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2018年10月07日
なまたり「ヤバいよ、あれはだめだよ」【怖い話】
これは俺が中学一年の時の話。
こういうことを言うのも何だがあの頃は楽しかった。
毎週日曜になると友人のAとK、Dと
一緒にいろいろなところへ探検にいっていた。
俺の住んでいた街は、
山間の田舎で過疎化が進み町のいたるところに
空き家や雑木林がありそういうところを探検するのが
俺達は楽しかった。
そしてこれは中学一年の夏休みこと。
俺たちはいつもの様に探検にいっていた。
今回行ったところは町外れの空き家。
外観は塀で囲まれボロボロだが
昔はいい家だったんだろうなと思えるような家だ。
となりには同じくボロボロの神社があり、
かなり雑木林に侵食されいた。
昔はその家に神主が住んでいたというが、
結構前に家系が途絶えたらしい。
それからというもの神社も家も
手入れする人がおらず荒れ果てていた。
俺たちは玄関からその家に入った。
家の中は結構荒らされてて中には落書きや
誰がもってきたかわからないゴミで埋め尽くされていた。
一階を散策しながら
「うわっ、これは歩く場所もねえな」
と俺がぼやいているといち早く二階に登ったAが叫んだ。
「おい!へんな道があるぞ!」
その声に反応しボロボロで底の抜けそうな階段を
みんな二階へ登った。
「道なんてどこにあんの?」
と怪しむKにAは自慢げに窓の外を指差した。
「あれ!塀の向こうの、」
その指差した方にはその家の裏から
神社の方へ伸びる道があった。
その道は雑木林をかき分けたような獣道のようで
神社の裏の山へ伸びていた。
「行ってみようぜ?」
と言うAにもう夕方だよ、という意見もあった。
しかし、新しい探検場所を見つけたワクワク感
かまわずに行くことになった。
塀を乗り越えてその道に行ってみると
二階から見たよりもしっかりしていて石で舗装もされていた。
しかも、蛇のようにくねくねと曲がりくねっているようだった。
どうせすぐに行き止まりになるだろうと思っていたが、
道を進むにつれ徐々にしっかりとした道になっていった。
一回目の道の曲がったとこには
ちっさな石でできた祠があり
俺たちはその祠に目印として木の棒を立てかけた。
だいたい3回くねくねをまがっかところだろうか、
一つの鳥居が見えてきた。
その鳥居は古く赤い塗装もほとんど剥がれ
ほぼ鳥居の形に木が組まれているだけのものだった。
「どうする?」
Dがつぶやいた。
確かにその鳥居以降は異様な空気が流れていて
進むなと第六感が言っていた。
だけど、非日常が与えてくれた高揚感には勝てなかった。
そのつぶやきには誰も答えず俺たちは足を進めた。
今思うとそこで引き返すべきだったのかもしれない。
鳥居を越えるとさっきのよりも
もう少し新しい鳥居が見えてきた。
その鳥居からは階段になっていてまた奥に
前のよりも少し新しい鳥居があるようだった。
「進もうぜ」
それからは異様な雰囲気に飲まれたのか、
俺たちは誰も喋らず黙々と階段を登り続けた。
ただ風の音だろうか、
ザワザワという音だけが聞こえていた。
鳥居は等間隔に、
いや徐々に次の鳥居までの距離は近くなってきている。
また、奥の鳥居に行くほどしっかりとしたものになっていった。
それから15分は登っただろうか、
俺らは、はっとした。
気づくと周りは真っ赤な鳥居が
数え切れないくらい並べられていた。
例えるなら伏見稲荷大社。
だけどあれはそれ以上に赤く綺麗に並んでいた。
「おい、」
Kはそう言った。
その一言で全員言いたいことはわかった。
おかしい、あの廃屋の裏からはこんなところ見えなかったし
こんな場所があるなんで大人も言っていなかった。
「とりあえず、あの白い鳥居が1番上みたいだから、
その向こうに行ってみよう」
その声に勧められて俺たちは
階段をのぼった先を見ると一つの白い鳥居があった。
それを目指して綺麗な階段を進んだ。
好奇心とはまた違う不思議な気持ちで動いていた。
白い鳥居を抜けると開けた空間があった。
だいたいテニスコート一面分で
その向こうは切り立った崖があった。
その崖にくっつくようにポツンと一つの真っ赤な神社があった。
真上から降り注ぐ強い日の光が
その神社を照らしていてとても綺麗だった。
神社の扉は開かれていてその神社の御神体であるだろう
しめ縄のされた石が見えていた。
神社の中には何か暗い重い空気が流れているように感じた。
そして神社の扉の横には黒い字で
「なまたり」
と書かれていた。
「あの石、もっと近くで見てみようぜ」
その声に勧められて僕とAは足を進めようとしたその時。
Kが俺とAの腕を掴んだ。
「ヤバいよ、あれはだめだよ」
Kは震えながらそう言った。
さっきから気になっていたんだけど
誰が僕らに進めといってるの?
という趣旨の事をまとまらない言葉で伝えた。
その事態を理解したDは叫んだ
「逃げよう!!」
その言葉を皮切りに全員来た道に走り始めた。
白い鳥居を越えてもと来た道を全力で戻る。
風の音だと思っていたザワザワという音が
今では人の話声に聞こえる。
いや、本当に何かの話し声だったのだろう。
よく考えればいろいろとおかしかったんだ。
来る時は夕方だったのに
あの空間は昼間のように日がさしていた。
大体こんなとこに神社があるなんて聞いたことなかった。
そんなことを考えながら
階段を下っているとまたあの声が聞こえた。
「上に戻ろうよ」
全力で走ってるはずなのにしっかりとその声が耳に届く。
誰の声ともとれる誰の声でもない声だった。
俺らは無視してぐねぐねとした道を駆け下りる。
息はあがり恐怖で涙や鼻水が出まくった。
雑木林から飛び出た草や枝が身体に当たり
身体からの赤い液体だらけになった。
だけど怖くて立ち止まる事はできなかった。
何十分走っただろうか。
気づくと俺らは目印を立てた祠の前に戻っていた。
日はすっかり沈み周囲は暗くなっていた。
それから俺らは何も言わず
その日はなにもなかったように帰った。
後日、
そこをまた訪れたが俺らが来た道は
最初からそこが雑木林だったように雑木林になっていた。
あれから何年も経ったが、
俺らの中で誰も亡くなった人はいないし
あの声を聞いたやつもいなかった。
でも、あれ以上進んでいたらどうなっていたかわからなかっただろう。
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30年近くも部屋に閉じこもっていた弟【怖い話】
10年程前のことです。
富山県のとある介護タクシー事務所へ所属しており、
今は都内で別の仕事をしている知人Aの話です。
当時勤めていた介護タクシーの事務所では、
家族からの依頼により、
精神障害などで手に負えなくなった方を
自宅から数人がかりで連れ出して、
力ずくで病院へ運送する仕事をしていました。
メインとなる大部分の仕事は、
通常の介護患者の運送をしているので
普段はそんな事まではやらないのですが、
身内を世間に大っぴらにしたくないという
地域性のためか、
そのような強制的な運送の依頼が
ぽつぽつと来ていたそうです。
そんなある日、
市内で何店舗も手広く経営しているような有力者から、
「私の弟を連れ出して欲しい」
との依頼があり、
早速、指定された家に向かいました。
依頼者からの説明によれば、
弟さんはイジメか何かで高校を中退して以降、
30年近くも仕事へ就いておらず、
40代後半の今に至るまで、
ずっと部屋に閉じこもっているそうです。
両親はもう30年以上前に離婚しており、
依頼者も奨学制度で大学に入って以降は独立。
弟さんは70歳前後の母親と二人で暮らしており、
母親は年齢を誤魔化しながらパートなどをして
生計を立てていたそうです。
依頼者は独立して家を出て以降も、時々実家に出向いては、
弟さんを働くよう諭すことに挑戦してきましたが、
会うことすら難しく、母親は母親で、
「本人が辛いと思っているなら無理をさせない方がいい」
と、逆に依頼者へ言う始末。
埒が明かないまま今に至っておりました。
年老いた母親一人だけでは、
二人の生活を養っていくのには
難しいのが目に見えているため、
依頼者は数ヶ月に一度の仕送りをして、
生活の足しにしてもらっていました。
しかし・・・
半年ほど前から母親がパートを
休みがちになっていると耳にしました。
心配になって実家に行くと、
家へ入れてすらもらえず、
何度行っても門前払いばかり。
やむなく最終手段として、
介護タクシー事務所へ依頼してきたそうです。
連絡を受けた知人Aは、
同僚二人と依頼者の計4人で実家へ向かいました。
説明にあった通り、
「おーい!開けろよ!」
「何かあったのか?心配してるんだぞ!」
と、玄関で依頼者が声を張り上げてドアをバンバン叩いても、
