・講談社刊)


「一寸法師」生腕VOL,1


小林紋三(もんぞう)はフラフラに酔っぱらって安来節の御園館を出た。不思議な合唱が、舞台の娘たちの死に物狂いの高調子と、それに呼応する見物席のみごとな怒号が、ワンワンと頭をしびらせ、小屋を出てしまってもちょうど船酔いの感じで足元をフラフラさせた。

その辺に軒を並べている夜店の屋台がドーッと彼の方へ押し寄せてくるような気がした。彼は明るい大通りを、なるべく往来の人たちの顔を見ないように、あごを胸につけてトットと公園の方へ歩いた。

もしその辺に友達が散歩していて、彼が安来節の定席からコソコソと出てくるところを見られでもしたらと思うと、気が気でなかった。ひとりでに歩調が早まった。


半町も歩くと薄暗い公園の入り口だった。そこの広い四つ辻を境にしてひと足はマバラになっていた。紋三は池の鉄柵のところに出ているおでん屋の赤い行燈(あんどん)で、腕時計をしかして見た。もう十時だった。





「さて帰るかな、だが帰ったところで仕方がないな。」
彼は部屋を借りている家のヒッソリした空気を思い出すと、なんだか帰る気がしなかった。それに春の夜の浅草公園が異様に彼をひきつけた。彼は歩くともなく、帰り道とは反対に、公園の中へとはいって行った。


この公園は歩いても歩いても、見つくすことのできない不思議な魅力を持っていた。ふとどこかのすみっこで、とんでもない事柄に出っくわすような気がした。何かしらすばらしいものが発見できそうにも思われた。






彼は公園を横断するまっ暗な大通りを歩いて行った。右の方はいくつかの広っ場(ぱ)を包んだ林、左側は小さな池にそっていた。池ではときどきポチャんポチャンと鯉のはねる音がした。藤棚を天井にしたコンクリートの小橋が薄白く見えていた。


「大将、大将。」
気が付くと右の方の闇の中から誰かが彼を呼び掛けていた。妙に押し殺したような声だった。
「なに。」
紋三はホールド・アップにでも出っくわしたほど大袈裟に驚いて、思わず身構えをした。





「大将、ちょっとちょっと、他人にいっちゃあいけませんよ、ごく内でですよ、これです、すてきに面白いのです、五十銭奮発してください。」
縞の着物に鳥打帽の三十恰好の男がニヤニヤしながら寄り添ってきた。


「ソレ、なんです。」
「エへへへへへ御存知のくせに、決して誤魔化しものじゃありませんよ、そらね。」
男はキョロキョロとあたりを見回してから、一枚の紙片を遠くの常夜灯にすかして見せた。
「じゃあもらいましょう。」


紋三はそんなものを欲しいわけではなかったけれど、ふともの好きな出来心から五十銭銀貨とその紙片とを交換した。そしてまた歩き出した。
「今夜は幸先がいいぞ。」
臆病なくせに冒険好きな彼の心はそんなことを考えていた。


もうへべれけに酔っ払った吉原帰りのお店者らしい四、五人連れが、肩を組んで、調子はずれの都都逸をどなりながら通り過ぎた。紋三は共同便所のところから右に折れて、広っ場(ぱ)の方へはいって行った。

そこの隅々に置かれた共同ベンチには、いつものように浮浪人たちが寝支度をしていた。ベンチのそばには、どれもこれもおびただしいバナナの皮が踏みにじられていた。浮浪人たちの夕食なのだ。中には二、三人で近くの料理屋からもらってきた残飯を分け合っているのもあった。高い常夜燈がそれらの光景を青白くうつし出していた。

彼がそこを通り抜けようとして二、三歩進んだ時、かたわらの暗の中にもののうごめく気配を感じた。見ると暗いためによくはわからぬけれど、何かしら普通でない非常にへんてこな感じのものがそこにたたずんでいた。


紋三は一瞬間不思議な気持ちがした。頭がどうかしたのではないかと思った。だが、目が闇になれるにしたがって、だんだん相手の正体がわかってきた。そこにたたずんでいたのは、可哀そうな一寸法師だった。


引用書籍
江戸川乱歩「一寸法師」講談社刊


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