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2016年11月27日

アガサ・クリスティから (81) (ミス・マープルと十三の謎*アスターテの祠ー1)







(ミス・マープルと十三の謎*Aー1)






「さあそれでは、ペンダー博士、先生は、どんなお話を聞かせてくださいますか?」






老牧師はおだやかに微笑んだ。





牧師は静かな場所でずっと暮らして来たので事件の波乱というものに巻き込まれたことは、あまりないらしい。
しかしたった一度だけ、牧師がまだ若い頃、大変、不思議な痛ましい事件に巻き込まれたらしかった。






「まあ!」
ジョイス・ラムプリーエルは、励ますように言った。






「わたしには決して忘れられない出来事です。」
牧師は言葉を続けた。

そのことがあった時の深い衝撃と、今でもふと昔を思い出せば、ぞっとした気落ちが生々しく胸によみがえるらしい・・・一人の男が、どうしても人間のものとは思えないものに突然、襲われて、死んだのを見たのだ。






「なんだか身の毛もよだつようですね、ペンダー」
ヘンリー卿が弱音を吐いた。






「おっしゃるように私も身の毛がよだったものでした。」
牧師は答えた。

「その時以来、私は雰囲気という言葉を振り回す人を笑えなくなりましたな。そういうことがあるものですよ。良いにしろ、悪いにしろ、何かしらが、そこに深くしみこみ、しみついていて、それから来る魔力のようなものを強く感じさせる場所がありますね。」






「あの家、あのカラ松荘というのが、大変、不吉な家ですよ。」
とミス・マープルが口を入れた。

スミザース老人が住んでいたが、すっかり財産を無くしてしまってその家を売らなければならなくなった。
カースレークスの人たちが買い取ったが、ジョニー・カースレークスは2階から落ちて足を折ったし、カースレークス夫人は体を壊して、南フランスへ転地しなければならなくなったらしい。
それから今度はバードンという人が持ち主になったが、引っ越してきてすぐに、バードン氏は手術を受けたらしい。






「そういうことは迷信がつきものですよ、家とか土地とかいうものは、無責任にひろまった馬鹿馬鹿しいうわさ話にケチをつけられて、ひどい損害をこうむることが往々にしてあります。」
と、弁護士のペザリック氏は言った。






「わたしは現にピンピンとしている”幽霊”を一つ二つ知ってますよ。」
ヘンリー卿はくすくす笑った。






「ペンダー先生にお話をすすめて頂こうじゃありませんか?」
レイモンドは言った。






ジョイスは立ち上がって、あかりを二つとも消した。
暖炉の火だけが赤くゆらゆらとゆらめいた。






「雰囲気よ。さあ、みなさん、うかがいましょう。」






(次号に続く)




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