ほとんど聞き取れない位のか細い声で、
「入って来ないで・・・
うちらは心配しなくても大丈夫だから・・・」
と、母親らしき年老いた女性が玄関越しに返答するばかり。
それが最後通告だったようで、
「こりゃ、もうダメだ。
裏から入って力ずくで連れ出して欲しい」
と、依頼者は知人Aらへ決心を伝えてきました。
依頼者の案内で庭に回り、
腐りかけて弱くなった雨戸を外して中に踏み込みました。
入ってみると、一階はしばらく掃除していなかったようで、
あちこちにゴミが散乱し、異臭すら放っていました。
台所には汚い食器がそのままシンクの流しに放置されており、
ハエが何匹も飛んでいました。
一階の各部屋を回りましたが、
さっきまで呼び掛けに返答していた母親の姿も見えず。
どうやら二階へ行ったのだろうということで、
4人は階段から二階へ上りました。
依頼者によれば、
「二階の手前は倉庫代わりに使っているので、
恐らくそこには居ない。
弟が昔から閉じこもっているのは奥の部屋」
ということだったので、
奥の部屋の襖に手を掛けました。
中から何か引っ掛けられているようで、
なかなか開きませんでした。
やむを得ないので依頼者の承諾の元、
襖を持ち上げて外してみました。
その時・・・
中からカビ臭いような生臭いような異臭が漂ってきて、
知人Aは吐き気すらしたそうです。
部屋の中には布団が敷かれており、
母親と一緒に40代の弟が、
まるで子供のように添い寝をしていました。
無理矢理に二人を引き離した時、
弟は子供のように泣きじゃくって抵抗し、
取り押さえるのに難儀したそうです。
母親が、「やめて!乱暴はやめて!!」
と泣きながら必死で止めようとしてきましたが、
それを依頼者が制止しました。
知人Aは弟を介護タクシーへ乗せるのを同僚達に任せ、
取り乱す母親と依頼者のやり取りを見つつ、
部屋の中を見回しました。
まるで昭和50年代あたりから
時が止まっているような部屋で、
子供の読むような漫画やプラモデルなどが大量に置かれ、
テレビも無く、ましてゲーム機や電話も無く、
現代を象徴するような物や、外界との接点を持つ物が、
何一つない異質な部屋でした。
それより異様だったのは、
シミだらけで黄色を通り越して
黒ずみでペラペラになった布団と、
半裸になっている母親の姿。
依頼者には黙っていましたが、複数の状況を見るに、
長年に渡って母親と弟は近親相姦をしていたのでは・・・
と感じたそうです。
30年近くも部屋に閉じこもっていた弟と、
無責任に溺愛していた母親。
地方の片隅にはまだこのような異空間がひっそりとあったのです。
2018年10月06日
戸締りはしっかりして下さい【怖い話】
これは俺がまだ、学生だった頃だから
もう、5年も前の話になる。古い話で悪いんだが・・・
当時、俺は八王子にある学校の
近くのアパートで独り暮らしをしていた。
その日は、俺の部屋で友人と酒を飲んでいた。
いつもならクダラナイ話で何時間も盛り上がって
いたのだが、その時は少し酒を飲み過ぎた為、
俺も友人も11時過ぎには寝入ってしまっていた。
何時間位経ったのだろ う?
突然、玄関で呼び鈴の音が聞こえた。
時計を見ると0時30分 をまわっていたが、
俺は寝ぼけていたこともあり、
飛び上がる ように起きると、
すぐに玄関の扉を開けてしまった・・・。
すると、そこには25〜6歳位の
グレーのトレーナーを着た男が立っていた。
「なんですか?」
俺は訝しげに男に尋ねた。
「○○さんですね?(俺の苗字)」
男が尋ね返す。
「えぇ、そうですが?」
なおも怪訝そうに答える俺にその男は、
ユックリと落ち着いた口調で話はじめた。
「僕はこの地域の町内会長をしているものです。
実は、今しがたこの地区で殺人事件が起きました。
犯人は逃走中でまだ捕まっていません。
危ないですから 戸締りをキチンとして、
今日は出歩くのを控えて下さい。 」
俺は、寝ぼけたままで
「はぁ、解りました・・・。」
と言うと玄関を閉めた。
そして、酒の酔いもまだ残っていたのでまた眠ってしまった 。
翌朝、新聞でもニュースでも確認したが
近所で殺人事件など起きた話は載っていなかった。
友達は、「あんなに若い町内会長なんているかよ。」
と不審げに言っていたが、そう言われてみれば、
夜中に警察でもない男が、
近所にその様な注意をして廻る事、
自体 が妙な話だった。
「なんだったんだよ、あいつは?」
その時は少し気味が悪かったが、
しばらくして、そのこと事態を忘れ てしまっていた。
ところが・・・
その2ケ月後に俺は、
その時の男を再度、目撃することになった。
ヤハリ、夜中の0時30分を過ぎたころだった
呼び鈴がなったのだ。
しかし、それは俺の部屋ではない隣りの部屋だった。
1回、そして、2回、どうやら隣は留守 らしい。
だが、呼び鈴は再度、立て続けに鳴った。
「うるせぇなぁ。」
こんな夜中にそれだけならして出てこなければ留守だろ!
俺は少し不機嫌になって、玄関の扉を半分開けた
そこには、先日の男がヤハリ、
グレーのトレーナーを着てたっていた。
俺の扉を開けた音に気が付くいて男が振り向き、
俺と眼があった。
俺は、少し気味が悪かったが、
それ以上に腹も立っていたの で
「隣、留守なんじゃないですか?なんすか?」
と不機嫌に言 った。
「あぁ、○○さん。
いえこの間の犯人なんですが、
まだ、捕まって居ないんですよ。
だから、捕まるまでは近所の皆さんに、
夜中は出歩かないように注意して廻って るんです。」
俺はムッとして
「この間の朝、新聞もニュースも確認したけど
そんな事件起こってないじゃないっすか!あんた誰だよ? 」
俺は語尾を荒げながら、その男に言ったのだが、
男はひるぐ 様子もなく
「いえ、そんなことはありません。
それに、犯人はまだ捕まっていないのです。
とても危険です。いいですか、
夜中は出歩いてはいけませ んよ。」
と逆に強く諭すように俺に言った。
男の眼が据わっていたこともあり
俺は少し背筋も寒くなり、
「そうっすか。」
と愛想なく言って、
玄関の扉をオモイッキリ閉めて鍵をカケ タ。
腹立たしい思いと、気持ち悪い気分が入り混じった
なんとも奇妙な心持でその夜、俺は寝床についた。
そして、翌日に俺は背筋が凍る思いをしたのだ・・・
その日の朝のワイドショーでは
独身OLの殺人事件が取り上げられていた。
場所は、俺の住むすぐ傍のマンションだった。
寝込んでいたOLの家に空き巣に入った犯人が
物音に気づいたOLを殺してしまったのだと言う。
走り去る犯人の姿を
目撃者した人が語った犯人の特徴は
20代後半の若い男で
グレーのトレーナーを着ていたと・・・・・・
前の晩に俺の見た男の特徴。
そして話の内容に妙に重なって いたのだ。
俺が背筋が凍る思いをしたのは、
その夜になってからだった。
ヤハリ、夜中の0時過ぎに玄関のベルが鳴ったのだ。
俺は、怖くて扉を開ける気にはなれなかった。
が、ベルは、1回、2回、3回となっている 。
扉を開けずに俺が、玄関先で
「誰ですか?」
とたずねると
先日の男の声がした。
「○○さんですか? ホラ、言ったでしょ。
犯人はまだ逃走中ですよ。戸締りはシッカリして下さいね 。」
その声で、俺は
「ハッとした。窓、鍵を閉めてない・・・。」
急いで、部屋の窓の
鍵を閉めようとカーテンを開けると
玄関に居た筈の男が、窓の前に立っていたんだ。
グレーのトレーナーを着て・・・。
息を呑むという表現が、どんなものなのか、
俺はその時はじ めてしった・・・。
鍵を閉めようと、腕を伸ばした瞬間、男が窓を開けた。
「だめじゃないですか、窓の鍵もしっかり閉めてください。
でないと、僕みたいのが、入って来てしまいますよ。」
そう言って、男は不気味な笑みを浮かべた。
次の瞬間には、俺は悲鳴をあげて、玄関へとダッシュした。
玄関のカギを開け、アパートの廊下に飛び出し、
ドアも閉め ずに一心不乱に走ったんだ。
だけど、背後から、男の声が聞こえて来たんだ。
「○○さん、玄関を開けっ放しにするなんて、とても不用心 ですよ。
それに夜中に出歩くのはとても危険です。
今すぐに引き返してください。」
俺は半泣きの状態だったが逃げ続けた。
だが、男は俺の背後をぴったりとマークして、
全くふりきる 事ができなかった。
それどころか、だんだん男との距離が、縮まりつつあった。
男は相変わらず、
「危険です。」や、「早く戻ってください 」などを、
大声で言い続けていた。
マジでもうだめかと思いはじめた時、
希望の光が俺を照らしたよ。
そう、交番を見つけたんだ。
俺は最後の力を振り絞って、交番に飛び込んだ。
中には、驚いた表情の中年警察官がいて、
それを見て安心した俺は、その場に倒れ、
そのまま気を失った・・・。
目を覚ますと、
メガネをかけた若い警察官が俺を覗きこんで いたよ。
