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2016年04月22日

アガサ・クリスティから (38) (茶色の服を着た男*その17)


(茶色の服を着た男*その17)

サー・ユーステス・ペドラーの秘書が茶色の服を着た男であったと判明し、サー・ユーステス・ペドラーの困惑ぶりは相当であった。

アンとスーザンは、彼を慰める一方、パジェットがローデシアに同行せず、ケープ・タウンに残ると聞き、なんとかしなければ。と作戦を立てていた。

「アン、あなたまさか、サー・ユーステス・ペドラーとレイス大佐まで疑っているんじゃないでしょうね?」
とスーザンは言った。

「私、誰のことでも一応、疑ってよ。それにスーザン、あなた推理小説をお読みになったことがあれば、一番それらしくない人物が、往々にして犯人であることを知っているでしょう。
サー・ユーステス・ペドラーのように太って朗らかな方で、犯人というケースはずいぶんあってよ。」

「レイス大佐は、とくに太ってもいないし・・・特に朗らかでもないわね。」とスーザンは頑張った。

「場合によっては、痩せて気難しい人が、そうであることもあるのよ。」と、アンは言い返した。

スーザンは分かった。彼を監視しておく。と言い、「もし彼がもっと太ってきて、もっと朗らかになったら、その時はすぐにあなたに電報を打つわ。《サー・E、いよいよふくれ、いよいよ怪しい。すぐ、来い。》ってね。」
とも言った。

アンはスーザンが、この件をゲームのように感じていると思った。
その通り、スーザンはこのアンの冒険をゲームのように楽しもうともしていたが、その反面、犯罪事件に関係あるということと、離れている夫に関して少しナーバスになっていた。

「サー・ユーステス・ペドラーを監視するというのは、わたくしにも分かるわ。あの人の風貌といかにもユーモラスな話し方が、かえって怪しいからよ。でもレイス大佐まで疑るのは行き過ぎよ。・・・とっても行き過ぎだと思うわ。あの人は諜報機関とも関係がある位なのよ。よくって、アン。わたくしはね、彼を信用して、いっさいを彼に話してしまうのが一番いい方法だと思っているくらいよ。」

アンは、このいさぎよくない提案に強く反対した。
そして、なんとかスーザンを説得して、レイス大佐には何も言わないでおく。と約束を取り付けた。

予定通りにスーザンは、ローデシアに行くサー・ユーステス・ペドラーに同行して様子を見る。
またレイス大佐の同行も同時に見る予定であった。

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アンは考えた挙句、このケープ・タウンに残り、茶色の服を着た男を追うパジェットを見張るつもりであった。

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アンの計画は、ダーバンに旅立ったように装い、小さなホテルに越してしまい、金髪のかつらに白いレースのベールをかぶったりして変装し、パジェットを監視、つけるつもりだった。

サー・ユーステス・ペドラーに食事の後、お別れの挨拶に行った。

アンが断わった後、パジェットが見つけて来た秘書は、歳は40歳、鼻眼鏡をかけて網上靴といういでたちの真面目一本の有能なタイピスト兼秘書の女性らしかった。

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ところが、パジェットがどうしてもダーバンに行くアンを送ると言い出し、有無を言わせず、アンのダーバン行き列車まで着いて来てしまった。

赤帽にテキパキと指示まで行い、アンの荷物を列車に運ばせていた。

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本当にアンを監視しているようであった。

アンは機転を利かし、列車に乗るふりをして、なんとか列車に乗らず、逃げおおせた。

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スーザンとも連携して、スーザンがパジェットに薬局へ買い物に行くよう命令したのだった。
暑い日の為にアンが忘れたオーデコロンがいるのだ。

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急ぎの用件である。
スーザンから薬局での買い物の頼まれたパジェットは仕方なく、薬局に走った。

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こうして無事、アンはパジェットの監視下から逃げたのであった。
さすがに社交界のスーザンに頼みごとをされるとパジェットも断ることが出来なかったのである。

パジェットの監視下をなんとか、くぐり抜けたアンは、ケープ・タウンの街中に小さな宿を見つけて、滑り込んだ。
ここから、パジェットの動向を探っていくつもりだった。

街中を歩いている時、アンは鼻だけがばかに大きな気味の悪い顔をした男とぶつかった。
どこかで見かけたような顔で。
ふと感じて、アンは立ち止まった。すると相手も立ち止まるではないか。
電車を降りると、降りる。
電車に乗ると、乗る。

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・・・・・・・・・・・・・・・。

それから、様々なことを試したが、やはり、自分がつけられている。と、アンは確信した。
考えが、甘かったのだ。
アンは、自分がパジェットを 変装して監視し、付けるつもりが、逆に敵につけられていたのだ。

これは大変なことになったなぁ。とアンは思った。

アンが自分で考えていたよりはるかに大きな渦中にあることは、いまや明らかであった。

マーローの家での殺人事件は、決してそれだけのことではなかったのだ。

アンは今やある陰謀団を相手に回していたのであった。

レイス大佐が、スーザンに打ち明けていたことと、アン自身が監禁されたミューゼンバーグの別荘で立ち聞きしたこととで、その複雑極まる行動が、おぼろげながらにわかりかけてきた。

部下たちが【大佐】という名で呼んでいる男を頭とする組織犯罪なのだ!

船上で聞いた話やランド金鉱のストライキとその底流をなしているものなどを少しづつ思い出した・・・これは、ある秘密組織が扇動しているに違いない。

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皆、【大佐】の考えたことで、手下どもは彼の命令で動いているのだ。
彼は組織を作り、指令を与えているだけで、決して自ら行動しないとは、しばしば聞いたことのあることだ。
知能犯。
自分では危険に身をさらすようなことをしない。
しかし、彼自身が現地に乗り込んで来ていて、安全な所から指揮をするということも、大いにありうることだろう。

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そうだとすれば、レイス大佐がキールモーデン・キャッスル号に乗っていた理由も分かるというものだ。

彼は[元凶]を探しに来ているのだ。
この想像は事実といちいち符合する。
彼は《諜報機関》の大物で、【大佐】を捕まえに来ているに違いない。

アンは1人でうなずいた・・・これで事態がはっきりしてきた。

ところで、アンは事件のどこに絡まっているのだろう?
どの辺から、関係したのだろう?

(茶色の服を着た男*その18に続く)



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