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2018年11月07日
分からないほうがいいこともある【田舎の怖い話】
わたしの弟から聞いた本当の話です。
弟の友達のA君の実体験だそうです。
A君が子供の頃、
A君のお兄さんとお母さんの田舎へ
遊びに行きました。
外は晴れていて、
田んぼが緑に生い茂っている頃でした。
せっかくの良い天気なのに、
なぜか2人は外で遊ぶ気がしなくて、
家の中で遊んでいました。
ふと、お兄さんが立ち上がり、
窓のところへ行きました。
A君も続いて窓へ進みました。
お兄さんの視線の方向を追いかけてみると、
人が見えました。
真っ白な服を着た人が1人立っています。
(男なのか女なのか、その窓からの距離では
よく分からなかったそうです)
あんな所で何をしているのかなと思い、
続けて見ると、
その白い服の人は、
くねくねと動き始めました。
踊りかな?
そう思ったのもつかの間、
その白い人は不自然な方向に体を曲げるのです。
とても人間とは思えない
間接の曲げ方をするそうです。
くねくねくねくねと。
A君は気味が悪くなり、
お兄さんに話しかけました。
「ねえ。あれ、何だろ?お兄ちゃん、見える?」
すると、お兄さんも
「分からない」
と答えたそうです。
ですが答えた直後、
お兄さんはあの白い人が
何なのか分かったようです。
「お兄ちゃん、分かったの?教えて?」
とA君が、聞いたのですが、
お兄さんは
「分かった。でも、分からない方がいい」
と、答えてくれませんでした。
あれは一体なんだったのでしょうか?
今でもA君は分からないそうです。
「お兄さんにもう一度聞けばいいじゃない?」
と、私は弟に言ってみました。
これだけでは私も何だか消化不良ですから。
すると弟がこう言ったのです。
「A君のお兄さん、
今、知的障害になっちゃってるんだよ」
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おまえだれ?【怖い話】
築平成元年のアパートにすんでます。
ロフト付の6畳キッチン付で
快適とまでは言わないが普通に暮らせるアパート。
入居したのはもう1年ぐらい前だが、
ここ半年ぐらい前からロフトが怖い。
夜仕事から帰って来て部屋に入ると、
電気をつける前に目に入る位置にロフトがある。
この暗いロフトから誰かが
こちら見ているような気配がする事が。
最初は疲れている事からくるものだろうと、
余り考えないようにしていた。
それが仇になるような事が昨日起きてしまった。
ロフトには寝床が敷いてあり、
寝る時になると今度はキッチンに通じる玄関が目に入る。
寝るときいつも意識せず玄関に目を配るのだが、
その時もたまに視線を感じる時が。
そういう時、
昂ぶった精神を落ち着けるため
読書して寝るようにしている。
いつも部屋の灯りを消し、
枕もとのスタンドライトを点けて本を読む。
すると妙な感じがすることに気づいた。
灯りを消しているロフト下部屋から
なにか音が聞こえるのだ。
じっと耳を澄ます。
暗い階下から聞こえる音、それは呼吸音だった。
気がついた瞬間私はギョッとしてしまい動けなくなった。
誰かいるのか…と思うと鼓動が早くなる。
重々しい空気が私を包んだ。
視界に入るのは薄暗い室内。
しかし確かにその音は響いてくる。
ロフトの下、丁度死角にあたる部分から。
何者かがロフト沿いの壁にいて様子を伺っている。
そんな様子が想像できてしまい、
私はさらに縮こまってしまった。
暫く、膠着状態のようになり何も出来なかった。
すると呼吸音が唐突に止んだ。
私はそれが解放の兆しと思い、ホッとした。
その瞬間。
ロフトへ昇るための梯子から軋む音が。
丁度人一人が上がってくる感じの音だ。
またも虚を突かれた形になった私は動けなくなった。
何か、いったい何でこんな事がおこるのかと
頭の中がくちゃぐちゃになった。
私はせめてなにが昇ってこようと
対処しようと気がまえることにした。
音は続く。
もう少しで何かが見えてくる筈。
時間にして数秒。
だが、何時間にも感じられた。
しかし、身構えた私の視界には何も見えてこない。
音が止んだ。
もうすでにロフトに上がっている。
これは一体何なんだ。
そう思った瞬間だった。
スタンドライトが消えた。
一瞬で真っ暗闇になる。
その時。
「おまえだれ?」
と耳元で声がした。
気がついたら朝だった。
どうやら気絶してしまったらしい。
訳はわからないが体験した事追求する気になれない。
それをするともっと大きな事になる気がするからだ。
私は今、この部屋を借り続けるかどうか悩んでいる。
またあんな事があったら耐えられそうに無い。
海を見たらあかん日【ほんのり怖い話】
9月にうちのばあちゃんの姉(おおばあ、って呼んでた)
が亡くなって、
一家揃って泊まりで通夜と葬式に行ってきた。
実質、今生きてる親族の中では、おおばあが最年長ってのと、
うちの一族は何故か女性権限が強いってのもあって、
葬式には結構遠縁の親戚も集まった。
親戚に自分と一個違いの
シュウちゃん(男)って子がいたんだけど
親戚の中で自分が一緒に遊べるような仲だったのは、
このシュウちゃんだけだった。
会えるとしたら実に15年振りぐらい。
でも通夜にはシュウちゃんの親と姉だけが来てて、
期待してたシュウちゃんの姿はなかった。
この時ふと、
小学生の頃に同じように親戚の葬式(確かおおばあの旦那さん)
があって葬式が終わってからシュウちゃんと一緒に遊んでて、
怖い目にあったのを思い出した。
うちの父方の家系はちょっと変わってて、
家督を長男じゃなくて長女が継いでるらしい
父方の親族はおおばあもみんな日本海側の地域いるんだけど、
うちは親父は三男ってのもあって、地元では暮らさず、
大阪の方まで出てきてて、
そういった一族の風習とは無縁シュウちゃんの家も
うちと同じように地元を離れた家みたいで、神奈川在住。
夏休みは毎年、
お盆の少し前ぐらいからおおばあの家に集まって、
法事だの地元の祭に行ったりだの、親族で揃って過ごす。
うちとかシュウちゃんの家なんかは、
他の親族と違ってかなり遠方から来ることになるので、
おおばあの家で何泊かすることになる。
おおばあの本宅が海に近い
(道路挟んで少し向こうに海が見えてる)から、
朝から夕方までシュウちゃんと海に遊びに行ってた
俺が小学校2、3年の冬に、おおばあの家で葬式があって
(死んだのは旦那さんのはず)、
その時もうちは泊まりがけで通夜と葬式に出席。
シュウちゃんところも同じように泊まりで来てた。
元々俺は脳天気な人間なんだけど
その頃は輪をかけて何も考えてなくて、
葬式云々よりもシュウちゃんと
遊べるってことしか頭になかったw
朝出発して、おおばあの家に着いて、
ご飯食べてしばらくしてから通夜
この辺は何かひたすら退屈だったことしか覚えてない。
全然遊べないし。
泊まる時は「離れ」が裏にあって、
そこに寝泊まりするんだけど、
その時は他に来てた親族がほとんど泊まるから離れが満室。
自分たちは本宅に泊まった
晩飯終わってから、
「何でこんな日に亡くなるかねえ」
とか親戚がボソっと口にしたのを覚えてる。
翌朝起きたら(大分早かった。6時とか)、
おおばあとかばあちゃん、他の親戚の人がバタバタしてて
家の前に小さい籠?何か木で編んだ
それっぽいものをぶら下げて、
それに変な紙の短冊?
