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2019年03月12日

借家の話「もし家を建て替えていなければ・・・」【怖い話】





建替えた持ち家と、一時住んだ借家での話。


子供の頃、あちこちガタのきた、
古くて狭い木造家屋に住んでいた。

そんな時、隣の土地を買えたので、
そのボロ家を潰してちょっと広い家を新築することになった。

しかし、
さぁこれからという時に祖母が病気になり、
半年後に亡くなった。


家の建替え費用から、数百万円が治療費や葬儀に消えた。


当時の我が家の家計では、
消えた費用をもう一度貯めるには何年かかるか分からない。


建替えを諦めるか悩んだ母は、
伯母の紹介でとある占い師に相談した。



占い師いわく、

「無理してでも建てなさい。
 急がないと家族に不幸が出るかもしれない」と。

それで両親はかなり覚悟のいる借金をして、
家を新築することにした。


住家を壊すので、
新居が完成するまでは借家住まいになる。


運良く、家から徒歩15分程の所に、
二階建て一軒家の賃貸物件が見つかった。


家賃も安く、小鳥を飼っていたし、姉は受験を控えていたしで、
両親は喜んでろくに下見もせずにその一軒家を借りてしまった。


借家は住宅密集地の真ん中にあり、
二階の南窓に僅かに陽が当たるだけの薄暗い家。


一階が玄関・台所・洋間・風呂・洗面・トイレで、
二階が洋間と和室。

玄関は鬼門になっている。


この家がとにかくジメジメしていて、暗くて臭い。


家中どこに居ても、
下水管から上ってくるような生臭いニオイがする。


おまけに蝿やゴキブリ、
蟻、蜘蛛、団子虫、百足、ダニやノミ・・・。


毎日狂ったように掃除しても、
いたるところから涌き出る虫。


さらに南側隣家との隙間、
猫の額ほどの庭にはしょっちゅう猫の死骸が落ちている。

10日に一度くらいの凄い頻度で。

ただでさえ臭い家に、台所の小窓から死臭が入る。

家の周辺が野良猫のたまり場になっていて、
夜は鳴き声がうるさくて眠れない。


飼っていた小鳥は鳴かなくなり、
専業主婦の母は1ヵ月でノイローゼ気味になった。


一階の台所は一応ダイニングキッチンだったが
誰もそこで食事する気にならず、二階の床にちゃぶ台を置いて、
小鳥も含め家族全員なるべく二階で過ごした。


多少なりとも陽の差す二階の方が、
不浄な空気が少ない気がしていた。


この家には何か悪いモノでも憑いているんじゃないか?、
とみんな思っていた。


仏壇も二階に置いて、
中の祖父母やご先祖に毎日手を合わせた。


「家族に災難が起きませんように。
 早く新しい家が建ちますように」と。


宗教に特別熱心な家ではなく、
普段は盆と命日と法事くらいしか拝まなかったが、
あの借家にいる間は家族全員が内でも外でも
「神様仏様」と拝み倒した。

とにかく怖かった。


家の仏壇、近所の神社やお寺やお地蔵さんまで、
拝めるものは拝み倒したおかげか、
新しい家は予定より3ヶ月も早く完成した。


11月の爽やかな秋晴れの日、
気味の悪い借家から無事に引っ越すことが出来た。


年が明けて平成7年1月17日、
阪神淡路大震災が起こる。

我が家は震度7の激震地だった。


近所はみなぺちゃんこに倒壊し、
うちを含め比較的新しい家だけが数軒残った。

何人も亡くなった。


もし新築していなければ、
我が家でも犠牲が出ていたかもしれない。



そして、あの借家は全壊し、
そこに新しく入っていた家族のうち2人が亡くなったと聞いた。


あくまで天災だし、
ご不幸に遭われた方々はお気の毒に思う。


自分たちの幸運を、
八百万の神様や仏様に感謝いたします。




posted by kowaihanashi6515 at 23:09 | TrackBack(0) | 洒落怖

空き家の記憶【怖い話】





昔、炭坑が廃山になり
それまで皆が住んでた区域の炭住が
あちこち空家になり取り壊す為、
残ってる人達は他の区域の炭住に移された。

幾日か経って突然修行僧が我が家にやってきた。

「早く引っ越したほうが良い。
 私の力ではどうしようできない。ここは・・」

詳しくは覚えてないけどそんな事を言ったと思います。

当時、真面目一徹の父が仕事を失ったショックで病気になり
働けず私達子供もまだ幼く、
母がパートの掛け持ちで何とか暮らしている状態で
引っ越したくても引っ越せない状況。

