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2021年01月22日

江戸川乱歩「生腕」本文vol,3(全8記事)

「一寸法師」VOL,3




もう大分以前に映画館などもはねてしまって、はなやかなイルミネーションはおおかた消えていた。広い公園にはまばらな常夜燈の光があるばかりだった。盛りどきにはどこまでも響いてくる木馬館の古風な楽隊や、映画街の人の、ざわめきなども、すっかりなくなっていた。

盛り場だけに、この公園の夜更けは、いっそうものさびしく、変てこな凄みさえ感じられた。腕時計はほとんど十二時をさしていた。


彼は腰をおろすと、それとなく先客たちを観察しはじめた。一つのベンチには、口ひげをたくわえたしかつめらしい洋服の男。一つのベンチには、帽子をかぶらぬ、肴屋の親方とでもいった遊び人風の男。そしてもう一つのベンチには、ハッとしたことには、さいぜんの奇怪な一寸法師めが、ツクネンと腰かけていたのである。





「きゃつめ、さっきから影のように、おれの跡へくっついていたのではないかしら。」
紋三はなぜか、ふとそんなことを思った。変に薄気味が悪かった。

その上都合の悪いことには、常夜燈がちょうど紋三の背後にあって、そこの樹の枝を通して、一寸法師のまわりだけを照らしていたので、この畸形児の全身が実にはっきりとながめられた。



モジャモジャした、濃い髪の毛の下に、異様に広い額があった。顔色の土気色をしているのと、口と目がつり合いを失してばかに大きいのが目立っていた。

それらの道具が、たいていは、さもおとならしく取り澄ましているのだが、どうかすると、とつぜんけいれんのように、顔じゅうの筋(すじ)ばることがあった。

何か不快を感じて顔をしかめるようでもあったし、取りようによっては苦笑しているのかとも思われた。そのとき、顔全体が足を伸ばした女郎蜘蛛の感じを与えた。






荒いかすりの着物を着て、腕組みしているのだが、肩幅の広い割に手が非常に短いため、両方の手首が、二の腕まで届かないで、胸の前に刀を切結んだ形で、チョコンと組み合わさっていた。

からだ全体が頭と胴でできていて、足などはほんの申訳に着いているようだった。高い朴歯の足駄をはいた太短い脚が、地上二、三寸のところでブラブラしていた。


紋三は彼自身の顔が蔭になっているのを幸い、まるで見世物を見るような気持ちで相手をながめた。はじめのあいだはいくぶん不快であったけれど、見ているうちに、彼はこの怪物にだんだん魅力を感じてきた。

おそらく曲馬団にでも勤めているのだろうが、こんな不具者は、あの鉢のひらいた大頭の中に、どのような考えを持っているのかと思うと、変な気がした。





一寸法師はさっきから、妙な盗むような目つきで、一方を見続けていた。その目を追って行くと、かげになった方のベンチに掛けている二人の男に注がれていることがわかった。洋服紳士と遊び人風の男とが、いつの間にか同じベンチに並んでボソボソ話し合っていた。


「存外暖かいですね。」
洋服が口髭をなでながらふくみ声で言った。
「へエ、この二、三日、大分お暖かで。」
遊び人風のが小さい声で答えた。二人は初対面らしいのだが、なんとなく妙な組み合わせだった。





年配は二人とも四十近く見えたけれど、一方は小役人といったようなしかつめらしい男で、一方は純粋の浅草人種なのだ。それが、電車もなくなろうというこの夜更けに、のんきそうに気候のはなしなどしているのは、いかにも変だった。

彼らはきっと、お互いに何かの目論見があるのだ。紋三はだんだん好奇心の高まるのを感じた。
「どうだね、景気は。」
洋服は、相手の男のよく太ったからだを、ジロジロながめ廻しながら、どうでもよさそうに尋ねた。

「そうですね。」
太った男は、膝の上に両肘をついて、その上に首をたれて、モゾモゾと答えた。そんなつまらない会話が、しばらく続いていた。



引用書籍
江戸川乱歩「一寸法師」講談社刊

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