みたいなものを取り付けたりしてた。
ドアや窓のあるところ全部に吊してて、
紐一本でぶら下がってるから、
ついつい気になって手で叩いて遊んでたら、
親父に思いっきり頭殴られた
そのうち雨戸(木戸って言うのかな)とか
全部閉めはじめて、
雨戸の無い台所とかは
大きな和紙みたいなのを窓枠に画鋲でとめてた
人が死んだ時の風習かなあ、ってのが最初の感想だった。
朝も早いうちから告別式がはじまって、
途中はよく覚えてないけど、
昼少し過ぎた辺りにはほとんど終わってた
薄情な子供かもしれないけど、
これ終わったら遊べるってことしか頭になかったなあ
途中、昼飯食べたんだけど、
みんなあんまりしゃべらなかったのを覚えてる
何時頃か忘れたけど、
結構早いうちに他の親戚は車で帰っていって、
本宅にはうちの家族とシュウちゃんの家族だけ残った。
夏みたいに親戚みんなで
夜までにぎやかな食事ってのを想像してたんだけど、
シュウちゃんとちょっと喋ってるだけで
怒られたのが記憶に残ってる。
家の中でシュウちゃんと遊んでたら
「静かにせえ」
って怒られた
夕方にいつも見てるテレビ番組が見たくて
「テレビ見たい」
って言っても怒られた
「とにかく静かにしとけえ」
って言われた
今思ったら、親もおおばあもばあちゃんも喋ってなかった
あんまりにも暇だからシュウちゃんと話して
「海見にいこう」
ってことになった
玄関で靴をはいてたら、
ばあちゃんが血相変えて走ってきて頭叩かれて、
服掴んで食堂の方まで引っ張っていかれた。
食堂にシュウちゃんのお父さんがいて、
ばあちゃんと二人で
「今日は絶対に出たちゃいかん」
「二階にいとき」
って真剣な顔して言われた。
そのままほとんど喋ることなく、
シュウちゃんとオセロか何かして遊んでて、
気が付いたら2階で寝かされた
どれぐらい寝たのか分からないけど、
寒くて起きたのを覚えてる
2階から1階に行く時に、魚臭さのある匂いがした
(釣場とかよりももうちょっと変な潮臭さ)
時計を見に居間を覗いたら、
おおばあとかうちの親が新聞読んだりしてて、
誰も喋ってなかった
何か妙に気持ち悪くて、トイレで用を足した後、
2階に戻ろうとしたら廊下でシュウちゃんと出くわした。
「あんね、夜に外に誰か来るんだって」
とシュウちゃん。
おおばあ達が今朝、
何かそれらしいことを口にしていたらしい。
それをシュウちゃんが聞いたようだ。
ちょっと確かめてみたいけど、
2階も雨戸が閉まってて外が見えない。
「便所の窓開くんちゃうかな」
さっきトイレの小窓がすりガラスで、
雨戸がなかったのを思い出した。
便所は家の端で海側(道路側)に窓があるから、
二人で見に行こうと言うことになった。
冬のトイレは半端じゃなく寒いんだけど、
窓の一つ向こうに何かがいるという思いこみから、
秘密基地に籠もるような、奇妙な興奮と、
同時に背筋に来るような寒気を覚えた。
「ほんまにおるん?(本当にいるの?)」
小声でシュウちゃんに話しかけ、
シュウちゃんもヒソヒソ声で
「いるって、おばあが言ってたもん」
トイレの小窓は位置が高く、
小学生の自分の背丈では覗けない。
便器の給水パイプが走ってるから、
そこに足を乗せて窓を覗く形になる
最初は自分が外を見ることになった。
音を立てないように静かに窓をずらして、外を見た。
軒の下で籠が揺れてる。
視界の端、道路から家まで、何か長いものが伸びていた。
よく分からないけど、
その長いもののこちら側の先端が、
少しずつこっちに向かってきている。
10秒ほど見てから、
何か無性に恐ろしくなって身震いして窓を閉じた。
「誰かいた?」
「よく分からんけど、何かおった」
「僕も見る」
「何かこっちに来てるみたいやし、逃げようや」
多分、自分は半泣きだったと思う
寒さと、得体の知れない怖さで
今すぐ大声で叫んで逃げたかった。
「な、もどろ?」
トイレのドアを開けて、シュウちゃんの手を引っ張った
「僕も見る。ちょっとだけ。ほんのちょっとだけだから!」
シュウちゃんが自分の手を振り切って戻り、
給水パイプに足を乗せた
窓をずらしくて覗き込んだシュウちゃんは、
しばらくしても外を覗き込んだまま動かなかった
「なあ、もうええやろ?もどろうや」
「**くん、これ、」
言いかけて途中で止まったシュウちゃんが、
外を覗き込んだまま
「ヒッ ヒッ、」
と引きつったような声を出した
何がなんだか分からなくなってオロオロしてると、
自分の後ろで物音がした。
「お前ら何してる…!」
シュウちゃんのお父さんがものすごい形相で後ろに立ってた
言い訳どころか、一言も喋る前に、
自分はシュウちゃんのお父さんに襟を掴まれ
便所の外、廊下に放り出された。
一呼吸おいてシュウちゃんも廊下に放り出された
その後、トイレのドアが叩きつけるように閉められた。
音を聞きつけたうちの親と、おおばあが来た
「どあほう!」、
親父に張り手で殴られ、おおばあが掴みかかってきた
「**(自分の名前)、お前見たんかい?見たんかい!?」
怒ってると思ったけど、
おおばあは泣きそうな顔をしてた気がする。
何一つ分からないまま、周りの大人達の剣幕に、
どんどん怖くなっていった。
「外見たけど、何か暗くてよく分からんかったから、
すぐ見るのやめてん」
答えた自分に、おおばあは
「本当にか?顔見てないんか!?」
と怒鳴り、
泣きながら自分は頷いた。
そのやり取りの後ろで、親父と後から来たばあちゃんが
トイレの前に大きな荷物を置いて塞いでた。
シュウちゃんのお父さんが
「シュウジ!お前は!?」
と肩を揺すった。
自分も心配でシュウちゃんの方を見た。
シュウちゃんは笑ってた。
「ヒッ ヒッ、」
としゃっくりのような声だけど、
顔は笑ってるような泣いてるような、突っ張った表情
「シュウジー!シュウジー!」
とお父さんが揺さぶったり呼びかけたりしても
反応は変わらなかった。
一瞬、みんな言葉に詰まって、
薄暗い廊下で見たその光景は歯の根が合わないほど怖かった。
シュウちゃんが服を脱がされて、
奥の仏間の方に連れていかれた。
おおばあはどこかに電話している。
居間でシュウちゃんのお母さんと姉が青い顔をしていた。
電話から戻ってきたおおばあが
「シュウジは夜が明けたらすぐに
「とう**さん(**は聞き取れなかった)」
とこに連れてくで!」
と、まくし立てて、
シュウちゃんの親はひたすら頷いてるだけだった。
自分はばあちゃんと親に腕を掴まれ、2階に連れていかれた。
やっぱり服を脱がされて、すぐに着替えさせられ、
敷いてあった布団の中に放り込まれた。
「今日はこの部屋から出たらいかんで」
そう言い残して出て行ったばあちゃん。
閉められた襖の向こうから、
何か短いお経のようなものが聞こえた。
その日は、親が付き添って一晩過ごした。
明かりを消すのが怖くて、
布団をかぶったまま親の足にしがみついて震えてた。
手足だけが異様に寒かった。
翌朝、ばあちゃんが迎えに来て、
1階に降りた時にはシュウちゃんはいなかった
「シュウジは熱が出たから病院にいった」
とだけ聞かされた
部屋を出る時に見たんだけど、
昨日玄関や窓にぶら下げてあった籠みたいなものが
自分の寝てた部屋の前にもぶら下げてあった。
朝ご飯食べてる時に、おおばあから
「お前ら本当に馬鹿なことをしたよ」
みたいなことを言われた
親は帰り支度を済ませてたみたいで、
ご飯を食べてすぐに帰ることになった
おおばあ、ばあちゃんに謝るのが、
挨拶みたいな形で家を出た
家に帰った日の夜、熱が出て次の日に学校を休んだ。
ここまでが子供の頃の話。
翌年の以降、
自分はおおばあの家には連れていって貰えなかった
中学2年の夏に一度だけおおばあの家に行ったが、
その時も親戚が集まってたけど、シュウちゃんの姿はなく
「シュウジ、塾の夏期講習が休めなくてねえ」
と、シュウちゃんのお母さんが言ってた。
でも今年9月のおおばあの葬式の時に、他の親戚が
「シュウジくん、やっぱり変になってしまったみたいよ」
と言ってたのを聞いた
あのときシュウちゃんが何を見たのかは分からないし、
自分が何を見たのかははっきり分かってない
親父にあのときの話を聞いたら
「海を見たらあかん日があるんや」
としか言ってくれなかった
2018年11月04日
神社で不思議な少年に出会った【神様・神社系の怖い話】
私はいわゆる「見える人」だ。
といっても
「見える」「会話する」
ぐらいで他に特別な事が出来るわけではない。
例えば事故現場にボケっと突っ立つ、
どことなく色の薄い青年。
私と目が合うと照れくさそうに目をそらす。
20余年こんな自分と付き合っていて、
生きている人間と同じくらいの「何か」に
引き留められている色の薄い(元)人を見てきたが、
彼らがこちらに害を加えようとした事はほとんどない。
ある人は何かを考えこんでいるような。
またある人は虚空を睨むように、その場に留まっている。
自由自在に移動しているような奴は本当に極稀である。
正直、オカルト好きな私にとって
この体質は非常にありがたい。
ラッキーと思っているくらいだ。
これまで「オカルト好き」と「見える」のお陰で
色んな体験をしてきたが、
私は私の体質が生まれつきのモノなのかどうか知らない。
記憶に残る一番幼い頃の話をしようと思う。
私の実家は近江で神社をしている。
店でも開いているような口ぶりだが、
父、祖父、曾祖父・・・かれこれ300年は続いている
それなりの神社だ。
幼稚園に行くか行かないかぐらいの時分。
毎日境内を走り回っていた私はある日、
社務所の裏手にある小山にこれまた小さな池を発見した。
とても水が透き通っていて1m弱の底がとても良く見えた。
脇には当時の私の背丈をゆうに超える岩がある。
私はその岩によじ登ってはすべり降り、
よじ登ってはすべり降りるという何が面白いか
よくわからん遊びに夢中になっていた。
何回目かの着地後、不意に気がついた。
地面を見つめる私の視界に、ぞ
うりを履いた小さな足があった。
顔を上げると前方に浅葱色(あさぎいろ)の
変な着物(じんべいみたいな服)を着た
私より少し大きいくらいの男の子が立っている。
私が何をしているのか。
さも興味有り気といった表情でじっと私を見つめている。
中性的でとても奇麗な顔。
私は参拝にきた人の子供かな、ぐらいにしか思わず、
構わずまたあの儀式の様な謎の遊びを再開した。
すると男の子は何も言わず私の真似をする様に、
岩を登っては降り、登っては降りをやり始めた。
当初私は自分が考案した
最高の遊びを真似されたと憤慨しましたが、
まぁ子供というのは得てして
誰とでもすぐに仲良くなるもので。
男の子は名前を「りゅうじ」といった。
私は彼を「りゅうちゃん」と呼んで
ほぼ毎日小山で遊んでいた。
りゅうちゃんは虫取り名人であり、虫博士でもあった。
ナナフシを見つけたのは、
後にも先にもりゅうちゃんと遊んでいた時だけだった。
この頃、
父に私は小山で遊ぶ時は
池に近づくなと言われていた。
当たり前だ。
小さい子が池の周囲で遊ぶなんて、
こんな危険な事はない。
ある日いつものようにりゅうちゃんと
小山で遊んでいた時、
池の底にとても奇麗な石を見つけた私は、
それを取ろうと池に腕をつっこんだ。
もう少しで取れそう。
そんな思いがきっと油断を招いた。
重心がすっかり前にいった私の体は、
池の淵をずりずりと滑り落ちてしまった。
もう訳がわからなかった。
突然奪われた酸素、上下がわからない。
どっちが上なのか。息を吸いたい。
もがく私の腕を誰かが力強くつかみ、そして引き上げる。
助けてくれたのはりゅうちゃんだったが、
今考えれば幼い私と、
そう年頃も変わらない男の子が
水の中から人一人を引き上げるなんてありえない。
当然ながら当時の私にそこまでの思考力はなかった。
溺れた恐怖にただただ泣きじゃくりながら
そのまま家路についた。
ぼたぼたと水を滴らして
泣きじゃくる私に母は仰天し、
池に落ちたこと、
近所の男の子に助けてもらった事を
告白した私にきついお灸を据えた。
母に腕を引っ張られ、たどり着いた先は納屋。
私はあの薄暗さが嫌で普段から納屋には近づかなかった。
そんなところに一人放り込まれた
私の恐怖といったらそれはもう、
今でも当時の私に同情するくらいだ。
暗い納屋で一人しくしく泣いていると
誰かが入ってくる気配があった。
すわお化けか何かかと、
恐怖に顔面を強張らせたがすぐにその表情は緩んだ。
りゅうちゃんだ。
りゅうちゃんは、
ひくりひくりとしゃくり上げる
私の横で静かに寄り添ってくれた。
すっかり心が丈夫になった私は、
母が呼びかけてくるまでしばらくの間
すっかり寝こけていた。
すーすーと寝息を立てる私を見て母は、
この子にはどんなお灸もきっと効かないと感じたそうだ。
この頃から両親は「りゅうちゃん」の存在を知る。
近所の遊び相手。そんな認識だったそうだ。
幼稚園へ通い始めても、小学校へ上がってからも、
私はほぼ毎日りゅうちゃんと遊んだ。
りゅうちゃんが同じ小学校にいるのかどうか、
疑問は感じていたがあまり気にしていなかった。
私が8歳になるかならないかくらいだったと思う。
8歳になる(もしくはなった)と言って、
はしゃぐ私にりゅうちゃんは、
黄色い果物のような物をくれた。
私たちはその果物を池で洗い、二人で仲良く食べた。
なんだかちょっと酸っぱくて
美味しくなかった記憶がある。
私は家に帰った後、
夕食中両親にその事を自慢げに話した。
先のお池転落以来、
池に近づくと怒られると思ったので
もちろん池で洗った果物である事は伏せた。
両親も最初はニコニコと話を聞いてくれていたが、
私があまったその果物を食卓に持ってきたとたん、
両親の、特に父の顔色が真っ青になった。
まず、その果物はドロドロに腐ってしまっていた。
昼間はあんなにみずみずしかった果物が
ゼリー状になっていたのだ。
父が果物を睨みつけながら
強い口調で私に問いただした。
池で洗ったとゲロった私を父は抱きかかえ、
もつれる足を何とか交互に動かし祖父の部屋へ滑り込む。
私が〜〜様に魅入られた(何て言ってたかわからないw)
キヌ(?)を喰うてしまっているようだ、
と父が叫ぶと祖父は目を見開き、
放心といった様子で私を見つめていた。
神社の近くで農家をしている
おじさんが家に飛び込んできて、
玄関で何やら騒いでいた。
あわてている様子だった。
母が対応し、すぐに父と祖父が玄関へ向かった。
何やら訳が分からない喧騒の中、
ふと縁側に目をやるとりゅうちゃんが立っていた。
いつも通りの奇麗な顔。
だが一点、いつもと違う
背丈ほど長くて白い髪の毛。
必ず迎えに行くから待っててくれ。
りゅうちゃんが私にそう言うので、うん、と返す。
それはいつ?
