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2018年10月15日
田舎の村の求人【集落・田舎の怖い話】
この間就活で山間の村に行ってきたんだが
そこは基地〇村だったんだ。
まず、なぜわざわざそんな田舎に行ったかというと
条件の割に応募者が0で余裕そうだったから。
事務 高卒の条件なんだが
給与25万 土日祝日休み 賞与6か月分 寮費光熱費無料
かなり良い条件だと思った俺は電車に乗って面接に行った。
朝一で出発し半日後、その村についた。
電車で3時間、
そのあとバスを2時間待ってバスでさらに1時間の距離
携帯の電波が3Gすら途切れ途切れの受信だった
正直不便だなぁと思いつつ
面接の時間までまだ2時間あったので村を徘徊することにした。
歩いているだけで村人が声をかけてくるんだ。
最初は気さくな人が多いんだなぁと微笑ましかった。
しかしすぐにそれが間違いということに気が付く。
何人かの村人が後をつけてきているんだ。
振り向くと数人が白々しく立ち話や草むしりをしている。
しばらく村を歩いていると個人商店があったから、
そこにに入ってやり過ごそうとしていたら
ババアが店に入ってきた。
店主が 来てるよ と囁いていたので怖くなって店から飛び出した。
そのあと高校生くらいの男数人が
チャリで捜索しているのを見かけ身震いした。
いたか?あっちで見たってよ!
と大声で会話をしている。
高確率で自分を探しているんだろう。
なぜか今日自分がそこの村に行くことが
村中に知れ渡っているみたいだった。
俺は怖くなって、
少し時間は早いけど面接の場所に行くことにした。
施設についた俺は、
受付の人にあいさつを済ませ
少し早くついてしまったことを告げた。
すると、予定を早めて面接してくれることになった。
融通が利いていいなぁなどと
のんきに考えていたがこの後もひどかった。
村がおかしけりゃこの施設も相当おかしかった。
面接の内容はこんな感じ。
志望動機や同じ業種の中からどうしてうちを選んだのか?
この村のことは聞いたことがあるのか?
永住するのか?
最初はある程度まともな事を質問してきたから
用意しておいた回答を述べた。
すると、受けが良かったのか
採用を前提にした話に切り替わった。
ここからが本当にひどい。
まず、
村のジジババの介護を村人と協力してやること
両親も村に引っ越させること
財産はどれくらいあるのか?
彼女はいるのか?
いるなら別れろ(当然いませんがw)
都会の友達とは縁を切れ
村人で共有できるものは進んで差し出せ
親戚や知り合いに医者はいるか?
などなど
一番ドン引きしたのが
○○さんって家の娘がいるからそいつと結婚しろ、
後で会せてやる子供はたくさん作れ。
みんなで面倒見るから安心しろ
っての
もう頭おかしいとしか言いようがない。
ちなみに娘さんの写真を見せられたんだが
イモトの眉毛を細くしたような女だった。
もちろんノーセンキュー
女のことは適当に保留して
とりあえず良い顔だけして面接を終えた。
帰りに襲撃されたら困るからな。
バスを待っているときに
ババアとかが話しかけてきたんだが、
もう面接の話を知っていて寒気がした。
村の話を色々してくれて根はいい人なんだろうが
その時は恐怖でしかなかった。
家に帰ったのが11時過ぎ。
疲れて昼過ぎまで寝てから辞退の電話を掛けたんだ。
やっぱりというか、断ったら発狂してね
こんないい村は他にない!
都会だからって馬鹿にしているのか!
結婚するって話の娘に失礼だ!
村に来てみんなに謝罪しろ!
安心して外を歩けると思うな!
など一方的にののしられた。
他に仕事決まったのでって断り方がまずかったのかな?
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2018年10月14日
見知らぬ女【怖い話】
大学で実際にあった洒落にならない話。
俺の通っている大学は、山のてっぺんにある。
町から相当隔離された場所にあり、
最寄のコンビニですら、
ジグザグの山道を通って車で片道10分は掛かってしまう。
そんな環境であるため、
サークル活動や研究室などの特殊な用事でもない限り、
遅くまで大学に居残る学生はほとんどいない。
しかし、10棟程度に分かれている大学校舎の中の一つに、
『音楽棟』という建物があり、
そこでは夜遅くまで学生
(大半は音楽関係の学科生かサークルの人間)が、
ヴァイオリンやピアノ等の楽器を練習している。
音楽棟には、
50以上の個室の全てにピアノが一台ずつ入っているのだが、
学生はそれぞれ自分なりにお気に入りの個室があるようで、
例えば練習室の24番には○○専攻のA子がいるから、
23番の練習室をお気に入りに使っているアホな輩もいる、
といった具合だ。
その日の夜、俺は音楽棟で楽器の練習をしていた。
時刻は9時半頃だった。
終バスが10時なので、
そのくらいの時間になると学生の数はかなり減っている。
山中であるため、終バスに乗り遅れると下山は困難を極めるのだ。
俺もそろそろ帰るかと思ったその時。
やや離れた場所から
「ドカッ!!」と、
何かがぶつかるような音がした。
誰かが楽器でも落としたのだろうかと思ったが、
あまり気にせず個室を出ようとすると、
またもや
「ドカンッ!!」
という音がした。
さてはアレだなと思った。
音楽棟はだいぶ老朽化しているため、
壊れているドアがいくつかある。
ある程度ちゃんとした校舎をもつ学校に通う学生には、
信じ難いかもしれないが、この大学では運が悪いと、
自力で個室の中から出られなくなることもしばしば起こるのだ。
部屋の中からドアを開けようとしている音に違いない・・・。
前にも閉じ込められた友人を救出した経験があったからこそ、
確信があった。
すぐさま音のした個室の方へ行って、
個室にある窓から中を覗いてみると、
案の定、ドアを何とか開けようとしている、
学生らしき姿があった。
「今開けますよ」
と一声掛けてから、ドアノブをやや強引に捻って開けた。
「ありがとうございます、
出ようとしたらドアが開かなくなっちゃって・・・」
初めて見る顔だった。
音楽棟に夜遅くまで残って練習している人間は、
大体把握できているつもりだったが、
目の前にいるのは全く知らない女の子だった。
他大生だろうか・・・?
原則として学外の人間は、
個室を使っていけない事になっているが、
まぁいいかと思い、
「練習お疲れ様です」
と言った。
その時。本当に、本当に一瞬の事だった。
その女の子の表情が歪み、恐ろしい顔つきになったのだ。
そして、嘘だったように一瞬で元の表情に戻った。
「ここ、私のお気に入りの部屋なんです」
「え、そうなんですか」
俺は喋りながら、変な違和感と緊張を感じていた。
何かこの女、おかしい。今の顔は何だったんだ?
いや、それ以前にもっとおかしな事がある。
「ずっと使っていたんですけど、
いきなり開かなくなったからびっくりして・・・」
んな事聞いてない。お気に入り?誰の・・・?
