2016年05月03日
アガサ・クリスティから (41) (茶色の服を来た男*その20)
(茶色の服を着た男*その20)
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アンとレイス大佐は、だまったままで車にもどった。
ブラワヨーにもどる途中で、民家でお茶を貰えるように頼んだ。
アンは餓死しかけている6匹の猫を見てうろたえ、すっかり取り乱してしまった。
そして猫6匹を連れて帰ると泣きながら訴えた。
しかし、アフリカをよく知るレイス大佐に そんなことをしてもなにもならない現実を諭される。
力強く、冷静沈着な大人なのだった。
アンは納得がいかぬままいた。
レイス大佐は言った。
「ぼくは君に世の中の現実を教えてやっているのだよ。冷酷無残であれ、と教えているのさ・・・この僕のようにね。それこそ力の根源であり、成功の秘訣なんだよ。」
帰り道の車中で、レイス大佐は全く意外なことに突然、アンの手を握りしめた。
「アン、僕には君が必要だ。僕と結婚してくれないか?」
アンは完全に面くらってしまった。
駄目であること。自分はそんな風に思ったことはいないことをレイス大佐に、どもりながら伝えた。
「そうか。それだけが理由かい?」
アンは正直に言わなければならなかった。
彼も、正直に言っているのだ。
アンは、自分には好きな人がいることを告げた。
レイス大佐は、好きな人が出来たのは船を乗る前からだったのか?を聞いた。
アンの答えは、船に乗ってからのことだった。
「そうか。」
と彼が今一度言ったが、その時の声には何か含みがあったので、アンは思わず彼の顔を見た。
その彼の顔は今まで見たことない程の凄みがあった。
「それ・・・それ、どういうこと?」とアンはつっかえながら言った。
彼は、真正面から押さえつけるようにアンを見つめた。
「いや・・・自分が何をしなきゃならないか、ということがわかったのさ。」
その言葉を聞いたアンは、冷たいものが背筋を通った感じだった。
その言葉の背後には、アンにはわからない決然としたものがあった・・・アンは恐ろしくなった。
それからホテルに戻るまで、二人ともひとことも口を聞かなかった。
ホテルに戻るとすぐにスーザンを尋ねた。
泣きながら猫の話をアンはした。
レイス大佐のことは言わない方がよいと思い、黙っていた。
しかし頭の良いスーザンは、何かあったと感づいたようであった。
ふるえているし、どうかしたのか?と聞かれた。
「大丈夫よ。」とアンは言った。
「神経よ・・・誰かが、私のお墓の上を歩いているみたい。何か恐ろしいことが、私に起こりそうな気がするの。」
スーザンはアンの不安話をさえぎって、話題をダイヤモンドの話に変えた。
スーザンは、アンとスーザンが仲が良いことが分かった今、スーザンの荷物の中に置くのも安全ではなくなってきたと言った。
今までの所は、スーザンのフィルムケースの中のダイヤモンドはまだ無事だった。
このダイヤの隠し場所については「滝」について再検討することで意見が一致した。
列車は、9時に出発した。
サー・ユーステス・ペドラーは相変わらず、ご機嫌ななめだったし、ミス・ペティグルーは意気消沈していた。
その夜、アンは怖い夢ばかり見ていた。
頭痛で、目を覚まし展望デッキに出た。
そこは空気が新鮮だったし、見渡す限り森におおわれた山また山だった。
アンはそれまで見たどの景色よりも気に入った。
・・・こんな森の中に一軒、小屋をかまえて、そしていつまでもそこに住んでいたい、と思った・・・本当にいつまでも・・・。
ちょうど2時半、レイス大佐が森の一角の上にたなびいているものを指さして教えてくれた。
「滝から立ち上っている霧だよ。もう近いんだ」
アンはまだ寝苦しかった夜の後の夢のような高揚した気分にひたっていた。
それは我が家に帰ったという強い気持ちだった・・・我が家!といってもこんなところに来たのは初めてだったし、夢に見たことさえなかったのだ。
アン達は、汽車を降りてホテルに向かった。
目前半マイルのところに「滝」があったのだ。
アンは思わず感嘆の声をあげた。
「アン、あなた何かに取り憑かれているみたいね。」
お昼ときにスーザンは言った。
「何もかも気に入ってしまったのよ。」
アンは、確かに楽しかった。が、その奥にもう一つよく分からない気持ちがあった・・・それはもうすぐ自分の身の上に何かが起こるという一種の期待であった。
アンは興奮していた・・・いつもそわそわした気持ちだった。
滝は壮大であった。
お茶の後、滝を見に外に出た。
ヤシの谷間を降りていかないかどうか、レイス大佐は聞いた。
サー・ユーステス・ペドラーは明日すると言い断った。
どうもレイス大佐が気に入らないらしい。
滝もヤシの谷間も虹の森も、アンはスーザンとレイス大佐と楽しんだ。
ホテルに戻ると虹の森で濡れてしまった服を夕食用に着替えた。
夕食が済むと、サー・ユーステス・ペドラーは、ミス・ペティグルーを連れて部屋に退いた。
アンはスーザンとレイス大佐とお喋りしていたが、スーザンがあくびをし始め引き下がると、アンもレイス大佐と2人きりになるのを避け、部屋にもどった。
しかし、アンは眠れなかった。
そして絶えず感じていたことは、何事かがアンに迫りつつあると、いうことだったのである・・・。
やがてドアをノックする音。
小さな黒人の少年が伝言を突き出した。
それは、なんと!ハリー・レイバンの伝言であった。
(茶色の服を着た男*その22に続く)
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