言葉になるかならないかくらいのタイミングで
私の視界は急に奪われた。
祖父が麻布のような物で私の全身を覆ったのだ。
私はそのまま祖父に抱きかかえられ、
どこかに連れて行かれ(恐らく本殿)
生ぬるい酒のような液体を、
麻布の上からかけられて車に乗せられ、
そのまま町を出て行った。
しばらくゴトゴトと揺られていると
車は緩やかに止まった。
布の口が解かれ、
父と母が不安そうな顔で私を見ていた。
何がなんだかわからない私に母は、
もう二度と家には帰れない事。
父、祖父と離れ、
母方の祖父母の家で母と暮らす事を告げられた。
わかったと素直に返事した私を
両親は呆けた顔で見ていたが、
私は大して気に留めなかった。
父や祖父と離れるのは寂しいが、
会いたいと言えばむこうから来てくれる。
なにより、
りゅうちゃんが迎えに行くと言ったのだから
待っていればいい。
そんな心境で私は古都の住民になった。
色んな物が「見える」ようになったのも
その辺りからだと思っている。
いや、単にそれまでは限られた範囲の中でしか
生活していなかったのもあって、
たまたま遭遇してこなかっただけかも知れない。
でも私はりゅうちゃんがくれたあの果物のせいだと、
今でも思っている。
2018年11月02日
森守りさま「どうにもならん。可哀相だが諦めておくれ」【山・森・田舎・集落】【怖い話】
2ヶ月ほど前の出来事なのだが、
数年後が心配になる話。
俺の田舎は四国。
詳しくは言えないが、高知県の山深い小さな集落だ。
田舎と言っても祖母の故郷であって、
親父の代からはずっと関西暮らし。
親類縁者もほとんどが村を出ていた為、
長らく疎遠。
俺が小さい頃に一度行ったっきりで、
足の悪い祖母は20年は帰ってもいないし、
取り立てて連絡を取り合うわけでもなし。
全くと言っていいほど関わりがなかった。
成長した俺は車の免許を取り、
ボロいデミオで大阪の街を乗り回していたのだが、
ある日どこぞの営業バンが横っ腹に突っ込んで来て、
あえなく廃車となってしまった。
貧乏な俺は泣く泣く車生活を断念しようとしていたところに、
田舎から連絡が入った。
本当に偶然で、
近況報告のような形で電話をしてきたらしい。
電話に出たのは親父だが、
俺が事故で車を失った話をしたところ、
「車を一台 処分するところだった。
なんならタダでやるけど 要らないか?」
と言ってきたんだそうだ。
勝手に話を進めて、俺が帰宅した時に
「新しい車が来るぞ!」
と親父が言うもんだからビックリした。
元々の所有者の大叔父が歳食って、
狭い山道の運転は危なっかしいとの理由で、
後日に陸送で車が届けられた。
デミオより遥かにこちらの方がボロい。
やって来たのは古い71マークUだった。
それでも車好きな俺は逆に大喜びし、
ホイールを入れたり、程良く車高を落としたりして、
自分の赴くままに遊んだ。
俺はこのマークUをとても気に入り、
通勤も遊びも全てこれで行った。
その状態で2年が過ぎた。
本題はここからである。
元々の所有者だった大叔父が死んだ。
連絡は来たのだが、
「一応連絡は寄越しました」
という雰囲気で、死因を話そうともしないし、
お通夜やお葬式のことを聞いても終始茶を濁す感じで、
そのまま電話は切れたそう。
久々に帰ろうかと話も出たのだが、
前述の通り祖母は足も悪いし、
両親も専門職でなかなか都合もつかない。
もとより深い関わりもなかったし電話も変だったので、
その場はお流れになったのだが、
ちょうど俺が色々あって退職するかしないかの時期で
暇があったので、これも何かのタイミングかと、
俺が一人で高知に帰る運びとなった。
早速、愛車のマークUに乗り込み、高速を飛ばす。
夜明けぐらいには着けそうだったが、
村に続く山道で深い霧に囲まれ、
にっちもさっちもいかなくなってしまった。
多少の霧どころではない。
かなりの濃霧で、前も横も全く見えない。
ライトがキラキラ反射して、とても眩しい。
仕方なく車を停め、タバコに火をつけ窓を少し開ける。
鬱蒼と茂る森の中、離合も出来ない狭い道で、
暗闇と霧に巻かれているのがふっと怖くなった。
カーステレオの音量を絞る。
何の音も聞こえない。
いつも人と車で溢れる大阪とは違い、ここは本当に静かだ。
マークUのエンジン音のみが響く。
「ア・・・・・」
何か聞こえる。
なんだ?
「ア・・・・・アム・・・・・」
なんだ、何の音だ?
急に不可解な、
子供のような高い声がどこからともなく聞こえてきた。
カーステレオの音量をさらに絞り、
少しだけ開いた窓に耳をそばだてる。
「ア・・・モ・・・ア・・・」
声が近付いて来ている。
尚も霧は深い。
急激に怖くなり、窓を閉めようとした。
「みつけた」
一瞬、身体が強張った。
なんだ、今の声?!
左の耳元で聞こえた。
外ではない。車内に何かいる。
「ア・・ア・・・ア・・・・」
子供の声色だ。
はっきりと聞こえる。
左だ。車の中だ。
「アモ・・アム・・アモ・・」
なんだ、何を言っているんだ。
前を向いたまま、前方の霧から目を逸らせない。
曲面のワイドミラーを覗けば、
間違いなく声の主は見える。
見えてしまう。
ヤバイ。見たくない。
「・・・アモ」
左耳のすぐそばで聞こえ、俺は気を失った。
「おーい、大丈夫かー」
車外から、
知らないおっさんに呼び掛けられて目を覚ました。
時計を見ると朝8時半。
とうに夜は明け、霧も嘘のように晴れていた。
どうやら、俺の車が邪魔で後続車が通れないようだった。
「大丈夫です、すぐ行きますので・・・ すみません」
そう言って、アクセルを踏み込む。
明るい車内には、もちろん何もいない。
夢でも見たのかな。
何を言っていたのかさっぱり意味が分からなかったし・・・。
ただ、根元まで燃え尽きた吸殻が
フロアに転がっているのを見ると、
夢とは思えなかった。
到着した俺を、大叔母たちは快く出迎えてくれた。
電話で聞いていた雰囲気とはうってかわってよく喋る。
大叔父の葬式が済んだばかりとは思えない元気っぷりだった。
とりあえず線香をあげ、
茶をいれていただき会話に華を咲かせる。
「道、狭かったでしょう。
朝には着くって聞いてて全然来ないもんだから
崖から落ちちゃったかと 思ったわ」
「いやぁ、それがですねぇ、変な体験しちゃいまして」
今朝の出来事を話してみたが、
途中から不安になってきた。
ニコニコしていた大叔母たちの表情が、
目に見えるように曇っていったからだ。
「モリモリさまだ・・・」
「まさか・・・ じいさんが死んで終わったはずじゃ・・・」
モリモリ?なんじゃそりゃ、ギャグか?
「・・・あんた、もう帰り。
帰ったらすぐ車は 処分しなさい」
何だって?
このあいだ車高調整を入れたばっかりなのに
何を言っているんだ!