「ほんとうにありがとうございました」
そう言ってその女は、スタスタと歩いていってしまった。
俺は結局、何も聞けなかった。
この個室の番号は31。
俺のよく知る先輩がいつも練習している部屋だった。
いつも夜遅くまで練習している、努力家で熱心な先輩。
その先輩がいなくて、知らない女がいた。
俺はどうしても気になって、
すぐに携帯電話で先輩に聞いてみることにした。
意外にもすぐに繋がった。
どうやら、今までずっと学外で過ごしていたとの事だった。
授業は1コマから入っていたそうだが、
どうも気が進まなくて・・・と曖昧な返事だった。
そこで練習室の女のことを言ってみた。
先輩はしばらく絶句していたが、重い口調で話してくれた。
「誰にも言うなよ・・・昨日、脅迫を受けたんだ」
話によると、昨日の夜、
アパートで一人暮らしの先輩が家に帰宅すると、
郵便受けに大量の紙が詰まっていた。
何十枚もの紙の全てに、
『学校に来るな』
と一言、印刷されていた。
気味が悪くなって学校には行かず、
一日中、町に下りて過ごしていたそうだ。
警察に届けようと思ったが、思いとどまっていたらしい。
「その女って、誰なんですか?心当たりなどは・・・?」
「いや、あるわけない。
ないけど、お前の話を聞いて余計に怖くなった。
とりあえず、何とかしようと思う」
その会話を最後に、俺は今に至るまで先輩と会っていない。
アパートは空っぽ、
実家への連絡すら1年以上もない状態らしい。
完全に失踪してしまった。
勿論、あの女ともあれ以来、会っていない。
ある競輪選手の不思議な話 「たぶんこの世の人じゃないよね。彼がね、アンタに伝えて欲しいって。」 【不思議】【感動】【心霊系イイ話】
今はサラリーマンしてますが、
2年前まで競輪選手として勝負の世界で生きてました。
現役時代の話です。
静岡の伊東競輪の最終日に、
私は見事一着を取りました。
それは連携した前走の後輩選手(K.T君)が
勝とうと頑張った結果、
自分にもチャンスが来たからでした。
そのK選手が一着でゴールするところを、
私がゴール直前で後から抜いた形です。
レースが終わり、昼食を食べに食堂へ行くと、
ちょうどK君も食べに来ました。
一着を取って上機嫌だった私は
「K君一人なら一緒に食べようよ。」
と誘い同じテーブルで食事を始めました。
「4コーナーでは勝ったと思ったでしょ」
と私が言うと、
「はい、いただき!と思いました!」
とK君は二着になってしまったにもかかわらず、
屈託のない笑顔で言いました。
お互い力を出し切った満足感と、
レースの緊張から解放されたことですぐに打ち解けました。
彼とはその開催が初めての出会いでした。
しかしその二ヶ月後、
K君は凍った路面で運転していた車がスリップし、
亡くなってしまいました。
かなりショックでしたが、
彼との思い出は伊東競輪のワンツーだけだった事もあり、
薄情なもので年月と共に忘れていきました。
何年か経った12月、
家で昼ご飯を食べながらテレビのニュースを見てると、
北海道の大雪の映像が流れてました。
「そういえばTが事故ったのもこんな日だったんかなぁ。
あれ、Tって苗字何だったっけ。」
本当に私は薄情な奴です。
久々に甦った記憶でしたが、
Kという苗字がどうしても思い出せなかったんです。
その晩、突然妻が言いました。
「ねえ、K君って知ってる?。K君が私のとこに来たよ。」
あまりの驚きに声が出ませんでした。
「そうだ、Kだった…」
昼の記憶も、私の胸の中だけのものでした。
妻は恐ろしい程の霊感の持ち主でした。
妻は更に続けました。
「たぶんこの世の人じゃないよね。
彼がね、アンタに伝えて欲しいって言った事をそのまま言うね。」
「思い出してくれてありがとうございます。
僕はもっと走りたかったけど出来ませんでした。
Mさん(私)には僕の分も走って欲しい。
僕はもう生まれ変わっています。
またスポーツを仕事に出きるように頑張ります。
明日からの仕事、
黄色かオレンジ色のユニフォームになったら怪我に気を付けて下さい。」
冷静に話す妻とは逆に私は声を上げて泣いてしまいました。
余りの驚きと嬉しさで泣きながら
「たった1回一緒に走っただけなのに」
と堪らず言いました。
短い時間でも絆に思っている。
事故の瞬間は、
頭の中で火花が散った感じがしただけで苦しまなかった。
ということも言ってたそうです。
その翌日から私は、千葉県の松戸競輪の出場でした。
松戸では夕べのことをK君の先輩に言うかかなり迷いました。
「うさん臭い。ふざけるな」
って言われるんじゃないかと。
迷ったあげく、夕べのことをその先輩に話しました。
何も足さず、何も変えず心を込めて。
「仲間が集まってコーヒーを飲む時にでも
彼の思い出話をしてあげて下さい」
とだけ最後に加えました。
その夕方、
私の話を真剣に聞いてくれた
K君の先輩が興奮して私の所に来て言いました。
「M(私)!Kの命日、今日だった」
その日の宿舎での夕食は、
K君と同じ県の選手のテーブルに空席を設けて、
彼が好きだったビールのグラスを置いて彼の話で盛り上がったそうです。
「死んでも仲間の心の中で生き続ける」
なんて臭いセリフを耳にしますが、嘘じゃないと思いました。
水子の霊とか、人は死者を恐れますが、
彼らは自分の大切な人にいつまでも覚えていて欲しいと
願っているだけです。
死んでしまって肉体がなくなっただけで、必ず存在してます。
お墓に行っても亡くなった人は居ません。
想いを馳(は)せるだけで安らぎ、見守ってくれるのだと妻は言います。
松戸競輪では私は黄色(5番車)とオレンジ色(7番車)のユニフォームを
着る事もなく無事に3日間走り終えたのは、K君のお陰だと信じています。
私はそれから引退するまで、
K君に恥じないレースを心掛けて必死に走りました。
「うそくせぇ。読んで損した。」
と思われても仕方ないとわかります。
しかし本当の出来事だから仕方ないんです。
妻にはこういう話を他言をしないよう固く言われます。
しかし大切な人を亡くし、
立ち直れずにいる人への勇気や癒しになればと思い、
妻を裏切って投稿させていただきました。
「神様・・・お前もか・・・」幽霊のイタズラに悩んで神社へ参拝に行くと・・・【笑える怖い話】
俺は子供の頃から変わった体験をしている。
例えば、見えない何者かに触られたり、
誰もいない自分の部屋で腹にパンチを何度もされたり。
一番酷い時には、頭を掴まれて壁に叩き付けられたこともあった。
だが残念なことに、
その肝心の幽霊と思しき何者かを一度も見たことがない。
これらの体験を友人に話してみると、
「ベタだけど神社かどこかにお参りしに行ったら?」
と言われ、早速行ってきた。
俺自身はこういった参拝行為にご利益があるとか全く信じていなかったし、
その時はあいにく小銭が一枚も無かったので、
厚かましく“お願いだけ”してさっさと帰ろうと思った。
参拝を済ませて振り返り、来た道を歩き出すと、
後ろから
「カ・・・ネ・・・」
という声が聞こえた。
しかし、振り返っても誰もいない。
気のせいかと無視して歩き続けると、
その声が徐々に大きくなっていき、
「カ・・・ネ・・・、カネ、金!金!!」
とはっきり聞こえてきた。
これはマズイと思った俺は、
コンビニかどこかでお札を両替しようとやや早足で歩くと、
凍った焼き鳥でブッ叩かれるような痛みを頭に感じ、
直後に後ろから
「走れ!」
という怒号が聞こえた。
怖くなった俺はすぐさま走り出し、
急いで両替してお賽銭を済ました。
「神様・・・お前もか・・・」
と思いながら、その日は布団の中で泣いた。
霊感の強い友人【怖い話】
実際に自分が体験した話。
10年来の友人に、
Eちゃんというものすごく霊感の強い子がいる。
どのくらい強いかというと、
幼い頃から予言めいたことを口にしていて、
それが口コミで広がり、
わざわざ遠方からEちゃんを訪ねてくる人がいたくらい。
その人達の用件は主に、
行方不明になった我が子を探してくれてというもの。
Eちゃんは写真を見ただけで、
その人物がどこにいるのかがわかる。
そして実際に当たっている。
ただし、その人物が
亡くなっている場合のみだけど。
幼かったEちゃんは深く考えずに、
「コンクリートの下に埋まってるよ〜」
なんて答えていたらしい。
やがて成長すると、
自分がどれだけ残酷な回答をしていたか気付き、
人探しは断るようにした。
それから周りには能力が消えたフリをし続けてきたらしい。
本当はいつもうじゃうじゃ霊の存在を感じていたけれど。
そんなEちゃんと私は、中学で出会った。
最初はすげー美少女がいるなーという印象だった。
ちなみにEちゃんはイギリスとのクオーターで、
佐々木希と北川景子を足して2で割ったような顔をしている。
あんまりに美少女だったから高校の時、
芸能界入りを勧めたら、
某大手プロダクションのオーディションに
あっさり受かりやがった(笑)
だけど本人にやる気がなかったせいか、
半年くらいで辞めてしまった。
それからは普通の高校生として、
Eちゃんはよく私と遊んでくれた。
学校帰りにはいつも2人で買い食いしてた。
ある時、
どこかの施設の外階段に座って
2人でお菓子食べてたら、
上から降りてきたおばあさんに
話しかけられたことがあった。
おばあさんは足が悪そうだった。
「人がいっぱいおるけど、今日何かあるんですか?」
おばあさんが言った。
下の道路はたくさんの人で溢れている。
お祭があるのだ。
こういう時、
人見知りの私はいつもEちゃんに話を任せてしまう。
しかしその時のEちゃんは違った。
そっぽを向いて、
おばあさんと話す気などまるでなし。
仕方なく私が答えることにした。
祭があることを教えると、おばあさんは納得した。
「だからこんなに人がおるんだね〜」
おばあさんはにこにこしていて、
足を引きずりながらゆっくり階段を下りていった。
その間、Eちゃんはずっと黙っていた。
そしておばあさんの姿が視界から消えると、
ようやく口を開いたEちゃん。
「…今の人、とっくに亡くなってるよ」
驚いた。
だってしっかり姿見えていたし、
私は会話までしている。
「嘘でしょ?」
私は半笑いで訊いた。
しかしEちゃんは真顔だった。
「嘘だと思うなら階段下りていってみなよ。
もう姿消えてるはずだから」
半信半疑で階段を下りるも、
すでにおばあさんの姿はなかった。
1階まで下りて探してみたけど、どこにもいない。