「みんな心配するんじゃない」

と父はお坊さんを帰らせ
私達を安心させようといつもは見せてくれない
お笑い番組を見ていいと許しが出たり、
お小遣いを貰ったりとても幸せな出来事が続いたので
すっかりその修行僧の事は忘れてしまった。

我が家の横の棟は空家で

「あの家で遊んだら駄目よ。傾いているから危ない」

と親に言われていた。

でもその空家は炊事場の水道が出たり
家の中には家財がほとんど残ってて
テレビも電源がついて番組が見れたので
私と妹は親の目を盗み毎日のように遊んでた。

(今思えばおかしな状況です。でも妹と昔話をすると
 「あの頃は楽しかったね。でも何で電気ついたんかなぁ?
  前の住人が夜逃げしたすぐあとだったんだろうね」
と当時の事を話すので私の記憶違いではないはずです。)

ある日、急に妹が寝てしまったので

「布団かけなきゃ」

と私は押し入れを初めて開けてしまった。


突然目の前に現れた光景は
埃っぽい押入れの中には小さな仏壇と御位牌、
線香とロウソクの燃えカス

そして赤いお米が散乱してて見ているうちに
真っ赤な血が流れているように見え
怖くなり妹を起こそうと呼ぶが声が出ない。

ふと押入れの上を見上げると縄で吊るされた
髪の長い日本人形がクルクル回っていた。

それからどうやって妹を連れて家に戻ったか
記憶がありません。

妹は全く何も見てないようで次の日も

「遊びに行こう」

と私に強請りましたが

「お母さんに怒られたからもう行かない」

と嘘をついてなだめました。


それから1年もしないうちに父が首を吊り自殺しました。

第一発見者は私だそうです。

でも記憶がありません。

「すまん。カァチャンと○○(妹の名前)を頼む。」

父の痩せ細った白い足が木箱をのぼる
今でもたまにそんな悪夢を見ます。

あの日、修行僧は何を父に言ったのか
あの日、私があのお人形を見なければ・・

それがずっとずっと心残りです。







posted by kowaihanashi6515 at 23:04 | TrackBack(0) | 洒落怖

2019年03月07日

旅館の求人【怖い話】






丁度2年くらい前のことです。


旅行にいきたいのでバイトを探してた時の事です。


暑い日が続いてて汗をかきながら求人をめくっては
電話してました。


ところが、何故かどこもかしこも駄目,駄目駄目。


擦り切れた畳の上に大の字に寝転がり、
適当に集めた求人雑誌をペラペラと悪態をつきながら
めくってたんです。


不景気だな、、、

節電の為、夜まで電気は落としています。

暗い部屋に落ちそうでおちない
夕日がさしこんでいます。


窓枠に遮られた部分だけが
まるで暗い十字架のような影を
畳に落としていました。


遠くで電車の音が響きます。


目をつむると違う部屋から夕餉の香りがしてきます。


「カップラーメンあったな、、」

私は体をだるそうに起こし散らかった求人雑誌を
かたずけました。


ふと、、

偶然開いたのでしょうか
ページがめくれていました。


そこには某県(ふせておきます)の
旅館がバイトを募集しているものでした。


その場所はまさに私が旅行に
行ってみたいと思ってた所でした。


条件は夏の期間だけのもので時給はあまり、、
というか全然高くありませんでしたが、
住みこみで食事つき、というところに
強く惹かれました。


ずっとカップメンしか食べてません。


まかない料理でも手作りのものが食べれて、
しかも行きたかった場所。

私はすぐに電話しました。


「、、はい。 ありがとうございます!
○○旅館です。」


「あ、すみません。
求人広告を見た者ですが、
まだ募集してますでしょうか?」


「え、少々お待ち下さい。

・・・・・・・・・・・・
ザ、、、ザ、、ザザ、、、
 ・・い、・・・そう・・・・
だ・・・・・・・・」

受けつけは若そうな女性でした。


電話の向こう側で低い声の男と
(おそらくは 宿の主人?)