俺が目を覚ました事に気がついた若い警察官は、
さっきの中年警察官を連れて来た。
俺の体調が大丈夫だと分かると、
なぜ急に飛び込んで来て、急に気絶したのかと、
聞いて来たから、俺は事の経緯を話すと、
一緒にアパートに来てくれる事になったんだ。
それから、俺は警察官と言う、
たのもしい護衛を二人連れて アパートに戻った。
警察官達のおかげで、恐怖心はあまり無かったんだと思う。
ようやく、アパートに到着し、
二階の自分の部屋に向かった 。
部屋に向かう時の並びは…
先頭は、若警官 次に俺 最後に中警官だ。
(これが一番、 安全だと思ったんだ。)
部屋の玄関のドアも、若警官に開けてもらった。
(来た時は 、ドアは閉まっていたから。)
若警官が中を覗いたが、部屋には誰もいなかった。
中警官「どこか様子がおかしいところはあるかね?」
部屋を見回したが、いつも通りの俺の部屋で、
特におかしい ところはなかった。
窓も確認したが、カーテンは閉められ、鍵も閉まっていた・ ・・。
中警官「まあ、もうここは大丈夫だと思うから、心配するな 。
後はこいつに任せる事にして、
悪いが俺は先に帰らせてもら うわ。
何かあると困るから、いつでも来てかまわないからな。
それじゃあ、気いつけてな。」
そう言ったかと思うと、
中警官は、若警官を置いて、さっさ と帰ってしまったよ。
それから、若警官と少し業務的な話をしてから、
若警官も帰 る事になったんだ。
若警官「それでは、私もそろそろ帰らせていただきますね。
何かありましたら、先ほどお渡しした名紙の番号まで、
ご連 絡下さい。」
わかりましたと言い、若警官を送り出そうとした時、
急に若 警官の笑顔が無表情に変わった・・・。
若警官「殺人犯はまだ捕まっていませんので、
くれぐれも夜 道を歩く際は気をつけて下さい。
それと、戸締りもしっかりして下さいね・・・。
鍵が無かったので、やむなく
ドアを閉めただけだったんです から・・・。
それでは、お気をつけて、○○さん・・・。」
そして、若警官は今までの笑顔では無く、
気味の悪い笑顔を 見せ、帰って行った・・・。
俺はそれから部屋の全ての鍵を閉め、
玄関にはチェーンをし 、テレビと電気をつけっぱにして、
布団をかぶって、朝までガ クブルしていた。
その後・・・。
夜にグレーのトレーナーを着た男はもう来なくなったが、
俺 は二週間後ににはこのアパートを引っ越した。
学校も転校した。
そうして、今になるが、
グレーのトレーナーを着た男が捕まったと言う話は聞かない・・・。
2018年10月02日
呪われた中古車【怖い話】
車の免許を取れたのは良いけれど、車を買うお金が無い。
休みの度に、安い車を探して彷徨っていたら、
10回目ほど訪問していた中古屋さんに良い車があると言われました。
D社のM○Xという軽自動車で、
オーナーが10人くらい代わっているけれど、
凄く綺麗な状態。
走行距離も1万`以下で、求めていたMT車。
無事故との説明ではあったけれど、
お値段は車検1年+保険で7万円とのこと。
なんでこんなに安いのか聞くと、社長さん曰く
「オークションで数台車を買って、
展示スペースが無いから処分したい」
そんな事もあるのかと思い、自分の幸運を喜びながら即契約。
1週間後に取りに来るように、何度も何度も念を押されて、
2つ返事で了承しながら帰宅しました。
ところが、車を取りに行く直前、
先輩達の唐突な誘いで2泊3日の合宿が決定してしまい、
取りに行けないので納車して欲しいと伝えると、即答で拒否。
少しムッとしたけれど、忙しいのだろうと納得して、
3万円出すので納車して頂けないかと頼み込み、
何とか了承してもらった。
なぜかイヤイヤなのが、受話器越しにも良くわかりました。
合宿も終わり、
「帰ったら、ドライブしよう」
と約束して友人と駅で別れ、
弾む足取りで我が家へ、愛車の元へ。
家の前の駐車スペースに車が無い。
何処にも赤いM○Xが見当たらない。
(さては、弟が勝手に乗り回しているのでは?)
と無性に腹が立ってきて、
家に入るなり母親に車の所在を聞くと、凄く複雑な顔。
「警察も来たけれど、社長さん、
あんたの買った車の中で死んでいたそうだよ」
「帰ったら、警察に連絡するように言われてるから、連絡しな」
警察に連絡すると、出頭要請。で、出頭。
購入の詳しい経緯と、
社長さん死亡時のアリバイ等を何度も何度もしつこく聞いてくる。
さすがに不安になって来て『殺人』なのかと聞くと、
少し言いよどんでから『変死』との答。
結局、それ以上は聞きだせずに追い返されました。
人が死んだ車に乗る気は、さすがにしなかったので、
中古屋さんに連絡。解約手続きにいく。
事務所に着くと、喪服姿の女性が先にいて、
私の名前を聞くと、
「あんたが…」
と呟き、凄い目で私をジッとにらんでから、出て行った。
社長の奥さんだそうで…。
解約手続き中も、事務の人達がチラチラと私を見ている。
すごく嫌な感じ。
「では、外で新しい車を選びましょう。
いえ、同程度の車を、同じ値段で良いですよ」
と、事務の男性が唐突に言い、展示場に連れ出されました。
80万円以上の新古車が並ぶスペースまで来ると、
好きなのを選んで欲しいと言う。
戸惑っていると、男性は悲痛な顔で、
「ごめんなさい…本当にごめんなさい。
止め様としたのですが出来なかった」
先ほどから訳が解らずイライラしていたので、
車の陰に引き込んで、問い詰めるとトンデモない事を言い出した。
「あの車の所有者は、全員不幸になっているんです。
死んだのは今回で3人目と聞いています。
社長がどこから買ってきたのか解りませんが、
あの車がこの店に来て貴方を含め4人に売りました。
以前の3人は、病気と入院と自殺で、
車だけがココ戻ってきているんです」
「あの車、整備の為移動させようと乗り込むと、
私も凄く不安で気分が悪くなりました。
最初は、排気やクーラーガス、車内にやエンジン内に
薬物でも付いているのかと疑いましたが、全て正常でした。
社員達が何度も社長に『潰す』様に言ったのですが、
社長は聞き入れませんでした。
この不景気に首にされるわけにもいかず、
我々も強い事が言えなかったのです」
「あの車は、廃車手続きが終わりました。
警察の許可が出次第、我々の立会いの下、スクラップにします。
社長がいなくなって、やっと潰す事が出来るようになりました」
「さあ、社員一同からのお詫びの意味もありますので、
遠慮無しに好きな車を選んでください。
これなんかどうです?フル装備、新車同然。
ナビとカーステもサービスしますよ」
あまりに勝手な言い草に腹が立ちましたが、
展示車のM○Xにオプション装備でなんとか機嫌が直りました。
白い傘を差し白い服を着た人【怖い話】
友人と遊んだ後、
雨降ってるし時間も遅いからって友人を家に送った帰り、
今週のマンガ読んでないなと思いだして、コンビニへ行った。
店内に客は自分だけ。
一冊目を手にとってふと顔をあげると、
コンビニの前の道を白い傘を差し白い服を着た人が歩いてた。
こんな時間に何してんだ(自分も出歩いてるけど)、
と思いつつ本に目を落とした。
一冊目を読み終え、
次に読もうと思っていた本を手に取り顔をあげると、
さっきの人が前の道を歩いてた。
歩道とコンビニの間には駐車スペースがあるから、
至近距離で見たわけじゃないけど、
見た目も歩き方も同じだったから一目でわかった。
変だなとは思ったけど、
いろんな人がいると思ってそんなに気にしなかった。
二冊目も読み終え、
次に先ほど店員さんが並べてくれた今日発売の雑誌を手に取り、
読む前に同じ姿勢で疲れた肩を回す。
すると、また前の道を歩いてる人が。
さっきと同じ白い傘をさした人。
さすがに薄気味悪かったので、
そのあとは窓の外へ眼を向けず漫画に集中した。
さらに二冊ほど読み終え、
顔なじみの店員さんと少し会話し、ご飯を買って外へ。
雨は小雨になっていたけれど、
また強く降ってくると嫌だし早く帰ろうと歩道へ出た瞬間、
ドキッとした。
20メートルほど先を歩く、白い傘を差した人の姿。
田舎だから、そんな時間に走ってる車はほとんどなく、
街灯も少ないので、コンビニから離れると辺りはものすごく暗い。
そのせいで余計不気味に思えた。
なんか嫌だな…とわざとゆっくり歩いているのに、
それでもどんどん距離が縮まっていく。
どんだけ歩くの遅いんだよって思った。
前を歩く白い傘の人との距離が3mくらいになって、
なんとなくこれ以上近づきたくなかったし、
追い抜く気にもなれなかったので、
だいぶ早いけどあの路地曲がるかーと思っていると、
その人がその路地を曲がっていった。
よかった!って気持ちもあったが、
何もされてないのに勝手に想像して
ごめんなさいって気持ちもあったので、
その人の後ろ姿に向かって軽くお辞儀をした。
その瞬間、その人がなにか言ってるのが聞こえた。
