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2019年03月07日

旅館の求人【怖い話】






丁度2年くらい前のことです。


旅行にいきたいのでバイトを探してた時の事です。


暑い日が続いてて汗をかきながら求人をめくっては
電話してました。


ところが、何故かどこもかしこも駄目,駄目駄目。


擦り切れた畳の上に大の字に寝転がり、
適当に集めた求人雑誌をペラペラと悪態をつきながら
めくってたんです。


不景気だな、、、

節電の為、夜まで電気は落としています。

暗い部屋に落ちそうでおちない
夕日がさしこんでいます。


窓枠に遮られた部分だけが
まるで暗い十字架のような影を
畳に落としていました。


遠くで電車の音が響きます。


目をつむると違う部屋から夕餉の香りがしてきます。


「カップラーメンあったな、、」

私は体をだるそうに起こし散らかった求人雑誌を
かたずけました。


ふと、、

偶然開いたのでしょうか
ページがめくれていました。


そこには某県(ふせておきます)の
旅館がバイトを募集しているものでした。


その場所はまさに私が旅行に
行ってみたいと思ってた所でした。


条件は夏の期間だけのもので時給はあまり、、
というか全然高くありませんでしたが、
住みこみで食事つき、というところに
強く惹かれました。


ずっとカップメンしか食べてません。


まかない料理でも手作りのものが食べれて、
しかも行きたかった場所。

私はすぐに電話しました。


「、、はい。 ありがとうございます!
○○旅館です。」


「あ、すみません。
求人広告を見た者ですが、
まだ募集してますでしょうか?」


「え、少々お待ち下さい。

・・・・・・・・・・・・
ザ、、、ザ、、ザザ、、、
 ・・い、・・・そう・・・・
だ・・・・・・・・」

受けつけは若そうな女性でした。


電話の向こう側で低い声の男と
(おそらくは 宿の主人?)
小声で会話をしていました。


私はドキドキしながらなぜか
正座なんかしちゃったりして、待ってました。

やがて受話器をにぎる気配がしました。


「はい。お電話変わりました。
えと、、、バイトですか?」


「はい。××求人で ここのことをしりまして、
是非お願いしたいのですが」


「あー、ありがとうございます。
こちらこそお願いしたいです。
いつからこれますか?」


「いつでも私は構いません」


「じゃ、明日からでもお願いします。
すみませんお名前は?」


「神尾(仮名)です」


「神尾君ね。はやくいらっしゃい、、、」

とんとん拍子だった。

運が良かった。。


私は電話の用件などを忘れないように
録音するようにしている。

再度電話を再生しながら
必要事項をメモっていく。

住みこみなので持っていくもののなかに
保険証なども必要とのことだったので
それもメモする。


その宿の求人のページを見ると
白黒で宿の写真が写っていた。

こじんまりとしているが
自然にかこまれた良さそうな場所だ。


私は急にバイトが決まり、
しかも行きたかった場所だということもあって
ホっとした。


しかし何かおかしい。

私は鼻歌を歌いながらカップメンを作った。

何か鼻歌もおかしく感じる。


日はいつのまにかとっぷりと暮れ、
あけっぱなしの窓から湿気の多い
生温かい風が入ってくる。


私はカップメンをすすりながら、
なにがおかしいのか気付いた。


条件は良く、お金を稼ぎながら旅行も味わえる。

女の子もいるようだ。

旅館なら出会いもあるかもしれない。

だが、何かおかしい。

暗闇に窓のガラスが鏡になっている。

その暗い窓に私の顔がうつっていた。

なぜか、まったく嬉しくなかった。。


理由はわからないが私は激しく落ちこんでいた。

窓に映った年をとったかのような
生気のない自分の顔を見つめつづけた。


次の日、

私は酷い頭痛に目覚めた。

激しく嗚咽する。

風邪、、か?私はふらふらしながら歯を磨いた。

歯茎から血が滴った。

鏡で顔を見る。

ギョッとした。

目のしたにはくっきりと
墨で書いたようなクマが出来ており、
顔色は真っ白。、、、

まるで、、、。

バイトやめようか、、
とも思ったが、

すでに準備は夜のうちに整えている。

しかし、、気がのらない。

そのとき電話がなった。

「おはようございます。
 ○○旅館のものですが、神尾さんでしょうか?」


「はい。今準備して出るところです。」

「わかりましたー。
 体調が悪いのですか?失礼ですが声が、、」


「あ、すみません、寝起きなので」

「無理なさらずに。
 こちらについたらまずは温泉など
 つかって頂いて構いませんよ。

 初日はゆっくりとしててください。
 そこまで忙しくはありませんので。」


「あ、、だいじょうぶです。
 でも、、ありがとうございます。」

電話をきって家を出る。

あんなに親切で優しい電話。

ありがたかった。


しかし、電話をきってから今度は寒気がしてきた。

ドアをあけると眩暈がした。

「と、、とりあえず、旅館までつけば、、、」

私はとおる人が振りかえるほど
フラフラと駅へ向かった。

やがて雨が降り出した。

傘をもってきてない私は
駅まで傘なしで濡れながらいくことになった。

激しい咳が出る。


「、、旅館で休みたい、、、、」


私はびしょぬれで駅に辿りつき、切符を買った。

そのとき自分の手を見て驚いた。。

カサカサになっている。

濡れているが肌がひび割れている。

まるで老人のように。


「やばい病気か、、?
 旅館まで無事つければいいけど、、」

私は手すりにすがるようにして足を支えて階段を上った。

何度も休みながら。

電車が来るまで時間があった。

私はベンチに倒れるように座りこみ苦しい息をした。

ぜー、、、ぜー、、、声が枯れている。

手足が痺れている。

波のように頭痛が押し寄せる。

ごほごほ!

咳をすると足元に血が散らばった。

私はハンカチで口を拭った。

血がベットリ。。

私は霞む目でホームを見ていた。


「はやく、、旅館へ、、、」

やがて電車が轟音をたててホームにすべりこんでき、
ドアが開いた。


乗り降りする人々を見ながら、
私はようやく腰を上げた。


腰痛がすごい。フラフラと乗降口に向かう。

体中が痛む。あの電車にのれば、、、、

そして乗降口に手をかけたとき、
車中から鬼のような顔をした老婆が突進してきた。

どしん!

私はふっとばされホームに転がった。

老婆もよろけたが再度襲ってきた。

私は老婆と取っ組み合いの喧嘩を始めた。


悲しいかな、相手は老婆なのに
私の手には力がなかった。


「やめろ!やめてくれ!
 俺はあの電車にのらないといけないんだ!」

「なぜじゃ!?なぜじゃ!?」

老婆は私にまたがり顔をわしづかみにして
地面に抑えつけながら聞いた。


「りょ、、旅館にいけなくなってしまう!」

やがて駅員たちがかけつけ私たちは引き離された。

電車は行ってしまっていた。

私は立ち上がることも出来ず、
人だかりの中心で座りこんでいた。


やがて引き離された
老婆が息をととのえながら言った。


「おぬしは引かれておる。危なかった。」

そして老婆は去っていった。


私は駅員と2〜3応答をしたがすぐに帰された。


駅を出て仕方なく家に戻る。

すると体の調子が良くなってきた。

声も戻ってきた。

鏡を見ると血色がいい。


私は不思議に思いながらも家に帰った。

荷物を下ろし、タバコを吸う。

落ちついてからやはり断わろうと
旅館の電話番号をおした。

すると無感情な軽い声が帰ってきた。


「この電話番号は現在使われておりません、、」

押しなおす

「この電話番号は現在使われておりません、、」

私は混乱した。


まさにこの番号で今朝電話が掛かってきたのだ。

おかしいおかしいおかしい。。。

私は通話記録をとっていたのを思い出した。

最初まで巻き戻す。


、、、、、、、、、
キュルキュルキュル
、、、、、、    


ガチャ

再生

「ザ、、、ザザ、、、、、、、、
 はい。ありがとうございます。
 ○○旅館です。」

あれ、、?私は悪寒を感じた。


若い女性だったはずなのに、
声がまるで低い男性のような声になっている。


「あ、すみません。
 求人広告を見た者ですが、
 まだ募集してますでしょうか?」

「え、少々お待ち下さい。

 ・・・・・・・・・・・・・
 ザ、、、ザ、、ザザ、、、
 ・・い、・・・そう・・・・
 だ・・・・・・・・」

ん??

私はそこで何が話し合われてるのか聞こえた。

巻き戻し、音声を大きくする。

「え、少々お待ち下さい。

 ・・・・・・・・・・・・・
 ザ、、、ザ、、ザザ、、、
 ・・い、・・・そう・・・・
 だ・・・・・・・・」

巻き戻す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・ザ、、、ザ、、ザザ、、、、、
 むい、、、、こご、そう・・・・
 だ・・・・・・・・」

巻き戻す。

「さむい、、、こごえそうだ」

子供の声が入っている。

さらにその後ろで大勢の
人間が唸っている声が聞こえる。

うわぁ!!私は汗が滴った。。

電話から離れる。

すると通話記録がそのまま流れる。

「あー、ありがとうございます。
 こちらこそお願いしたいです。
 いつからこれますか?」

「いつでも私は構いません」、、、

記憶にある会話。


しかし、

私はおじさんと話をしていたはずだ。

そこから流れる声は
地面の下から響くような老人の声だった。


「神尾くんね、、はやくいらっしゃい」

そこで通話が途切れる。


私の体中に冷や汗がながれおちる。

外は土砂降りの雨である。


金縛りにあったように動けなかったが
私はようやく落ちついてきた。

すると、そのまま通話記録が流れた。

今朝、掛かってきた分だ。

しかし、

話し声は私のものだけだった。

、、、、、、

「死ね死ね死ね死ね死ね」

「はい。今準備して出るところです。」

「死ね死ね死ね死ね死ね」

「あ、すみません、寝起きなので」

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

「あ、、だいじょうぶです。
 でも、、ありがとうございます。」

私は電話の電源ごとひきぬいた。


かわいた喉を鳴らす。


な、、、、なんだ、、、なんだこれ、、

なんだよ!? 

