2011年06月11日
生体内の鉄の動態
鉄(Fe,原子番号26,Mw55.85)は生体内の必須微量元素のなかで最も多い。
成人男性で約4g,成人女性では約3g存在する。
(ちなみに,必須微量元素で2番目に多いのは亜鉛(Zinc,Zn)で約2g。)
おおざっぱな割合は
ヘモグロビンのヘム鉄に66〜75%
貯蔵鉄に20〜25%
3〜5%がミオグロビンのヘム鉄
残りのわずかな量が血清鉄(3~4mgと言われている)および,
酵素(チトクロムC,カタラーゼが代表的)に存在している。
ところで,ヒトの体内の血の総量は体重Kgの1/13だから,
70kgの体格のよい男性なら5.4L
60kgの標準体格の男性なら4.6L
50kgのやせ気味の男性なら3.8L
血清鉄の基準値は
M…44〜192μg/dL
F…29〜164μg/dL
なので,まぁ体内の血清鉄が3~4mgと覚えてよいだろう。
鉄の循環
鉄は1日に,ヘモグロビン合成などのため20~30mg必要となる。
しかし,そのほとんどは寿命となった赤血球から再利用されるため,
鉄は,汗・尿・便から排泄される量の約1mg/dayを補えばよい。
ただし,鉄の吸収率は5〜10%程度なので,
ヒトは1日に,鉄を10mgから20mg摂取する必要がある。
さらに女性では,月経の毎に80mgの鉄を失い,
出産では500mgの鉄を失うことを覚えておいてもらいたい。
なお,母乳中の鉄濃度は非常に低いので,
授乳では,母体の鉄需要が増大することはないと思ってよい。
(授乳中は月経が起こりにくいので,トータルで変化がない)
鉄の価数状態
ヒトが吸収できる,鉄はFe2+の状態のみである。
だから,経口の鉄剤は必ず第一鉄(Fe2+)。
鉄が摂取されると胃酸の力を借りてイオン化しやすくなる
(ただし,これは2価,3価どちらかは分からない)
そして,食物中の還元性物質によって
Fe3+→Fe2+となり十二指腸〜空腸上部から吸収されることが知られている。
吸収されたFe2+は腸上皮細胞内でFe2+ ←→ Fe3+ と相互に変化する。
Fe3+はアポフェリチンと結合してフェリチンとなり貯蔵される。
フェリチンは全身に分布するが,肝臓と脾臓に大量に存在している。
なお,血清フェリチンは貯蔵鉄と相関関係を示し,
血清フェリチン1ng/mL=貯蔵鉄8mgに相当する。
Fe2+は血中に放出され,血液中で再び酸化してトランスフェリンと結合して
全身を循環する血清鉄となる。
なおトランスフェリンと結合するのはFe3+の状態だが,
ヘモグロビンのヘム鉄に配位するのはFe2+であり,
もしFe3+が配位していたら,それはメトヘモグロビンで,酸素の運搬能力は失う。
血中のトランスフェリンの約1/3は鉄と結合しているが,
残りの2/3はフリーの状態(UIBC,Unsaturated iron binding capacity)で存在している。
この1/3+2/3=1をTIBC(Total iron binding capacity)という。
ちなみにトランスフェリンは1分子で最大2個の鉄イオンと結合できて,
1mgにつき,1.25μgの鉄が結合できる能力を有する計算になる。
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