えって思ったけど、
こっち向いてないし独り言だと思うことにした。
そのまま歩いて、次の路地を横切ろうとして、
なんとなく右を見た。
見慣れた住宅街が見えた。白い傘をさして歩く人も見えた。
ありきたりに背筋がぞっとしたとしか言えないけれど、
嫌な感じがした。
だってさっきまでは、
こっちがゆっくり歩いていても距離が近づくくらい、
あの人はものすごくゆっくり歩いていたはず。
でも今は、どちらかと言えば早足。
いつもよりほんの少し大股で歩いてる。
なのに相手も、一本奥の道を平行して歩いてる。
なにか嫌な感じがして、それを振り払おうと、
偶然か、それともこっちを意識して
歩く速度を変えて遊んでいる障害者かなにかだろう、
と思うことにした。
でも、何度路地を横切っても、
白い傘を差した人が一本奥の道を歩いてる。
見えないところで歩く速度を早くしたり遅くしたりしても、
自分が横切るときに向こうの人も横切っていく。
すごく怖くなって、脇目もふらず大通りまで走った。
頭の中では自分に向かって、
これはただ雨が少し強くなってきたから、
濡れたくないから走ってるだけって言い聞かせた。
大通りまで出ると、
さすがに数台の車が走っていて、すこしホッとした。
大通りを渡るときに右を見たけど人影はなく、
それ以前に、向こうの路地から大通りへ出ても、
横断歩道がないのだから渡れるはずもない。
それでももしかしてと、
大通りを渡ってひとつめの路地を横切るときに、
勇気を振り絞って右を見てみた。
誰も居なかった。
その後の路地を横切るときも、誰も見えなかった。
当たり前だよなーと落ち着きを取り戻して歩き続け、
この路地を曲がればさぁもうすぐ家だと、
いつものところで右へ曲がった。
奥の路地から、白い傘を差した人が出てきた。
え?って思ったときには、
白い傘を差した人は路地を曲がってこちらへ歩いてきた。
鳥肌がたった。
やばって思ったときには、もう元きた道を走ってた。
見られないように全力で走って、ひとつ前の路地を曲がった。
なのに、曲がった路地の奥の道から
白い傘をさした人が歩いてきた。
道の真ん中まで出てきて、
その体勢のまま不自然な感じでグルンッとこちらに向き直って、
歩を進めてきた。
寝静まって真っ暗な住宅街のど真ん中で、
道が交差する付近には街灯があるものだから、
白い傘と白い服はものすごくはっきり目に映った。
深夜だっていうのに大声が出た。うわぁああ!って感じの。
持ってた傘もコンビニの袋も放り投げて、
一目散にその場から走った。
走りながら友人に電話をかけて、寝てるところ起こして、
「今から行くから家に入れてくれ」
とお願いした。
数時間前に送ったばかりだっていうのに友人はOKしてくれて、
助かったと急いで走って向かったのだけれど、
大通りを越えて、コンビニを過ぎ、
道路を横断して曲がろうとした先で、
白い傘を差した人が立っているのが見えた。
もうこの時には、何で?としか考えられなくて、
曲がるのをやめてそのまま次の路地を目指したんだけど、
そこでも白い傘を差した人が奥の路地から出てきた。
もう嫌だと思いながら道を先に進んでいると、
携帯が鳴った。
けれどおかしなことに、
着信ではなく不在着信の表示。しかも3件。
時間を確認するともう4時を回っていて、
自分の中での時間はまだ10分程度だと思っていたのに、
既に1時間近く経っていた
町から出ていないし、それ以前に、
曲がれないからこの通りを抜けていないのに。
住んでるはずの町が知らない町のようで、
すごく怖くなった。
友人に電話をすると、
『まだ?今どこ?こないの?』
と、眠そうな声が電話から聞こえてきた。
「行きたいけど無理。曲がれない。
曲がった先に白い傘を差した何かが先回りしてる」
って、きちんと言えたかわからないけど伝えると、友人は、
『何言ってるかわかんないけど、
先回りされるなら追わせればいいんじゃない?』
って返してきた。
でも、言われても何も考えられなくて、
「え?え?なにいってんの?意味わかんねー!!」
って返すのが精一杯。
語気を強めて意味不明なこという自分に、
友人は怒ることなくゆっくり丁寧に、
『一度曲がりたい方向と逆に曲がるでしょ?
そしたら前に先回りされてるんだよね?
それから後ろ向いて、追われる形でまっすぐ道を進めば、
行きたい方向にいけない?』
もう何でもいいから縋りたい一心で
「わかった」
って言って、友人の言うとおりにしてみた。
もう何も考えられなかった。
すると、本当に曲がった先に
白い傘をさした人は現れるけれど、
後ろを向いて逃げても追いかけてはこない。
正確には、こちらにむかって歩いては来るけれど、
ソレは自分が曲がった角のところまで来たら戻っていく。
でも、また別の角を曲がったり、
路地へ入ろうとしたりすると、その先の道から出てくる。
行ける!と思ったとたん、周囲に誰もいないのに
「ボオオ、オ、ア、」
と、声なんだけど言葉じゃないとわかる音が、
後ろから聞こえてきた。
感覚的に、あぁアレが喋ってると思い、
より一層足に力を入れて走った。
ようやく友人の家の近くまで来ることができ、
電話で伝えると、家の前まで出て待ってると言ってくれた。
ホントに家の前で待っててくれた友人のもとへ行くと、
「びしょびしょww傘どうしたのwww」
なんて言って笑ってて、ちょっと安心したけれど、
見たこと説明して、走ってきた道の先を一緒に見てもらった。
暗いし遠いのに、でもはっきりと向こうの十字路に、
白い傘と白い服を着た人の姿があった。
驚いた顔の友人と慌てて家に入ったあと、
少し遠くから低音の人の声のような音がずっと聞こえていて、
友人が飼ってる猫が、窓やら玄関やらを行ったり来たりしてた。
明るくなって車の音がうるさくなってきたころには、
いつのまにか声のような音や嫌な感じはなくなっていた。
その日のうちに県内のお祓いで有名な神社に二人で行き、
お祓いをしてもらったのだけれど、よぼよぼの神主さんは、
「忘れたほうがいい。理解出来ない者は数多くいて、
それがなにかは私にもわからない」
とだけ説明してくれた。
今思い出しても寒気が止まらない経験で、
冷静に書けないんだ。
コレを読んだ誰かが同じようなことに遭遇したときは、
友人の言葉を思い出して欲しい。
老婆【怖い話】
あれは僕が小学5年生のころ。
当時、悪がきで悪戯ばかりだった僕と、
友人のKは、しょっちゅう怒られてばかりでした。
夏休みのある日、
こっぴどく叱られたKは、僕に家出を持ちかけてきました。
そんな楽しそうなこと、 僕に異論があるはずもありません。
僕たちは、遠足用の大きなリュックに
お菓子やジュース、マンガ本など
ガキの考えうる大切なものを詰め込み、
夕食が終わってから、近所の公園で落ち合いました。
確か、午後8時ごろだったと思います。
とはいっても、そこは浅はかなガキんちょ。
行く当てもあろうはずがありません。
「どうする?」
話し合いの結果、畑の中の小屋に決まりました。
僕の住んでいるとこは、長野の片田舎なので、
集落から出ると、周りは田畑、野原が広がっています。
畑の中には、農作業の器具や、
藁束などが置かれた小屋が点在していました。
その中の、人の来なさそうなぼろ小屋に潜り込みました。
中には、使わなくなったような手押しの耕運機?があり、
後は、ベッドに良さそうな藁の山があるだけでした。
僕たちは、持ってきた電池式のランタンをつけ、
お菓子を食べたり、ジュースを飲んだり、
お互いの持ってきたマンガを読んだりと、 自由を満喫していました。
どのくらい時間がたったでしょうか。
外で物音がしました。
僕とKは飛び上がり、 慌ててランタンの明かりを消しました。
探しに来た親か、小屋の持ち主かと思ったのです。
二人で藁の中にもぐりこむと、 息を潜めていました。
「ザリザリ・・・・ザリザリ・・・」
何か、妙な音がしました。 砂利の上を、何かを引きずるような音です。
「ザリザリ・・・ザリザリ・・・」
音は、小屋の周りをまわっているようでした。
「・・・なんだろ?」
「・・・様子、見てみるか?」
僕とKは、そおっと藁から出ると、
ガラス窓の近くに寄ってみました。
「・・・・・!!」
そこには、一人の老婆がいました。
腰が曲がって、骨と皮だけのように痩せています。
髪の毛は、白髪の長い髪をぼさぼさに伸ばしていました。
「・・・なんだよ、あれ!・・・」
Kが小声で僕に聞きましたが、僕だってわかりません。
老婆は何か袋のようなものを引きずっていました。
大きな麻袋のような感じで、口がしばってあり、
長い紐の先を老婆が持っていました。
さっきからの音は、これを引きずる音のようでした。
「・・・やばいよ、あれ。山姥ってやつじゃねえの?」
僕らは恐ろしくなり、ゆっくり窓から離れようとしました。
ガシャーーーン!!