どうなってんだ??

私はそのとき手に求人ガイドを握っていた。

震えながらそのページを探す。

すると何かおかしい。

、、ん?手が震える。。

そのページはあった。


綺麗なはずなのにその旅館の1ページだけしわしわで
なにかシミが大きく広がり少しはじが焦げている。

どうみてもそこだけが古い紙質なのです。

まるで数十年前の古雑誌のようでした。


そしてそこには全焼して燃え落ちた
旅館が写っていました。

そこに記事が書いてありました。


死者30数名。台所から出火したもよう。


旅館の主人と思われる焼死体が
台所でみつかったことから
料理の際に炎を出したと思われる。

泊まりに来ていた宿泊客達が逃げ遅れて
炎にまかれて焼死。

これ、、なんだ。。

求人じゃない。。

私は声もだせずにいた。

求人雑誌が風にめくれている。

私は痺れた頭で石のように動けなかった。

そのときふいに雨足が弱くなった。。

一瞬の静寂が私を包んだ。


電話がなっている






posted by kowaihanashi6515 at 15:24 | TrackBack(0) | 洒落怖

2019年03月06日

冬山登山【怖い話】





数年前、私がとある雪山で体験した
恐怖をお話しようと思います。


その当時大学生だった私は山岳部に入り、
仲の良い友人も出来て、
充実した大学生活を送っていました。


山岳部の中でも特に仲の良かったA男とB輔とは、
サークルの活動だけでなく、
実生活の方でも非常に親しくなることが出来ました。


そんな私達はまだ大学2年生であり、
就活や卒論までにはまだまだ時間の余裕があったので、

2年の後期が終了するとともに、
3人で旅行に行くことに決めました。


当然のように私達の旅行というのは、
登山の絡むものとなりました。

当時何度かの冬登山の経験を積んでいたとはいえ、
まだ私達は自分たちだけでリードできるほどの
自信は持っていませんでした。


そこで私達は、
A男の実家近くのK山に登ることにしました。


K山ならばAも子供の頃から何度か登っており、
自信があるというのです。


私達の旅行は3泊4日の予定で、
初日にAの実家に泊めてもらい、
翌日から2日かけて山を堪能する計画にしました。


Aの地元に着いた私達は、
Aに案内をしてもらい、市内の観光がてら、
神社で登山の安全祈願をしに行くことにしました。


地元で最大の神社にお参りをしようと境内に入った時に、
Bがピタリと足を止めてしまいました。


どうしたのか不思議がる私達に、Bは

「嫌な視線を感じるわ…
 良くないわこれ…よくない…絶対」

と言って、冬だと言うのに
汗をかき始めてしまいました。

Bはいわゆる『みえる人』です。


普段の生活では、
あまりそれを表面に出す事無く生活しているのですが、
何か大きな危険や不気味で不穏な気配
(本人は見える気配と言っていました)