それに来たばっかりで帰れだなんて・・・。
どういうことか理由を問いただすと、
大叔母たちは青白い顔で色々と説明してくれた。
どうやら、俺はモリモリさまに目をつけられたらしい。
モリモリとは、森守りと書く。
モリモリさまはその名の通り、
その集落一帯の森の守り神で、
モリモリさまのおかげで山の恵みには事欠かず、
山肌にへばり付くこの集落にも大きな災害は
起こらずに済んでいる。
但し、その分よく祟るそうで、
目をつけられたら最後、魂を抜かれるそうだ。
魂は未来永劫モリモリさまに囚われ、
森の肥やしとして消費される。
そういったサイクルで、
不定期だが大体20〜30年に一人は、
地元の者が被害に遭うらしい。
・・・と言っても、
無差別に生贄のようなことになるわけではない。
モリモリさまは森を荒らす不浄なものを嫌うらしく、
それに対して呪いをかける。
その対象は獣であったり人であったりと様々だが、
余計なことをした者に姿を見せ、
子供のような声で呪詛の言葉をかける。
そして、姿を見た者は3年と経たずに
取り殺されてしまう。
(おそらく、アムアモと唸っていたのが呪詛の言葉だろう)
流れとしては、
山に対し不利益なものをもたらす人間に目をつけ、
呪いという名の魂の受け取り予約をする。
じわじわと魂を吸い出していき、
完全に魂を手に入れた後は、
それを燃料として森の育成に力を注ぐ。
そういう存在なのだそうだ。
今回の場合、
大叔父が2年前に目をつけられたらしい。
それも、あのマークUに乗っている時に。
モリモリさまを迷信としか思っていなかった大叔父は、
山に不法投棄している最中に姿を見たそうだ。
慌てて車を走らせ逃げたそうだが、
ここ最近は毎晩のようにモリモリさまが
夢枕に立つと言っており、
ある日に大叔母が朝起こしに行くと
心臓発作で死んでいた。
だが、大叔父だけでなく、おそらく車も対象になっていて、
それに乗って山を通った俺も祟られてしまった。
・・・というのが
大叔母たちの説明と見解である。
そんな荒唐無稽な話を信じられるはずもなかったが、
今朝の出来事を考えると、
自然と身体が震え出すのが分かった。
何より、大叔母たちの顔が真剣そのものだったのだ。
大叔母がどこかに電話をかけ、白い服を着た老婆が現れた。
聞くところ、その老婆は村一番の年長者で事情通らしいが、
その老婆も大叔母たちと同じような見解だった。
「どうにもならん。 可哀相だが諦めておくれ」
そう言い残し、さっさと帰って行った。
俺が来た時の明るい雰囲気はどこへやら、
すっかり重苦しい空気が漂っていた。
「すまない。お父さんが 連れていかれたから
しばらくは 大丈夫やと 思ってたんやが・・・」
すまない、すまないと、
みんながしきりに謝っていた。
勝手に来たのは俺だし、
怖いからそんなに頭を下げるのはやめて欲しかった。
大叔父が車を手放したのは歳がうんぬんではなく、
単純に怖かったのであろう。
そんな車を寄越した大叔父にムカっとしたが、
もう死んでいるのでどうしようもない。
急にこんな話を捲くし立てられても
頭が混乱してほとほと困ったが、
呪詛の言葉をかけられた以上は
どうしようもないそうなので、
俺は日の明るいうちに帰ることになった。
何せ、よそ者が出会ってしまった話は
聞いたことがないそうで、
姿を見ていない今のうちに関西へ帰り、
車を捨ててしまえばモリモリさまも手が出せないのでは、
という淡い期待もあった。
どうやら、姿を見ていないというのは幸いしているらしい。
大叔母の車に先導されて市内まで出ると、
そこで別れて俺は一目散に関西へ帰った。
「二度と来ちゃいかん。
そしてこの事は早う忘れなさい」
大叔母は真顔でそう言った。
帰った後、すぐに71マークUは処分し、
最近になって新しく100系マークUを購入した。
俺はマークUが好きなんだな、きっと。
この出来事、信じているかと言われたら、
7割ぐらいは信じていない。
家族にも話してみたし、
親父は直接あちらと電話もしたそうだが、
それでも信じていないというのか、
イマイチ理解できない様子だ。
肝心の祖母はボケてきて、どうにもこうにも・・・。
ただ気がかりなのは、村を出る道すがら、
山道で前を走る大叔母の車の上に乗っかり、
ずっと俺を見ていた子供の存在だ。
あれが多分、モリモリさまなんだろう。
滅多に鳴らない電話機【怖い話】
うちの会社には、滅多に鳴らない電話機がある。
今よりも部署が多かった頃の名残で、
回線は生きているものの発信する事もなければ、
着信もごくたまに間違い電話がある程度だった。
あるとき、俺は仕事が立て込んで、深夜まで一人で仕事をしていた。
週末で、何も無ければ
飲みに出かけようかと思っていた矢先
に急な仕事が入ってしまい、
やむなく遅くまで残業する羽目になったのだ。
その仕事も終わり、
そろそろ帰ろうかと支度を始めようとした時、
不意にその電話が鳴った。
またか、と思った。
深夜まで残業する事はたまにあり、
夜の12時に差し掛かるあたりになると、
よくその電話が鳴る事があったからだ。
こんな時間に仕事の電話はかかってこないし、
間違い電話だろう。
いつもその電話が鳴ったときには、
そう決め込んで無視をしていた。
しばらく鳴るが、
いつもは呼び出し音が10回も鳴れば切れていた。
ところがその日は、
呼び出し音がずっと鳴り続けて止まらない。
仕事を終えて、
緩んだ気持ちの俺は呼び出し音に段々いらだってきた。
鳴り続けている電話機の受話器を取り上げ、
そのまま切ってしまおう。
間違いFAXの場合もあるので、
一応受話器を耳にあててみた。すると
「もしもーし、ああ、やっとつながった!」
と、快活な声が聞こえてきた。
あまりに明るい調子の声に、
俺はそのまま切るのが少し申し訳ない気持ちになった。
間違い電話であることを相手に伝えてから切ろう。
そう思い返事をした。
「すみません、こちらは株式会社○○ですが・・・
電話をお間違いではないでしょうか?」
そう言うと、相手は予想外の事を言い出した。
「○○ですよね!わかってますよ!Tさん!」
Tさんと聞いて、俺は少し慌てた。
別部署にT主任という社員が確かに居たからだ。
ただ、当然もう帰っている。
「すみません、私はMと申します。
Tは本日既に退社しておりますが」
こんな夜中に居るわけないだろ、
と思いながらも丁寧に答えた。
「いや、Tさんですよね!Tさん!お会いしたいんですよ!」
口調は相変わらず明るいが、
相手は俺がT主任だと思い込んでいた。
更に、こんな時間に会いたいと言ってくるのもあり得ない。
気味が悪くなった俺は、
話を切り上げて電話を切ろうとした。
Tはもう退社してます、人違いですと繰り返した。
それでも相手は構わず話し続ける。明るく快活な口調で。
「Tさん!Tさん!会いたいです!
今から行きます!行きます!」
Tさん、という声と行きます、
という声がどんどん連呼される。
俺は恐ろしくなって、
何も返事できずただ聞くしかなかった。
やがてテープの早回しのように声が甲高くなり、
キリキリと不気味な「音」にしか聞こえなくなった。
キリキリという音が止んだ瞬間、
これまでと一変した野太い声で
「まってろ」
という声が聞こえた。
その瞬間、俺は恐怖に耐えられず電話を切った。
そして一刻も早く、会社から出ようと思った。
カバンを持って玄関へ向かおうとしたその時、
インターホンが鳴った。
とても出られる心境ではなく、
息を殺してドアモニターを見た。
細く背の高い男が、玄関の前に立っていた。
背が高すぎて、
顔はカメラに映らず首までしか見えなかった。
手には何かを持っている。
二度、三度とインターホンが鳴らされた。
出られるわけがない。
俺はただただ震えながら立っていた。
早くいなくなってくれと思いながら。
男がひょい、と頭を下げ、
ドアモニターのカメラを覗き込んできた。
男は満面の笑みを浮かべていた。
歯を剥き出しにして笑っていた。
目は白目が無く、真っ黒で空洞のようだった。
「Tさん!Tさん!いませんかー!会いに来ましたよー!」
電話と同じく明るい男の声がインターホンを通して、
静かな社内に響き渡る。
俺はモニターから目をそらせない。
男はカメラに更に近づく。
空洞の目がモニターいっぱいに広がる。
男はなおも明るく呼び掛けてくる。
「Tさん!いないですかー!?Tさん!ちょっとー!」
男の顔が前後に揺れている。
「Tさアーーーンんーーー」
男の声が、先程の電話と同じように、野太く変わった。
そして、男の姿がフッとモニターから消えた。
俺はしばらくモニターの前から動けずにいた。
また男がいつ現れるか。
そう考えるととても外には出られなかった。
そうしてモニターを見続けているうちに、
段々と夜が明けてきた。
ぼんやりと明るくなってきた外の景色を見ていると、
外へ出る勇気が沸いてきた。
恐る恐る玄関へ近づいてみたが、
人の気配は無く静まり返っていた。
ロックを解除し、自動ドアが開いた。
すると、ヒラヒラと何かが足元に落ちてきた。
茶封筒だった。
拾い上げて中身を見てみると、
人型に切られた紙切れが入っていた。
これ以上気味の悪い出来事はご免だ、
と思った俺は、その紙切れを封筒に戻した。
そして、ビリビリに破いてその辺りに投げ捨てた。
もうすっかり明るくなった中を家まで帰り、
ほぼ徹夜だった事もあって俺は早々に眠り込んだ。
週末は不気味な出来事を忘れようと、
極力普通に過ごした。
そして週明け、会社に出てきた俺は、
T主任の訃報を聞かされた。
土曜日の夜、電車に撥ねられたという事だった。
遺体は原型を留めないほどバラバラになっていて、
持っていた免許証からT主任だと判明したという事らしかった。
それを聞いた瞬間、
俺は週末の一連の出来事を思い出し、
寒気がした。
不気味な電話、T主任を尋ねてきた男、茶封筒の人型の紙。
紙を破った事が、何かT主任の死に影響を与えたのか。
沈んだ気持ちでT主任の葬儀に出席し、
花の置かれたT主任のデスクを背に仕事をした。
断言はできないが、
責任の一端があるのかもしれないという
もやもやとした罪悪感が、