その時、Kの馬鹿が立てかけてあった鍬だか鋤を倒しました。
僕は慌てて窓から外を覗くと、
老婆がすごい勢いで こちらに向かって来ます!
僕はKを引っ張って藁の山に飛び込みました。
バタン!!
僕らが藁に飛び込むのと、 老婆が入り口のドアを開けるのと、
ほとんど同時でした。
僕らは、口に手を当てて、 悲鳴を上げるのをこらえました。
「だあれえぞ・・・いるのかええ・・・」
老婆はしゃがれた声でいいました。 妙に光る目を細くし、
小屋の中を見回しています。
「・・・何もせんからあ、出ておいでえ・・・」
僕は、藁の隙間から、老婆の行動を凝視していました。
僕は、老婆の引きずる麻袋に目を止めました。
何か、もぞもぞ動いています。と、
中からズボっと何かが飛び出ました。
(・・・・・!)
僕は目を疑いました。
それは、どうみても人間の手でした。 それも、子どものようです。
「おとなしくはいっとれ!」
老婆はそれに気付くと、 足で袋を蹴り上げ、
手を掴んで袋の中に突っ込みました。
それを見た僕たちは、もう生きた心地がしませんでした。
「ここかあ・・・」
老婆は立てかけてあった、フォークの大きいような農具を手に、
僕たちの隠れている藁山に寄ってきました。
そして、それをザクッザクッ!と山に突き立て始めたのです。
僕らは、半泣きになりながら、 フォークから身を避けていました。
大きな藁の山でなければ、今ごろ串刺しです。
藁が崩れる動きに合わせ、
僕とKは一番奥の壁際まで潜っていきました。
さすがにここまではフォークは届きません。
どのくらい、耐えたでしょうか・・・。
「ん〜、気のせいかあ・・・」
老婆は、フォークを投げ捨てると、 また麻袋を担ぎ、
小屋から出て行きました。
「ザリザリ・・・・ザリザリ・・・・」
音が遠ざかっていきました。
僕とKは、音がしなくなってからも、
しばらく藁の中で動けませんでした。
「・・・行った・・・かな?」
Kが、ようやく話し掛けてきました。
「多分・・・」
しかし、まだ藁から出る気にはなれずに、
そこでボーっとしていました。
ふと気が付くと、背中の壁から空気が入ってきます。
(だから息苦しくなかったのか・・・)
僕は壁に5センチほどの穴が開いてるのを発見しました。
外の様子を伺おうと、顔を近づけた瞬間。
「うまそうな・・・子だああ・・・・!!」
老婆の声とともに、 しわくちゃの手が突っ込まれました!!
僕は顔をがっしりと掴まれ、穴の方に引っ張られました。
「うわああ!!!」
あまりの血生臭さと恐怖に、 僕は気を失ってしまいました。
気が付くと、そこは近所の消防団の詰め所でした。
僕とKは、例の小屋で気を失っているのを
親からの要請で出動した地元の消防団によって
発見されたそうです。
こっぴどく怒られながらも、
僕とKは安心して泣いてしまいました。
昨晩の出来事を両方の親に話すと、
夢だといってまた叱られましたが、
そんなわけがありません。
だって、僕の顔にはいまだに、
老婆の指の跡が痣のようにくっきり残っているのですから。
2018年07月19日
木の杭 「そうなった者を二度と元に戻すことは決して出来ない。」【怖い話】
俺はド田舎で兼業農家をやってるんだが、
農作業やってる時にふと気になったことがあって、
それをウチの爺さんに訊ねてみたんだ。
その時に聞いた話が個人的に怖かった。
農作業でビニールシートを固定したりすると時等に、
木の杭を使用することがあるんだが、ウチで使ってる
木の杭には、全てある一文字の漢字が彫りこんである。
今まで、特に気にしていなかったんだが、
近所の農家で使ってる杭を見てみたところそんな文字は書いてない。
ウチの杭と余所の杭を見分けるための目印かとも思ったのだが、
彫ってある漢字は、ウチの苗字と何の関係も
無い字だったので不思議に思い、ウチの爺さんにその理由を聞いてみた。
爺さんの父親(俺の曾爺さんにあたる)から聞いた話で、
自分が直接体験したことではないから、
真偽の程はわからんがとの前置きをした後、
爺さんはその理由を話してくれた。
大正時代の初め、爺さんが生まれる前、
曾爺さんが若かりし頃の話。
事の発端は、曾爺さんの村に住む若者二人(A、B)が、
薪を求めて山に入ったことから始まる。
二人は山に入り、お互いの姿が確認できる距離で薪集めに勤しんでいた。
正午に近くになり、
Aが「そろそろメシにするか」と
もう一人にと声をかけようとした時だった。
突然、Bが
「ああああアアアああアあアアァァァああぁぁぁ
アアアァァァァアあああああああああああああアアアア」
人間にかくも大きな叫び声が上げられるのかと思うほどの絶叫を上げた。
突然の出来事にAが呆然としている中、
Bは肺の中空気を出し切るまで絶叫を続け、
その後、ガクリと地面に崩れ落ちた。
Aは慌ててBに駆け寄ると、
Bは焦点の定まらない虚ろな目で虚空を見つめている。
体を揺すったり、頬を張ったりしてみても、
全く正気を取り戻す様子がない。
そこでAは慌ててBを背負うようにして山を降りた。
その後、1日経っても、Bは正気に戻らなかった。
家族のものは山の物怪にでも憑かれたのだと思い、
近所の寺に連れて行きお祓いを受けさせた。
しかし、Bが正気に戻ることはなかった。
そんな出来事があってから1週間ほど経った頃
昼下がりののどかな農村に、身の毛もよだつ絶叫が響き渡った。
「ああああアアアああアあアアァァァああぁぁぁ
アアアァァァァアあああああああああああああアアアア」
何事かと近くに居た村のものが向かってみると、
たった今まで畑仕事をしていた思しき壮年の男が
虚空を見つめ放心状態で立ち竦んでいた。
駆けつけたものが肩を強くつかんで揺さぶっても全く反応がない。
先のBの時と同じだった。
その後、
家族のものが医者に見せても、
心身喪失状態であること以外はわからず、
近所の、寺や神社に行ってお祓いを受けさせても状況は変わらなかった。
迷信深い年寄り達は山の物の怪が里に下りてきたのだと震え上がった。
しばらくすると、曾爺さんの村だけでなく近隣の村々でも、
人外のものとも思える絶叫の後に心身喪失状態に陥る者が現れ始めた。
しかもそれは、起こる時間帯もマチマチで、被害にあう人物にも
共通するものが何も無く、まさしく無差別と言った様相だった。
曾爺さんが怪異に出くわしたのはそんな時だった。
その日、曾爺さんは弟と二人して田んぼ仕事に精を出していた。
夕方になり仕事を終えて帰ろうとした時、
自分が耕していた場所に
木の杭が立てられているのが目に入った。
つい先程まではそんなものは全くなく
それは、忽然と眼前に現れたとしか言い様がなかった。
突如として現れた木の杭を不思議に思い、
まじまじと見つめていた曾爺さんだったが、
「誰だ?こんなふざけた事をしたのは。」
とわずかな怒りを覚え、
「こんな邪魔なものを他人んちの田んぼにブッ刺しやがって・・・」
そのうち
「邪魔だ。邪魔だ。ジャマダ、ジャマダ、ジャマ、
ジャマジャマジャマジャマジャマジャマジャマ」
杭を今すぐにでも引き抜きたい衝動で
頭が埋め尽くされたようになり、
その衝動に任せて、力一杯その杭を引き抜こうとしたその時、
弟に肩を掴まれ我に返ったという。
落ち着いて辺りを見渡してもると
先程の杭は何処にも見当たらなかった。
弟に問い質してみたところ、
弟はそんな木の杭は全く見ていないという。
一緒に帰ろうとしていた兄(曾爺さん)が
ふと何かに目を留めた素振りを見せ、
何も無い虚空を見つめていたかと思うと、何も無いところで、
何かを引き抜く時するような腰を屈めて力を溜める
姿勢を とったので、
何をしているのかと肩を叩いたのだと言う。
その時、曾爺さんは、
昨今村を騒がせている出来事を思い出し、
もし弟に止められることなく木の杭を抜いてしまっていれば、
自分も廃人同様になっていたに違いに無いという事に思い至り、
肝を潰したのだそうだ。
そんなことがあってからしばらくして、
曾爺さんの住む村での犠牲者が10人を越えた頃、
村長と村役達によって村人が集められた。
村長は、昨今の出来事に触れ、
それがこの村だけでなく近隣の村でも起きており、
現在、近隣の村々と協議し、
怪異への対策を進めている最中である事を村人達に伝えた。
解決するまでには今しばらく時間がかかるとのことで、
それまでの怪異に対する当面の対処として伝えられた ことは
「見慣れない木の杭を見かけても決してソレを引き抜かない。」
ということだった。
曾爺さんの予想は当たっていた。
さらに村長は、
「農作業で使用する杭には、
自分達が打ち込んだものであることが
明確にわかるように何らかの目印を彫り込むように」
と続けた。
これは自分が打ち込んだ杭の中に、
例の杭が紛れ込んでいた時に、
誤って引き抜いてしまう事への防御策だった。
一頻りの説明を聞いて、
今の事態を引き起こしているのは何者なのかを問う者がいたが。