小声で会話をしていました。


私はドキドキしながらなぜか
正座なんかしちゃったりして、待ってました。

やがて受話器をにぎる気配がしました。


「はい。お電話変わりました。
えと、、、バイトですか?」


「はい。××求人で ここのことをしりまして、
是非お願いしたいのですが」


「あー、ありがとうございます。
こちらこそお願いしたいです。
いつからこれますか?」


「いつでも私は構いません」


「じゃ、明日からでもお願いします。
すみませんお名前は?」


「神尾(仮名)です」


「神尾君ね。はやくいらっしゃい、、、」

とんとん拍子だった。

運が良かった。。


私は電話の用件などを忘れないように
録音するようにしている。

再度電話を再生しながら
必要事項をメモっていく。

住みこみなので持っていくもののなかに
保険証なども必要とのことだったので
それもメモする。


その宿の求人のページを見ると
白黒で宿の写真が写っていた。

こじんまりとしているが
自然にかこまれた良さそうな場所だ。


私は急にバイトが決まり、
しかも行きたかった場所だということもあって
ホっとした。


しかし何かおかしい。

私は鼻歌を歌いながらカップメンを作った。

何か鼻歌もおかしく感じる。


日はいつのまにかとっぷりと暮れ、
あけっぱなしの窓から湿気の多い
生温かい風が入ってくる。


私はカップメンをすすりながら、
なにがおかしいのか気付いた。


条件は良く、お金を稼ぎながら旅行も味わえる。

女の子もいるようだ。

旅館なら出会いもあるかもしれない。

だが、何かおかしい。

暗闇に窓のガラスが鏡になっている。

その暗い窓に私の顔がうつっていた。

なぜか、まったく嬉しくなかった。。


理由はわからないが私は激しく落ちこんでいた。

窓に映った年をとったかのような
生気のない自分の顔を見つめつづけた。


次の日、

私は酷い頭痛に目覚めた。

激しく嗚咽する。

風邪、、か?私はふらふらしながら歯を磨いた。

歯茎から血が滴った。

鏡で顔を見る。

ギョッとした。

目のしたにはくっきりと
墨で書いたようなクマが出来ており、
顔色は真っ白。、、、

まるで、、、。

バイトやめようか、、
とも思ったが、

すでに準備は夜のうちに整えている。

しかし、、気がのらない。

そのとき電話がなった。

「おはようございます。
 ○○旅館のものですが、神尾さんでしょうか?」


「はい。今準備して出るところです。」

「わかりましたー。
 体調が悪いのですか?失礼ですが声が、、」


「あ、すみません、寝起きなので」

「無理なさらずに。
 こちらについたらまずは温泉など
 つかって頂いて構いませんよ。

 初日はゆっくりとしててください。
 そこまで忙しくはありませんので。」


「あ、、だいじょうぶです。
 でも、、ありがとうございます。」

電話をきって家を出る。

あんなに親切で優しい電話。

ありがたかった。


しかし、電話をきってから今度は寒気がしてきた。

ドアをあけると眩暈がした。

「と、、とりあえず、旅館までつけば、、、」

私はとおる人が振りかえるほど
フラフラと駅へ向かった。

やがて雨が降り出した。

傘をもってきてない私は
駅まで傘なしで濡れながらいくことになった。

激しい咳が出る。


「、、旅館で休みたい、、、、」


私はびしょぬれで駅に辿りつき、切符を買った。

そのとき自分の手を見て驚いた。。

カサカサになっている。

濡れているが肌がひび割れている。

まるで老人のように。


「やばい病気か、、?
 旅館まで無事つければいいけど、、」

私は手すりにすがるようにして足を支えて階段を上った。

何度も休みながら。

電車が来るまで時間があった。

私はベンチに倒れるように座りこみ苦しい息をした。

ぜー、、、ぜー、、、声が枯れている。

手足が痺れている。

波のように頭痛が押し寄せる。

ごほごほ!