その階段というのが螺旋階段に近い作りになっていて、
確か階段を使うためには、
1階、5階、7階から入るしかないはずだった。
5階から1階までの間に
建物の中に入ることもできない作り。
そして私達が座っていたのが、5階辺り。
そこから1階まで、
足をひきずっていたおばあさんが
短時間で下りられるわけないのだった。
Eちゃんのもとへ戻ると、
彼女はやっぱりねという顔をして
ポッキーを食べていた。
「たぶん大丈夫だよ。
人が多いから気になって
出てきただけみたいだから。
害のない霊だよ」
「じゃあなんでEちゃんは
おばあさんと話さなかったの?」
「あたしに能力があると知ったら、
害のない霊でも憑いて来ちゃうことあるから」
「私、普通におばあさんと会話しちゃってたんだけど…」
「平気平気」
これが私が初めて霊を見た瞬間だった。
霊ってもっと怖くて、
怨念深い感じで出てくるとものだと思っていたから、
なんだか拍子抜けした。
すごくナチュラルに出てくるものなんだ…。
「亡くなって霊の姿になっても足をひきずってるなんて、
可哀想だね」
「いやいや実際あたしが普段見てる奴らは
あんなもんじゃないから。もっとぐろいよ」
あんな優しそうな
おばあさんの霊を見ただけでも、
やっぱりちょっと怖いなと
思っていた自分が恥ずかしくなった。
そして改めて、
Eちゃんが置かれている環境の特殊性を知った。
その後の私は霊を見ることなく、
無事に高校を卒業した。
卒業後、Eちゃんは事務職に就き、
私は実家に住みながらフリーターをしていた。
お互い仕事とアルバイトに追われ、
Eちゃんとはあまり会えなくなった。
しかし、
たまにメールや電話でやりとりは続いていた。
Eちゃんが仕事を辞め、
夜の仕事を始めたと聞いたのは、
高校を卒業してから1年程経った頃だった。
夜の仕事を始めたきっかけは、
父親のリストラだったそうだ。
さらにEちゃんの家には
早くに結婚して出戻って来た妹さんと、
Eちゃん似でイケメンなのに、
なぜかひきこもりの弟さんがいた。
Eちゃんは家族を支えるため、必死に働いていた。
なんだか実家に寄生して
ふらふらアルバイトをしている
自分が恥ずかしくなった。
就職活動を始めた私は、
しかしなかなか面接に
受かることが出来ず、
最終的に販売系の仕事で、
準社員として働くことになった。
仕事場となった店舗は、
数年前に殺人事件があった現場。
この事件、
当時は結構ニュースとして話題になった。
仕事は販売系と書いたけれど、
実際はちょっと違う。
今でも検索すればすぐ事件を特定されてしまうので、
実は職種ははっきりとは書けない。
曰くつきの職場ということで、
いざ働き始めてみると色々な話を耳にした。
前の店長が失踪したとか、
社員がみんな病気になるとか。
しかし私は特に何の変化もなかったので、
気にせず働いていた。
そして働き始めて1年が経った頃のこと……。
その日は朝から雨が降り続いていた。
客は数人しか来ず、開店休業状態。
午後には完全に客足が途絶えた。
店長と社員さんは配達に出てしまったため、
店番は私1人。
雨のせいか辺りは薄暗く、
なんだか気味が悪かった。
レジで手仕事をしながら時間を潰していると、
足音が聞こえた。
気付かぬうちに客が入ってきたのかと思い、
とりあえずブックオフ風に店全体に響き渡るよう、
「いらっしゃいませー」
と声をかけた。
それから客の相手をしようと
店内を探したのだが、誰もいない。
気のせいだったのかと思ってレジに戻り、
仕事を始めるとまた足音。
だがやはり客の姿はない。
こんなことを何度か繰り返していると、
さすがに怖くなってきた。
そして何度目かの足音。
今度ははっきりと背後から聞こえた。
始めはヒタヒタヒタ…くらいだったのが、
次第に小走りになり、
すぐにダダダダダッという
足音が近づいてくるのがわかった。
やばいやばいやばい……
恐怖に硬直していると、
視界に見慣れたジャンパーの色が入った。
店長が配達から帰って来たのだ。
ほっとした瞬間、足音が消えた。
おそるおそる振り返ってみる。
誰もいなかった。
「どうかした?」
何も知らない店長が、
不思議そうな顔をして訊く。
私は平静を装って、
「なんでもありません」
と言った。
しかし声を震えていたと思う。
その後、
店長は何か問題を起こしたとかで左遷され、
社員さんも次々と辞めていき、
店のメンツは様変わりした。
わたしは店舗で一番の古株になった。
新しい店長は大学出たてで
まだ右も左もわからない状態。
その店長とほぼ同時に入って来たのが、
アルバイトのKくんだった。
Kくんは最近までニートで
ひきこもりに近い生活をしていたとかで、
なんだか挙動不審。
店に出して客の相手をさせることは
まず無理だろうということで、
Kくんの仕事は主に、
配達の助手や事務的なことが中心だった。
しかしいざ働いてみると、
Kくんは案外面白い人だった。
私の知らないアニメや漫画をよく教えてくれた。
やがてみんなと打ち解け明るくなったKくんは、
レジ操作なんかも覚えて接客も出来るようになった。
ある時、
配達でみんな出払ってしまい、
店には私とKくんの2人きりということがあった。
Kくんは事務所の中にこもって、何かやっている。
その日は客が多く、レジが混雑してきた。
私1人では回すのが難しくなってきたので、
Kくんに応援を頼もうと、
客が途絶えた瞬間を見計らって
事務所のドアの外から呼びかけた。
「Kくーん、ちょっと出てきてもらっていいー?」
事務所の中からは返事がない。
事務所のドアは上1/3くらいが曇りガラスになっていて、
外から中の様子がぼんやりと窺える。
スタッフジャンパーを着た人影が中で動いていたので、
Kくんが確実に中にいることはわかった。
聞こえてないのかと思い、
ドアを開けて直接話すことにした。
ガチャガチャ……。
Kくん、内側から鍵かけてやがる。
この忙しい時に何やってるんだか…
怒りに任せてしばらく
ドアノブをガチャガチャやりながら、
大声で中のKくんに呼びかけていた。
「Kくん?何やってるの?
ちょっとレジ手伝ってほしいんだけど」
その時、背後から声がした。
「あのぉ〜Mさん?何やってんすか?」
Kくんだった。
あれ?事務所の中にいるはずじゃ……。
Kくんは店の裏で掃除をしていたのだという。
じゃあ今、事務所の中にいる人は誰?
そう思った時、
いくらやっても開かなかったドアが、
あっさりと開いた。
中には……誰もいなかった。
確かにスタッフジャンパーを
着た人影が動くのを私は見た。
だからKくんが中にいると思ったのだ。
しかしKくんはずっと店の裏にいた。
事務所には窓がなく、
出入りするにはこのドアを使うしかない。
じゃあ私が見た事務所の中の、
スタッフジャンパーを着た人は
どこへ行ってしまったのだろう。
背筋に冷たいものが走った。
その後は客の相手に忙しく、
真相を突き止める暇が無かったので、
このことはうやむやになってしまった。
Kくんが何か嘘をついているようには
見えなかったし、
深く考えると怖いので考えないようにした。
それから数日後、
出勤すると店の裏口に花が供えられていた。
数年前に起こった事件…
その日は被害者の命日だった。
毎年この日になると、
遺族が夜のうちにひっそりと
花を供えに来ている。
事務所の中には小さな仏壇がある。
毎年、花はその仏壇に挙げていた。
それからしばらくして花は枯れてしまうが、
スタッフの誰もその枯れた花を始末しない。
なんとなく、触れたくないと
みんな思っているようだ。
仕方なく私が手を伸ばした。
その時だった。
「捨てるな!!!」
Kくんが怒鳴った。
いつもボソボソと話すKくんの、
初めて聞いた怒鳴り声。
驚いた私は、咄嗟に花から手を引っ込めた。
何か気に入らないことでもしただろうか…
あの挙動不審なKくんが、
こんなにも怒りを露にするなんて。
「え…ごめんね。どうしたの?」
私はKくんに謝った。
しかし、
「ん?何のことっすか?」。
Kくんはきょとんとしている。
「今、怒鳴ったよね?」
「いえ、何も言ってないですけど」
Kくんは自分が怒鳴ったことを
忘れているようだった。
それとも私の聞き間違いだったのか…。
念のため花はもうしばらく
そのままにしておくことにした。
そんな出来事があってからも、
私は変わらずその店で働き続けた。
店長と付き合い始め、
職場恋愛に浮かれていたのだ。
いつもスタッフが帰った後、
店長と2人残ってレジ閉めしたり、
店のことを話したり、楽しかった。
ある日、
閉店時間になっても配達から
店長がなかなか帰ってこず、
閉店後も私は1人、
仕事をしながら彼の帰りを待っていた。
そういうことは今まで何度かあった。
彼が戻ってくるまで、1人は怖いので、
大抵は店の電話を使って
友達と話ながら待つことにしていた。
その日は久しぶりに
Eちゃんに電話を掛けて
みることにした。
「今、まだ職場にいて1人で暇なんだよー。
話付き合ってよ」
Eちゃんは快くOKしてくれ、
しばらくは高校時代の話などして
盛りあがっていた。
しかし、次第にEちゃんの口数が少なくなり、
声のトーンも暗くなった。
心配になった私が訊いてみると、
『Mちゃん、今、職場にいるんだよね……?』
「うん、そうだよ」
『今すぐそこから離れて!早く!』
Eちゃんはもうすごい剣幕で、
私にすぐ帰るよう言ってきた。
幸い、店の鍵は任されていたので、
私はさっさと身支度をして店を後にした。
何が何だかわからぬまま家に帰りつき、
彼には用事があるので
先に帰ったことを伝えた。
そしてEちゃんに理由を聞こうと
電話に手を伸ばした時、
Eちゃんのほうから着信があった。
「さっきはどうしたの?」
私が何か言おうとするとのを遮り、
Eちゃんが言った。
『あんたの職場やばいよ。
店で電話してた時、すごいノイズが入ってたし、
Mちゃんの声も変な風に聞こえた。
別人みたいな声になってた』
それからEちゃんは、
このままその職場で働いていると
良くないことが起こるから、
すぐに仕事を辞めたほうがいいと言ってきた。
私は迷った。
Eちゃんの言うことなら信じられる。
だけど、すぐに辞めたら周りに迷惑がかかるし、
次の仕事を探すのもこんな田舎では難しい。
迷った末、どうにも決めかねて、
次の日も仕事に行くことにした。
翌朝、家を出ると目の前にEちゃんがいた。
久しぶりの再会だった。
だけど、なぜこんな朝っぱらから訪ねて来る?
