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2021年01月22日

江戸川乱歩「生腕」本文vol,4(全8記事)

「一寸法師」生腕 VOL,4


紋三は一寸法師にならって、長い間二人から目を離さなかった。
やがて洋服は「アーア」と伸びと一緒に立ち上がったかと思うと、紋三たちの紋三たちの方をジロジロながめながら不思議なことには、再び同じベンチに、太った男とほとんどすれすれに腰をおろした。

太った男はそれを感じると、ちょっと洋服の方を見て、すぐに元の姿勢に返った。そして、頭の毛の薄くなった四十男が、何か恥ずかしそうな嬌態を示した。

洋服が突然猿臂(えんぴ)を伸ばして、まったくえんぴという感じだった、太った男の手をとった。
そしてまた、しばらくボソボソとささやき合うと、彼らは気をそろえて、ベンチから立ち上がり、ほとんど腕を組まんばかりにして山を降りて行くのだった。

紋三は寒気を感じた。妙な比喩だけれども、いつか衛生博覧会で、蝋細工の人体模型を見た時に感じた寒気とよく似ていた。不快とも、恐怖ともたとえようのない気持だった。

そしてもっといけないのは、彼の前の薄暗いところで、例の一寸法師が、降りて行った二人の跡を見送りながら、クックッといつまでも笑っていた。紋三はいくらもがいてものがれることのできない悪夢の世界にとじこめられたような気持がした。

耳のところでドドドドドと、海の遠鳴りみたいなものが聞こえていた。しばらくすると、一寸法師は滑稽な身振りでベンチから降り、ヒョコヒョコと彼の方へ近づいてきた。

紋三は何かはなしかけられるのではないかと、思わず身をかたくしたが、幸い彼の腰かけていた場所は大きな樹の幹のかげになっていたために、相手はそこに人間のいることさえ気づかぬらしく、彼の前を素通りして、一方の降り口の方へ歩いて行くのだった。





だがそうして彼の前を二、三歩通り過ぎたとき、一寸法師の懐中から何か黒いものがころがり落ちた。繻子の風呂敷で包んだ、一尺ばかりの細長い品物だったが、風呂敷の一方がほぐれて少しばかり中身がのぞいていた。

それは明らかに、青白い人間の手首であった。きゃしゃな五本の指が断末魔の表情で空をつかんでいた。
不具者は、たれも見る者がないと思ったのか、別段あわてもしないで、包み物を拾い上げ、懐中にねじ込むと、急ぎ足に立ち去った。





紋三は一瞬間ぼんやりしていた。一寸法師が人間の腕を持っているのは、ごく普通のことのような気がした。
「ばかなやつだな、大事そうに死人の腕なんか、ふところに入れてやあがる。」何だか滑稽な気がした。


だが次の瞬間には、彼は非常に興奮していた。奇怪な不具者と人間の腕という取り合わせが、ある血みどろの光景を連想させた。彼はやにわに立ち上がって、一寸法師の跡を追った。





音のしないように注意して石段を降りると、すぐ目の前に畸形児の後ろ姿が見えた。彼は先方に気づかれぬように、適度の間隔を保って尾行して行った。


紋三はそうして尾行しながら、何だか夢を見ているような気持だった。暗いところで一寸法師が突然振り返って、「バア。」と言いそうな気がした。だが、何か妙な力が彼を引っ張って行った。

どういうものか、一寸法師の後ろ姿から目をそらすことができなかった。一寸法師はチョコチョコと小きざみに、存外早く歩いた。暗い細道をいくつか曲がって、観音様のお堂を横切り、裏道伝いに吾妻橋の方へ出て行くのだ。

なぜかさびしいところさびしいところと選(え)って通るので、ほとんどすれ違う人もなく、ひっそりとした夜更けの往来を、たった一人で歩いている一寸法師の姿は、いっそう妖怪じみて見えた。



引用書籍
江戸川乱歩「一寸法師」生腕 講談社刊



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