咳をすると足元に血が散らばった。

私はハンカチで口を拭った。

血がベットリ。。

私は霞む目でホームを見ていた。


「はやく、、旅館へ、、、」

やがて電車が轟音をたててホームにすべりこんでき、
ドアが開いた。


乗り降りする人々を見ながら、
私はようやく腰を上げた。


腰痛がすごい。フラフラと乗降口に向かう。

体中が痛む。あの電車にのれば、、、、

そして乗降口に手をかけたとき、
車中から鬼のような顔をした老婆が突進してきた。

どしん!

私はふっとばされホームに転がった。

老婆もよろけたが再度襲ってきた。

私は老婆と取っ組み合いの喧嘩を始めた。


悲しいかな、相手は老婆なのに
私の手には力がなかった。


「やめろ!やめてくれ!
 俺はあの電車にのらないといけないんだ!」

「なぜじゃ!?なぜじゃ!?」

老婆は私にまたがり顔をわしづかみにして
地面に抑えつけながら聞いた。


「りょ、、旅館にいけなくなってしまう!」

やがて駅員たちがかけつけ私たちは引き離された。

電車は行ってしまっていた。

私は立ち上がることも出来ず、
人だかりの中心で座りこんでいた。


やがて引き離された
老婆が息をととのえながら言った。


「おぬしは引かれておる。危なかった。」

そして老婆は去っていった。


私は駅員と2〜3応答をしたがすぐに帰された。


駅を出て仕方なく家に戻る。

すると体の調子が良くなってきた。

声も戻ってきた。

鏡を見ると血色がいい。


私は不思議に思いながらも家に帰った。

荷物を下ろし、タバコを吸う。

落ちついてからやはり断わろうと
旅館の電話番号をおした。

すると無感情な軽い声が帰ってきた。


「この電話番号は現在使われておりません、、」

押しなおす

「この電話番号は現在使われておりません、、」

私は混乱した。


まさにこの番号で今朝電話が掛かってきたのだ。

おかしいおかしいおかしい。。。

私は通話記録をとっていたのを思い出した。

最初まで巻き戻す。


、、、、、、、、、
キュルキュルキュル
、、、、、、    


ガチャ

再生

「ザ、、、ザザ、、、、、、、、
 はい。ありがとうございます。
 ○○旅館です。」

あれ、、?私は悪寒を感じた。


若い女性だったはずなのに、
声がまるで低い男性のような声になっている。


「あ、すみません。
 求人広告を見た者ですが、
 まだ募集してますでしょうか?」

「え、少々お待ち下さい。

 ・・・・・・・・・・・・・
 ザ、、、ザ、、ザザ、、、
 ・・い、・・・そう・・・・
 だ・・・・・・・・」

ん??

私はそこで何が話し合われてるのか聞こえた。

巻き戻し、音声を大きくする。

「え、少々お待ち下さい。

 ・・・・・・・・・・・・・
 ザ、、、ザ、、ザザ、、、
 ・・い、・・・そう・・・・
 だ・・・・・・・・」

巻き戻す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・ザ、、、ザ、、ザザ、、、、、
 むい、、、、こご、そう・・・・
 だ・・・・・・・・」