を感じると、このようになってしまうのです。


実際に以前Bが

「明日嫌だわ」

と言った翌日に、
学校の天井を突き破って死者の出る事件がありました。


私達はそれを知っていたので、

「じゃあ、もう帰って
 温泉につかってゆっくりしようぜ」

というAの提案に乗って、帰宅することにしました。


書き忘れていましたが、
Aの実家は温泉旅館を経営しています。


帰宅途中もBはあまり浮かない顔をして、何か

「ぅん来んなよ…ぅん」

などと言っていた気がします。


AもBを気にかけて、

「大丈夫だよ。俺のじいちゃんから、
 悪いのを追っ払う方法聞いておいてやるからな!」

と言って励まそうとしていました。

ちなみに、
Aが帰宅してからお爺さんに
聞いた追い払う方法と言うのは、

大きな声で

「喝っーーーーーーーーーーー!」

と気合を霊にぶつける方法でした。

あまりにアホ臭かったのですが空気は和み、
私達は温泉につかり、翌日に備えて
早めに床にもぐりこみました。


翌日の天気は快晴、
絶好の登山日和となったK山に、
私達は興奮を抑え切れませんでした。


前日はずっと心配そうな顔をしていたBも、
この時は『早く登りたい!』という
気持ちが顔から溢れていました。


私達は午前8時に出発し、
順調に登山を開始しました。


冬の山は一見殺風景ですが、
時間や高度によって変わる空気の味や、
白い世界に際立つ生命の痕跡など、
普通の登山とは違った楽しみが存在します。


私ももう一つの趣味の写真などを楽しみつつ、
非常に充実した時間を過ごしていました。


私たち3人は、
午前中を各々が山を楽しむ形で歩き続け、
中腹にある山小屋を目指して登っていました。


空気が変わったのは、
ちょうど昼頃を回った時でした。


天気は晴れたままだったのですが、
空気が固定されたように感じ、
動きや気配と言うものが、
消えてしまったかのように感じたのを覚えています。


それまでは、
Aを先頭にかなりゆったりとしたペースで
B、私と続くように歩いていました。


ところが、その静止した空気を
私が周囲に感じ始めた頃から、
Bのペースが俄然速くなりました。


雪山と言うのは、
パッと見はまさに死の世界です。


私は、このままAとBに置き去りにされ、
何も無い白の空間を彷徨う恐怖を感じ
急いで追いかけました。


幸い置いて行かれることは無かったのですが、
追いついたBの様子が変です。


その頃にはAも心配して、
Bの様子を見に少し降りてきていました。


Bは蒼白な顔で、

「ダメだわ、付いて来ちゃったダメだ。
 よくないって…だめだめだめだ」

と呟いていました。

私達も昨日のあれなのかなと思い、
二人で顔を見合わせていると、
Bは急に顔を上げ、

「後ろ見んなよ!後ろみんなよ!」

と言った後、

「ごめん!昨日のあれ、付いてきてるみたいだわ。
 俺怖いよ。やばいよ」

と言って、
今にも泣き出しそうな顔になりました。


私には霊感が無いので、
その時は後ろを見ても何も見えないだろうと思い、
Bの忠告を無視して後ろを見てしまいました。

すると、『それ』がいました。

私達の後ろ50メートル程の所に、
何か人ではない何かがこちらをじっと
うかがって見ています。


Aを見ると、
Aも同様のものを見てしまったようで、
顔が固まっています。


私は始めて見る心霊現象に驚きつつも、
それを観察していました。

頭は縦に長く、
黒い髪が顔全体にかかっているようです。

シルエットは少し膨れた
人間のようなものなのですが、
白い毛が体全体に生えているのか、
それとも体がかすんでいるのか、
ぼんやりとしか見えませんでした。


何より、気配や存在感が
明らかに人ではありませんでした。


明らかに周囲の世界や雰囲気から
浮いているのです。


『それ』が動きもせずに、
じっとこちらを見上げてたたずんでいるのです。


不思議なことに私は、
『それ』から緑の視線を感じていました。


説明が難しいのですが、
緑色の視線としか形容できないものです。


Bは「ダメだろあれ?もうあかんだろ?」

と何やら錯乱しているようで、
ほとんど泣いていました。

Bの恐ろしさが伝染したのか、
私もAも泣いてしまい、

泣き顔で「諦めんなよ!」やら、
「逃げるぞ!」などと、お互いを叱咤しました。

幸いそれと私達の間にはまだ距離があったので、
私達は大急ぎで中腹の山小屋まで
急ぐことにしました。


山小屋には常に人がいるはずですし、何より、
『それ』のそばを通って下山するのは、
恐ろしいことのように感じたからです。


3人で30分ほどハイペースで登っていたのですが、
『それ』らは一向に距離が開きません。


ぴったり50メートルほどを保ちながら、
こちらを追い詰めるように
悠然と追いかけてくるのです。

今にして思えば、
それは歩いていませんでした。


私が振り向くたびに、
必ずそれは両足をそろえて直立していたからです。

それは追っていたのではなく、
背後50メートルに『あった』と
表現する方が正しいかもしれません。

私達は次第に、
精神的に追い詰められてゆきました。


そこからしばらく行ったところで、

Aは「こちらに近道がある!」

と、普段の観光用のぐるりと回った登山道を離れ、
少し細い脇道に入っていきました。

が、思えばこれが間違いでした。

細い脇道は、夏の間は管理用として
使われているのかもしれませんが、
冬の山では雪が降り積もり、
細い道は非常に見難かったのです。


私達はいつのまにか、
道をはずれてしまったようでした。


また最悪なことに、
あれほど晴れていた天気が
2時を回った頃から急転し、

今では深深と降る雪になっていました。

時間もいつのまにか午後4時を回っており、
私達はかれこれ3時間以上を『それ』から
逃げ続けていました。

冬の山の夜は早いです。


既に日も落ちつつあり気のせいか
雪も激しさを増しているような気がします。


道を外れた迷子の私達は、
いつの間にか30度を越える
急斜面を横に横に逃げていました。


もうこの頃には、
山小屋へ行こうだとか、
道を探そうなどという考えは無く、
ただひたすらに後ろから逃げるという、
本能のみで動いていたように思います。


しかし、無理な行軍や精神的なストレスは、
私達の体を着実に蝕んでいました。


ついに真ん中を歩いていたBが、
足をもつれさせるようにして倒れたのです。

私もAも急いで駆け寄りました。


Bは「ダメ俺ダメ。もうダメだ。歩けないわ。
   先に行ってくれよ、追いつくからさ」

と、うわ言のように呟いています。


恐らく、『それ』の気配をBは前日から
ずっと気にしていたのでしょう。


Bの疲労は尋常ではないかのように見えました。


更に、誤ったペース配分の行軍が、
脱水症状も引き起こしているように見えました。


現実的に、ここからBが歩くのは無理です。

私とAは途方にくれました。


私はこの時、もしかしたらここで休憩しても、
『それ』は50メートルから動かないのではないか、
と淡い期待を描いていました。


私自身もそろそろ体力の限界だったのです。


ところが、その淡い期待は
簡単に裏切られてしまいました。


『それ』は、
はじめて一歩を踏み出したのです。


非常にのろい歩みでしたが、
それは私達を絶望させるのに十分でした。


一番体力の残っていそうなAも、
遂にへたり込んでしまいました。


『それ』は一歩一歩こちらに歩んできます。


もはやそれとの距離は
50メートルではありませんでした。


私は絶望に包まれて、
こんなところで死ぬのかな。

凍死扱いになるのかな。

それとも死体も見つからないのかな。

などと考えていました。


すると突然、
それまでぶつぶつ呟いていたAが立ち上がり、

「ちくしょう、やってやる。
 ぶっ殺してやる。なめやがって。
 化けもんが。ちくしょう!」

などとキレたと思うと、

「喝ーーーーーーーーーっ!!!!」

と、お爺さんに言われたように
大声で気合を飛ばしました。


ところが、その気合に
『それ』は全く反応しませんでした。


しかしその気合が利いたのか、
大声がきっかけになったのか、

『それ』の上方にある深雪が雪崩を起こしたのです。

それは数十トンの雪の流れに飲み込まれ、

「う、うわあぁあああぁぁぁぁぁ」

という声を上げ、雪崩に飲み込まれて
下に流されていってしまいました。

後に残った私達は、
呆然として口をあけていました。


その後は雪洞を掘り、
一晩を明かして翌日に下山できました。

これは未だに私のトラウマです。


未だに何が起きたのかさっぱりわからないので、
どなたか『それ』についてご存知の方は
いらっしゃらないでしょうか?





2019年02月27日

憑依【実話・不思議】





怖くはない。

まったく怖い話ではないが、
信じがたいことというのはあるのだな、
と改めて思ってしまうような話だ。


神奈川県在住のSさんの話。

二重人格というやつだ。

最も近年の精神医学では、
この言葉はほとんど使わないそうだ。


面倒だが、解離性同一性障害というらしい。


一般に二重人格というのは、
よくあるケースとしては、

幼少期に心的外傷を繰り返し受けたために、
自分で心をガードするために、

記憶の一部が遁走するクセがついてしまうというものだ。


外部から見ると、そういう人は、
あたかも複数の人格を持っているかのような症状になる。


Sさんの場合、
もう一つの人格Aさんがときどき出現するわけだ。


ところが、本人はもちろん、家族も周囲も、
Sさんの幼少期にそうした原因をつくったような
トラウマというものは、どうしても見つからない。


Sさんと、人格Aは、まったく性格が違った。

そもそも身長が違っていた。

Sさんは、170前後だが、
人格Aはかなりそれより身長が高いらしい。

年齢もちがう。

Sさんは30歳台だが、人格Aは10歳若い。


決定的な違いは、言葉である。

Sさんは関東で生まれ育ち、
周囲にも関西人はいない。

が、人格Aはもろに大阪弁を話す。


この人格Aは、突然出現しては消えていくので、
Sさんはさすがに日常生活に重大な支障をきたし、
仕事もまともにできない。

前兆も無いのだ。

しかも、ときどきではなく、頻発する。


そして人格Aが出現している間は、
Sさんは一切の記憶が抜け落ちてしまっている。


たとえば、である。

両親たちと食事をしながら、話をしていたとする。

突然人格Aが出現し、大阪弁でまくしたてる。

まったくそれまでの話とは脈絡が違う話をである。


呆気にとられた家族が見ている前で、
人格Aはひとしきり話終えると、

「じゃあ、俺部屋に戻ってるわ。ごちそうさん。」

と言って、二階のSさんの部屋に行ってしまう。


そこで、はたと人格Aが消え、
Sさんは自分の意識を取り戻す。


Sさんは今まで、家族と食事をしていたのに、
突然自室に立ち尽くしているので、狼狽する。

一体、自分に何が起きたのだ、ということだ。


Sさんは、家族の勧めもあって、
県内の精神科医に見てもらった。


結果、検査入院をしてみよう、
ということになった。

観察治療を同時に行った。


24時間、カメラで観察をし、記録を取るのだが、

この入院の結果、すぐにSさんは、
自分の中にいる人格Aと対話ができるようになった。


スマホを使うのである。

二つのスマホを両手に持ち、Aとして、
またSとして、それぞれ違うスマホをもって、
電話を介して対話することができるようになった。


この方法は、二重人格の場合に
よく使われる手法だそうだ。


数日、これが続いていくうちに、
突然、人格Aが出現しなくなった。

突然である。

そして、
まったく出現することが
無くなってしまったのだ。


これが、
治癒したのかなんなのか、
医師も判断できかねたものの、

出現しなくなったということは、
入院している必要もないわけで、

様子を見て自宅に戻り、
仕事にも復帰しようということになった。


もう退院だ、という日を間近に控えて、

Sさんの病院宛てに、一通の手紙が届いた。

大阪の女性からだ。

まったく見覚えのない名前だ。

それには、こういうことが書かれてあった。


「自分にはAという息子がいる
 (Sさんに出現した、あの人格Aと同名である)。

 Aは交通事故に遭って、長く昏睡状態が続いたが、
 先日奇蹟的に意識が戻った。

 自分たちと話ができるようになると、
 奇妙なことを言い始めた。

 自分にはSという友人がいて、
 神奈川県の〇〇病院に入院しているという。

 ところが家族のだれも、心当たりがない。

 当初、Aの夢だろうと思っていたが、
 息子Aの記憶があまりにも細かいところまで具体的で、

 Sさんの主治医の名前や、家族構成、
 入院日と退院予定日

 と言ったようなものを、それもすらすらと話した。


 A本人は、昏睡時の夢ではない。

 実際に会って話をしたのだ、
 と言い張って譲らない。

 そこで失礼ながら調べてみたところ、
 あなたの存在が確認できた。

 驚いたわたしたちは、Aの主治医と相談して、
 連名であなたに手紙を出した次第だ。


 Aはまだリハビリでしばらく同じ病院にいるが、
 もし本当にSさんであるなら、
 自分の主治医も後学のためにぜひ会いたいと言っている。


 A本人も会いたいと希望しているので、
 ご足労だが、大阪まで来てはくれないだろうか。」

こんな内容である。


Sさんは、
精神科の掛かりつけだった医者とともに、
すぐに大阪に飛んだそうだ。


そして、入院中のAと、Aの主治医、両親と面会。


SさんとAさんは、周囲の当惑をよそに、
二人で、二重人格時代の話で、
めちゃくちゃ盛り上がったそうである。


この話は、死者の幽霊ではない。


しかし、完全に幽体離脱であり、
一面、憑依現象でもあるわけだ。


生物学的な生命と、霊的な命とは、
まったく別物であるという一つの証拠事例であろう。






posted by kowaihanashi6515 at 13:06 | TrackBack(0) | 実話系

2019年02月24日

谷底から呼んでいる【怖い話】





白神山地は熊の湯温泉の主人の話。


ある日の夕方、この熊の湯温泉の主人のもとに、

「山菜採りが滑落遭難した」

との一報が入った。


主人が現場に駆けつけると、
既に地元警察や救助隊が来ており、
サーチライト点灯の準備をしていた。


そしてその横で、まだ五十手前の男が泣きながら、

「早く女房を助けて下さい」

と懇願していたという。


その地点は白神ラインの
天狗峠と明石大橋の中間地点で、
ガードレール下は急峻な崖であった。


生き残った夫の話によると、
夫婦で山菜採りに来ていたが、

ふと目を離した隙に妻が悲鳴を上げて
いなくなったのだという。


白神山地はまだ寒く、

サーチライト点灯を待つ救助隊員や警察官たちは
焚き火にあたって暖をとっていた。


その横で遭難者の夫が、

「火なんかに当たってないで
 早く妻を助けてくださいよ!」

と恨めしそうに懇願していた。


やがてサーチライト点灯の用意が出来て、
強い光が谷底に投射された。


少しずつ光の輪を横にずらしながら、
遭難者の捜索が始まった。


やがて、

「あっ!」

と誰かが叫び、サーチライトの光が止まった。


(なんてこった・・・まず生きてはいまい・・・)

主人は内心そう思ったという。


ガードレール下はるか二百メートルほどの地点、

岩が大きく張り出した
谷の途中に女性が倒れていた。


救助隊員が拡声器で呼びかけたが、
何の反応もなかったという。

(絶命している)

主人だけでなく、
救助隊の誰もがそう直感したそうだ。


しかし、発見地点は下手すれば
二重遭難しかねない急峻な崖である。


主人と救助隊は谷底に降りる方法を
相談し始めると、

遭難者の夫が半狂乱になりながら
救助隊に詰め寄ってきた。


「早く助けて下さい!
 女房が呼んでるじゃないですか!」

もう少し待ってください、
慌てるとろくなことがない、

と救助隊員は必死になって男を宥めたが、
男は聞く耳を持たない。


「早く助けてくれ」と、
「もう少し待ってくれ」の
押し問答が続いたその時だった。

男が呻(うめ)くように言ったという。


「あぁ・・・ なんであんたたちには聞こえないんだ!