村長は、
「人の怨霊、動物霊や物の怪といったものの類でではないこと以外は、
良くわからない。 影響範囲が広範なことから、
非常に力を持った何かだとしか言えないのだ。」
と答えるのみだった。
仮に被害に遭ってしまった場合は
なんとかなるのかと言う問いに対しては
「二度と元に戻すことは決して出来ない。
そうなった者をお祓いをしてもらいに行った時に、
とある神社の 神主に言われたのだ。
『彼には祓うべきものは何も憑いていない』と」
と村長は答えた。
神主が言うには、
あれは狐に憑かれたりしたせいで
あのような状態になっているのではなく、
今の事態を引き起こしている何かの力の一端に触れたせいで、
心が壊れてしまった結果、この状態になっているのだそうだ。
つまり、何かの影響下にあって
心身喪失状態に陥っているのではなく、
何かの影響を受けた結果が心身喪失状態であるため、
寺だろうが神社だろうが、
どうすることもできないということらしい。
最後に村長は、
「杭さえ、引き抜かなければ何も恐れることは無い。」
と締めくくり、
冷静に対処する事を村人たちに求め、解散となった。
村人達が去った後、
曾爺さんは自分がその体験をしたこともあってか、
村長のところに行って、その何かについて、
なおも食い下がって問い質すと
「幽霊や物の怪や人の祀る神様と人との間には、
曖昧ながらもお約束というべきものがある。
相手の領域に無闇に立ち入らないことだったり、
定期的に祈りを捧げたりとな。
彼らはそれを破ったものには祟りをなすが、
約束事を守る限りは問題は無い。
しかし、今回の事態を引き起こしている何かに、
それは当てはまらない。
聞いた話では その何かは、自らがが在るがままに、
ただそこに在ると言うだけで、 人を正常でいられなくし、
発狂させるほどの影響与えるのだそうだ。
わしもそこまでしか聞かされていない。
呪ってやるだとか祟ってやるだとか
そういう意図も持たないにもかかわらず、
存在そのものが人を狂わせる。
そういうものに対しては、
人は必要以上に知らない方が いいのかも知れん。」
と言い残し、村長は去って行ったそうだ。
それから暫くして、
曾爺さんの住む村で神社の建立が始まった。
怪異による犠牲者は、近隣の村々を含めて出続けていたが、
その数は収束に向かっていき、
神社が完成した頃には全く起きなくなったという。
今にして思えば、木の杭は、
何かを封じた霊的な呪い(まじない)の類で、
それを引き抜いてしまったことで、何かの力の一部が解放され、
それに触れた人間が狂ってしまうということだったのかも知れん。
神社が立てられたことで、その何かは再び強固に封印され、
怪異が起きなくなったということなのだろうと
曾爺さんは、爺さんに話してくれたそうだ。
そんな経緯で、ウチで使う木の杭には、
ウチのものである事を示す目印を
今でも彫り込んでいるんだそうだ。
近所ではそんなのを見たことがないことを指摘してみたら、
「人ってのは喉もと過ぎるとなんとやらで、
今ではあんまりやってる家を見かけないが、
この近所だと、どこそこのSさんとことか、
Mさんとこは今でもやってるから見てくると良いぞ。」
と爺さん言われた。
見てきてみると、
確かにSさんちとMさんちで使ってる木の杭には
漢字一文字の彫りこみがあった。
「今でもやってる家ってのは、だいたいが犠牲者を出した家か、
その親族の家だろうな」
とは爺さんの談
【こっくりさん】 私は呪いを否定できません【怖い話】
私には霊感と言われるものはないと思います。
なので、この話にも
幽霊オバケの類は一切出てきません。
ただ、私が見えてなかっただけかもしれませんが。
昔、まだ私が小学校5,6年生だった頃のことです。
当時、誰もが知っている
「こっくりさん」が流行っていました。
オカルト好きだった私や、
私の友人達の間でも当然話題になり、
是非やってみたかったのですが、何故か学校で
「こっくりさんは絶対にやってはいけない」
という規則があると言われ、
禁止されていました。
実際にはそんな規則はある訳もなく、
恐らく「良くない遊び」として
どこかの親が子供に言い聞かせたか、
または誰かがこっくりさんに信憑性を持たせるため
そんな噂を流したか、だと思います。
しかし禁止されると余計にやりたくなるもので、
ある日、私を含む4人で
こっくりさんをやってみることにしました。
実施する時間はやはり夜が良かったのですが、
子供だけでそんな遅くに集まることはできません。
ところが丁度近所で夜祭が開かれており、
そこに行くという名目で4人集まろう、
ということになりました。
場所は学校の教室にしました。
当日、なんとか4人で学校に忍び込み、
教室に集まります。
メンバーはA君、B君、C君、私です。
A君はクラスの中でもリーダー的存在で、
このオカルト好き集団の中でも当然リーダーでした。
教室内で、予めA君が用意してきた
文字や数字、鳥居などが書かれた用紙を広げます。
そして鳥居の場所に十円玉を置き、
それを皆の指で押さえます。
A君が何か呪文のようなものを唱え、
準備完了です。
A君「よし、誰かこっくりさんに聞きたいことないか?」
私は特に聞きたいこともなかったのですが、
B君C君が色々と質問します。
と言っても小学生の他愛のない質問です。
「○○の好きな子は?」
「俺、将来何になっている?」
「××先生ってカツラだよな?」
などなど。
質問の度に十円玉が文字の上を動き、
答えを示します。
私は指に力を入れてなかったのですが、
誰かが勝手に動かしているのだろうと思っていました。
他の3人もそう思っていたと思います。
ほぼ予想通りの回答が得られ、
恐怖も感じずにわいわいとやっていましたが、
これで最後、と言ったA君の質問で雰囲気が変わりました。
A君「こっくりさん、最後の質問です。
この中で最初に死ぬのは誰ですか?」
私達他の3人は唖然とします。
何聞いてんだ、やめろと言おうとしましたが、
すぐに十円玉が動き出します。
私はこの時ばかりは指に力を込め、
十円玉を止めようとしました。
しかし止まりません。
十円玉は鳥居から抜け出し、
最初の文字に向かいます。
他のB君C君も止めようとした様子でしたが、
それでも動きは止まりません。
そしてこっくりさんが最初の文字を示しました。
「は」
皆凍りつきます。
それはB君の名前の最初の文字でした。
B君の顔を見ると、
見る見る青ざめていきます。
言われもない恐怖を感じ、
A君も含み、皆一斉に指を離しました。
B君は半泣き状態です。
何故かA君を攻める気力も失せてしまい、
その日はそれで終わりにして
各自無言のまま帰宅していきました。
2日後、B君が亡くなりました。
呪いによる不可解な死・・・ではなく、
交通事故でした。
しかし当然こっくりさんのことが頭に浮かびます。
A君、C君も同じように感じていたと思いますが、
お互いにそのことには一切触れず、
こっくりさんを行ったこと自体、
暗黙の内になかった事として忘れることにしました。
それから約8年後のことです。
A君は小学校卒業と共に引越し、
C君は私とは違う中学へ行ったため、
3人は小学校以降会うことはありませんでしたが、
ある日突然A君から電話がありました。
A君「Cと3人で会わないか?」
昔のこともありましたが、
どうしても会いたい、というので、
1人暮らしをしているというA君の家で
3人で会うことになりました。
約束の時間に待ち合わせの場所に行くと
C君が既に来ていました。
約8年ぶりでしたが、
C君は余り変わっていませんでした。
そして遅れること5分、
A君がやってきました。
彼は変わっていました。
昔は活発で運動神経もよく、
リーダー的存在だったA君。
しかしその面影はなく、
すっかり痩せ細り生気のない顔をしていました。
再会の挨拶もそこそこに、
A君はすぐに家に行こうと言うので、
3人でA君の家に向かいました。
A君の住んでいるアパートは
お世辞にも綺麗とは言えないようなアパートでした。
何となく嫌な感じのする建物でしたが、
A君の部屋に入るとその感じは更に増しました。
部屋の壁のあちこちに何やら難しい文字のお札や、
写経を写した紙が貼ってあり、
変な形の水晶や数珠、お香の道具のようなものが置いてあります。
一体何事かとA君に聞いても何も答えず、
取りあえずそこのテーブルの前に座ってくれと言われました。
テーブルの上には一枚の紙が置かれていました。
紙には文字や数字や鳥居の絵・・・
それは忘れもしない、
こっくりさんの紙でした。
そしてA君がこう言いました。
A君「これはあの時使った紙だ。
これからもう一度、こっくりさんをやるぞ。」
私達にはA君の意図がまったく理解できませんでした。
2人で理由を問い詰めると、
A君はやっと説明をしてくれました。
8年間彼を苦しめ続けている話を。
A君「小学校の頃、こっくりさんやったよな?