Eちゃんは会って早々、玄関の前で土下座をしてきた。
「お願いだからもうあそこへは行かないで」
Eちゃんは泣いていた。
思えば、Eちゃんが泣いたところを
見たのはその時が初めてだった。
私はまずそのことに驚き、かなりうろたえた。
結局、私はEちゃんの剣幕に負け、
その日は仕事を休むことにした。
そして結局一日中、Eちゃんに説得され、
そのまま仕事を辞めることになった。
Eちゃんの紹介で新しい職場もすんなり決まり、
仕事に慣れて来た頃、
私はあの店で一緒に働いていた人と
偶然再会した。
その人も、もうあの店は辞めたらしい。
話を聞くと、私が仕事を辞めてからも、
やはり色々とあったらしい。
みんな体を壊したり、ノイローゼになったり、
事故に遭っていたり……。
Eちゃんは私がこんな目に遭わないように、
仕事を辞めるよう説得してきたのだった。
そんなことがあってから数年が経ち、
現在、私は職場の先輩に紹介された人と結婚し、
新居に移った。
先日、その新居にEちゃんが遊びに来てくれた。
夫となった人に会わせると、
Eちゃんはとても喜んでくれた。
「もう大丈夫だね、Mちゃん。
これからはこの人がMちゃんを守ってくれるよ」
私はこの時にはもう悟っていた。
なぜ可愛くて男子からも人気のあるEちゃんが、
私のような地味な子と一緒にいるのか。
なぜ頭の良いEちゃんが、
わざわざレベルを落としてまで
私と同じ高校に進学したのか。
なぜモデルになりたいと言っていたくせに、
せっかく入れた芸能事務所を辞めたのか。
昔から、私が1人で出かけようとすると、
Eちゃんはよくついて来たがった。
ビジュアル系なんて興味ないくせに、
ライブにまでついて来たし、
買い物だって美容院だって、
わざわざ私の趣味に合わせて
くっついて来ていた。
全部、私を守るためだったのだ。
中学で初めて会った時、
Eちゃんは私の背後に憑いている
者の存在を気にしていた。
そして、その者が引き寄せる
数々の悪い者から、Eちゃんは
ずっと私を守ってくれていたのだ。
Eちゃん曰く、今の旦那と一緒にいれば、
私はもう大丈夫らしい。
肩の荷が下りたように、
Eちゃんは晴れ晴れとした顔をしていた。
そして今、Eちゃんは変わらず
夜の仕事を続けながら、
きちんとした指導者について
除霊の勉強をしている。
1人でも多くの人を救うために。
その勉強はものすごく辛いものらしい。
今まで無意識だった能力を意識して使おうとすると、
よく分からないのだが、力が暴走するらしい。
そのせいで、
見たくないものが部屋に横たわっていたり、
色々な者が寄ってくる影響で、
体を壊して何度も病院に運ばれたりしている。
それでも彼女は頑張り続けている。
私はもう一生、
彼女には頭が上がらないだろう。
Eちゃんと出会わせてくれたことを、
神様に感謝したい。
以上、
嘘っぽいところもあると思いますが、
すべて実際に起こったことです。
2018年10月12日
思春期だった俺、ついつい見てしまった結果・・・【怖い話】
高校2年生だった7月頃の話。
その日は定期テストで早く帰れたこともあり、
普段から人が少ない路線なのにさらに電車がガラガラだった。
音楽を聞きながら携帯を弄っていると、
向かいの座席にカップルが座ったのが視界の端で見えた。
最初こそ気にしていなかったのだが、
女の方が男の頬にキスをした。
それも何回も。
視界の端で見えただけだったが、
そこは思春期だった俺、ついつい見てしまった。
男は中肉中背のハゲたおっちゃん。
女は日本人ではなさそうなアジア系のお姉さん。
当時の俺は、外国人のパブのねーちゃんでも連れてるんだと思ったが、
どうも男は女のイチャつきに嫌そうな顔をしていた。
昼間の電車で堂々とキスって・・・、
国によっては普通なのかなと俺は考えていた。
しばらくチラチラ見ていると、
女がキスするのをやめて男に何か話しかけていた。
俺は音楽を聞いていたので内容は全く分からなかったが、
女が男の頬に顔を近づけたまま何やらブツブツと喋っている。
その時、
「あ、この女の人、変な人なんだ」、
そう思って目を逸らそうとした。
だが、ちょうど男と目が合った。
ちょっと気まずい感じがしたので、
また下を向いて携帯を弄ることにした。
周りの人は全く見ていなかった。
それでもやっぱり気になるので、
カップルを視界の端で見ていた。
それからしばらくすると、
女がキスをやめて俺の方をまじまじと見てきた。
向かいに座っていたからそう感じるだけだと思ったのだが、
顔を上げるとしっかりと目が合った。
それが不気味だったこともあり、
俺は地元の駅に着いた瞬間に急いで電車から降りた。
家に帰ってからは夜中まで翌日のテストの勉強をした後、
さっさと布団に入った。
すると、頬に何か当たった感触がした。
唇だ。
俺は怖くて目を開けられなかったが、
その唇の主が誰なのかはすぐに想像がついた。
数回キスが続いた後、頬のすぐ横でブツブツと囁き始めた。
日本語ではない言葉でひたすらブツブツと。
その時は、
「あぁ、電車で見たおっちゃんから移ったんだなぁ」とか、
「他の人は見てないんじゃなくて見えてなかったんだなぁ」とか、
「見えたのがバレたから付いて来たんだろうなぁ」などと、
もう怖すぎて逆に冷静に色々と考えていた。
気がつくと寝てしまっていたようで、朝になるとアイツは居なかった。
俺はそこから1ヵ月程、不定期に耳元で囁かれることになる。
気がおかしくなりそうだった。
3回のお祓いも意味がなかった。
でもある時からアイツは現れなくなった。
たぶん誰かが見たのだろう。
それでアイツは今も見た人を付け回しているのだと思う。
アイツが何を伝えようとしていたのかは、今となっては分からない。
ジンカン『人間をついばむ烏はすぐ殺せ』【名作・怖い話】
「人間をついばむカラスはすぐ殺せ」
「でも、そんなカラス見たことないよ。
カラスは、人間が近づくと逃げて行くよ?」
「見たことがないなら、いい。だけど、見つけたらすぐ殺せ」
「…なんで?」
「…」
俺がまだ幼かった頃。
まだ祖父のする昔話がおもしろいと感じていたあの頃。
もう少しで夢の世界に入ろうかというときに、
祖父はこの話をするのだ。
人間をついばむカラスはすぐに殺すんだ、と。
なんで?と理由を聞くと祖父は押し黙り、
そのうち俺は眠りにつく。
翌朝になると、不思議と心に残ってないというか。
あらためて祖父に尋ねることはなかった。
バジリスクという海外の化け物がいる。
某魔法使いの物語でかなり有名になったと思うが
(俺もそれで知ったのだが)、
これとよく似た東北の化け物を知っているだろうか。
似ているというのは語弊が生じるかもしれないが、
とにかく、産まれ方は似ているはずだ。
それと、俺の故郷は東北のとある町だったから、
関西の部落差別というのはよくわからない。
○○部落という言葉は一般的に使われていて、
もちろん差別の対象になんてならなかったから、
単なる地区の名称として使われていた。
前置きが長くなってしまったが、
俺の住む部落にだけ伝えられる話がある。
『人間をついばむカラスはすぐ殺せ』というものだ。
話は遡って、俺が高校生の頃のことだ。
「人間をついばむカラスが見つかった。
これから殺しにいくから、お前も手伝え」
「いやだよ、部活で疲れてるんだ。
それにカラスなんて、ほおっておけばいいじゃないか」
「だめだ。部落の男が総出でカラスを探してるんだぞ。
お前も探してくれないと困る」
まぁ、大年寄りの祖父が行くのに、
若い俺が行かないってのは無いかな。
そんなことを考えながら、俺は軍手をつけて、
大きめの草刈り鎌を渡される。
じいちゃんからは、汗と、畑仕事の後の独特な香ばしい臭いがした。
「じいちゃん、畑仕事した後はちゃんと風呂入れよ。
くっさいよ?」
「今日は肥えだめ使ったからな。くっさいのは仕方ない。
風呂入っても、肥えだめの匂いはとれないんだよ」
そんな話をしながら、祖父と俺は近くの林まで歩く。
この頃の田舎道といったら、
爽やかな青草の香りと強烈な肥料の香りが混ざり合って、
『くっさい』という表現がぴったりだった。
「おう、やっと来たかい。カラスはまだ見つからねぇから、
お前ぇらもがんばってくれよ」
林に着いて最初に見つけたのは、部落長の五月女(そうとめ)さん。
みんなからは親しみを込めて
『とめきっつぁん』
と呼ばれていた。
「とめきっつぁん、おばんです。
例のカラス、この林で見つかったの?」
「んだよ。じいちゃんから聞いてねぇのか?