 女房が呼んでるのが聞こえないのか!?」

その瞬間だった。


男がバッと走り出したかと思うと、
あろうことかガードレールを飛び越えてしまった。

悲鳴が救助隊員を凍りつかせた。

男の体が岩に激突しながら
落下する音が不気味に響いたという。


慌てて救助隊員たちが崖下を見ると、

サーチライトの輪の中に、
さっきの男が倒れていた。


不思議なことに、
男の遺体は妻のすぐ側に倒れていて、
まるで『助けに来たぞ』
と言っているように見えたという。


「なんてこった・・・」

主人がそう呟いた時だった。


一台の車が現場にやって来て、
三十になるかならないかという男が降りてきた。


「うちの親が落ちたって聞いたんですが」

遭難者の息子だった。


誰もが絶句し、

「今引き上げるところだから下は見るな!」

と誰かが言った次の瞬間だった。


「そんなこと言ったって、
 うちの親父とおふくろが谷底から
 呼んでるじゃないですか?」

救助隊が絶句していると、
息子がガードレールに駆け寄ろうとした。


とっさにそれを警察官の一人が取り押さえた。


「止めろ止めろ止めろ!
 でないとコイツまで連れていかれるぞ!」

その警官がそう怒鳴った瞬間、

その場にいた警官が一斉に息子に跳びかかり、
息子を取り押さえた。


「何するんだ!
 親父とおふくろが呼んでるのが
 聞こえないのか!?」

息子は半狂乱になってそう怒鳴るが、
そんな声など息子以外の
誰にも聞こえていなかった。


あまりにも暴れるので、
結局息子は警察官に両脇を抱えられ、
パトカーの後部座席に連行された。


まるで山岳救助の現場とは思えない、
異様な光景であった。


しかし息子は、

「親父とおふくろが呼んでる」

と唸り続けるわ、
隙あらばパトカーの外に飛び出そうとするわで、
ほとほと手を焼いた。


数時間後、両親の遺体が谷底から
引き上げられた途端、息子はまるで
憑き物が落ちたようにおとなしくなった。


息子は両親の遺体に縋(すが)って
号泣していたが、

先程までとはあまりに違う息子の態度に、
誰もが改めてゾッとしたという。




posted by kowaihanashi6515 at 00:19 | TrackBack(0) | 洒落怖

2019年02月23日

悪魔の最大の目的【肝試し・怖い話】








俺が工房だったころの話をしますよ


俺の家は教会で、親父が牧師をやってる


まあ俺はそんな真面目に
キリスト教を信じてたわけではないんだけど

でも、あれを経験してからは、
少し信心めいたものを持つようになったかもしれない


そのきっかけになった出来事を、書くことにしますよ


とある夏休み、俺は外にも出ずに
ずっとゲームばっかやって過ごしてた


暑い中外に出るなんて考えられなかったから、
マジで一歩も外に出ない日が
一週間くらいは余裕で続いたりした


でも、当時仲の良かった連中とある日、
近くの神社の縁日に行くことになったんよ


うちは教会で、教会はもちろんキリスト教だから、
他の宗教の祭りに遊びにいくのは良くないんだが、

その辺子供心をよく理解してくれてた親父は、

「良くない、ということだけわかってればいい」

と言って、

俺がそういうところへ遊びに行くのも許してくれた


そんなこんなで、友達たちと縁日へ遊びにいき、
アホみたいに高い屋台で焼きそば食べたり、

浴衣で来た女友達とか一緒に連れて、
近くの公園でだべったりして遊んだ


その場には6人くらいいたんだけど、

その中で親友のAとその兄
(以下A兄・大学生でガキの ころから仲がいい)
がいて、

何を思ったか、肝試しをしようと言い出した


俺は生まれた時から教会の中で育って
そういった霊的な世界の話も
よく聞かされてきたから、

結構オカルトとか好きで、
同じような趣味のAとA兄と、

三人で廃墟に遊びに行ったり
したこともあったりするんだが、

そのときは女の子と肝試しという状況に惹かれてw
俺はそれに賛同した


その場の半分の人間(俺・A・A兄)が
賛同したために、

結局全員肝試しに同意して、
A兄が運転するA家の車で、
ある場所へ出かけることになった


そのある場所ってのは、
同じ市内の少し離れたところにある地域で、

俺の家からだと小さな山を越えた、
その裏側にあたるそこは

うちの母親(母親には霊感がある)が

「あそこは気持ち悪い」

といつも言っているような場所だから、

おそらく何かあるんだろうなとは
俺も思ってる地域だった


ただ、その辺りは山間のため
そんなに人家は多くなかったが、

ただそれだけでそんな曰くつきの怪談が、とか、

そういうのは聞いたことがない場所だ


俺はA兄が何でそこに向かうのか、
最初から疑問だったので聞いてみた


A兄が言うには、

「この間、じいちゃんから
 ○○山(その場所にある山)の中に
 廃屋があるって話を聞いた。

 場所を聞いたけど教えてくれなくて、

 それで何度か 探しに行ったんだが、
 一昨日ようやく見つけたんだ」

ということだった


なるほど、まあ肝試しとしては悪くない


俺はそう思い、
すでに不安そうな顔をしている
女友達をからかったりしながら、
車がそこへ到着するのを待った


10分ほどで車が停まり、A兄が

「ここからは歩くぜ」

と言って降りた


まあ地元の人間でも知らなくて、
しかもA兄が何度も探しに
入らないと見つからないような廃屋だから、
車では途中までしか行けないことは頷けた


そこは舗装もされてない山道で、
路肩の少し広がったところへ車を停めると、

もう人二人が並んで歩くくらいの
幅しかないような細さだった


俺も何度かこの山には来たことがあるから、
この道自体は知っていたけど、

なるほど、たしかにここから山に入っていった
先に廃屋があるとすれば、

こんな意味不明なところで
道幅が広がっているのも納得できた


「ここ。ほら、藪で隠れて見えなくなってるけど、
 階段があるだろ?」

A兄が鬱蒼と茂った草を掻き分けると、
そこには無造作に石で組まれた階段…


どうやらここから山中へ上っていけるようだった


こんなんよく見つけたな、
と思いつつも俺たちは縦一列に並んで上り始めた


当たり前だが夜で足元がわからず、
懐中電灯の光で何とか目を凝らして進むため、

A兄の話ではすぐに着くはずの
廃屋までは案外時間がかかった


30分弱ほど夜の山中を歩き、
そろそろ息も上がってきたころ、
A兄が立ち止まって指差した


「あれだ。あそこのすこし開けたところ…
 見えねえか?」

見ると、たしかに林が切れた少し先に、
建物らしきものがある


石垣に囲まれて、それは典型的な
日本家屋のように見えた


ようやく辿り着いた
廃屋に近寄ってみると、

そこは廃屋と言うよりは残骸に近く、

中に入ることなんて
とてもできないようなものだ


いささか期待はずれの廃屋に落胆しつつも、
なんでこんなところに一軒家が…

という不思議な状況に興味をそそられる


それと同時に、なにか異様な雰囲気が、
この場を渦巻いているような気がした


例えるなら、水の中に砂糖を溶かした時の、
陽炎のようにゆらゆらと糖分が溶け出す感じ?


透明の何かが蠢いているように思えた


嫌な場所だな…

そう思いながらも辺りを見て回っていると、
一緒に来ていた女の子が半泣きの声で、
一番近くにいた俺を呼ぶ


女の子が見ていたのは、家屋の正面、
石垣のところにある表札だった


名前は、木板が腐ってしまっていて読めないが

そんなことよりも背筋を寒くしたのは住所だった


▲▲村●● 1−1(番地は適当)

のように書かれているその▲▲の部分は、

俺たちの市の名前だったが、
問題なのは●●の部分…


懐中電灯に照らされたそこには、『呪』とあった


おいおい、やばいだろこれは…


そう思った俺はすぐにA兄に、
ここは一体何なのか問い質した


「この家なんなの?この辺って住所■■だろ?

