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2021年01月22日

江戸川乱歩「生腕」本文vol,5(全8記事)

「一寸法師」生腕VOL,5



彼らはやがて吾妻橋にさしかかった。昼間の雑踏に引きかえて、橋の上にはほとんど人影がなく、鉄の欄干が長々と見えていた。ときどき自動車が橋をゆすって通り過ぎた。

それまではわき目もふらず急いでいた不具者が、橋の中ほどでふと立ち止まった。そして、いきなりうしろを振り返った。十軒ばかりのところを尾行していた紋三は、この不意打ちにあって、ハッとうろたえた。

見通しの橋の上なので、とっさに身を隠すこともできず、仕方がないので、普通の通行人をよそおって、歩行を続けて行った。だが一寸法師は明らかに尾行をさとった様子だった。

彼はその時ちょっとふところに手をいれて、例の包み物を出しかけたのだが、紋三の姿を発見すると、あわてて手を引っ込め、何食わぬ顔をして、また歩き出した。

「やっこさん、あの腕を河の中へ捨てるつもりだったな。」
紋三はいよいよ唯ごとでないと思った。
彼はかつて古来の死体隠匿方法に関する記事を読んだことがあった。

そこには、殺人者は往々にして死体を切断するものだと書いてあった。一人で持ち運びするためには、死体を六個または七個の断片にするのが最も手ごろだとも書いてあった。

そして、頭はどこの敷石の下にうずめ、胴はどこの水門に捨て、足はどこの溝にほうりこんだというような犯罪の実例が、たくさん並べてあった。

それによると、彼らは死体の断片を、なるべく遠いところへ別々にかくしたがるものらしかった。
彼は相手にさとられたかと思うと少しこわくなってきたけれど、そのまま尾行をあきらめる気にはどうしてもなれないので、前より一層間隔を遠くして、ビクビクもので一寸法師の跡をつけた。


吾妻橋を渡り切ったところに交番があって、赤い電灯の下に一人の制服巡査がぼんやりと立ち番をしていた。それを見ると、彼はいきなりそこへ走り出しそうにしたが、ふとあることを考えて踏みとどまった。

いま警察に知らせてしまうのは、あまりに惜しいような気がしたのだ。彼のこの尾行は、決して
正義のためにやっているのではなく、何かしら異常なものを求める、はげしい冒険心に引きずられているに過ぎないのだった。

もっと突き進んで行って、血みどろな光景に接したかった。そればかりか、彼は犯罪事件の渦中に巻き込まれることさえいとわなかった。臆病者のくせに、彼一方では、命知らずな捨て鉢なところがあった。


彼は交番を横目で見て、少し得意にさえなりながら、なおも尾行を続けた。一寸法師は大通りから中の郷のごみごみした裏道へはいって行った。その辺は貧民窟などがあって、東京にもこんなところがあったかと思われるほど、複雑な迷路をなしていた。

相手はそこを幾度となく折れ曲がるので、まします尾行が困難になるばかりだ。紋三は交番から三丁も歩かぬうちにもう後悔しはじめていた。片側は真っ暗に戸を閉めた人家、片側はまばらな杉垣でかこまれた墓地であった。


たった一つ五燭の街燈が、倒れた石碑などを照らしていた。そこを頭でっかちの怪物がヒョコヒョコと急いでいる有様は、何だかほんとうらしくなかった。今夜の出来事は最初から夢のような気がした。
今にもだれかが「オイ、紋三さん、紋三さん。」と揺り起こしてくれるのではないかと思われた。


一寸法師は尾行者を意識しているのか、どうか、長いあいだ一度もうしろを見なかった。しかし、紋三の方では充分用心して、相手が一つの曲がり角を曲がるまでは、姿を現さないようにして、軒下から軒下を伝って行った。


引用書籍
江戸川乱歩「一寸法師」講談社刊



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