ここで、昼間に子供たちが襲われたんだよ」
どうやら、夏休みで林で鬼ごっこをしていた小学生が、
カラスに襲われたらしい。
この林は俺も幼いころよく遊んだ林だった。
かつては自分の背丈ほどもあった林の草は、
もう胸の高さにも届いてなかったのだが。
祖父もとめきっつぁんに軽く頭を下げ、今の状況を聞いた。
「とめきっつぁん、部落の男は、
来れるヤツはみんないるんだろ?
獲物がいるのに、カラスは襲ってこないのか?
人間を襲うのは馬鹿カラスのはずだろう」
「そうなんだよな。子供が襲われてから、
すぐどっかに隠れてしまって。出て来ねぇんだ。
まぁ、焦ることはねぇよ。
本当に人間をついばむカラスなら、すぐ我慢できずに出てくんだ」
話を聞くと、件のカラスはそうとうな阿呆のようだ。
人間を見つけると、狂ったように襲ってくるらしい。
手で払っても逃げないから、草刈り鎌で簡単に殺せるそうだ。
「とめきっつぁん、なんでそのカラスは殺さないとダメなんだ?
ほおっておいていいんでないの?
じいちゃんに聞いても教えてくれないんだ」
「まぁ、な…教えてやってもいいんだけど、
お前、まだ学生だべ?あんまり難しいこと気にすんな。
口で伝えるのはダメなんだ。見せないと」
「見せる?そのカラスを?」
「ちげぇよ。んーとな…。とにかく、口で伝えるのはダメなんだ。
二十歳になって、まだこの部落に住んでたら見せてやるから」
俺はとめきっつぁんと一緒にカラスを探しながら、
林の奥にある森へと進んでいた。
祖父は俺達とは別の方向を探している。
森の中まで入ると、もう畑の肥料の匂いはしなくて。
夕暮れ時に特有の涼しい草の香りでいっぱいだった。
部活で疲れた身体に心地よい、爽やかな青草の香り。
涼しい風と、まだ夜にならないからか、
遠慮がちに聞こえてくる虫の声。
だから、その時は危機感なんてまるで無かった。
言うなれば、部活で疲れてだるい身体の回復時間。
しかし、その気分を壊す怒号が聞こえるのだ。
「なんてことをしてくれたんだ!このクソアマが!!
なんて大馬鹿なんだ!!」
聞こえてくるのは、自分たちのいる位置から東。
夕日が沈むのとだいたい逆の方向だった。
「じいちゃんの声だ」
「んだな。何事だ?声が聞こえるってことは、
すぐ近くだ。こっちから…」
「おーい、じいちゃん、どうしたんだ?」
草をかき分け、東へと進む。
祖父の姿はすぐには見つけられなかったが、
だれかのことを『クソアマ』なんて言う祖父は、
後にも先にもそのときだけだったから、
すごい異常事態だってことは何となくわかっていたのだが。
「うああああああああ!!!死んでる!!
じいちゃん、この人死んでるよ!!」
そう叫んだのはもちろん俺。
まさか、首つりの自殺死体を見るとは思っていなかったから。
死んだあとどのくらい時間が経っているのだろうか。
頭部は禿げ散らかり、
着ている服からでしか女性であることが分からないほど、
首つり死体は腐敗していた。
爽やかな青草の香り?
そんなものを感じていた自分は、いったいどこの馬鹿だろう。
初めて嗅ぐ人間の腐ったにおい。くっさい、腐ったにおい。
ゆらゆら揺れるその死体に、祖父は罵声を浴びせていたのだ。
この野郎!よそ者が!クソアマが!と。
「じいちゃん、何してんだよ!?死んでんじゃんか、
この人!うああああ!!」
近寄れない俺を追い越して、とめきっつぁんが一歩踏み出す。
なかばパニックになって、とめきっつぁんの存在を忘れていた。
「・・・・」
とめきっつぁんは何も言わなかったが、
死体に向かって持っていた草刈り鎌を投げつける。
彼もまた、怒っていた。
「どうしたんだよ、二人とも!死んでるってこの人!!
どうする… どうすればいいんだよ!?」
「この、クソ・・・もう遅い。カラスが見つからないのは、
このクソアマのせいだ。こいつのせいだ」
何が正しくて何が間違いなのかは、
高校生の俺には判断できなかった。
祖父ととめきっつぁんの声を聞いて
次第に部落の男たちが集まってきたが、
同じように罵声を浴びせるジジイもいれば、
俺と同じで首つり死体を直視できない中年のおやっさんもいた。
「もう夜が来る。たぶん明日だ。
みんな、できれば今日中に、蜘蛛を見つけるんだぞ。」
よほど興奮しているのだろうか、
とめきっつぁんは唾を撒き散らしながらみなにそう告げた。
俺たちはぞろぞろと森を抜け、林を抜け、家へと帰る。
玄関先では俺の父が帰りを待っていた。
父は仕事から帰ってきたばかりらしく、まだネクタイをしていた。
祖父から事の顛末を聞いた父は、
「明日すぐ、蜘蛛を探す」
と言っただけで、俺に声をかけることはなかった。
聞きたいことは山ほどあったが、尋ねることはできなかった。
翌朝のことだ。
いくら田舎の高校生とはいえ、
朝5時に起きるほど健康的ではないのだが、
父から叩き起こされた。
「これからドスコイ神社に行く」
ふざけた名前の神社だが、通称ドスコイ神社。
部落の子供が必ず一度はその敷地で相撲をとって遊ぶことから、
その神社はドスコイ神社と呼ばれていた。
「昨日のことで?」
「そうだ。人間をついばむカラスのことだ。
ドスコイ神社にあるんだ。
お前はまだ若いし怖がらせたくはなかったんだけど。
まぁ、でも、二十歳になったらなんて目安でしかないからな。
お前は妙に落ち着いてるから、見せても大丈夫だろう」
「父ちゃん、今日は仕事休むの?」
「ああ。お前も今日は部活は休め」
父からボン、と濡らしたタオルを顔に向かって投げられる。
洗面所にも行かせてくれないらしい。
すぐに身支度をして、ドスコイ神社へと向かう。
朝5時に起こされたとか、大会が近い俺に部活を休めとか、
普通なら俺が怒っても不思議じゃないことはたくさんあったけど。
皆が過剰に反応する
『人間をついばむカラス』
の正体がとうとう分かるんだという期待に、
些細なことは気にならなかった。
「父ちゃん、人間をついばむカラスって、妖怪かなんかなの?」
「カラスはカラスだ。ただの鳥だよ。
それにな、もうカラスじゃないんだ。
俺たちが殺さないといけないのは」
「殺すって・・・」
「ほら、もうドスコイ神社だ。
あの本殿の中にあるから。
俺に聞かれてもうまく説明できないし、
俺だって…いや、なんでもない」
「?」
いつのまに預かっていたのか、
父はごつい鍵を取り出して本殿
(といってもかなり小さいが)の錠を開ける。
扉を開けるとほんのりと墨の香りがした。
本殿の中には御神体なんてなかった。
いや、御神体どころか何もない。ただの部屋。
「何もないけど?」
「何もないか」
「…何もないよ」
「……」
「いや、何もないから…え?」
その時、懐中電灯の照らすその先にかすかな、しかし確かな違和感。
茶色のはずの本殿の壁が、ところどころ黒いのだ。
経年による染みか…。いや、そうではなかった。
明らかに人為的な曲線。
壁一面どころか、天井にまで描かれている大きな絵。これは絵だ。
壁をなぞるように光を這わせ、その絵が何なのかを見る。
その物語は、右の壁から奥の壁へ、
左の壁を経由して天井で終末が描かれていた。
墨で描かれた真っ黒な鳥。その鳥がつくる漆黒の巣。
その巣から産まれる真っ黒な卵。
その卵が割れると、そこから血しぶきをあげる真っ黒な・・・・
人間?