 呪なんて地名聞いたことないし、
 洒落になってねーよ」

俺に言われて、
A兄は爺さんから聞いたという話を語り始めた


以下、さすがに細かくは覚えてないので
要約だけ書くと、

・この近辺はA兄の爺さんが子供だったころ
 (つまり昭和初期ごろ?)、
 ある一族が何世帯か住んでいた


・その一族は何か独特の
 宗教のようなものを信じていて、
 その宗教の呪術の類を使って
 占いやお祓いなんかをしていた


・しかしその一族の人間は次々に死んで、
 最後には誰もいなくなった


・その一族の住居は大半は戦後の宅地開発で
 付近の道路や宅地に変わってしまったが、
 今でもこの山の中にいくつか残っているらしい


というようなことだった


「だから俺も、
 こんな気味悪い地名のことなんてわからん。

 一昨日見つけた時はこんなとこまで
 見なかったからな。

 帰ったらじいちゃんにでも聞いてみるか」


「そうか…でもなんかここやばいって。
 遊びで来ていいような場所じゃない気がする」


実は俺は雰囲気くらいでなら霊を感じられる程度の、
ごく弱い霊感ならあるんだが、

この場の雰囲気が、
どんどん気持ち悪くなっていっているような
気がしていた


俺は帰ろうと提案したんだが、
AとA兄はせめてこの家を一周見て回ると聞き入れず、

運転者のA兄がいなければ帰れない俺たちは、
しぶしぶそれに同意した


そしてみんなで一塊になるようにして、
家の裏に回りこんだ瞬間、

俺は全身の毛がぞくぞくぞくっ!!

と逆立つような感覚に襲われた


目の前には小さな濁った沼があった

やばい!!

ここはやばい!!


空気だけで、
明らかに危険な何かがいることがわかった


どこからか、

おおおおぉぉぉぉおぉぉ…とか、

ううぅぅぅぅ…とかいった

低い声も聞こえてくる


「この沼絶対にやばいって!

 ほら、帰ろう!!

 つーか、俺一人でも帰るからな!」


俺が余りにテンパるので、
情けないことに一緒にいた女の子まで

「大丈夫…?」

と俺を心配しだす始末


でもそこまでなってようやく
AもA兄もわかってくれたのか、

俺たちはすぐに山から降りて、
A兄にそれぞれの家まで送ってもらった


山から降りても、車に乗ってる最中も、
ずっとさっきの声が聞こえていた


苦しそうなうめき声、とはちょっとちがう
感情も何も感じない、ただ低い声


俺はわざと大きな声で
全然関係ない話を始めたりとかして、
気を紛らわせた


俺を家まで送って別れるときに、
AとA兄は

「お前は来ないだろうけど、
 俺たち今度もう一回あそこ行ってみるわ。
 何か面白いもの あるかもしれんし」

などと言って笑っていた


俺はあそこはやめたほうがいいと
再度忠告したが、

でも結局行くんだろうな、とは思っていた


Aたちの車を見送って、家に上がる

声はまだ聞こえる


玄関を上がって居間に入ったところで、
テレビを見ていた親父が振り返った


「おー、遅かったな。

 縁日で何か食ってきただろ?

 晩飯あんまり残ってないけど、
 食いたかったら冷蔵庫の中な」


「いや、いい。腹減ってないや」


「そうか。じゃあちょっとこっちこい」

そういうと親父は、

俺を生活に使ってる家の
隣に建つ教会へと連れて行った

大体親父に教会の方へ連れて行かれるときは、
大事な話があるときか、説教されるときだったから、

俺は何かやらかしたかなと心当たりを探りながらも、
少し緊張しながら切り出した


「それで、なに?何か話があるとか?」

俺が聞くと、親父は並んだイスに座りながら、
真剣な顔で言った


「お前、縁日に行ったんじゃなかったのか?」

「いや…縁日行ったよ」

「じゃあそれどこで拾ってきた」

「それ?…何が?」


「お前なら何も感じないはずがないだろう。
 どこか変なところに行ったんじゃないのか?」

この声のことか…


そう悟った俺は、
縁日の後に行った廃屋のことを正直に話した


たぶん怒られるだろうな、
と思っていたが、

親父は俺の話を終始黙って聞き、
俺が話し終わったあとも
しばらくは何も言わなかった


「で、俺何か憑かれてるの?

 悪霊
 (あくりょうではなく、キリスト教では
あくれいと読む)とか?」

「憑いてる。

 まあしょうもない霊は
 うちに入る前に逃げてくが、
 これは少しは根性あるかもな」

「大丈夫なん?」

「声が聞こえるほかに、何かあるか?
 何か見えるとか、気分が悪いとか、どこか痛いとか」

「いや、声だけ…」

「なら大したことない。
 ほら、祈るからこっち来い」

言って親父は俺をそばに寄らせると、
俺の頭に手を置いて祈り始めた


最初は日本語で祈っていたが、途中から

異言(いげん:聖霊を受けた人が語る言語。

その人の内の聖霊が語りだすらしい。

その言葉は本人にさえ
何を言っているのかわからず、

必ず本人が知らないどこかの国の言語か、
天使の言葉を話す。

親父の異言はなんか巻き舌っぽい発音だ)

に変わった


さすがに聞きなれた親父の異言だけに、
不思議な安心感が俺を包む


祈りが終わったとき、
ずっと聞こえていた声は消えていた


「明日、その廃屋へ行った
 友達を全員連れて来い。

 他の子にも何か憑いてるかもしれん」

夏休みだったから、
みんな集まれるはずだったので、
俺は素直にそれを承諾した


親父は特に、
一緒に行った女友達のことを心配していた


AやA兄のように、
まったく怖がってない人間は
そんなに危なくないらしい


そういう態度が逆に霊のちょっかいを
呼ぶこともあるそうだが、

その程度で機嫌を損ねるような霊は小物で、
そんな霊にはそれこそ幻聴や幻覚、悪夢、
不安なんかを引き起こすくらいしかできないそうだ


そういう意味で、
怖かったであろう女友達のほうが心配だし、

何より、女は男より
霊的攻撃に晒されやすいらしい


これは聖書の創世記で、
サタンが善悪を知る木の実を
食べさせるために騙したのがエヴァで、

そのエヴァに勧められて
アダムもそれを食べてしまう、

というエピソードに
象徴されているそうだ


だから、男は女に弱く、女は悪魔に弱いと


俺は親父からそれを聞いて、
さすがに女友達のことが心配になったが、
思い返すにそんなに様子がおかしかった
記憶はないから、

大丈夫なんじゃないか…

そんなふうに思っていた


次の日、

俺は昨晩廃屋にいった面子に事情を話して、
教会に集まってもらった


全員集まったので、親父を呼びに行くと、
すでに親父の表情が険しい


「悪霊がいる。お前は来なくていい。

 …それから、一つだけ言っとく。怖がるな」

それだけ言うと、親父は教会の方へ向かっていった


とりあえず居間で、
何もせずにぼーっとしていると、

AとA兄、それから
昨晩一緒に行ったBとC
(Cは女の子)がすぐにやって来た


「どうだった?」

俺が聞くと、Aがこわばった顔で

「D(Dも女の子)に何か憑いてるらしい。

 俺たちも追い出された」

「Dちゃんが?
 昨日は何ともなさそうだったのに」

俺が不思議がると、Cが涙目で言い出した


「それなんだけど、何ともなさそうだったのが、
 今にしてみれば逆に変な気がしない?

 Dって結構怖がりだし、
 最初肝試しに反対してたのもDだった…

 車の中でもずっと不安そうだったし…」

それを聞いて、
俺はあの廃屋でのことを思い出した


家の裏の沼で俺が立ちすくんだ時、
俺を気遣ってくれたのはDだった


『大丈夫…?』

そう言って、彼女は少し笑っていた


あの状況で、あのDが笑う…?


あの時既に、Dに悪霊が憑いていたとしたら…


俺は背筋が寒くなって、

「親父が怖がるなって言ってた。

 とりあえずあんまり
 考えるのやめにして待とうぜ」

みんなに―半分以上は自分にそう言い聞かせて、
親父とDが出てくるのを待った


どれくらいの時間が経っただろう、

気まずい沈黙が流れて、
その気まずさも麻痺してきたころ、
ようやく親父とDが居間に現れた


「…もう大丈夫なの?」

みんなが二人に注目する中、
親父が黙って頷いた


「みんな、 もうその廃屋へ行くのはやめとけ。

 怖がる必要はないんだ、
 でも、わざわざ行くこともない。

 ほら、防弾チョッキを持ってるからって、
 わざわざ自分で自分を撃ってみたりしないだろ?

 それと同じだ」

Dに憑いていたのが何だったのか、

そういった説明は一切せずに、
親父はそれだけ言ってみんなを帰した


たぶんDには直接、
教会の中で何か話したんだと思う

その件は、それで終わった

その後何かあったか、というと、
拍子抜けするほどに何もない


ただ、A兄が爺さんに、
あの呪という地名のことだけは聞いたそうだ


それによると、
当時その一帯は呪(のろい)と呼ばれていたらしい


正式な住所・地名ではなく、
通称のようなものだったらしいが、

そこに住んでいた一族は
番地のようなものまで作り、

それぞれの家に
呪1−1のような感じで表札にしていという


その一族が何で死んだのか、とか、

そういう核心の部分は全くわからない


ちょうど昨日、この話を書こうと思って

久しぶりに親父と当時のことを話した


その時の会話で印象深かったことを、
最後に書いとくことにする


「結局さ、Dちゃんに
 憑いてたのは何だったの?」

「んー、まあ悪霊だ。下っ端だけどな」

「悪霊って、あんな
 ○○山なんかにいるもんなのか…」

「いるよ。至るところにいる。

 そして俺たちを地獄へ
 引きずり込もうと狙ってる」

「引きずり込む…
 つまり取り憑いて殺すってこと?」

「いや、そんな効率の悪いことはしない。

 そんなことしなくても、
 人間はいつか死ぬだろ?