T主任の死後、しばらくは常に頭の中を覆っていた。
それから半年程経って、
徐々にその罪悪感も薄まってきた頃、
急な仕事で深夜まで残業する機会があった。
同じ部署のA係長も残業しており、
会社には俺とA係長の二人だけが残っていた。
不意にまた、あの電話が鳴った。
俺は心臓が止まりそうになった。
あの半年前の出来事も忘れかけていたのに、
電話が鳴った事で克明に思い出してしまった。
青ざめる俺をよそに、A係長は
「うるさいなあ」
と言いながら電話に近づいていった。
出ないでくれ、と言う前に、
A係長は受話器を取ってしまった。
「はい、株式会社○○ Aでございます」
A係長が怪訝な声色で言う。
俺はA係長の会話の内容に、恐る恐る聞き耳を立てた。
「私はAと申しまして、Mでは無いのですが・・・」
「Mに何か御用でしたでしょうか?」
「ああ、左様でございますか。ではお伝え致します」
「・・・はぁ?」
「・・・失礼致します」
電話を切ったA係長が、不機嫌な顔で戻ってきた。
そして俺にこう言った。
「なんか、やけに明るい声でとんでもない事言いやがった。
頭に来たから切ってやった」
「Mさんですよね!っていきなり言われた。
俺Aだって言ってんのに。人の話聞けっての」
「で、Mさんに伝言してくれって。何言うかと思ったら、
『Tさんは残念でしたね』だと」
「『Mさんが来てくれても良かったんですよ』
とか。わけわかんない」
俺はなんとか平静を装いながら、A係長の話を聞いていた。
その後少しして、俺は会社を辞めた。
あの電話の主は何者だったのか。
T主任は俺のせいで死んだのか。
今でも分かっていない。
カン、カン「あなたも・・・あなた達家族もお終いね。ふふふ」 【怖い話】
幼い頃に体験した、
とても恐ろしい出来事について話します。
その当時私は小学生で、妹、姉、母親と一緒に、
どこにでもあるような小さいアパートに住んでいました。
夜になったら、いつも畳の部屋で、
家族揃って枕を並べて寝ていました。
ある夜、母親が体調を崩し、
母に頼まれて私が消灯をすることになったのです。
洗面所と居間の電気を消し、テレビ等も消して、
それから畳の部屋に行き、
母に家中の電気を全て消した事を伝えてから、
自分も布団に潜りました。
横では既に妹が寝ています。
普段よりずっと早い就寝だったので、
その時私はなかなか眠れず、
しばらくの間ぼーっと天井を眺めていました。
すると突然。
静まり返った部屋で、
「カン、カン」
という変な音が響いだのです。
私は布団からガバッと起き、暗い部屋を見回しました。
しかし、そこには何もない。
カン、カン
少しして、
さっきと同じ音がまた聞こえました。
どうやら居間の方から鳴ったようです。
隣にいた姉が、
「今の聞こえた?」
と訊いてきました。
空耳などではなかったようです。
もう一度部屋の中を見渡してみましたが、
妹と母が寝ているだけで部屋には何もありません。
おかしい・・・
確かに金属のような音で、
それもかなり近くで聞こえた。
姉もさっきの音が気になったらしく、
「居間を見てみる」
と言いました。
私も姉と一緒に寝室から出て、
真っ暗な居間の中に入りました。
そしてキッチンの近くから、
そっと居間を見ました。
そこで私達は見てしまったのです。
居間の中央にあるテーブル。
いつも私達が食事を取ったり団欒したりするところ。
そのテーブルの上に、人が座っているのです。
こちらに背を向けているので顔までは判りません。
でも、腰の辺りまで伸びている長い髪の毛、
ほっそりとした体格、
身につけている白い浴衣のような着物から、
女であるということは判りました。
私はぞっとして姉の方を見ました。
姉は私の視線には少しも気付かず、
その女に見入っていました。
その女は真っ暗な居間の中で、
背筋をまっすぐに伸ばしたまま
テーブルの上で正座をしているようで、
ぴくりとも動きません。
私は恐ろしさのあまり
足をガクガク震わせていました。
声を出してはいけない、
もし出せば恐ろしい事になる。
その女はこちらには全く振り向く気配もなく、
ただ正座をしながら私達にその白い背中を
向けているだけだった。
私はとうとう耐え切れず、
「わぁーーーーーっ!!」
と大声で何か叫びながら寝室に飛び込んだ。
母を叩き起こし、
「居間に人がいる!」
と泣き喚いた。
「どうしたの、こんな夜中に」
そう言う母を引っ張って居間に連れていった。
居間の明りを付けると、
姉がテーブルの側に立っていた。
さっきの女はどこにも居ません。
テーブルの上もきちんと片付けられていて
何もありません。
しかし、そこにいた姉の目は虚ろでした。
今でもはっきりと、
その時の姉の表情を覚えています。
私と違って彼女は何かに怯えている様子は微塵もなく、
テーブルの上だけをじっと見ていたのです。
母が姉に何があったのか尋ねてみたところ、
「あそこに女の人がいた」
とだけ言いました。
母は不思議そうな顔をしてテーブルを見ていましたが、
「早く寝なさい」
と言って、3人で寝室に戻りました。
私は布団の中で考えました。
アレを見て叫び、寝室に行って母を起こして、
居間に連れてきたちょっとの間、
姉は居間でずっとアレを見ていたんだろうか?
姉の様子は普通じゃなかった。
何か恐ろしいものを見たのでは?
そう思っていました。
そして次の日、姉に尋ねてみたのです。
「お姉ちゃん、昨日のことなんだけど・・・」
そう訊いても姉は何も答えません。
下を向いて沈黙するばかり。
私はしつこく質問しました。
すると姉は、小さな声でぼそっとつぶやきました。
「あんたが大きな声を出したから・・・」
それ以来、
姉は私に対して冷たくなりました。
話し掛ければいつも明るく反応してくれていたのに、
無視される事が多くなりました。
そして、
あの時の事を再び口にすることは
ありませんでした。
あの時、
私の発した大声で、あの女はたぶん、
姉の方を振り向いたのです。
姉は女と目が合ってしまったんだ。
きっと、想像出来ない程
恐ろしいものを見てしまったのだ。
そう確信していましたが、時が経つにつれて、
次第にそのことも忘れていきました。
中学校に上がって受験生になった私は、
毎日決まって自分の部屋で勉強するようになりました。
姉は県外の高校に進学し、寮で生活して、
家に帰ってくることは滅多にありませんでした。
ある夜、
遅くまで机に向かっていると、
扉の方からノックとは違う何かの音が聞こえました。
カン、カン
かなり微かな音です。
金属っぽい音。
それが何なのか思い出した私は、
全身にどっと冷や汗が吹き出ました。
これはアレだ。
小さい頃に母が風邪をひいて、
私が代わって消灯をした時の・・・
カン、カン
また鳴りました。
扉の向こうから、さっきと全く同じ金属音。
私はいよいよ怖くなり、妹の部屋の壁を叩いて
「ちょっと、起きて!」
と叫びました。
しかし、妹はもう寝てしまっているのか、
何の反応もありません。
母は最近ずっと早寝している。
とすれば、家の中でこの音に
気付いているのは私だけ・・・。
独りだけ取り残されたような気分になりました。
そしてもう1度あの音が。
カン、カン
私はついに、その音がどこで鳴っているのか
分かってしまいました。
そっと部屋の扉を開けました。
真っ暗な短い廊下の向こう側にある居間。
そこはカーテンから漏れる青白い外の光でぼんやりと
照らし出されていた。
キッチンの側から居間を覗くと、
テーブルの上にあの女がいた。
幼い頃、
姉と共に見た記憶が急速に蘇ってきました。
あの時と同じ姿で、女は白い着物を着て、
すらっとした背筋をピンと立て、
テーブルの上できちんと正座し、
その後姿だけを私に見せていました。
カン、カン
今度ははっきりとその女から聞こえました。
その時、私は声を出してしまいました。
何と言ったかは覚えていませんが、
またも声を出してしまったのです。
すると女は私を振り返りました。
女の顔と向き合った瞬間、
私はもう気がおかしくなりそうでした。
その女の両目には、
ちょうど目の中にぴったり収まる大きさの
鉄釘が刺さっていた。
よく見ると、
両手には鈍器のようなものが握られている。
そして口だけで笑いながらこう言った。
「あなたも・・・あなた達家族もお終いね。ふふふ」
次の日、
気がつくと私は自分の部屋のベッドで寝ていました。
私は少しして昨日何があったのか思い出し、
母に、居間で寝ていた私を部屋まで運んでくれたのか、
と聞いてみましたが、何のことだと言うのです。
妹に聞いても同じで、
「どーせ寝ぼけてたんでしょーが」
とけらけら笑われた。
しかも、私が部屋の壁を叩いた時には、
妹は既に熟睡してたとのことでした。
そんなはずない。
私は確かに居間でアレを見て、
そこで意識を失ったはずです。
誰かが居間で倒れてる私を見つけて、
ベッドに運んだとしか考えられない。
でも改めて思い出そうとしても、
頭がモヤモヤしていました。
ただ、最後のあのおぞましい表情と、
ニヤリと笑った口から出た言葉ははっきり覚えていた。
私と、家族がお終いだと。
異変はその日のうちに起こりました。
私が夕方頃、学校から帰ってきて
玄関のドアを開けた時です。
いつもなら居間には母がいて、
キッチンで夕食を作っているはずであるのに、
居間の方は真っ暗でした。
電気が消えています。
「お母さん、どこにいるのー?」
私は玄関からそう言いましたが、
家の中はしんと静まりかえって、
まるで人の気配がしません。
カギは開いているのに・・・
掛け忘れて買い物にでも行ったのだろうか。
のんきな母なので、たまにこういう事もあるのです。
やれやれと思いながら、
靴を脱いで家に上がろうとしたその瞬間、
カン、カン
居間の方で何かの音がしました。
私は全身の血という血が、
一気に凍りついたような気がしました。
数年前と、そして昨日と全く同じあの音。
ダメだ。
これ以上ここに居てはいけない。
恐怖への本能が理性をかき消しました。
ドアを乱暴に開け、
無我夢中でアパートの階段を駆け下りました。
一体何があったのだろうか?
お母さんは何処にいるの?妹は?
