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2016年11月19日

アガサ・クリスティから (78) (ミス・マープルと十三の謎*@-6)






(ミス・マープルと十三の謎*@-6)







「さあ、ヘンリー卿、おっしゃってくださいな。」






ジョイスはしきりに聞きたがったが、ヘンリー卿は口をはさんだ。







「ちょっとお待ちください、まだミス・マープルが何もおっしゃってませんから。」
とヘンリー卿が言った。






「おやおや」とミス・マープル。






「一つ編み目を落としてしまいましたよ。
すっかりお話に身が入ってしまって。悲しい事件ですね。本当に悲しい事件です。」

そう言いながら、ミス・マープルは村人のことを話し出した。
マウント荘に住んでいたハーグレーヴスじいさんのことを思い出したようだった。





「・・・・・あの人の奥さんは、あの人が死ぬまで少しも気が付かなかったんですからね。」

そのおじいさんは、囲っていた女との間に5人も子供があって、その女に財産を全額やってしまったらしい。
その女は前にハーグレーヴスさんの女中で、奥さんはいつも大変よくできた子だとほめていた。
それがまた、このハーグレーヴスじいさんという人は隣町に女を囲っておきながら、自分は教区委員になんかなって、日曜の礼拝には献金皿を持って回ったという。






「伯母さん、もう死んでしまったハーグレーヴスじいさんが、なんでまたこの事件に関係があるんですか?」
ミス・マープルの甥・作家のレイモンドは、じれったそうに言った。






「このお話をうかがったら、すぐそのおじいさんのことが思い出されてしまったんですよ。事情がそっくりですもの、ねえ?あのあわれな娘が今になって白状したんで、それでお分かりになったんでしょう?ヘンリー卿?」






「どの娘だって?伯母さん、なんのことを言ってるんです?」
レイモンドが聞いた。






「あのかわいそうな娘、グラディス・リンチですよ。もちろん、医者が話しかけたらすっかり取り乱してしまったというその子ですよ・・・かわいそうに、取り乱したのも無理はありません。悪者のジョーンズこそ絞首刑になるのが当たり前です。かわいそうな娘に人殺しをさせたんですからね。でもあの子も絞首刑をまぬがれないでしょうね、かわいそうに。」






「ミス・マープル、あなたは少しばかり思い違いをしておいでだと思います。」
弁護士であるペザリック氏が口を出した。






(次号に続く)




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