 放っておけば死ぬんだから、
 わざわざ殺す必要はない。

 奴らにとって、
 よっぽど恐ろしい霊的権威を
 もった人間じゃなければな」

「じゃあ、どういうこと?」

「神から離反させることさ。
 そうすれば地獄へ落ちる」

「つまり、人間をたぶらかして
 罪を犯させるとか、そんな感じか」

「まあそれもあるけど…。

 なあ、悪魔がやるもっとも典型的で、

 それでいて現状もっとも
 成功している人間への
 最大の攻撃って何か、わかるか?」

「最大の攻撃…?何?」

「悪魔なんて、霊なんていない。

 そう思わせることだ。

 そうすれば、人は神を信じない。

 神から離れた人間ほど、
 狩りやすい獲物はないからな」

俺はそれを聞いてぞっとした


そんな人間、今の世の中腐るほどいるからだ


「だから大事なのは、
 霊の存在を否定することじゃない。

 いないから怖くない、
 じゃなくて、いるけど怖くない。

 そう思えるようになったら、
 お前も半人前くらいにはなるだろな。

 まあ、別にお前に牧師を継げなんて
 言うつもりはないけどな」

以上が俺の体験です


心霊現象としては、
大したことは起こってないし、
肝心のその一族に関することは
ほとんど分からず仕舞いw


ここ見てる人の近所に、
呪って地名があったりしたら面白いんだけど…

どうだろう?





posted by kowaihanashi6515 at 13:37 | TrackBack(0) | 洒落怖

願いが叶う神社【怖い話】






母方の祖母が信心深い人だった。


幼い頃、群馬の母方の家に行くと、
よく子供だった自分の手を引いて山裾の神社に連れて行った。

群馬は視界に山が入らないところが無い。

母方の家は、すぐ裏がもう山だ。

近隣の墓はほとんど山中にあって、
蜘蛛の巣みたいに細かな路が入り組んでいる。

金比羅様と祖母が呼んでいた神社というのは、
丸太の鳥居、破れた障子、抜けた濡縁。

管理されているとはとても言えぬ有様。



でも祖母は、何度となく私をそこに連れて行った。

細い山路を私は付いて行った。

祖母は神社をすごく有難がっていた。

7つか8つぐらいの時だと思う。

「今日は特別」

そう言った祖母は、荒れ神社の裏手に私を連れて行った。

初めて見る神社の裏は、昼なのに暗い。夕暮れのようだった。

そしてそこには、人ひとりがようやく通れそうなくらいの、
すごく細い路が続いていた。


路を登り、下り、けっこう進んだ先は開けた場所だった。

明るくて、不思議な場所だった。

ローマのコロッセウムを半分にしたような、
大掛かりな雛壇のような石積み。

段には小さい位牌のようなものがたくさん並び、
短冊のついた笹、折り紙飾り、仏花で彩られ、
そよぐ風で風車が回転していた。

私は嬉しくなった。


手を合わせようとすると、祖母は私を叱った。

「ここは強い神様が居る。
 だからお願いごとをしてはいけない。

 きっとそれは叶うけど、
 ここの神様は見返りを要求する神様だから」

そう言った。


そこにはそのあとも、
もう一回だけ連れて行ってもらった。

やはり変わらず、鮮やかに飾られた、
とても綺麗な場所だった。


私が中学校に上がってすぐ、祖母は亡くなった。

事故だった。

とても悲しかったが、
突然だったので実感が持てなかった。

さらに時は過ぎて、私も大きくなり、
母から漏れる情報から、母の実家の状況が分かってきた。


祖母の死の前。母の兄は、
自動車整備の会社を辞めて独立していた。

だが不況が重なり、相当苦労していたらしかった。

驚いた。叔父は高校に進んだ私に、

「誰にも言うな」

とポンと10万円くれたこともある。

事業だって順調そのものだ。

母によると、祖母の死を前後して、
赤字続きだった叔父の工場はグッと持ち直したそうだった。

私は例の不思議な場所を思い出していた。

もしかして祖母は、
あの場所でお願いしたんじゃないだろうか。

『わたしはどうなっても構いません。
 倅の会社を救ってやってください』

って。

きっとそうだと思った私は、
もう何年も行っていないあの神社に、
もう一度行きたいと思うようになった。

次に群馬に行く事になったとき、
一人で神社に向かった。

久々で少し迷ったが、
どうにかあの神社に辿り着いた。

でも、私の行きたい場所は此処ではない。

『あの場所』だ。

私は裏手に回った。あの日と同じように。


だが、そこに路は無かった。あった形跡も無かった。

信じられなくて、何度も神社の周りを回った。

それでも無かった。


信じられなかった私は、
上記のような『あの場所』の様子を、
母に、叔父に、祖父に、叔父の子どもたちに
聞きまくった。

でも、答えは同じ。

「そんな場所知らない」

私は怖くなった。

すごく、すごく、怖くなった。

今、思い出しながら書いていてもスゴク怖い。

それ以来神社はおろか、
裏の山自体にも近寄らなくなった。


いや、それどころではない。

あらゆる山道に恐怖を覚えるようになった。

『あの場所』が、
あの群馬の山中の何処かにだけあるとは
思えなくなっていた。

いつか何処かで、
突然あの場所に行ってしまうような気がするのだ。

あの頃は、
自分の命を引き替えにしなければならないのなら、
どんな願いも叶わなくていいと思った。


でも、今は必ずしもそうではない。

もしそんな切羽詰ったときに、またあの場所に行ったなら。

そう考えると恐ろしいのです。





お遍路さんの集団【怖い話】






俺がある親しい人から聞いた話。


今から十数年前、彼女が仕事の帰りだったか、
深夜に大阪方面へ車を走らせていた。


そうしていたら、とある道端に20〜30人の
お遍路さんの軍団がいたそうだ。


遍路巡りのバス待ちかと思い、
そのまま彼女は横を通り過ぎたのだが、
ふとバックミラーを見たら、
さっきいた人たちがいない。


彼女は「え?」と思ったのだが、
そのまま車を進めたそうだ。


そしてある日、
彼女の妹も同じような集団を同じ現場で
見たことがあると話したそうだ。


曰く、
旦那とドライブ中に遭遇し、
妹は見えて、旦那見えてなかったらしい。


見た場所やその集団が
一致したことに彼女は何を思ったのか、

あくる日、あの現場へ再び向かった。


車を止めて、
あの集団が立っていた場所をよく見てみると、
そこは断崖絶壁の海岸だった。


更に道を挟んだ反対側は山。


そして道が大変狭く、一人ならともかく、
あんなに大勢立てる訳がないそうだ。


更には、
海側にはガードレールというか柵が並んでいたが、
一部だけ欠けていたらしい。


怖くなった彼女は
直ちに車に乗り込み走らせると、
近くのドライブインに寄った。


そこの店員とさり気なくあの目撃談を話してみると、
どうやらあの現場は目撃談多発地帯だったようで、
数年前、バスの転落事故で大勢の死者が出たらしく、
その後お坊さんが供養したそうだ。


しばらくしたある日、彼女は信仰している
宗教(密教系)のお坊さんと話す機会があり、
あのお遍路さんの集団の事を話したところ、

そういうのを見る人はたくさんいるらしい。


そしてあの集団は、怖いものではなく、
むしろ道中安全を祈る存在だそうだ。


なお、彼女はその集団の顔が見えたそうだが、
笑顔は笑顔でも、本当に生きている人の笑みで、

確かにお坊さんの言うとおり、
安全を祈ってるようだったらしい…。


以上です。


怖いというより、むしろ優しい雰囲気ですね。




2019年02月03日

神社の御神木「この風に呑まれたらヤバイ!」【異世界にまつわる怖い話】





15年ほど前の話。

中三の夏休み、友達二人(AとB)と毎日のように遊んでいた。

部活も引退していたし、受験はあったけど、
「なんとかなるわw」ってタイプの三人だったんで
勉強もしなかった。

だから暇持て余していたんだ。

うちの近所には中くらいの規模の神社があって、
そこには御神木がある。

そこは夏でも涼しくて気持ちがいいのでよく行っていた。

その日もいつもみたいに
「涼みに行くか」とジュースを買って行った。

御神木の下に着いてしゃがもうとすると、
何かが木にぶら下がっているのに気づいた。

それは首吊りしている人間だった。

「うわーーー!」

と、俺たちは一目散に神社から飛び出た。


「警察に行った方がいいんじゃ...」

ともなったが、
面倒に巻き込まれたくなかった俺らは見て見ぬ振りをした。


しかし、それから数日経っても
『首吊り死体発見!』とのニュースはなかった。

地元で死体など見つかったら大ニュースになるはずなのに…

合点はいかなかったが、
俺らは「見間違いだった」と思い込むようにした。

それから当分神社は怖くて行けなくなってしまった。


またそれから二ヶ月ほどして、その話題も忘れていた頃。

Aが足を怪我をした。

遊びでサッカーしてて骨折したらしい。


Bと見舞いに行くと思いの外元気で、
俺らが病室に入るなり「屋上行こうぜ!」と言い出した。

個室でもなかったし、
中坊が大声で喋ってたら同室者に迷惑だろうと
思ったんだろう。


屋上に着いて暫く喋っていると、ふと違和感がした。

何か得体のしれないものが柵の向こうからくるような感じ。

二人も気付いたみたいで同じ方向を見ていると、
次の瞬間風が吹いた。今まで風なんか殆ど無かったのに。


「この風に呑まれたらヤバイ!」


と直感した俺は、屋上の入り口に走った。

友達も同じだったと思う。


風に追いつかれる前になんとか入り口のドアを開け、
飛び込んだ。

横には息を切らしたBがいる。しかし、Aがいない。

「そうだ。あいつ足怪我して...」

五分ほど経ってもう一度屋上に行くとAの姿はなかった。

「大変なことになった」と思いながら
とりあえず病室に戻ると、
Aのベッドには見知らぬお爺さんがいた。


「あれ?」と思い、病室のネームを見ると、
Aの名前がない。


病室間違えたかと思い、
同じフロアを全室確認したがいない。

しかしそれだけじゃなかった。

Aなんて人間自体存在していないことになってた。

Aの家に行くと、Aの母ちゃんはいるけど、
Aなんて子はいない。妹も弟もいるのに。
(Aの弟が長男ってことになってた)