家族の事を考えて、
さっきの音を何とかして忘れようとしました。
これ以上アレの事を考えていると、
気が狂ってしまいそうだったのです。
すっかり暗くなった路地を走りに走った挙句、
私は近くのスーパーに来ていました。
「お母さん、きっと買い物してるよね」
と一人で呟き、
切れた息を取り戻しながら中に入りました。
時間帯が時間帯なので、
店の中に人はあまりいなかった。
私と同じくらいの中学生らしき人もいれば、
夕食の材料を調達しに来たと見える
主婦っぽい人もいた。
その至って通常の光景を見て、
少しだけ気分が落ち着いてきたので、
私は先ほど家で起こった事を考えました。
真っ暗な居間、開いていたカギ、そしてあの金属音。
家の中には誰もいなかったはず。
アレ以外は。
私が玄関先で母を呼んだ時の、あの家の異様な静けさ。
あの状態で人なんかいるはずがない・・・
でも、もし居たら?
私は玄関までしか入っていないので
ちゃんと中を見ていない。
ただ電気が消えていただけ。
もしかすると母は、どこかの部屋で寝ていて、
私の声に気付かなかっただけかもしれない。
何とかして確かめたい。
そう思い、私は家に電話を掛けて
みることにしたのです。
スーパーの脇にある公衆電話。
お金を入れて、
震える指で慎重に番号を押していきました。
受話器を持つ手の震えが止まりません。
1回、2回、3回・・・・
コール音が頭の奥まで響いてきます。
『ガチャ』
誰かが電話を取りました。
私は息を呑んだ。
耐え難い瞬間。
『もしもし、どなたですか』
その声は母だった。
その穏やかな声を聞いて、私は少しほっとしました・・・
「もしもし、お母さん?」
『あら、どうしたの。
今日は随分と遅いじゃない。
何かあったの?』
私の手は再び震え始めました。
手だけじゃない。
足もガクガク震え出して、
立っているのがやっとだった。
あまりにもおかしいです。
いくら冷静さを失っていた私でも、
この異常には気付きました。
「なんで・・・お母さ・・・」
『え?なんでって何が・・・
ちょっと、大丈夫?本当にどうしたの?』
お母さんが今、
こうやって電話に出れるはずはない。
私の家には居間にしか電話がないのです。
さっき居間にいたのはお母さんではなく、
あのバケモノだったのに。
なのにどうして、
この人は平然と電話に出ているのだろう。
それに、今日は随分と遅いじゃないと、
まるで最初から今までずっと家にいたかのような言い方。
私は電話の向こうで何気なく私と話をしている人物が、
得体の知れないもののようにしか思えなかった。
そして、乾ききった口から
何とかしぼって出した声がこれだった。
「あなたは、誰なの?」
『え?誰って・・・』
少しの間を置いて返事が聞こえた。
『あなたのお母さんよ。ふふふ』
2018年10月31日
N子の性癖【怖い話】
小学校のときの同級生にたまたま会って、
店で飲もうって話になったんだ。
結局出るのはあいつはどうなったとか、
あいつは結婚したとかの友人の近況ばかりだったんだが、
ひとつだけ気になることを同級生は話してくれたんだ。
小学校のころの話だ。
ある朝教室に行くと鳩が窓の下で死んでいた。
見ると、一枚窓が開いていてそこから入った鳩が
ガラス窓に気づかずに何度も体当たりしていくうちに
力尽きたのだろう、て話になった。
血がにじんでみひらいた眼をした鳩に
誰も近づきたくなくて気持ち悪い、とか
先生よぼう、とかいう話がちらほら出た。
いつもは空気のよめないバカガキも鳩の物まねしたりして
おちゃらけるのがやっとであまりのグロテスクさに
近寄りさえしなかった。
ところが、そのときクラスのN子がすっと
チリトリをもって近づくとすっとその鳩を拾った。
「かわいそうだから、うめてくるね」
と落ち着いた声で友だちに言うとすっと教室を出て行った。
普段はあんまりしゃべらない子で、
友だちからも無口な子と思われていた
かわいい子だったんだ。
みんな
「やさしい子だな」とか
「勇気があるな」とか、
声には出さないもののそんな感じの空気になった。
まるで道徳の教科書にのってるような光景だった。
しばらくして、また同じようなことがあった。
教室の水槽のヒーターが焼きついて壊れていて
魚が全滅して水カビが生えていた。
そのときもやっぱりその子がうめにいった。
そんなふうに小動物が死んだとき、N子はいつも
「かわいそう、うめてくるね」
と言って一人で教室を出て行った。
友だちの女子も何人か「私も」って、
ついていこうとしたけど、
追いかけるともう姿は見えなくなっていて
結局一人でいつもでかけてしまっていた。
そして不思議なことにどこにも墓とかそういうものも
みつけられなかった。
そんなとき、クラスでたぶんN子を好きだったんだろう
男子が
「あいつをつけてやろう」
って話になった。
そいつは
「どうせ先生かなんかに媚を売りに職員室にでも
いってるんだろう」
とか理由をこねていた。
実際男子たちは、
その行為を偽善的に感じていたのかもしれない。
N子の裏をみてやる、ってそんなつもりだった。
しばらくしてその男子はくさむらにあった
モグラの死体を見つけ実行に移した。
N子はやっぱりそれを拾うと教室を出て行った。
あらかじめ教室の外にまちぶせていたその男子は
ふらりと気づかれないようにあとを追いかけた。
「職員室にむかうぞ。
結局用務員かなんかに任せていい子ぶるんだぜ」
ところがN子は職員室を通り過ぎると
足早に学校の裏に走っていった。
途中何度も振り返りだれもいないことを
確認しているようだった。
男子はそのせいであまり近づけなかった。
とある家の庭に面したところでN子は立ち止まった。
「なんだ、ほんとうに埋めに行ったのか」
にしては、変だ。
N子は庭にその死体を放り投げた。
それも叩きつけるように。
するとそこに大きな犬が近寄ってきた。
するとばりぼり、とその死体をくらい始めた。
比較的とおくの物陰にみている男子にもその音がきこえ、
グロテスクに感じるほどだった。
N子はその様子をじっとしゃがんで見ていたのである。
やがて犬が食べ終わるとN子はこちらに引き返してきた。
その表情はいままで見たことが無いくらい
満足げな表情だった。
男子は背筋がぞっとするような感じがして
見つかるまえにそっと逃げ出した。
おそらくN子は、
今までもこんなふうに死体をずっとあそこに
もっていっていたんだろう。
男子はそのことは誰にも言わなかった。
その男子とはもちろんいま話している同級生自身のことだ。
そしてN子は今は俺の妻だ。
そんなこと、とてもいいだせる雰囲気じゃあなかった。
2018年10月30日
FG湖【怖い話】
家族で体験した話。
昨年の9月、
ようやくまとまった休みがとれたので実家へ帰省した。
実家へ帰ると珍しく弟も帰ってきていて、
数年ぶりに家族4人(父・母・私・弟)が顔を揃えた。
私がお盆や正月に休みがとれないから、
なかなか全員揃う事ってないんだよね…
それでこんな機会も珍しいからと、
父の提案で急遽みんなで旅行に出かける事になった。
旅行といっても弟は2日後には帰る予定だったし、
急だから宿もとれないだろうって事で日帰りだったんだけどね…
いくつか候補地をピックアップし、
車で行ける場所という事で行き先はY県のFG湖に決まった。
(場所はすぐにわかっちゃうと思うけど、一応ふせてます)
次の日の早朝、車で家を出発して高速に乗って数時間。
私達家族は目的地のFG湖の1つに到着した。
(FG湖は5つの湖が点々と存在している場所です)
その後も車で少しずつ移動しながら他の湖を見てまわって、
昼ごはんを食べて、周辺を散策してと私達は
久しぶりの家族団らんを楽しんだ。
けど3つ目の湖を見た頃には、
湖にお腹いっぱいになってきて…
もう湖はいいかな…って事で、道の駅に立ち寄った。
その道の駅は地元でとれる野菜の販売も充実してるし、
道の駅に併設する博物館(展示館?)があったりで、
なんだかんだで2時間ほどは滞在したと思う。
時計を見ると午後5:20過ぎ。
9月という事でまだ外は明るかったけど、
帰りの道中や夜ご飯の事も考えて、
下道で少しずつ都内方面へ向かおうかって話しになった。
(父も弟もビールを飲んでたので、私が帰り道の運転手だった)
私「◯◯(弟の名前)、帰り道ナビで設定して。」
弟「了解。(ナビを操作する弟)
ん?行ってない残りの2つの湖すぐ近くっぽい」
母「お昼ご飯食べたの遅くてまだそんなにお腹空いてないし、
せっかくなら見ていこうかー?」
父「◯◯(私の名前)は夜の運転大丈夫か?
下道だと県境は山道だぞ?」
私「全然大丈夫だよ。一つは帰り道に通るみたいだし、
もう一つはここから横道に数キロだし!
せっかくなら全部の湖制覇して帰ろう。」
正直なところ山道の運転には少し不安があった。
けど久しぶりに家族でゆっくり過ごす時間だったし、
私はハンドルを横道にきり、4つ目のS湖に向かって車を走らせた。
湖へ続く道は鬱蒼とした森の間を少しずつ下っていく道で、
道が左右に蛇行を繰り返している。
ナビを見ると、この道を下りきったすぐ先にS湖はあるらしい。
私は不慣れな山道の運転に集中し、
助手席に座る弟は、
さっき道の駅で貰ったパンフレットを見ながら、
目的地の湖の説明を読み上げている。
後部座席の父と母は、
窓の外の景色を眺めながら弟の読みあげる説明に時おり相槌をうつ。
ゆるやかな右カーブがあり、
ハンドルを切ると数十メートル先に何かが見えた。
何も目標物のない山道だったので、私は自然とスピードを緩めた。
私「ねえ、右側に何かあるよー。」
弟「本当だ。バス停?」
母「本当!こんな所にもバス停があるのねー!
歩いて湖に行く人でもいるのかしら?」
私「もう夕方なのにねー…
こんなとこだと一日に何便もなさそうなのに」
父「…」
確かに前方に見えているのはバス停だ。
車はだんだんとバス停に近づき、そして弟が声をあげた。
弟「ちょ、バス停のとこに人!黒い服来た人がいる!座ってる!」
私「何?バス待ってる人?」
そこに居たのは、黒のウィンドブレーカーを着た人で、
三脚らしいものを抱えてうずくまっているように見えた。
母「座り込んでいるし、声掛けようか…?
バスないのかもしれないし」
私と弟は結構びびってたんだけど、
母は後部座席からノー天気な声をあげる。
母の言葉に私はさらにスピードを落とし、
ナビの時計を見ると5:40…
確かにバスはもうないかもしれない。
それに座り込んでいるって事はどこか具合が悪いのかも?
