2016年05月07日
アガサ・クリスティから (43) (茶色の服を来た男*その22)
(茶色の服を来た男*その22)
アンは、「滝」やその周辺の森に強く惹かれていた。
いつまでも この地に暮らしていたいと思った程だった。
その夜、アンの元に小さな黒人の男の子が、伝言を持って来た。
ハリー・レイバンからだった。
アンは誰にも見られぬようホテルを抜け出した。
スーザンは既に眠っていた。
サー・ユーステス・ペドラーはミス・ペティグルーに口述筆記をさせていた・・・声が聞こえていた。
レイス大佐は部屋にも社交室にも見当たらなかった。
アンはレイバンの伝言にあった場所に急いだ。
橋を渡った後、つけてくるものがいないか?確かめたが大丈夫だった。
開拓地に行こうと急いだ時、物音がして振り向いたが、何も起こらなかった。
しかしまた歩んで行くと、突然、男が出てきて襲い掛かって来た。
背の高いヨーロッパ人としか分からなかった。
月のない真っ暗な中、アンは逃げて走った。
境界線を表す白い石だけが目印だった。
と、アンの体は宙に舞った。
気味の悪い男の笑い声が鳴り響いていた。
奈落の底にアンは落ちて行った・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
アンは 少しづつではあるが、意識を回復しだしていた。
そして、それに伴い頭痛や左腕が刺すような痛みが増していった。
まだ全てが夢のようでこの世のこととは思えなかった。
なにかしら うなされているような、どこまでも落ち込んでいくような気持ちだった。
ハリー・レイバンが霧の中から現れたように思えたが、それは本当のことのようにも思えた。
しかし、それはやがてふわふわと、まるでアンをからかっているように、消えていった。
誰か、口にコップをあてがい、その中のものを飲んだような気がした。
真っ黒な顔が、アンを覗き込んでニヤリとしたが、びっくりして叫び声をあげた。
またもや夢の中に入ったが、長い苦しい夢の中で、アンは一生懸命にハリー・レイバンを探していた・・・探し出して注意しなければ、と焦っていた
・・・注意をするといっても、いったいどんなことを注意しようとしたのか?
自分にも分からなかった。
ただ何かしら危険で・・・いや、大きな危険が彼に差し迫っている、そしてその彼を救うことが出来るのは、自分しかないのだ。
そして、またもや辺りは暗くなった、この暗さで助かったのだ、そう思いながら今度は本当に眠り込んでしまった。
アンは長い間、うなされていた。
そして長い昏睡状態から、ようやく目を覚ましつつあった。
・・・・・目を覚ましたアンは、克明に今までのことを思い出した。
奈落の底に落下していったあの日まで。
奈落の底に落ちて行く時のなんとも言えぬくらい、恐ろしい気持ち・・・。
だが、よく助かったものだと思った。
怪我で激痛もあり、すっかり弱ってもいたが、アンは確かに生きていた。
一体ここはどこだろう?
アンは、やっとのことで頭を動かして、辺りを見渡した。
アンは木の壁で囲まれた小さな部屋に寝ていた。
その壁には、毛皮やいろいろな形をした象牙などが掛かっていた。
アンは毛皮のカバーついた粗末な寝椅子に寝ており、左腕は包帯がしてあって、不自由で気持ちがよくなかった。
誰もいないのではないかと思っていたその部屋の片隅にひとりの男が座っているのに気が付いた。
・・・・・男は窓の方を向いていた・・・彼はまるで木彫りの人形みたいに静かであった。
短く刈り上げた黒い髪をどこかで見たことがあるような気がしたが、そんなこと考えてみるのも億劫だった。
突然、彼がこちらを向いた。
アンは、はっと息をのんだ。
ハリー・レイバンだった。
生きているハリー・レイバンだった。
彼は立ち上がると、アンの方にやってきた。
「気分はどうだい?」と彼がぎこちなく言った。
アンは返事ができなかった。涙がとめどなくほおを伝わった。
(茶色の服を着た男*その23に続く)
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