学校に行っても奴の席はなかった。
(写真等にもいない)



Aが居たことを覚えているのは俺とBだけ。

15年経った今でも不思議でならない。

Bとは

「Aはあの風に呑まれて異世界に行ったんだ」

と話した。


でも俺もBも「それは違う」とほぼ確信している。

そうじゃないと思いたいけど、
Aが異世界に行ったんじゃない。

俺らが異世界に来たんじゃないのかと。

何故ならあの時首吊り死体を見た御神木がないから。

そこは神社の駐車場になっていた。
(御神木は違う場所になっていた)

あの時屋上の入り口の扉を開けた先こそが
異世界だったんじゃないか?

じゃあ異世界に元からいた俺らは?
(あの時都合よく入れ替わった?)


夏休みに御神木で見た首吊り死体は
この事と関係があるのか?


そもそも屋上に吹いた風はなんだったんだ?

疑問はいくつも残るけど、俺もBも結婚して、
こっちの世界で幸せにやってます。





2019年02月02日

勾玉「祟り神の言い伝え」【怖い話】






中学生の頃祖父から聞いた話
(話自体は祖父の父=曽祖父から祖父が聞いた話)


俺の地元の山に神主もいない古びた神社があるんだが、
そこに祀られている神様は所謂「祟り神」というやつで、
昔から色々な言い伝えがあった。


大半は粗末に扱うと災害が起きるとかそんな話なのだが、
そのうちの一つにこんな話があった。


それは戦国時代、
当時の領主の放蕩息子が祟りなど迷信だといって
神社のご神体を持ち出し、
あろうことか酔った勢いで御神体に向かって小便をかけたらしい。


それから暫くは何事も無かったのだが、数年後から異変が起きた。

(古い話で詳しくは伝わっていないが、
口伝として語り継がれているのは以下のようなもの)


・詳細は不明だがあちこちで説明の付かない怪異が多発


・村人が何人も理由不明で失踪


・領主の顔が倍近くに腫れあがる原因不明の病気にかかり、
回復はしたが失明・問題の放蕩息子以外の3人の息子達は
戦で重症を負ったり病気にかかったり


・問題の放蕩息子は乱心し山に入ってそのまま帰らず


・祟りを恐れた村人達が色々と
 神様を鎮める試みをしたが全てうまくいかず、
 村人は次々と村を去り事実上の廃村に


こんなところなのだが、まあ古い話であり、
文献として残っているわけでもなく、

事件の結末も解らない中途半端な話なうえに、
口伝として語り継がれる程度のものだったのと、

その後村に住んでいる人たちは後になって
移り住んだ人たちばかりなので、
いわゆる噂程度のものだった。


そして時代は変わって祖父がまだ生まれる前、
明治維新から数年後頃の話。


神社は当時から神主などはおらず、
村の寄り合いで地域の有力者などが中心となって

掃除や神事などの管理し、
たまに他所から神主さんを呼んで神事をしてもらっていた。


また、口伝として残されている話などから、
「触らぬ神に祟り無し」ということで、
御神体は絶対に誰も触れることなく
ずっとそのまま存在し続けていた。


戦国時代の事件以降、
ずっとそんな状態で神社も村も
何ら大きな出来事も無く続いてきたのだが、
ある年ある事件が起きてしまった。


ある日村の若い人たちが集まって話をしているときに、
ふと前記の祟りの話が話題になった。


その時数人の若者がこんな事を言い出したらしい

「祟りなんてあるわけがない、
 日本は開国して文明国になったのだから、
 そういう古い迷信に囚われるのは良くない」と。


そんなこんなで、
その後どういう経緯でそうなったのかは解らないが、
迷信を取り去るためにその御神体とやらの正体を
見に行こうという事になったらしい。


まあ気持ちとしては一種の肝試し的な
軽い気持ちのものだったのだろうと祖父は言っていた。


ただし、全員が全員その話に賛同したわけでは無く、
やはり祟りは恐ろしいということで
実際に見に行ったのは10人ほどの集団で、
やはり肝試し要素があったので夜中に集まり神社へ向かった。

(神社での一連の話は一緒についていった人から曽祖父が聞いた話。)

神社の境内に入り、
拝殿の扉を開け中に入るとこじんまりとした祭壇があり、
そこの台の裏に古ぼけた桐の箱が置いてあり紐で厳重に封がされていて、
どうやら御神体はその中に入っているらしかった。


みなそこまで来たところで少し怖気づいてしまい、
また、何か妙な胸騒ぎがしたため箱に触れることが
出来なかったらしいが、

最初に「迷信だ」と言い出したやつが意を決して箱を手に取り、
箱を固定していた紐などを解くと蓋を開けた。


中には綺麗な石(どうも勾玉らしい)が3つ入っており、
とくにそれだけで何事も無く、
急に緊張のほぐれたため逆に気が強くなり、
御神体を元に戻しそのまま朝まで拝殿の中で酒盛りをしたらしい。


翌朝、拝殿で御神体の箱を開け、
更に中で朝まで酒盛りをしていた事が村中にばれ、

若者達はこっ酷く叱られたらしいが、特にその後なにもないため、
村人達もその事をそれ以上追求しなかった。


一応その時神社で酒盛りをした連中を連れて、
村の地主が神社へ謝罪しに行ったらしいが。

3年後、村で妙な事件がおき始めた。


村の外れに猪や鹿や猿が木に串刺しにされて放置されていたり、
夜中に人とも獣ともつかない不気味な声を聞いたという人が
何人も現れたり、

あちこちの家に大量の小石が投げ込まれたり、
犬が何も無い空を見上げて狂ったように吠え出したり、

これは曽祖父も深夜に便所へ行った時にみかけたらしいが、
黒い人影が何十人も深夜に列を作って歩いているのをみかけたりと、
とにかく実害のある被害者はいないが気持ちの悪い事件が多発し始めた。