あの時、最後に俺、変な質問したろ?
最初に死ぬのは誰だ、って。
そうしたら、「は」って、
Bの名前の最初の文字指したろ。
あれな、本当は名前じゃないんだ。
俺が口で言った質問はフェイクみたいなもので、
心の中で違う質問をしてたんだ。
「こっくりさん、Bを呪い殺せますか?」って。
その返事だったんだよ。
あれは。“はい”っていう返事だったんだ。」
正式(?)なこっくりさんの紙には
「はい」/「いいえ」のような言葉も書いておくらしいですが、
私達のその紙には書いていませんでした。
それというのも、
A君が元からその質問をする予定だったので、
答えが「はい」/「いいえ」では誤魔化すことができないから、
書かないでおいたそうです。
昔、A君はリーダー的存在でしたが、
B君も負けず劣らず、頭も良く運動神経もよく、
何より格好もよかったのでクラスの人気者でした。
A君は子供ながらに彼を邪魔に思っており、
ある時A君が好きだったクラスの女の子が
B君を好きだということを知って、
B君を憎むようになり、
こっくりさんをやって脅かしてやろう、
と思ったそうです。
話をしているうちにA君は泣き始めました。
しかしB君が死んだのは事故です。
私はオカルト好きではあったものの、
人を殺せるような呪いなんてある訳がないと思っていました。
私「あれは偶然が重なった事故なんだよ。
Bが死んだのはAの責任じゃないって。」
C君「そうそう。
第一そんな呪いなんてあったら、
この世の中もっと大変なことになってるぜ?」
A君は首を強く振り、
泣きながら話を続けました。
A君「違う。あるんだ。呪いはあるんだよ。
霊も居るんだよ。実際にそこに居るんだよ。
ずっと居るんだよ。
何やっても離れていかないんだよ。」
そこ、と言っても部屋には私達3人しか居ません。
しかし話を聞いているうちに、
段々と部屋の空気が重くなり、
肌寒いような感じがしてきました。
A君「人を呪わば穴2つって言うだろ?
Bを呪い殺してしまった俺が死ぬまで、
こいつはずっと離れないんだ。
途中で止めたからだ。
あれは途中で止めちゃいけないんだ。
そんなこと知っていたはずなのに、
怖かったから・・・
ほんとに怖かったから止めてしまったんだよ。」
A君は叫ぶように言いました。
更にA君は続けます。
A君「何でもやったよ。
日本中回ってお払いしたり、
お札買ったりお経読んだり。
でもダメなんだ。当たり前だよな。
だってもうBを死なせてしまったから。
もう自分が死ぬまで終わらないんだ。」
そんなことない、ただの思い込みだ、
と励ましてももう聞く耳も持たないようでした。
そしてA君は何故今日、
私達を呼んだのかを話してくれました。
A君「今日呼んだのは、
さっき言った通りもう一度こっくりさんをやるためだ。
だって、あの時止めたままで終わってるからな。
ちゃんと帰さないと。」
事態が飲み込めました。
それなら、こっくりさんをちゃんと帰せば
A君は助かるのでは?と思い、
C君と私は再びこっくりさんに参加することにしました。
あの時の続き、ということで
「は」の位置に十円玉を置き、
指を置きます。
A君がまた呪文を唱えます。
そして言います。
A君「こっくりさん、
どうぞおかえりください。」
しかし十円玉は動きません。
もう一度言います。
A君「こっくりさん、どうぞおかえりください。」
動きません。
私達も声を揃えて言います。
私・C君「こっくりさん、お願いです。
どうぞおかえりください。」
A君「こっくりさん、ごめんなさい。
お願いです。どうぞおかえりください。」
すると、十円玉がゆっくりと動きだしました。
・・・鳥居ではなく、文字の方へ。
「お」
そのまま次の文字へ。
「い」
次の文字へ。
「で」
そして鳥居に戻りました。
A君「おいで・・・?」
意味がわかりませんでしたが、
C君が早く終わりにするように言いました。
A君「あぁ、ええと・・・
こっくりさん、ありがとうございました。」
これでこっくりさんは終了です。
C君「A、気分はどうだ?」
A君「うん・・・
なんか楽になった気がするかな・・・」
私「まだ、何か見えるか?まだ居るのか?」
A君「居ない・・・
さっきまで居たとこには居ない。
何も感じないし、もう平気なのかな。」
C君と私はホッとしました。
A君もやっとぎこちないですが
笑顔を見せてくれました。
その後、3人で外で食事をし、
また近いうちに会おう、
と言って解散しました。
しかしもう会うことはできませんでした。
その次の日のニュースで、
A君が飛び降り自殺をしたことを知りました。
前日にA君と会っていた、
ということで警察が私のところに来ました。
現場の状況と、
遺書らしきメモ書きから自殺と断定したそうですが、
その内容がどうも分からない、ということでした。
そこには一言だけ、こう書かれていました。
「Bが呼んでるから、いってくる」
私の話は以上です。
呪いというのは本当にあるのでしょうか。
私は霊を見ていませんし、
こっくりさんも、A君が自分自身も知らない潜在意識で
十円玉を動かしていただけかも知れません。
しかしその後にB君が事故で死に、
それによりA君が長い間苦しみ、
最後に死んでいった、というのも事実です。
これは呪いによるものです、
と言っても、私は否定できません。
2018年05月17日
自己責任 【呪われた怖い話】
予めお断りしておきます。
この話を読まれたことで、
その後に何が起きても保証致しかねます。
自己責任のもとでお読み下さい。
今から5年前、私は中学生だった頃に、
一人の友達を亡くしました。
表向きの原因は精神病でしたが、
実際はある奴等に憑依されたからです。
私にとっては忘れてしまいたい記憶の一つですが、
先日、古い友人と話す機会があり、
あの時のことをまざまざと思い出してしまいました。
文章にすることで少し客観的になれ、
恐怖を忘れられると思いますので、ここに綴ります。
私たち(A・B・C・D・私)は皆、家業を継ぐことになっていて、
高校受験組を横目に暇を持て余していました。
学校側も、私たちがサボったりするのは
受験組の邪魔にならなくていい、と考えていたようで、
体育祭が終わった以降は朝学校に出て来さえすれば、
抜け出しても滅多に怒られることはありませんでした。
ある日、
AとBが近所の屋敷の話を聞いてきました。
改築したばかりの家なのに、持ち主が首を吊って自殺し、
一家は離散。
今は空き家になっているというのです。
サボった後のたまり場の確保に苦労していた私たちは、
そこなら酒やタバコが思う存分できると考え、
翌日すぐに昼から学校を抜けて行きました。
外から様子のわからないような、とても立派なお屋敷で、
こんなところに入っていいのか、少しビビりましたが、
AとBの二人は「大丈夫!」を連発しながら、
どんどん中に入って行きます。
既に調べを付けていたのか、勝手口が開いていました。
書斎のようなところに入り、窓から顔を出さないようにして、
コソコソと酒盛りを始めました。
でも、大声が出せないのですぐに飽きてきて、
5人で家捜しを始めました。
すぐにCが「あれ何や」と、
今いる部屋の壁の上の方を指差しました。
壁の上部に、学校の音楽室や体育館でよく見る、
放送室のような感じの小さな窓が二つ付いているのです。
「こっちも部屋か」
よく見ると、壁のこちら側にはドアがあるが、
本棚で塞がれていました。
肩車をすると、左上の方の窓は手で開きました。
今思うと、
その窓から若干悪臭が漂っていることに、
その時は疑問を持つべきでした。
それでもその時の、
こっそり酒を飲みたいという願望には勝てず、
無理矢理に窓から部屋に入りました。
部屋にはカビやホコリと、
饐えたような臭いが漂っています。
雨漏りしているのか、じめっとしていました。
部屋は音楽室と言えるようなものではありませんでしたが、
壁には手作りで防音材のようなものが貼ってあり、
その上から壁紙が貼られていることはわかりました。
湿気で壁紙はカピカピになっていました。
部屋の中はとりたてて調度品もなく、質素な作りでしたが、
小さな机が隅に置かれており、
その上に真っ黒に塗りつぶされた写真が、
大きな枠の写真入れに入ってました。
「なんやこれ、気持ち悪い」
と言って、
Aが写真入れを手に取り、持ち上げた瞬間、
額裏から一枚の紙が落ち、その中から束になった髪の毛が
バサバサと出てきました。
紙は御札でした。
みんな、ヤバイと思って、声も出せませんでした。
顔面蒼白のAを見て、
Bが「急いで出よう」と言いながら
逃げるように窓によじ登った時、
そっち側の壁紙全部がフワッと剥がれました。
写真の裏から出てきたものと同じ御札が、
壁一面に貼ってありました。
「何やこれ・・・」
酒に弱いCはその場でウッと、反吐しそうになりました。
「やばいてやばいて」
「吐いてる場合か急げ」
よじ登るBの尻を、私とDでグイグイ押し上げました。
何がなんだか、訳がわかりませんでした。
後ろでは誰かが、
「いーーー、いーーー」
と声を出しています。
きっとAです。祟られたのです。
恐ろしくて振り返ることも出来ませんでした。
無我夢中でよじ登って、反対側の部屋に飛び降りました。
Dも出てきて、部屋側から鈍いCを引っ張り出そうとすると、
「イタッイタッ」
Cが叫びました。
「引っ張んな足!」
部屋の向こうでは、
Aらしき声がワンワン変な音で呻いています。
Cは余程すごい勢いでもがいているのか、
足でこっちの壁を蹴る音がずんずんしました。
「B!かんぬっさん連れて来い!」
後ろ向きにDが叫びました。
「なんかAに憑いとる!