まさか自殺目当てに来た人じゃないよね?
でも犯罪者とかかも…けど三脚持ってるしな…
頭の中でぐるぐると色々な考えがよぎる。
(みんなに見えていたから、幽霊だとかは考えなかった…)
すると、黙っていた父が大きな声で、
父「止まらないでいいから!早く先行こう」
と声をあげた。
父は日頃からすこぶるお調子者なので、
真剣な顔でそういう父に少し驚きつつ、
私は車のスピードをあげた。
私「ちょっとお父さん何?大きい声だしてさー…」
母「そうよ、お連れさんがいるのも楽しいかもよ」
弟「お連れさんってなんだよ…」
母は田舎に泊まろう!とか旅番組をよく見ているので、
旅の出会いに憧れているのだろう。
父「いや、この道入ってから何となしに嫌な感じがするんだよ…」
弟「嫌な感じって何だよ?
親父霊感とかないと思ってたけど、そんなの?」
弟が茶化した声をあげるも、父は黙ったままだった。
そんな事がありながらも私達は目的地のS湖に到着した。
私「ちょっと、ここすごく綺麗じゃん!
今までの中で一番いいよー!」
弟「他のとこは観光地観光地してたけど、静かでいい感じだなー。」
母「いいわねー!水も透き通ってて、絵画みたい!」
S湖は想像以上に綺麗で、私達はさっきまでの事も忘れて、
口々に大絶賛をはじめた。
私「駐車場に車とめて降りてみよー!他に観光客もいないしさ」
母&弟「いいねいいね!」
私「お父さんも行くよね?」
父「うーん…お父さんは駐車場から眺めるだけでいいよ…」
結局私達は、ぐだぐだ言う父を駐車場に残して
湖まで降りていく事にした。
(駐車場から湖まではすぐ近くだったし、
父も車から降りて景色は眺めてたしね)
湖の近くまで行くと、近場に住んでいるであろうおじさんが、
1人でボートを岸に寄せているだけで、
辺りはシーンと静寂に包まれている。
湖畔に映り込む山が綺麗で、私達は感嘆の声をあげた。
水は青々と透きとおり、夕方にも関わらず本当にキラキラと綺麗だ。
それは今まで見たどんな景色よりも綺麗で幻想的で、
ずっとここにいたいというような気持ちが湧いてくる。
弟は「仕事辞めてここに移住したい」
と言いはじめるし、
母にいたっては、
「死んだらこういうところに骨を散骨してほしいわ」
なんて言っている。
今になってみれば、大げさだなと思うし、
そこまで突飛な考えに至ったのが不思議なんだけど…
(これは母も弟も同じ事を言っていました)
とにかくその時は、
世界にこんなに素晴らしいところがあるんだ!
というすごい高揚感があった。
そうして時間が過ぎていくと、
私達3人はさらに不思議な気持ちになった。
母「ねえ、この辺りって自殺が多いって聞くじゃない?」
弟「うん」
母「でも、こういうところで死ねたら本望かもしれないわよね」
弟「この湖の一部になれるなら、それって幸せだよなー」
母「私このあたりで亡くなる方の気持ちわかる気がするの」
弟「俺も」
私は母と弟の言動に、ぼんやりと違和感を覚えながらも、
頷いていたと思う。
母「帰りたくないわね…」
弟「うん…」
私も頷こうとしていると
「おい!もう帰ろう」
と声がして腕を掴まれた。
振り返ると父が湖まで降りてきていて、私達を揺さぶってる。
その時、
我にかえったような感じになって私達は
父に言われるがままS湖を後にした。
山を超え街に出てから、弟がS湖の事を話しはじめた。
弟「綺麗だったなS湖。不思議な感じだったけど」
私「そうだねー!本当綺麗なところだったよね。
確かに不思議だったけど…」
弟「でも、あの近くに居た人、
俺らの会話聞いてたら驚いただろうな」
私「近くに居たから、絶対聞こえてたよね!
あれじゃ自殺志願者の会話みたいだよね…今思えばだけど」
母「本当よねー!散骨だなんて、
うちにはお墓あるのに何考えてたのかしら」
父「お前らそんなことを話してたのか?縁起でもねーな。
何かに取り憑かれてたんじゃないか?」
(もうこの時には父もいつも通りに戻っていたので、
おどけた感じで話してました)
私「やだ、お父さんやめてよ。
私、お父さんこそ何かに取り憑かれたと思ったよ」
弟「そうそう!バス停の時!いきなり黙るし、大きな声あげるし」
母「そうよねー!だから私、
湖でおじさんが居た時ほっとしたわよー!」
弟「わかるわかる!なんか普通の人に会えてほっとしたっていうかさ」
私「うんうん!湖にはあの人しかいなかったしね。
あれ地元の人かな?近くにペンションっぽいのあったし」
父「ん?おじさんってどこに居た?」
私「どこって、湖でボートを岸に寄せてたじゃん!おじさん!」
弟「親父が俺ら呼びにきた時もすぐそばにいたし、
今その話ししてたじゃん」
母「うんうん。会話聞かれてたら自殺志願者だと勘違いされたかもって」
父「何言ってんだ?そんな人いなかったよ…」
私・母・弟「はあ?いたって。ずっと近くにいたって。」
父「そんな人いなかったよ。
お前らのそばにいたのは、子供を肩車した人だけだろ…?」
もうその後は、家族で絶叫しながら家まで帰りました。
バス停のところに居た人も、
湖にいたおじさんも結局なんだったんだろう…
そしてそんな事がありながらも、
もう一度S湖に行きたいと密かに思っている自分が少し怖いです。
カワサキ村で謎の儀式を見てしまった【土着信仰系】【怖い話】
今から4年程前に体験した話。
当時、俺は出張でG県に1ヶ月程滞在していた。
G県って言うと群馬か岐阜しかないから、
言っちゃうけど岐阜県だ。
しかも岐阜って言っても市内より
三重県に行った方が早い様な田舎だった。
近くにお住まいの方、ごめんなさい。
田舎って言っても駅周辺は
カラオケやキャバクラ等の娯楽施設があったし、
退屈はしなかった。
仕事は出張だから残業も無く定時に帰れた。
始めのうちは知り合いもいないから、
まっすぐビジネスホテルに帰ってたんだけど、
人恋しくて、あるバーに立ち寄った。
そのバーはマスターが1人で切り盛りしてて
カウンターが5席にテーブルが2席程の
小さい店だった。
マスターは坂口憲二を更に男臭くして、
年を重ねたって風貌の人だった。
話も上手くて、
知り合いもいない土地に来ていた俺は
いつしか仕事帰り毎日寄るようになった。
1週間も連続で通うと
常連のお客さんとも顔馴染みになり、
くだらない話で盛り上がった。
特に仲良くなったのはタカシさんと呼ばれる
40歳前の方と、
サーちゃんと呼ばれる
アジアン美人の女の子だった。
タカシさんとサーちゃんも仲が良かったので、
マスターを交えた4人で
いつも閉店まで盛り上がった。
そんなある日の事。
いつも通り仕事を終えた俺はバーに向かった。
地下へ続く短い階段を降り
バーの分厚い木製の扉を開けると、
いつもカウンターに座っているサーちゃんが
テーブル席に座っていた。
友達も一緒の様で、女の子3人で飲んでいた。
俺は1番奥のカウンターに座ると
マスターにビールとお任せでパスタを注文した。
しばらくするとタカシさんも来店し
俺の隣に座り2人で
海外サッカーの話をしていた。
するとサーちゃんが話しかけて来た。
「ゆうきさん(俺)って、幽霊とか信じます?」
俺は突拍子もない質問に面食ったが、
その手の話は大好きだったので信じると答えた。
何故かホロ酔いのタカシさんも、
幽霊は絶対にいると主張しだした。
マスターまで話に乗って来て、話題は怖い話になった。
それぞれ体験談を一通り話すと、
そのままの流れで肝試しに行こうと言う事になった。
一番乗り気だったのはマスターで、
店を早く閉めると言いだした。
その後、
皆でマスターの閉店作業を手伝って
日付が変わる前には店を出た。
ここでサーちゃんの友達
2人を紹介しておく。
1人目はジュンちゃん。
細身で身長も高く長い黒髪が印象的な子だ。
2人目はサヤちゃん。
小柄でボブが良く似合う女の子らしい子だ。
俺は女性3人には申し訳ないが、
心の中で品定めなんかをしていた。
結局、俺の心はアジアンビューティーな
サーちゃんを選んでいたんだけど(笑)
女性3人と俺とタカシさんとマスターの
6人で駅前の繁華街を歩き、
マスターのクルマが停めてある駐車場に向かった。
その時、シラフだったのはマスターだけだったので
当然ドライバーはマスターになったって訳だ。
マスターの車は有名なドイツのワゴン車だった。
案外、バーって儲かるんだなぁって
思ったのを覚えてる。
運転席にはマスター。
助手席にはジュンちゃんが座った。
2列目にはタカシさんとサヤちゃん。
俺は当然の様にサーちゃんと最後部に座った。
目的地は通称
「川崎村」
と呼ばれる廃村地。
何でも明治から昭和に掛けての
時期に廃村になった村らしく、
今でも当時の民家等が一応残ってるらしい。
もっぱら建物はボロボロらしいけど。
俺は地元じゃないので川崎村の事は全く
知らなかったけど、意外だったのは
地元民である他の5人も話を聞いた事あるレベルで
実際行った者はいなかった。
要するに地元でもそんなに有名なスポット
ではないって事だ。
辛うじて最年長のマスターが
川崎村までの行き方を知っていた。
どうもここから車で山に向かって
1時間位走らせるらしい。
さらには途中で車が行き来出来ない道になる為、
そこからは徒歩で行くしかないと聞かされた。
俺は歩きと聞いてテンション下がったけど、
他の5人はそうではない様子で
陽気に鼻歌なんか歌っていた。
途中、
タカシさんがもようしたのでコンビニに寄った。
ついでなので、
そこで飲み物やらライトやらを買った。
街を背に田園を抜けて、
両手に広がる景色は山ばかりになった。
ちょうど山と山を縫う様に通る県道をひた走る。
更に県道を進んで、
目印とされる潰れたドライブインで右折した。
そこからは本当の山道で、
辛うじて舗装はされているが、
アスファルトが所々めくれていてデコボコ道だった。
更に車を走らせるといよいよ舗装もされていない
砂利道に変わった。
砂利道を進むと不自然な広場に出た。
広場から先は黒と黄色のロープが張ってあり、
ロープには看板がぶら下げてあった。
土砂崩れ注意
立入禁止
◯△□市役所
ここから先は情報通り徒歩で行くしかない様だ。
ロープを跨ぎ、6人は細い砂利道を慎重に進む。
月明かりも木々に遮られて、視界は非常に悪い。
しかも膝上まで伸びきった草のせいで歩きにくい。
それだけで十分、心霊スポットとして合格だった。
ただ雰囲気はあるものの、
その時はまだ嫌な感じとかはしていなかった。
どんどん草をかき分けて進むと、
またちょっとした広場に出た。
その広場は捨てられた
家電製品やタイヤの残骸が
山の様に積まれていた。
恐らく不法投棄だろう。
そしてその広場を抜けると更に細い獣道になった。
道を間違ったんじゃないかと
女性陣は口々に言っていたが、
マスターが言うには間違いないらしい。
と言うか、
この道らしき道を進む以外は
鬱蒼とした木々が邪魔をして
歩けるスペースなんかなかった。
15分程、獣道を進んだだろうか。
ふと、先頭を歩いていたマスターが立ち止まった。
それにつられるように全員歩を止める。
マスターの目線の先には
大きな石碑が2つ並んでいた。
並ぶと言っても、
石碑と石碑の間には車2台がすれ違える程の
間隔があった。
ちょうど石碑と石碑の間が門の様に見えた。
東大寺の金剛力士像を
思い出すとイメージしやすいかな?
