2016年04月02日
アガサ・クリスティ(26) (茶色の服を着た男#その5)
(茶色の服を着た男#5)
久しぶりにアンは自分でも驚くほど、食べた。
食事を終えて食堂を出た時、階段でペドラーが秘書との会話、部屋が仕事をするには狭すぎるとのことをたまたま耳に挟んだ。
アンは自分の部屋の確認に行くと、ボーイが忙しそうに働いていた。
良い部屋だと勧められたのは、D甲板、13号だった。
確かにいい部屋であった。
しかしアンが、げんをかつぐうちの1つ〈13〉であった。
アンは涙を流さんばかりに 違う部屋をボーイに頼んだ。
そうすると、ボーイは17号室を思い出し、事務長に確認を取って来てくれた。
17号室は13号室を小さくした形だった。ボーイが荷物を移動しに行っている間に あの不吉な顔(アンはパドラーの秘書にあだ名をつけていた。)が、入り口にあらわれた。
「この部屋は、サー・ユーステス・ペドラーの予約ずみなんですが」
ボーイが、ここよりも大きな部屋である13号を説明したが、秘書は、最初に決めた17号でないと納得しないようであった。
「ここは私の部屋だ。」
別の声に目を向けるとエドワード・チチェスター牧師であった。
ボーイがチチェスター牧師には、左舷の良い部屋28号を用意してあると説得した。
「失礼ですけど、言わせて頂きます。17号は最初から私に約束されていたのだから、譲る訳にいかない。」
柔和な人程、頑固であった。
アンも13号でなければ、良かったのだが、この秘書も牧師も気に入らず、すっかり頭に来て譲る気はなくなっていた。
その間もボーイは、秘書と牧師に17号のこの部屋より 13号と28号の部屋の方が広くて良い部屋だと説得を続けていた。
すっかり こじれてしまい、3人とも1インチも譲らなかった。
ボーイの目くばせで、アンは一旦、席を離れ、事務長を連れ帰って来た。
レディーファーストな事務長は、テキパキと交通整理を行い、無事、17号はアンの部屋になった。
気を良くしたアンは、甲板に出て いろいろなスポーツを楽しんだ。
夕食に着替えに戻ったアンは、困った顔で部屋で待っていた女給士に会った。
部屋は吐き気がするほど、嫌な匂いがしていた。
女給仕に今晩だけでもC甲板のデッキキャビンに行くようにと勧められたが、アンは着替えをしながら考えると言った。
ネズミの死骸以上に強烈な匂い、またネズミでもない悪臭。
すごい悪臭で、でもどこかで嗅いだことのある匂い・・・。
アンは戦争中、しばらく病院の薬局で勤めたことがあり、悪臭を放つ薬品も知っていた。
それは、”あぎ”だった。主に鎮静剤や駆虫剤に使っていた”あぎ”。
すごい悪臭であった。
しかし、どうして”あぎ”が・・・。
アンは、ふと気がついた。
誰かが、わざとアンの部屋に”あぎ”をひとつまみしておいたのだ。
なんのために?部屋を出て行くと思って?
何故、彼らはアンをこの部屋から追い出そうとするのだろうか?
アンは、さっきの騒ぎを別の角度から考えてみた。
何故あの人達が、あんなに懸命にこの部屋を欲しがり、あんなに しつこく17号室だと頑張ったのだろうか?
他の2つの部屋の方が、ずっと良かったのに。
17・・・。
ふと思いついて、荷物のストッキングの中に隠していた地下鉄で拾った例の紙片を取り出した。
【17 ・1 22 Kilmorden Castel】
アンは、これをキールモーデンキャッスル号の出航日付けと思っていたが、
17が部屋番号だとしたら?
次の1は、1時?
だとしたら?22は?
アンは自分の小さなカレンダーを見た。
明日は、22日だった・・・。
つまり、今晩を越えたら、すぐに22日の1時になるのだった。
(アガサ・クリスティから27に続く)
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