2016年04月26日
アガサ・クリスティから (39) (茶色の服を着た男*その18)
(茶色の服を着た男*その18)
アンは、何処からか?大変な事件に関与してしまったのは、明らかだった。
地下鉄の事件の遭遇。
アンの背後にいた何者かにおびえ、地下鉄に落下、感電死した男。
医師を装った茶色の服を着た男。
そして事件現場で拾った暗号のような紙片。
感電死した男が持っていたミル・ハウスの検分証。
そのミル・ハウスからは空のフィルムケースを拾う。
ミル・ハウスでは外国人の若い美貌の女性死体が見つかる。
ロシアの有名な美貌の踊り子マダム・ナディーナであると思われる。
アンは冒険心から、全財産を投げうち、暗号に付随すると考えられる南アフリカ行きのキールモーデン・キャッスル号に乗り込んだ。
しかしアンの部屋が取り合いになり、挙げ句の果て、悪臭漂う薬品を部屋に撒かれる。
その夜、飛び込んできた肩を刺されたレイバンをアンはかくまった。
スーザンの部屋の元の予約者マダム・ナディーナが、巨大な力を持つ国際犯罪組織の一員であると、レイス大佐に教えられたスーザンから聞く。
またそのボスは”大佐”と呼ばれる謎の人物らしい。
そして、スーザンの部屋に投げ込まれたフィルムケースからは、ダイヤモンドの原石が出てきた。
昔、キンバリーであった鉱山王の息子と友人が関与したとされるダイヤモンド盗難事件の物と思われる。
船上では突然何者かに襲われ、危機一髪をレイバンに助けられ、また上陸後は偽手紙でおびき寄せられ、監禁までされた。
なんとか幸運ですり抜けてきたものの、また今は秘書パジェットの後をつけるつもりが逆につけれていたのだ。
彼らが目かけているのは、ダイヤモンドだけなのだろうか?
アンは、かぶりを振った。
確かにダイヤモンドの値打ちは大きいが、それだけではアンを殺してまで、是が非でも仕事を守ろうとしていることの説明にはならない。
違うはずだ、アンの存在には、もっと大きな意味があるはずだった。
本人には分かっていないけれど、ある意味、アンは彼らにとって脅威なのだ。危険なことなのだ!
アンの知っている、もしくはアンが知っているものと思い込んでいるものが、彼らがどんな犠牲を払ってもアンを殺さなければならないという立場に、追い込んでいるのだ。
・・・・・そしてそのあることと言うのが、なんらかの形でダイヤモンドと結びついているのだ。
ここに一人、アンが知らないこの話の全容の半分を教えてくれると確信している人物がいた。
ハリー・レイバンである。
しかし、その彼は姿を消してしまったし、追跡の手を逃れているのである。
どう考えてみても もう彼と逢うことはないだろう・・・。
ここまで来て、アンは感傷から無理矢理、自分を現実に引き戻した。
ハリー・レイバンのことで感傷的になったところで、どうにかなるものか。彼は初めから、アンに強い反感を示して来たのだ。
・・・でなければ、少なくとも・・・いけない、そんなことは夢だ!
現実はそんなことを感傷に浸っている場合ではなかった。
敵を監視するはずが、監視されていたのである。
船上で襲われた時ハリー・レイバンに助けられ、監禁された時は自分でなんとか切り抜けてはきたが、かなり危険な状況であるのだ。
電車から降りると、つけてくる人を感じながらも、お店に入り、アイスクリーム・ソーダーを2杯注文した。
アンにとっては、男性のブランデーにとって代わる気つけ薬のようなものだった。
2杯目を軽くたいらげ、3杯目をアンが頼んだ時、入り口辺りに座っていた追跡者が出て行った。
アンはそっと隠れながらも 入り口辺りから追跡者を目で追った。
すると、サー・ユーステス・ペドラーの秘書パジェットと追跡者は話していた。
なんらかの話し合いがなされていた。どんな命令を与えたのだろう?
しばらくすると、パジェットは駅に向いて行った。
突然アンは、はっと息を飲んだ。
アンをつけてきた男は、道路を横切ると、そこにいた警官に話しかけ出した。
アンのいるお店を指差しながら、何かを説明していた。
アンには、それが何を意味するのかが分かった。
アンを逮捕させようとしているのだ・・・スリか何かの容疑で。
こういう連中にとっては、これ位のことをでっちあげるのは、わけもないことなのだ。
私が潔癖だと言い張ったところで、どうなるものか?
彼らはちゃんと手を打ってあるのだ。
ずっと以前に彼らは、ハリー・レイバンがデ・ベールス会社のものを盗んだと訴えて、アンは絶対に彼は潔癖だと信じていたのだが、彼にはそれを証明することは出来なかった。という事実。
”大佐”のような人物の「でっちあげ」をアンがどうして打ち破ることができようか?
アンは柱時計を見上げ、ふと思った。
パジェットも時計を見ていた。
11時少し前だった。
11時には、力あるお友達、スーザンもレイス大佐もサー・ユーステス・ペドラーも 列車に乗ってこの街からローデシアに行ってしまうのだった。
つまり、今まで無事だったのは、アンの友人達、力ある彼らがこの街にいたからである。
彼らが行ってしまえば、この街でアンを助けるものは1人もいない。
アンは急いで、ハンドバッグを開けて
アイスクリーム・ソーダーの代金を支払ったが、その時、心臓が止まりそうになった。
何故なら、ハンドバッグの中に札でいっぱいに膨らんだ男性の財布が入っていたからである!
電車を降りる時、たくみに入れたのに違いない。
アンはすっかり、めんくらった。
そして急いで、店を出た。
鼻の大きな小男が興奮して、警官にアンの方を指差していた。
アンは逃げ出した。
ふと思いついて、駅の方角を聞くと、全速力で走った。
警官は足が遅そうだったが、鼻の大きな小男は短距離走者のように足が速かった。
アンが駅の方に曲がった時、うしろから足音が聞こえていた。この調子ではホームに行く前に捕まってしまう。
アンは柱時計を見上げた。
11時1分前・・・うまく行けば、助かるかも?知れない。
駅の正面入り口から入り、横の出口から出た。
目の前に郵便局の横入口があり、その正面入り口は、街のアッダリー・ストリートに面していた。
アンが考えたように小男は、アンが郵便局の正面入り口から出てくるものと考えたのか街路を走って捕まえようとしていた。
その隙にアンは、もう一度横切って駅に入った。
まるで狂人のように走った。
ちょうど11時だった・・・アンがホームに出た時、長い列車が出ようとしているところだった。
赤帽が、アンを止めようとしたが、アンはそれを降りきって乗降用踏み板に飛び乗った。
二段上がってドアを開けた。
助かった。列車は動き出していたのである。
列車は、ホームの端っこに立っていた男の前を通り過ぎた。
アンはその男に手を振った。
「さようなら。パジェットさん。」と、アンは叫んだ。
あんなにびっくりした男を見たことはない。
まるで幽霊でも見たような顔だったのである。
(茶色の服を着た男*その19に続く)
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