巻き戻す。

「さむい、、、こごえそうだ」

子供の声が入っている。

さらにその後ろで大勢の
人間が唸っている声が聞こえる。

うわぁ!!私は汗が滴った。。

電話から離れる。

すると通話記録がそのまま流れる。

「あー、ありがとうございます。
 こちらこそお願いしたいです。
 いつからこれますか?」

「いつでも私は構いません」、、、

記憶にある会話。


しかし、

私はおじさんと話をしていたはずだ。

そこから流れる声は
地面の下から響くような老人の声だった。


「神尾くんね、、はやくいらっしゃい」

そこで通話が途切れる。


私の体中に冷や汗がながれおちる。

外は土砂降りの雨である。


金縛りにあったように動けなかったが
私はようやく落ちついてきた。

すると、そのまま通話記録が流れた。

今朝、掛かってきた分だ。

しかし、

話し声は私のものだけだった。

、、、、、、

「死ね死ね死ね死ね死ね」

「はい。今準備して出るところです。」

「死ね死ね死ね死ね死ね」

「あ、すみません、寝起きなので」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

「あ、、だいじょうぶです。
 でも、、ありがとうございます。」

私は電話の電源ごとひきぬいた。


かわいた喉を鳴らす。


な、、、、なんだ、、、なんだこれ、、

なんだよ!? 

どうなってんだ??

私はそのとき手に求人ガイドを握っていた。

震えながらそのページを探す。

すると何かおかしい。

、、ん?手が震える。。

そのページはあった。


綺麗なはずなのにその旅館の1ページだけしわしわで
なにかシミが大きく広がり少しはじが焦げている。

どうみてもそこだけが古い紙質なのです。

まるで数十年前の古雑誌のようでした。


そしてそこには全焼して燃え落ちた
旅館が写っていました。

そこに記事が書いてありました。


死者30数名。台所から出火したもよう。


旅館の主人と思われる焼死体が
台所でみつかったことから
料理の際に炎を出したと思われる。

泊まりに来ていた宿泊客達が逃げ遅れて
炎にまかれて焼死。

これ、、なんだ。。

求人じゃない。。

私は声もだせずにいた。

求人雑誌が風にめくれている。

私は痺れた頭で石のように動けなかった。

そのときふいに雨足が弱くなった。。

一瞬の静寂が私を包んだ。


電話がなっている






posted by kowaihanashi6515 at 15:24 | TrackBack(0) | 洒落怖

2019年03月06日

冬山登山【怖い話】





数年前、私がとある雪山で体験した
恐怖をお話しようと思います。


その当時大学生だった私は山岳部に入り、
仲の良い友人も出来て、
充実した大学生活を送っていました。


山岳部の中でも特に仲の良かったA男とB輔とは、
サークルの活動だけでなく、
実生活の方でも非常に親しくなることが出来ました。


そんな私達はまだ大学2年生であり、
就活や卒論までにはまだまだ時間の余裕があったので、

2年の後期が終了するとともに、
3人で旅行に行くことに決めました。


当然のように私達の旅行というのは、
登山の絡むものとなりました。

当時何度かの冬登山の経験を積んでいたとはいえ、
まだ私達は自分たちだけでリードできるほどの
自信は持っていませんでした。


そこで私達は、
A男の実家近くのK山に登ることにしました。


K山ならばAも子供の頃から何度か登っており、
自信があるというのです。


私達の旅行は3泊4日の予定で、
初日にAの実家に泊めてもらい、
翌日から2日かけて山を堪能する計画にしました。


Aの地元に着いた私達は、
Aに案内をしてもらい、市内の観光がてら、
神社で登山の安全祈願をしに行くことにしました。


地元で最大の神社にお参りをしようと境内に入った時に、
Bがピタリと足を止めてしまいました。


どうしたのか不思議がる私達に、Bは

「嫌な視線を感じるわ…
 良くないわこれ…よくない…絶対」

と言って、冬だと言うのに
汗をかき始めてしまいました。

Bはいわゆる『みえる人』です。


普段の生活では、
あまりそれを表面に出す事無く生活しているのですが、
何か大きな危険や不気味で不穏な気配
(本人は見える気配と言っていました)