こういった事件が多発したため、流石に村でも

「3年前の事件が原因ではないか」

と噂になり始めたのと、治安の面から不安なので、
村人は村の駐在さんと相談し、
近隣の警察署に応援を頼み警備を厳重にしてもらう事と、

村で自警団を作り夜中に巡回する事、それと同時に、
3年前の事件を引き起こしたもの達でもう一度神社へ謝罪しに
行く事などが決まった。


しかし、様々な策を講じても一向に怪現象はとまらず、
それどころかとうとう被害者まで出るようになってしまった。


山に入った村人が、
何かに襲われボロボロの死体で発見された事件をかわきりに、

子供が遊びに行ったまま帰らない、

自警団の見回りをしていた4人が4人とも忽然と消えてしまう、

夜中に突然起き出して何か喚きながら外に飛び出し、
そのまま失踪してしまう、

女の人が何かに追われているかのように必死で逃げて行き、
自宅に戻ると包丁で自分の首を掻き切って自殺してしまうなど。


そういった事件が立て続けに1ヶ月ほどで起きたため、
最早村人達には手に負えないと、
何か解決策は無いか話し合っていたところ、
村のおじいさんが

「山向こうの○○神社は、
 山の神社の神事の代行を何度かおこなっていて、
それなりに縁があるようなのでそちらを尋ねてみたらどうか」

との提案をした。


他に何か良い案があるわけでもなかったため、
だめもとで明日○○神社へ向かう事で話し合いは終った。


翌日、地主が3年前の事件の主犯格などを連れて○○神社へ向かい、
神主さんに取り次いでもらう事にした。


神主さんは、とにかくお互い落ち着いて話そうということとなり、
社務所で一連の事件等の事を詳しく話す事にした。


しかし、ある程度話が進むと、神主さんは

「それはおかしい」

と言い出した。


どうも山の神社の御神体は祭壇の上においてある
平たい箱に入った銅鏡であって、桐の箱の勾玉は違うらしい。


戦国時代の話にしても、
領主の息子が粗相をしたのはその銅鏡であると
○○神社に伝わっているらしかった。


そもそも、○○神社は何代も前から
山の神社の神事を代行してきた経緯があり、

自分も若い頃に一度代行した事があるが、
桐の箱や勾玉の事は全く知らないらしい。


実は地主も若者達が開けたのはてっきり
祭壇の上の箱の事だと思っていたらしく、

その時はかなり驚いたのと、
地主も桐の箱に入った勾玉の事を今はじめて知ったようだった。


また神主さんは、
これは悪霊や祟り神による祟りの類では無く、
もっと異質な何か別なものの仕業で、

とにかく一度その勾玉を見てみないことには解らないが、
もしかすると山の神社の神様はその「何か」を
勾玉に封じる役割があったのではないか?とのことだった。


神主さんは、まず○○神社に残る文献を調べてみて、
何か勾玉に関する情報が無いか調べてみるとの事で、
2日後に地主の家で落ち合う事になりその日は帰る事となった。


2日後、地主と当事者の若者達が、
地主の家で神主さんを待っていると村の駐在さんが訪れ、
怪現象が近隣の村や村の近くの陸軍の駐屯地でも起き始めている事、

一部ではそれに関連したと思われる失踪者も出始めており、
どうも被害がこの村を中心としてあちこちに拡散しているらしい、

まだこの村で起きている事が噂となっている兆候は無いが、
いずれ噂になり責任を追及されるかもしれない、
早く何とかしたほうが良いらしい。


そうこうしているうちに○○神社の神主さんがやってきたため、
皆でまず山の神社の勾玉を確認しようということになった。


山道を抜け神社にたどり付くと、
神主さんが自分が調べた事をまず説明し始めた。


神主さんが言うには、
この辺りには大昔から何か良くないものがおり、
その何かはよく人をさらって行ったらしい。


そこで土地に人々は土着の国津神にお願いし、
この良くないものを退治してくれるよう頼んだのだが、
その「何か」の力があまりにも強く、

しかもさらった人々を取り込んでどんどん強くなるため、
その神様でも力を封じ込めるのでやっとで、
とても退治することはできなかったという。


要するに、その「何か」そのものは封じられたわけでは無く
ずっとこの村の周辺に潜んでいたが、
力が封じられて何も出来なかっただけであったと。


そこへ来て若者達が神様の封じていた
勾玉の箱を開けてしまったため、
再び力を取り戻して人をさらったり殺したりするようになった
との事だった。


神主さんが言うには、
戦国時代の話は恐らくここの神様による祟りで間違いないが、
今回の一連の事件はそれとは全く別であり、

村の人たちが見た黒い人影は
その「何か」に取り込まれた人たちの姿で、
最早この人たちを解放するのは無理だろうとの事だった。


また、今回の一件でその「何か」はまた更に力をつけたが、
まだ神様の力を借りて力を封じる事そのものは可能であるはずで、
手に負えなくなる前に力を封じてしまわないといけない。


そして、恐らくその「何か」は長い年月をかけて勾玉と
一心同体のような状態にあるようで、

あまり勾玉から遠くに離れることが出来ず
恐らくまだこの近くに潜んでいるはずだという。


また、封を開けてしまった若者達は全員
この「何か」に魅入られてしまっており、

さらわれて取り込まれる事とは別の事に利用される可能性があり、
「何か」の力を封じた後でも全く安心できない、
なので神様が力を封じた後、

これとは別に御払いをし、
それでもだめなら○○神社は分社であるため、
本体のある明神大社へ行って御払いをしないといけない事を伝えた。


更に、「何か」の力を封じるため神様を降ろしている間、
「何か」が若者達を利用して儀式を妨害する可能性も十分にあるので、
封を開けるときに立ち会った若者は
全員ここへ集めたほうが良いとの事だった。


そして神主さんは、地主にまず普段神事を行う時の道具と、
紙に書いてあるものを早急にここへ持ってくる様に指示し、

若者達はここにいない者も含め全員ここへ集めるように伝えると、
首謀者の若者達には決して何があろうと神社の外へ出ないよう伝え、
自分自身は桐の箱を開け中の勾玉の状態を確認し始めた。


勾玉を調べていた神主さんが言うには、文献にあった通り、
勾玉は力を封じるためのものだったらしく、
今は何の力も感じない。


ただし、これもやはり文献にあったとおり、
「何か」は勾玉と一心同体なため、
「何か」の異様な気配だけは勾玉からも感じるらしい。


数時間後、

地主と村のものが神事に使う道具と残りの若者達を
連れて戻ってきたため、
そのまま国津神の力を借りるための儀式が執り行われた。


神主さんが若者達を全員縄で囲った
「結界?」のようなものに入れると、
祝詞をよみあげ儀式が始まった。

最初は何事も無く進んでいたが、
暫くすると辺りが異様に獣臭くなり、
外で何人もの人がうろつく気配がし始めた。


神社へやって来た村人は全員拝殿の中にいるし、
地主がこちらへ戻る前に、残っている村人達に

「今日は何があろうと家から出ないように」

と指示していたため、誰かがやってくることもありえない。

つまり「何か」が今、神社の外にやってきているということ。


神主さんが言うには、

「今は神様が依代の銅鏡に降りてきているから
 絶対にあれは拝殿に入れない、
 だからこちらから外に出なければ絶対に安全」

らしく、あとどれくらいかかるか解らないが、
暫く我慢してこらえてほしいとのことだった。


それから朝まで儀式は続いたが、
その間外からは獣とも人とも区別の付かない笑い声、
ざわつく大勢の人の声、
何かが歩き回る音やガリガリと壁を引っ掻くような音、
朝方になるとあちこちを無差別に叩いて回る
音が聞こえてきていたらしい。


朝になり儀式が終ると、全員緊張から疲労困憊で、
とにかく早く家に帰って眠りたかったので神主さんから
「この後」の事を聞いた後拝殿の扉をあけた。


すると、あちこちの木が倒され、
神社周辺はそこらじゅうに何十人か何百人かの
人の泥だらけの無数の足跡と、

神社の壁には何か大きな生物が引っ掻いた引っ掻き傷があり、
鳥や狸などを食い荒らした残骸まであったらしい。


ちなみに、後から神主さんに聞いた話によると、
この村は一度廃村になったためそれまでの言い伝えや
伝統が殆どなくなってしまい、

その時に「何か」の存在の言い伝えや
神社の役割も伝える人がいなくなってしまったので、

今まで神主さん自身も文献を調べるまで
儀礼的な単なる義務としての神事しか知らなかったのだという。


ただし、文献を調べて見ても「何か」の正体や
○○神社と山の神社の関係などは殆ど解らなかったらしいが。



最後に、なぜこんなうろ覚えのような
文才の無い文章をあえてここに書いたかというと、

2年ほど前にその地元の神社が盗難事件にあい、
中の祭具や御神体など一式が全て盗まれたから。

最近多いらしいですね、この手の盗難事件。


問題はその泥棒が桐の箱も盗んだらしい事と、
あと数ヶ月で3年目であること、

あとはこの「何か」は勾玉周辺の人々を
周囲数十キロの範囲で無差別に襲うという事実です。

祖父が言うには

「今更どうにもならないし、
 勾玉の場所がわからなければ対策のしようが無い」

のだそうだ。




2019年01月30日

霊媒師 【呪い・怖い話】





これは母から聞いた話です。



親戚に体格の良い叔父さんがいた。(母からは義理の兄)

特にスポーツをやっていた訳ではないが、
子供の頃から農作業を手伝っていた所為か腕っ節は強かった。



その叔父さんが結婚したばかりの頃。


夜中の12時頃になると、

訳の判らない事を口走ったり、自分で自分の首をしめたり、
いきなり高いところへ駆け上り跳び下りようとしたり、

奇行が目立つようになっていた。


しかも不思議なことに、30分ほど経つとピタリとおさまり、
その間にやっていた事は全然覚えていなかった。



そのようなことが1〜2週間続き、
周りで取り押さえる方が疲れ始めた。


また、此のまま放って置くと
本当に自殺するのではないかと心配し、
いろいろな所へあったっていると、


或る親戚の一人が

「良いお祓い屋さんがいる」と、

とあるおばちゃんを連れてきた。



おばちゃんは、
特にこれと云って変わった感じは受けなかったが、

叔父さんを見るなり、

「あんた、呪われているよ。心当たりはないですか?」

と聞いてきた。


叔父さんには心当たりが一つだけあった。

最近結婚した奥さんが以前はやくざの女だった。


(相手は本当のやくざではないし、
情婦と言うほどの付き合いでもなかったらしいが)


それを相手のやくざから強引に別れさせ
(無論、今の奥さんに頼まれて)、
それが切っ掛けのような形で結婚したのだ。



呪いをかけられる相手として浮かんだのは
その男しかないと思ったので、そのおばさんにそう答えた。


するとおばさんは、


「そんな男に大きな力はないと思うから、
きっとお金で雇っているのね。

 まあ、任せときなさい。今晩お払いしときますから。


 一週間ほどしてからまたきますから、
本当に払えていたらその間なにもないはずですから。

 お金はその時に準備して置いてくださいね」


そう言って、
1〜2時間ほど不思議なお祈りをして帰っていった。



その夜からピタリと奇行は無くなり、
家族みんなグッスリ眠れるようになった。




やがて一週間が経ち、そのおばちゃんにお金を払い
(母の話だと、普通の人の月給程度)お礼をした。



母は好奇心が強いので、
そのおばちゃんと世間話をしながらいろいろ聞いてみた。

そして、一番気になっていたことを聞いた。



「相手の人が、呪いをかけ直すと言う事はないんですか?」


「ええ、一週間も経っていれば大丈夫です。

 私のは、呪いを払ったんじゃなく、返したんですから。

 相手は、私と同じような商売の人。


 まあ、私もこんな商売していれば、
畳の上では死ねないと思ってますから」


そう云っておばちゃんはにっこり笑った。


母は「人の笑顔がこんなに怖かったのは初めてだった」

と言っていた。




posted by kowaihanashi6515 at 01:43 | TrackBack(0) | 洒落怖
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