周りに描かれた『普通の』人間を、
その黒い人間が蹂躙している。俗な言い方をすると、
ぶっ殺している。
そして最後は、その黒い人間は小さな無数の蜘蛛に囲まれ、
大きく両腕を広げていた。
信じる信じないとかではなくて、それ以前の問題だった。
ただ、その絵が正常な人間が描いたものではないことぐらい、
美術2の俺にもわかっただけだ。
「何この絵、気持ちわり」
「神社の入り口の石碑な。
あれ、流暢な文体で読めたもんじゃないが、
もう高校生だからなんとなくわかるだろ。
『口伝は駄目だという口伝』。そう書いてある」
「だから絵で伝えようって?」
「そう。お前はがっかりするかもしれないが、じいちゃんも、
とめきっつぁんも、本当のことは知らないんだよ。
だけど、昔の人は厳しかったからな。
お前よりも父ちゃんが、父ちゃんよりもじいちゃんが、
カラスを怖がるのはしょうがないんだ」
つまるところこの絵は、先人たちが描いた化け物への防衛策。
「父ちゃん…この絵。伝えたいことは大体分かるけど、
でも分かんないよ」
「そうだろうな。俺もそうだった」
「教えてよ」
「お前がこの絵を見て思うことが全てなんだよ。
口伝は駄目なんだ。
お前なりに解釈して、
部落の飲み会で自分の考えを語り合って、
怖がって、それを繰り返すうちに、
『人間をついばむカラス』は殺さないといけないと、
みんな思うようになるんだ。
だけどな…これだけは、口で伝えることになってるんだ」
そう言って、父は人差し指を下に向ける。
つられて下に懐中電灯を向けると、大きな太い字で
『人間』
と書いてあった。
「ニンゲン?」
「ちがう。これは『ジンカン』と読む。これから殺すんだ」
正確には『人間をついばむ』ではない。
カラスは、髪の毛を狙っているのだ。
人間の髪の毛だけで黒の巣をつくるために。そう思った。
その日の夕方には、
部落の家という家の玄関先に
蜘蛛の巣が張られていた。
ミニトマトを育てるときなんかに立てる支柱を2本地面に刺して、
その間に巣食わせていた。
「変な宗教団体みたいだ」
理由を知らなければ誰だってそう思うだろう。
しかしまぁ、よくみんなうまい具合に蜘蛛の巣を張ったものだった。
「必死になればな。
こうしないと死ぬかもしれないって思ったら、
意外と出来るもんだ」
「あの絵の通りなら、ジンカンを殺すのは蜘蛛ってこと?」
「…そうだな。みんなそう思ってる」
「あの絵描いた人、頭悪いね。文章で残せばよかったじゃないか」
「その通りだな。だけどきっと、
頭悪いから文章では残せなかったんだよ」
父と俺はひときわ大きな女郎蜘蛛を捕まえて、巣食わせた。
祖父はというと、他の家の蜘蛛の巣つくりを手伝っていた。
「うちの蜘蛛より大きいのは、とめきっつぁんのとこぐらいだね」
父は小さく「そうだな」と言うと、さっさと風呂に入ってしまった。
いつもより無口なのは仕方ないだろう。こんな日なんだから。
その日の夕飯は夜9時近くになってしまったが、
その時間になっても祖父は帰ってこなかった。
正直俺は『ジンカン』なんて信じきれてなかったから、
「じいさんまだ頑張ってるのかね」となかば呆れていたのだが。
「大変だ!やられた!
とめきっつぁんがやられた!ジンカンだ!」
真っ青な顔をして、
白いシャツに鮮血を付けた祖父が
勢いよく茶の間に駆け込んできた。
固まる母と俺を尻目に、
父はゆっくりと箸を置き頭をポリポリと掻いて、
祖父にまず落ち着くように促した。
「親父、どういうことだ。とめきっつぁんはどうなってる?」
「死んだ!完全に死んだ!これを見ろ、とめきっつぁんの血だ!
まずいぞ、蜘蛛じゃない!ジンカンは蜘蛛じゃ殺せないんだ!」
「落ち着けって!とめきっつぁんの家族はどうした?
あそこは小さな孫もいたはずだろう」
父は努めて冷静だった。
パニックに陥っている祖父の断片的な話を紡ぎながら、
事実確認を急いだ。
「家族はみんな、公民館に逃げてきて無事だった…
だから公民館で、見回りから帰ってきた俺に、
とめきっつぁんの様子を見てきてくれって!
とめっきっつぁんはやられてた!」
「やられてたって…どんな状態だったんだ?」
「穴だらけだった!血が噴き出していた!」
祖父がその時思い出していた光景はどんなものだったろう。
祖父はその場で吐いた。
カン、カン、カン。消防の鐘が聞こえた。
部落の住民全員に知らせる、緊急事態の鐘の音。
「公民館に行くんだ。今日はみんなで集まるんだ。守るんだ」
そう言ったのは祖父だったか、
父だったか、母だったか、それとも俺だったか。
それを憶えていないのは、
その直後の衝撃が大きすぎたからだ。
「父ちゃん、なんか臭わない?」
「…ああ。なんか、臭いな」
「これ、最近嗅いだことのある臭い…これって…」
最近どころじゃない。昨日嗅いだ。
死んだ人間の腐ったくっさいあの臭いだ。
「じいちゃん、死んだ人の臭いがする!」
「俺じゃない…この臭い、外からするぞ」
父は勢いよく立ちあがり、物置へと走った。
母は相変わらず茫然自失で、
身支度をするでもなく座ったままだった。
ドン!と玄関の戸を叩く音が響く。
何事かと思い、祖父も俺も戸のほうを見て固まる。
一瞬の静寂。
「…ジンカン?」
今まで黙っていた母がそう言った瞬間だった。
ドンドンドンドン!!
正常な人間ならこんな戸の叩き方はしないだろう。
ドン、ドン、バリン!!
そうだ。戸が壊れたのだ。
俺たちが今いる茶の間は、
玄関から廊下とふすまをはさんですぐだったから。
それが目の前に現れるのもすぐだった。
ジンカンは存在した。
「うわぁぁあああああああ!!化け物だ!ジンカンだ!」
人間の形をした、人外の化け物。
その身体は絵のとおりに真っ黒だった。
その腐ってただれた身体には人間で言う左腕が無かったが、
そのかわり右腕の動きが異常だった。
その動きをどう言い表せばいいか分からない。
多分、どんな単語を組み合わせても表現できない。
こんな化け物を蜘蛛で殺せると本当に思っていたのか。
ジンカンを見て本当のパニックに陥ったのは母だった。
「はわぁあああああ」
と叫びながら両手を胸の前で震わせ、
もはや立つことすらできなかった。
ジンカンはその顔を人間では考えられない角度に
ぐるりと回転させ、明らかに祖父に狙いを定めた。
祖父は動けないでいた。
「どけ!離れろ!」
その時だ。
父がバケツ一杯にガソリンを汲んできて、
ジンカンに浴びせたのだ。
ジンカンは微動だにせずその触手を祖父に伸ばしたが、
父が火をつけると、まるで人間のように悶えながら
廊下に転がった。
「これが幽霊とかじゃないなら、これで死なないとおかしい、
殺せるなら、死なないとおかしい」
息を切らしながら、父は呪文のようにつぶやいていた。
転がるジンカンは叫ぶこともなく、
空気の抜けていく風船のようにしぼんでいき、炎とともに消えた。
「なんだったんだ…」
祖父は、やっぱり年寄りだから。腰が抜けて動けなかった。
俺は公民館に行くよう、
事の顛末のメッセンジャーの役目を頼まれた。
父と祖父は多少なり残った火の完全消火をし、
そのときの母はというと、まるで使い物にならなかった。
はじめは信じられないでいた部落の住民も、俺の家の有り様と、
とめきっつぁんの遺体を見たら何も言えなくなった。
翌朝のことだ。
繰り返しになるが、いくら田舎の高校生とはいえ、
朝5時に起きるほど健康的ではないのだが、
父から叩き起こされた。
「疲れているだろうが、悪いな。これからドスコイ神社に行く」
「…昨日のことで?」
昨日の朝とまったく同じやりとり。
しかし神社への道すがら、父は教えてくれた。
「あの絵な…俺は、前から思っていたんだ。
『蜘蛛がジンカンを殺す』
んじゃなくて、
『蜘蛛を目印にジンカンが襲う』
んだと。
もちろん他の人にも言ったさ。
じいちゃんにも、とめきっつぁにもな。
でも誰も同意してくれない。
なんで俺以外そう思わないのか不思議だった。
あの絵の描かれ方だと、まるで蜘蛛は
ジンカンの手下って感じだろう」
「そう言われるとそうとしか見えないかもしれないけどさ。」
そうして父と俺は、あらためて神社に描かれた絵をみる。
「父ちゃん、俺、今思ったんだけどさ…」
「なんだ?」
「この話、天井から始まるんでないの?」
この絵は右の壁から読むと、
カラスが産んだ卵から血しぶきをあげるジンカンが孵り、
人間を殺しまくって、最後に蜘蛛にやっつけられる話になる。
だが天井から読むとどうだ。
蜘蛛を従えるジンカンは人間を殺して、
最後にはカラスの産む黒い卵で血しぶきをあげて死ぬ。
そんな話になる。
「本当は、逆だったんだ」
父はポツリと言った。
「『人間をついばむカラス』がジンカンを産むんじゃない。
そのカラスの卵が、ジンカンを殺す卵だったんだ」
本当にそうなのか、本当は違うのか、それは今でもわからない。
あれ以来、ジンカンどころか、
人間をついばむカラスも見つかってないから。
だけど、たぶん本当だ。
だって、あのときのジンカンはもう現れないから。
死んだのだから。
最後に、部落の子供に
『人間をついばむカラスはすぐ殺せ』
と教えることはなくなった。
むしろカラスはほうっておくように教える大人が増えている。
部落で毎年行われていた