右側石碑は全体的に四角い感じで、
大きさで言えばお墓程度の物。
年月が経ち過ぎてて、
石に苔がビッシリついていた。
何か文字が彫ってある様だが、解読出来なかった。
今思えば、村の名前が彫られていたんだと思う。
そして左の石碑は全体的に丸みを帯びた石で、
非常に大きかった。
こちらも文字が彫ってあったが
四角い石碑同様読み取る事は難しかった。
ただ「慰」と「碑」の文字が辛うじて読み取れた。
石碑と石碑の間を抜け、
俺達はいよいよ村に侵入した。
地形だけから見れば、
山間の村。そんな印象だった。
遠くにいくつか、
建物らしき物が確認出来た。
取り合えず、俺達は建物に向けて進んだ。
村の中も雑草やら
倒れた木やらで足元は悪かった。
建物に近付くずくにつれ、
それが潰れた廃墟だとわかった。
ざっと見た感じ、廃墟は20戸くらいあった。
全部木造の平屋建てで、
時代劇に出て来る様な
「長屋」
をイメージしてもらうと解り易いだろう。
その殆どが倒壊しており、
柱や梁がむき出しになっていた。
俺達は比較的、傾いていない
建物内に入る事にした。
恐らく玄関の引き戸だったであろう
物をはずして中に侵入した。
玄関は土間になっていて、
そこから一段高くなって畳が敷いてあった。
ただ畳もボロボロに腐っていて、
床には所々穴が開いていた。
俺達は躓かない様に慎重に民家内を捜索した。
特に変わった物はなかったが、
明治時代に廃村になったとは本当の様で、
電化製品の残骸は愚か、
照明設備がない事がそれを証明するようだった。
あの時代はランプや蝋燭で
照らしていたんだなぁとしみじみ思った。
あれこれ探し終わり、俺達はその民家を出た。
そしてそこからなるべく入り易そうな民家を
3、4軒見てまわった。
以前にも肝試し客が訪れた痕跡
(ジュースの缶等)があったけど、
ここ数10年は誰も来ていないようだった。
なんせ見た事ないメーカーのジュースの缶だったし。
ペットボトルなんかはなかったしね。
一通り見終えて、俺達は一服する事にした。
思ったより怖くないなど口々に言いながら
煙草をふかしていると、
民家の裏の丘の方から嗚咽と言うか、
動物の鳴き声と言うか、
説明しにくい声が聞こえた。
それは全員聞こえていたようで、
皆、いっせいに丘の方を見た。
「ウオォォォォッ」
再び声が聞こえた。
今度は叫び声よりは獣の遠吠えの様に聞こえた。
皆、身構えている。
それから全神経を集中させ、
3度目の声を待ったが、
ついに声が聞こえることはなかった。
「今のは何だったんだろう?」
俺が皆に向けて問う。
すると、答えてくれたのはマスターだった。
「多分コヨーテとかじゃないか?」
「コヨーテって日本にいないでしょ?」
サーちゃんが突っ込む。
「そりゃそうだな。」
マスターが恥ずかしそうに、
はにかんだ笑顔を見せる。
一同が笑いの渦に包まれた。
「ねぇ?さっきの声が聞こえた方、
見に行ってみない?」
サヤちゃんが提案する。
皆、動物だと思ってたんで、
この時点で反対する者はいなかった。
民家の裏庭を抜けて、
少し小高くなった丘を登った。
下からでは良く見えていなかったが、
丘を抜けるとそこはだだっ広い草原になっていた。
そして草原のちょうど中央部には小屋があった。
中からは明かりが漏れているようだ。
「誰かいるのかな?」
「近付いて確認してみるか?」
6人は恐怖心よりも好奇心が勝ったため
小屋まで進むことにした。
恐る恐る小窓から中を覗いてみる。
そこには異様な光景が広がっていた。
小屋の大きさは畳10帖程度。
部屋の四隅には蝋燭と盛り塩、
そして犬・豚・牛・鶏の頭が置かれていた。
更に部屋の中央には祭壇と思わしき棚があり、
酒や榊、米等が所狭しと並んでいた。
そして部屋の壁一面は墨で殴り書きした様な文字で
埋め尽くされていた。
一番驚いたのは祭壇の前で、
白髪の老婆が祈りを捧げていた事だ。
何やら唱えているが、それが日本語なのかさえ、
判断しかねる内容だった。
でもその呪文を唱えるリズムが妙に心地よく、
酒に酔っている時の感覚と似ていた。
俺はまわりの皆を見渡した。
皆が皆、目を細め気持ちよさそうに
呪文に耳を傾けている。
老婆は尚も、呪文を唱え続ける。
そして何やら麻の袋から取り出した。
それは、多分「人間」だった。
しかもペラペラの。
きっと人間の皮を剥がした物だったと思う。
あまりのグロテスクさにジュンちゃんとサヤちゃんが
悲鳴を上げてしまった。
その瞬間、老婆が俺達に気付いた。
「見たなぁぁぁぁぁ。」
俺にはそう聞こえた。
そして老婆は次の瞬間、
四つん這いになって俺達の方に駆けて来た。
そう、まるで犬の様に。
俺達は一目散で小屋から離れ、丘を下った。
周りの心配をしている余裕はなかった。
ただ叫び声や走る音で
全員ついて来ているとわかった。
倒壊した集落を背に、
石碑の広場まで一気に走りぬけた。
「ぜぇぜぇぜぇ」
息を切らして皆の安否を確かめる。
どうやら全員逃げ切ったみたいだ。
遠くの方ではまた遠吠えが聞こえた。
多分、この声はあの老婆の者だろう。
きっと動物の霊を体に降ろしているに違いない。
皆、無言でマスターのワゴン車まで戻った。
帰りの車内も皆、一様に無言だった。
気付くとバーの前にいた。
軽く挨拶を交わし、それぞれ帰路についた。
次の日から俺はバーに通う事はなくなった。
そのまま出張の1ヶ月を終えて、
地元に帰った。
地元に帰ってから半年が過ぎ、
ようやくあの老婆の事を思い出すこともなくなった。
それまでは時折、夢にまで出てきやがったんだ。
そんなある日、俺のケータイが鳴った。
サーちゃんからだった。
「もしもし?」
俺が恐る恐る出る。
「ゆうきさん、久しぶり。」
サーちゃんはあたり前だけど、
半年前と変わらない声をしていた。
「もしヒマがあったら少し話がしたいの。」
特に用事もなかったから、
次の日曜に再び岐阜まで行く約束をした。
日曜、サーちゃんは待ち合わせ2分前に
ファミレスに来た。
「久しぶり」
「ああ、久しぶり」
取り留めのない挨拶を交わす。
「今日、ゆうきさんを呼んだのはね……」
サーちゃんが切り出した。
「実はあの後、タカシさんやマスター達に
連絡が取れなくなって……」
どうやらあの一件から、
タカシさんやマスターと
音信不通になってしまったらしい。
マスターはバーも閉店させていた。
風の噂では田舎に帰ったらしい。
タカシさんに至っては
まるで消息がつかめないというのだ。
サーちゃんは続ける。
「だから私、あの村の事を自分なりに調べたの。」
そう言って、
俺に一冊のファイルを手渡した。
ファイルには次の様な事が書いてあった。
川崎村(皮裂村)
昭和2年 廃村
江戸時代中期から明治初期にかけては、
皮製品を主な収入元とした人々が暮らしていた。
村の人口は総勢で約100人程。
所謂、被差別地域。
外界との交流は殆どなく、
農耕や狩猟でほぼ自給自足の生活をしていた。
明治後期には村の人口が20名を切り、
昭和2年、最後の村人数名が隣の村に移った為、
廃村。
ここまで来て、ピンと来た。
「もしかしてあの老婆は
最後の川崎村の村人だったって事?」
サーちゃんは深く頷いた。
「もともとあの村は 皮裂村と呼ばれ、
ひどい差別を受けてきたの。
そうしていくうちに、
外界との交流はなくなり、孤立化して行った。
そしてあの村は狩猟や皮製品を
生業として来た人の村だから、
畜生を神として称え、祀った。
あの左の石碑は殺した家畜達の
慰霊碑だったみたいね」
更にサーちゃんは続けた。
「村のある家系には
今で言うイタコのような事が
出来る一族がいたらしいの。
その一族は畜生の霊を降ろして、
農作物の豊作を祈ったり、
病気の者を治癒していたみたい。
そして年1回、畜生の神様に生贄として
人間の皮を捧げていた」
どうやら俺達があの場所で見た物は
その儀式の一部だったみたいだ。
その後、
あの老婆がどうなったのかは知らないし、
知る気もしない。
ただ川崎村近辺の町では今も尚、
年1人〜2人程が行方不明になっている。