を感じると、このようになってしまうのです。


実際に以前Bが

「明日嫌だわ」

と言った翌日に、
学校の天井を突き破って死者の出る事件がありました。


私達はそれを知っていたので、

「じゃあ、もう帰って
 温泉につかってゆっくりしようぜ」

というAの提案に乗って、帰宅することにしました。


書き忘れていましたが、
Aの実家は温泉旅館を経営しています。


帰宅途中もBはあまり浮かない顔をして、何か

「ぅん来んなよ…ぅん」

などと言っていた気がします。


AもBを気にかけて、

「大丈夫だよ。俺のじいちゃんから、
 悪いのを追っ払う方法聞いておいてやるからな!」

と言って励まそうとしていました。

ちなみに、
Aが帰宅してからお爺さんに
聞いた追い払う方法と言うのは、

大きな声で

「喝っーーーーーーーーーーー!」

と気合を霊にぶつける方法でした。

あまりにアホ臭かったのですが空気は和み、
私達は温泉につかり、翌日に備えて
早めに床にもぐりこみました。


翌日の天気は快晴、
絶好の登山日和となったK山に、
私達は興奮を抑え切れませんでした。


前日はずっと心配そうな顔をしていたBも、
この時は『早く登りたい!』という
気持ちが顔から溢れていました。


私達は午前8時に出発し、
順調に登山を開始しました。


冬の山は一見殺風景ですが、
時間や高度によって変わる空気の味や、
白い世界に際立つ生命の痕跡など、
普通の登山とは違った楽しみが存在します。


私ももう一つの趣味の写真などを楽しみつつ、
非常に充実した時間を過ごしていました。


私たち3人は、
午前中を各々が山を楽しむ形で歩き続け、
中腹にある山小屋を目指して登っていました。


空気が変わったのは、
ちょうど昼頃を回った時でした。


天気は晴れたままだったのですが、
空気が固定されたように感じ、
動きや気配と言うものが、
消えてしまったかのように感じたのを覚えています。


それまでは、
Aを先頭にかなりゆったりとしたペースで
B、私と続くように歩いていました。


ところが、その静止した空気を
私が周囲に感じ始めた頃から、
Bのペースが俄然速くなりました。


雪山と言うのは、
パッと見はまさに死の世界です。


私は、このままAとBに置き去りにされ、
何も無い白の空間を彷徨う恐怖を感じ
急いで追いかけました。


幸い置いて行かれることは無かったのですが、
追いついたBの様子が変です。


その頃にはAも心配して、
Bの様子を見に少し降りてきていました。


Bは蒼白な顔で、

「ダメだわ、付いて来ちゃったダメだ。
 よくないって…だめだめだめだ」

と呟いていました。

私達も昨日のあれなのかなと思い、
二人で顔を見合わせていると、
Bは急に顔を上げ、

「後ろ見んなよ!後ろみんなよ!」

と言った後、

「ごめん!昨日のあれ、付いてきてるみたいだわ。
 俺怖いよ。やばいよ」

と言って、
今にも泣き出しそうな顔になりました。


私には霊感が無いので、
その時は後ろを見ても何も見えないだろうと思い、
Bの忠告を無視して後ろを見てしまいました。

すると、『それ』がいました。

私達の後ろ50メートル程の所に、
何か人ではない何かがこちらをじっと
うかがって見ています。


Aを見ると、
Aも同様のものを見てしまったようで、
顔が固まっています。


私は始めて見る心霊現象に驚きつつも、
それを観察していました。

頭は縦に長く、
黒い髪が顔全体にかかっているようです。

シルエットは少し膨れた
人間のようなものなのですが、
白い毛が体全体に生えているのか、
それとも体がかすんでいるのか、
ぼんやりとしか見えませんでした。


何より、気配や存在感が
明らかに人ではありませんでした。


明らかに周囲の世界や雰囲気から
浮いているのです。


『それ』が動きもせずに、
じっとこちらを見上げてたたずんでいるのです。


不思議なことに私は、
『それ』から緑の視線を感じていました。


説明が難しいのですが、
緑色の視線としか形容できないものです。


Bは「ダメだろあれ?もうあかんだろ?」

と何やら錯乱しているようで、
ほとんど泣いていました。

Bの恐ろしさが伝染したのか、
私もAも泣いてしまい、

泣き顔で「諦めんなよ!」やら、
「逃げるぞ!」などと、お互いを叱咤しました。

幸いそれと私達の間にはまだ距離があったので、
私達は大急ぎで中腹の山小屋まで