『カラス追い祭り』
なる祭りも無くなった。
今の部落の長は、ジンカンに殺されたとめきっつぁんの息子。
彼もまた、みなから親しみをこめて
『とめきっつぁん』
とよばれている。
「とめきっつぁんの葬式は?」
「今日、明日は無理だろうな」
ドスコイ神社からの帰り、
父と俺はとめきっつぁんの葬儀の心配をしていた。
俺は見ることはかなわなかったが、
昨日の夜のうちに父はその凄惨な遺体を見てきたらしい。
「葬式にはとめきっつぁんの親戚も来る。
お前はもうわかってると思うが、絶対に言うなよ。
この部落に住んでいない人間に教える必要はないし、
口で伝えるのは駄目なんだ」
「…何で?」
「言わせるな。言わなくてもわかるだろう」
また『口伝は駄目だという口伝』か。くだらない。
それでとめきっつぁんは死んだというのに。
なんで口伝は駄目なんだよ。
「きっと理由があるんだ」
俺の心の中を見透かしたかのように、父は優しい口調で言った。
「家を直さないとな。ガソリンじゃなくて灯油にすればよかった」
「最初、父ちゃんだけ逃げたのかと思ったよ。
何も言わないで物置行くんだもの」
「馬鹿言うな。お前だけならともかく、
母ちゃんもじいちゃんもいたんだぞ。俺だけ逃げられるか」
もちろん冗談。
もしあの場に父と俺だけしかいなかったとしても、
父は逃げたりしなかったろう。
家に帰ると、駐在さんが玄関口で待っていた。
よほどイラついているのか、足元には煙草の吸殻が散乱していた。
父は駐在さんのことを『赤坊主』と呼んでいた。
いつも赤のインナーシャツを着て坊主だからではなく、
いや、実際そうだったのだが。
何と言うか。控えめに言って、父と駐在さんの仲は最悪だった。
「おいこら赤坊主。そこは家の敷地だ。煙草を拾え」
父と駐在さんは同級生だと聞いていたが、
その日は父の方が優勢だった。
前の日の夜、恐怖に駆られ一番早く公民館に逃げ込んでいたのが、
あろうことか駐在さんだったからだ。
「朝っぱらから何の用だ。仕事しろ」
「うるさいよ。俺だってお前のところなんか来たくなかった」
駐在さんは煙草を取り出して火をつけると、
大きく一回吸って俺に向かって煙を吐いた。
俺も駐在さんが嫌いになった。
「赤坊主、今すぐ帰るなら許すから、すぐ駐在所に戻れ。
昨日俺の家の中は見せただろう。
今さら警察じみた真似するつもりか」
「お前はいつだって俺を馬鹿扱いするんだな。
俺だってこの部落の人間だ。
俺だってとめきっつぁんの死様は見た。
何がとめきっつぁんを殺したかくらいわかってる。
お前の親父さんにどうしても聞きたいことがあってな。
でも部屋から出てきてくれないからお前を待っていた。
それにしてもお前の嫁さんは何なんだ?昨日のこと、
さっぱり憶えていないじゃないか」
「帰れ」
駐在さんを言い負かす父は爽快だったが、
次第に二人は俺に聞こえないようにコソコソ話をし始めた。
父の表情が変わり、俺をちらちらと見て、
駐在さんは相変わらず煙を吐いていた。
「赤坊主、とりあえず帰れ。俺は見てないから意見は控える。
親父には俺から確認する」
「そうしてくれ」
駐在さんはいかにも不機嫌そうな顔をしていたが、
今日の父には勝てないらしく、
足元の煙草を足で適当にまとめて手のひらにつつんで、
帰って行った。
昼食時になっても祖父は部屋から出てこなかった。
母はというと、情けない話だが
本当に昨日の晩のことを憶えていなかった。
そうでなければ母も部屋にこもっていただろう。
「本当なのよね?そうでなきゃ、
家、焼けているのはおかしいものね」
昼食の後、父と俺は林に向かっていた。
「林のとこ行くぞ」
と言われたから、
てっきり大工の林さんの所へ行くものかと思っていたのだが。
「父ちゃん、『林』って林さんのことじゃなかったの?
紛らわしい言い方しないでよ」
「カラスが出た林のほうだ」
「探すの?」
「確かめるんだ」
林の前ではたと足が止まってしまった。
いろんな事が重なりすぎて思い出すまで忘れていたが、
林の先の森の中には首つり死体がある。
正直、あのにおいはもう体験したくなかった。
「めずらしく赤坊主が仕事したらしくてな。
おとといのうちに首つり死体は片づけたそうだ」
本当にあの駐在さんが腐乱死体を
片づけられたのかは不安だったが、
父を信じて林を越えて森に入った。
「いいか、真上を探そうとするな。斜め先を見上げるんだ」
「わかってるよ。俺だって鳥の巣を見つけるのは得意だった」
強がりを言ったものの、
大きくはない森とはいえ鳥の巣ひとつ見つけるのが
どれだけ大変か想像してほしい。
その上、昨日の今日でこの森の中だ。ものすごく怖いのだ。
「カラス、飛んでないね」
「あんまり背の高い木はないな。カラスは高い木に巣をつくるんだ」
「それ、見つけるのって無理じゃないの?」
「探して見つけられなかったら仕方ない。探すだけ探してみよう」
父に言われたとおり斜め上を注意して探しながら、
とうとう黒い巣を見つけた。
驚くことに、俺でも背を伸ばせば手の届く高さの枝に
髪の毛の塊があったのだ。
「もしかして…これ?」
もしかしなくてもそれだった。
本当に髪の毛だけでつくられたその巣の中には、
まるで人間が造ったような艶のある漆黒の卵があった。
しかも鶏の卵ぐらいに大きいのだ。
「よく見つけられたね」
「必死になればな。
こうしないと死ぬかもしれないと思えば、
意外とできるもんだ」
いつぞや聞いたその台詞は、その時は何のことかわからなかった。
卵は持ち帰った。
さすがに家に帰った頃には祖父が部屋から出てきていたが、
黒い卵を見るなり「ギャー」と叫び声をあげて、
また部屋にこもってしまったが。
「割るぞ」
「割るの!?」
「割る。神社の絵に従うなら、この卵を割ってジンカンの最後だ。
ガソリンかけて焼け死んだのなら、それに越したことはないが」
「…さすがに割るのは怖いね。ジンカンが出てくるかも」
父はクスリと笑った。
俺が冗談で「ジンカンが出てくるかも」と言ったのが分かっていたから。
「この卵が割れていないのが何よりの証拠だな。
ジンカンは、カラスの卵からは産まれない」
「でも中身は気になるね。何がはいっているんだろう」
父はまさかのグーパンチで真上から卵を叩き割った。
勢いよく割ったのは、きっと父も多少なり怖かったからだろう。
「…何も入ってないな」
「何か入っていても、グーパンで叩き割ったら潰れるでしょ」
「いやいや、本当になんも入ってない。
ほら、こぶしもきれいなままだ」
「ちょっとあなた、廊下に何塗ったの?」
その時だ。母がつま先立ちで茶の間に入ってきた。
「廊下にペンキでもこぼしたの?真っ黒なんだけど」
父と俺は顔を見合わせて、そういうことかと頷いて。
母を安心させるためにこう言った。
「うん。ペンキをこぼしてしまったんだ」
何も臭いはしなかったから。くっさい臭いはしなかったから。
その日の晩だ。父はこっそりと教えてくれた。
「朝な、赤坊主のやろうが来てただろ。あいつ、
『首つり死体には、最初から左腕は無かったのか』って。
もう終わったことだから、じいちゃんには言うなよ」
俺は強くうなずいて。その夜はよく眠れた。
とめきっつぁんの葬儀は部落をあげて行われた。
とめきっつぁんの親戚も来ていたが、
遺体を見せることは決してなかった。
彼は『不運な事故』で死んでしまい、
今もそういうことになっている。
その後、紆余曲折あって、
ドスコイ神社のあの絵は描きかえられた。
描いたのは大工の林さんと、駐在さん。
彼はがさつに見えて、繊細な絵を描くものだと父と感心した。
ただ、大きく変わったことがひとつだけ。
絵以外は何もなかったドスコイ神社の本殿には、
立派な御神体が置かれた。
まるで人間が造ったように美しい、漆黒の卵だ。
父と俺が見つけた卵は二つあったから。
『口伝は駄目だという口伝』
もうジンカンが現れないなら、
ドスコイ神社はただの神社になるのだろう。
誰も伝えないのだから、きっとそうなる。</strong>
2018年10月10日
福島の保育所「だってうぢのばーちゃが!食べろって言っでだ〜」【怖い話】
福島から5月頃、関東に避難してきた。
それまでの地元は、
避難制定地域よりもわずか数キロ離れているってだけ。
数キロ先は『もと人里』で誰もいない。
でも自分達の場所は衣食住していいよ、の地域。
目に見えない恐ろしいものと戦い続けるくらいなら、
と転居を決意。
転居に伴い、子どもは4月末まで保育所に預けていたんだけれど、
その保育所の登所最終日に起こったことを今から書こうと思う。
その最後の日も、変わらず朝から預けにいった。
「寂しくなります、お世話になりました」
と先生方へ挨拶し、園児達へのささやかなものを渡し、
いつものように子どものクラスでおむつなどを準備していた。
そこへおじいちゃん(見た目判断だが)と一緒にAくんが登所してきた。
4才クラスに4月から入所した子で、何度か
「おはよー」
と声かけしたことがある。
その時もいつものように
「Aくんおはよう」
と声をかけた。
するとAくんは私のところにまっすぐ歩いてきて、
両手でおにぎりのようにしている手を差し出してくる。
なんだろう、泥だんご?折り紙のなにか?
など色々考えていると、
Aくんは無表情のまま、三角にしているおにぎり型の手、
指と指の間からその中身を見せてきた。
知っているだろうか、カマドウマという虫を。
うさぎ虫とか、ぴょんぴょん虫とか、そんな呼び名もある。
鳴きもせず、音も出さず、
個人的に生命力の強い虫だと思っている。
ティッシュ箱で思い切り
「べし!!」
と上から潰し、
死骸が気持ち悪いので旦那にとってもらおうと呼んできて、
ティッシュをそっとどけると既にいない。
え!?どこ行った!?と見回すと、
天井に張りついていたり。
前に飛ぶかと思いきや、真横ジャンプもしてくるというキモさ。
私はこの、はちきれんばかりの腹をした
グロテスクで跳躍力の高いカマドウマが大嫌いだった。
Aくんの手の中には、
カマドウマの中でも特大クラスに入るようなものが入っていた。
多分私の顔が物凄いことになっていたんだろうと思う、
先生が
「どうしました?」
と駆け寄ってきた。 まさに、その時。
はがしょっ
というような音がしたと思う。
言葉に書くとうまく伝わらないけれど。
Aくんは物凄い速さで、私の目の前でカマドウマを食べた。
「ぎゃあああああああ!!!!」
と先生の声。
Aくんの口から4本くらいはみ出ているカマドウマの足。
私、頭真っ白。
でも次の瞬間、私はAくんの口に左手を突っ込んでいた。
焦点はAくんに定まっておらず、
ずっと床のシミみたいなものを見つめていた記憶がある。
だけど、どこかで冷静な思考の自分がいて
『なんとかしなくては』
とも思っていた。
直視しないように視界のはじっこに見えるAくんを捉えながら、
右手でAくんの頭を押さえ、
左手の指でAくんの口の中身をかき出していた。
そのうちAくんが
「うえっ、ぐぇっ」
と言ったと思うと、大量に嘔吐。
私の左手から肘にかけて、ゲロまみれ。
「おめぇAさ何してんだ!!」
と、Aくんのおじいちゃんが私を引き離し、突き飛ばされた。
そこでようやく先生方数人が間に入ってくれた。
はーっ、はーっ、と半ば放心しながら必死に呼吸して、
手を洗いに行ったのだが、
「だってうぢのばーちゃが!食べろって言っでだ〜うあ〜」
と泣いているAくんの声が聞こえた。
その後は当時の状況など話すべきことを話し、
先生達にお礼?を言われ保育所をあとにした。
足が地に着かず、
脳内ヒューズ飛んだみたいなまま車に乗って・・色々考えた。
こんなことがあってもその場の処置は3分とかからず、
次見た瞬間には、主任先生の呼びかけで
みんなが楽しそうに歌を歌っていたので、
さすが長年の保育士はすごいなあとか、
おじいちゃんに突き飛ばされてひっくり返った私の
格好ダサッとか。
でも、それでも忘れられない。
Aくんが無表情でカマドウマを食べた、
あの瞬間の音。はみ出た足。
その一件を含む最近の園児について、
所長先生からお話されたことも。
「震災から1ヶ月・・・Aくんだけじゃない、
たくさんの子が不安定になっている。
切り刻んだ人形を持ってきた子もいた。
友達の首を絞めて「苦しい?」と聞いている子も。
子ども達もギリギリのところなんだと思う」
そのお話が頭から離れず、
自分の子達の顔を思い出しては切なくなるばかりだった。
一変した環境、生活、ピリピリした街の雰囲気、
屋内遊びしか出来ないもどかしさ。
コントロールできる範囲では笑えている子ども達でも、
その奥には深い傷を負っている。
そんなストレスをどうにかできる術や思考を、
子ども達は持っていない。
だからAくんのようにいきなり虫を食べてしまったり・・・ん?
と、ここでようやく所長先生の最後のお話が気にかかった。
お話のあと、
「余計なお世話かとは思うんですが」
と私が切り出した話。
私「Aくんのおばあちゃんには、
ちょっとお話したほうがいいかと思いますが・・・」
先生「うん、Aくんちね、おばあちゃんは居ないんですよ」
なんだろね、と苦笑いされていた。
2018年10月09日
祓えない呪い「あなたに憑いているのは 祓えるようなものでは無い。よく今まで生きてきたね」【怖い話】
私の家って
幽霊とかみえたりするっぽくて、
私がはじめてみたのは小学生の頃。
じっちゃんの家(山奥の村的なところ)に
夏休み帰ってたの。
じっちゃんの家は結構でかくて、
柿の木を植えていたのね。
そこに全身真っ青な服を着て
帽子を深くかぶってる人がたってたの。
郵便の人かなって思って、
郵便の人に近寄ろうとしたら じっちゃんが
「見るな」
って言って私の目を手で塞いだのね。
訳がわからないままじっちゃんの家に入って
一日外に出してくれなかったの。
後から聞いた話で、悪い霊らしく
私を連れていこうとしてたんだって。
それから何度も見えるようになって、
修学旅行先とか学校の通学途中とか塾帰りとか
よく霊と遭遇してたの。
地元にいるうちは私の友達とかが
よく助けてくれたの。
前あったのが、友達に
「○○!(名前)」
って呼ばれて腕をひかれたの。
そしたら私の目の前スレスレで
トラックが突っ込んできたの。
「なんでいきなり歩き出したの!」
って怒られたんだけど、
私は確かに立ち止まってたし動いてなかったの。
友達とも学校の話だってしてたのに、
それを言ったら 私は一人でいたみたいで
いきなり赤信号を歩き出したって言われたの。
私の周りで良くないことが起きてる!
ってその時感じたのね。
↑までが中学の時。
高校にあがると同時に、
私トラックにはねられたのね。
両足ぐちゃぐちゃになって入院。
事故をした時に見たのはさ、黒髪の女性なの。
ぼんやりとした意識の中鮮明に覚えてる。
退院してからもその女の人に
つけられているみたいで
事故にあったり、
目の前に物が落ちてきたり
怖かったのは実家に一人で留守番してたとき
いきなりキッチンから炎があがったかこと。
火を付けっぱなしにしてたわけでもないし、
火のつくようなものも周りにおいてなかったの。
でも勢いよく炎が燃え上がって
火傷をおったことがあるな。
親も霊感があった人だから、
私の異常事態に気づいたみたいで お寺に行ったの。
でも、祓ってはくれなかった。
「○○さん。酷な事を言うようですが、
あなたについているのは
あなたの家を恨んでいる女の呪いだ。
祓えるようなものでは無い。
よく今まで生きてきたね。」
ってどこのお寺の人にも言われたの。
呪いが私になぜ来たのかはわからないけど、
私が死んだら家族の誰かにいくらしい。
数珠やお守りを持っても割れたり、
壊れたりして効果なし。
今19だけど長生きしそうにないらしい。
最近体のあちこちが
悪くなってきてるみたいで、
今この文を親に書いてもらってる。
もう、しゃべることも体を動かすこともきつい。
死を待つだけになってしまったの。
霊感強いって得じゃない。
多分その女の人は私が見えるって分かって
とり憑いたんだろうな。
唯一の愛娘なのに、娘の命を奪われそうなのです。
人生で一番恐ろしい話ですよ。
2018年10月07日
硫黄島が未だに立ち入ることが出来ない開かずの島になっている理由【怖い話】
硫黄島が未だに、
民間開放されてないのはなぜか。
社会常識としては、
硫黄島が軍事上の重要拠点になってるから。
真相は単純。その原理は、
旅館の開かずの間と同じだ。出るんだよ。
夥しい数の英霊が。それも、日米混合で。
硫黄島がベトナム戦争並みの激戦区だったのは、
戦後に左翼とかが頑張ったせいかあまり知られていない。
新しくて『密度』がハンパじゃない古戦場。
しかも、出るのが英霊。
オカルトだけでなく、
政治や軍人遺家族等が織り成す人間的要素が加味される。
それも、日米はもちろん東アジアからも詣でられる。
こういう離島は、硫黄島ほどじゃないけど
アラスカ州のアリューシャン列島にもある。
こちらの方は、島の面積も広いし
要所要所を米国側がきちんとしてて民間人も住んでる。
硫黄島の海みたいに、
大きな戦艦の幽霊船みたいなのが出現したりしないしな。
もし、ゴム筏か何かであの艦船に近づいていったら
今頃どうしてるところだったのかな。
だから、硫黄島から基地が移転することは無い。
何十年経っても、
たとえ防衛省が民営化される日が来ようと、
海運系の華僑や日本の漁師ですら移住できるかは微妙。
俺の姉の旦那が海自で、
2年間硫黄島に出張だったがかなりでるらしいな。
なんか自衛隊でも幽霊対策のルールがあるんだってさ。
寝る前は窓の外に水をいれたコップを置いておく。
朝になるとコップは空っぽになるらしい。
幽霊信じない若い奴がこれやらなかったら、初日深夜に
「熱い〜熱い〜」
と気が狂った様に部屋の壁叩いてたって。
あと土掘るとすぐに人骨がでてくるらしい、
これの回収も仕事。
昼間誰もいないのに軍隊の行進の足音が
迫ってくる事があるらしい。
その時は上官が
「撤収!」
って叫んでみんな逃げるらしい。
ちなみに戦艦の幽霊は見たことないって。