急ぐことにしました。


山小屋には常に人がいるはずですし、何より、
『それ』のそばを通って下山するのは、
恐ろしいことのように感じたからです。


3人で30分ほどハイペースで登っていたのですが、
『それ』らは一向に距離が開きません。


ぴったり50メートルほどを保ちながら、
こちらを追い詰めるように
悠然と追いかけてくるのです。

今にして思えば、
それは歩いていませんでした。


私が振り向くたびに、
必ずそれは両足をそろえて直立していたからです。

それは追っていたのではなく、
背後50メートルに『あった』と
表現する方が正しいかもしれません。

私達は次第に、
精神的に追い詰められてゆきました。


そこからしばらく行ったところで、

Aは「こちらに近道がある!」

と、普段の観光用のぐるりと回った登山道を離れ、
少し細い脇道に入っていきました。

が、思えばこれが間違いでした。

細い脇道は、夏の間は管理用として
使われているのかもしれませんが、
冬の山では雪が降り積もり、
細い道は非常に見難かったのです。


私達はいつのまにか、
道をはずれてしまったようでした。


また最悪なことに、
あれほど晴れていた天気が
2時を回った頃から急転し、

今では深深と降る雪になっていました。

時間もいつのまにか午後4時を回っており、
私達はかれこれ3時間以上を『それ』から
逃げ続けていました。

冬の山の夜は早いです。


既に日も落ちつつあり気のせいか
雪も激しさを増しているような気がします。


道を外れた迷子の私達は、
いつの間にか30度を越える
急斜面を横に横に逃げていました。


もうこの頃には、
山小屋へ行こうだとか、
道を探そうなどという考えは無く、
ただひたすらに後ろから逃げるという、
本能のみで動いていたように思います。


しかし、無理な行軍や精神的なストレスは、
私達の体を着実に蝕んでいました。


ついに真ん中を歩いていたBが、
足をもつれさせるようにして倒れたのです。

私もAも急いで駆け寄りました。


Bは「ダメ俺ダメ。もうダメだ。歩けないわ。
   先に行ってくれよ、追いつくからさ」

と、うわ言のように呟いています。


恐らく、『それ』の気配をBは前日から
ずっと気にしていたのでしょう。


Bの疲労は尋常ではないかのように見えました。


更に、誤ったペース配分の行軍が、
脱水症状も引き起こしているように見えました。


現実的に、ここからBが歩くのは無理です。

私とAは途方にくれました。


私はこの時、もしかしたらここで休憩しても、
『それ』は50メートルから動かないのではないか、
と淡い期待を描いていました。


私自身もそろそろ体力の限界だったのです。


ところが、その淡い期待は
簡単に裏切られてしまいました。


『それ』は、
はじめて一歩を踏み出したのです。


非常にのろい歩みでしたが、
それは私達を絶望させるのに十分でした。


一番体力の残っていそうなAも、
遂にへたり込んでしまいました。


『それ』は一歩一歩こちらに歩んできます。


もはやそれとの距離は
50メートルではありませんでした。


私は絶望に包まれて、
こんなところで死ぬのかな。

凍死扱いになるのかな。

それとも死体も見つからないのかな。

などと考えていました。


すると突然、
それまでぶつぶつ呟いていたAが立ち上がり、

「ちくしょう、やってやる。
 ぶっ殺してやる。なめやがって。
 化けもんが。ちくしょう!」

などとキレたと思うと、

「喝ーーーーーーーーーっ!!!!」

と、お爺さんに言われたように
大声で気合を飛ばしました。


ところが、その気合に
『それ』は全く反応しませんでした。


しかしその気合が利いたのか、
大声がきっかけになったのか、

『それ』の上方にある深雪が雪崩を起こしたのです。

それは数十トンの雪の流れに飲み込まれ、

「う、うわあぁあああぁぁぁぁぁ」

という声を上げ、雪崩に飲み込まれて
下に流されていってしまいました。

後に残った私達は、
呆然として口をあけていました。


その後は雪洞を掘り、
一晩を明かして翌日に下山できました。

これは未だに私のトラウマです。


未だに何が起きたのかさっぱりわからないので、
どなたか『それ』についてご存知の方は
いらっしゃらないでしょうか?





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