裏行って神社のかんぬっさん連れて来いて!」
Bが縁側から裸足でダッシュしていき、
私たちは窓からCを引き抜きました。
「足!足!」
「痛いか?」
「痛うはないけど、なんか噛まれた」
見ると、
Cの靴下のかかとの部分は
丸ごと何かに食いつかれたように、
丸く歯形が付いて唾液で濡れています。
相変わらず中からはAの声がしますが、
怖くて私たちは窓から中を見ることが出来ませんでした。
「あいつ、俺に祟らんかなぁ」
「祟るてなんや!Aはまだ生きとるんぞ!」
「出てくる時、めちゃくちゃ蹴ってきた・・・」
『しらー!』
縁側からトレーナー姿の神主さんが、
真っ青な顔して入って来ました。
「ぬしら何か!何しよるんか!馬鹿者が!」
一緒に入って来たBはもう、
涙と鼻水でぐじょぐじょの顔になっていました。
「ええからお前らは帰れ。
こっちから出て、神社の裏から社務所入って
ヨリエさんに見てもらえ。あと、おい!」
と、いきなり私を捕まえ、
後ろ手にひねり上げられました。
後ろで何か『ザキッ』と音がしました。
「よし、行け!」
そのままドンと背中を押されて、
私たちは訳のわからないまま走りました。
それから裏の山に上がって神社の社務所に行くと、
中年の小さいおばさんが、白い服を着て待っていました。
めちゃめちゃ怒られたような気もしますが、
それから後は、逃げた安堵感でよく覚えていません。
次の日から、Aが学校に来なくなりました。
私の家の親が神社から呼ばれたことも何回かありましたが、
詳しい話は何もしてくれませんでした。
ただ、山の裏には絶対行くな、とは言われました。
私たちも、あんな恐ろしい目に遭ったので、
山など行くはずもなく、学校の中でも、
小さくなって過ごしていました。
期末試験が終わった日、
生活指導の先生から呼ばれました。
今までの積み重ねをまとめて大目玉かな、
殴られるなと覚悟して進路室に行くと、
私の他にもBとDが座っています。
神主さんも来ていました。
生活指導の先生などいません。
私が入ってくるなり、神主さんが言いました。
「あんなぁ、Cが死んだんよ」
信じられませんでした。
Cが昨日学校に来ていなかったことも、その時に知りました。
「学校さぼって、こっちに括っとるAの様子を
見に来よったんよ。
病院の見舞いじゃないとやけん、
危ないってわかりそうなもんやけどね。
裏の格子から座敷のぞいた瞬間に、
ものすごい声出して倒れよった。
駆けつけた時には白目むいて、虫の息だった」
Cが死んだのに、そんな言い方ないだろうと思って、
ちょっと口答えしそうになりましたが、
神主さんは真剣な目で、私たちの方を見ていました。
「ええか、Aはもうおらんと思え。
Cのことも絶対今から忘れろ。
アレは目が見えんけん。
自分の事を知らん奴のところには憑きには来ん。
アレのことを覚えとる奴がおったら、
何年かかってもアレはそいつのところに来る。
来たら憑かれて死ぬんぞ。
それと、後ろ髪は伸ばすなよ。
もしアレに会って逃げた時、
アレは最初に髪を引っ張るけんな」
それだけ聞かされると、
私たちは重い気持ちで進路室を出ました。
あの時、神主さんは私の伸ばしていた
後ろ毛をハサミで切ったのです。
何かのまじない程度に思っていましたが、
まじないどころではありませんでした。
帰るその足で床屋に行き、丸坊主にしてもらいました。
卒業して家業を継ぐという話は、
その時から諦めなければいけませんでした。
その後、
私たちはバラバラの県で進路につき、
絶対に顔を合わせないようにしよう、
もし会っても他人のふりをすることに
しなければなりませんでした。
私は1年遅れて隣県の高校に入ることができ、
過去を忘れて自分の生活に没頭しました。
髪は短く刈りました。
しかし、
床屋で「坊主」を頼むたび、
私は神主さんの話を思い出していました。
今日来るか、明日来るかと思いながら、
長い3年が過ぎました。
その後、さらに浪人して、
他県の大学に入ることが出来ました。
しかし、
少し気を許して盆に帰省したのがいけませんでした。
もともと私はお爺ちゃん子で、
祖父はその年の正月に亡くなっていました。
急のことだったのですが、
せめて初盆くらいは帰って来んかと、
電話で両親も言っていました。
それがいけませんでした。
駅の売店で新聞を買おうと寄ったのですが、
中学時代の彼女が売り子でした。
彼女は、私を見るなりボロボロと泣き出して、
BとDがそれぞれ死んだことを捲くし立てました。
Bは卒業後まもなく、
下宿の自室に閉じこもって首を括ったそうです。
部屋は雨戸とカーテンが閉められ、
部屋中の扉という扉を封印し、
さらに自分の髪の毛をその上から一本一本、
几帳面に貼り付けていたということでした。
鑞(金属用のロウ)で
自分の耳と瞼に封をしようとした痕があったが、
最後までそれをやらずに自害したという話でした。
Dは、17の夏に四国まで逃げたそうですが、
松山の近郊の町で、パンツ一枚でケタケタ笑いながら
歩いているのを見つかったそうです。
Dの後頭部は烏がむしったように、
髪の毛が抜かれていました。
Dの瞼は閉じるのではなく、絶対に閉じないようにと、
自らナイフで切り取ろうとした痕があったそうです。
この時ほど中学時代の人間関係を呪ったことはありません。
BとDの末路など、今の私にはどうでもいい話でした。
つまり、
アレを覚えているのは私一人しか残っていない、
と気づかされてしまったのです。
胸が強く締め付けられるような感覚で家に帰り着くと、
誰もいませんでした。
後で知ったことですが、
私の地方は忌廻しと云って、特に強い忌み事のあった家は、
本家であっても初盆を奈良の寺で行うという
風習があったのです。
私は連れて来られたのでした。
それから3日、私は39度以上の熱が続き、
実家で寝込まなければなりませんでした。
この時、私は死を覚悟しました。
仏間に布団を敷き、なるだけ白い服を着て、
水を飲みながら寝ていました。
3日目の夜明けの晩、夢にAが立ちました。
Aは骨と皮の姿になり、黒ずんでいて白目でした。
「お前一人やな」
「うん」
「お前もこっち来てくれよ」
「いやじゃ」
「Cが会いたがっとるぞ」
「いやじゃ」
「おまえ来んと、Cは毎日リンチじゃ。
逆さ吊りで口に靴下詰めて蹴り上げられよるぞ。
かわいそうやろ」
「うそつけ。地獄がそんな甘いわけないやろ」
「ははは、地獄か、地獄ちゅうのはなぁ」
そこで目を覚ましました。
自分の息の音で、喉がヒイヒイ音を立てていました。
枕元を見ると、祖父の位牌にヒビが入っていました。
私は考えました。
アレの話を私と同じように多くの人に話せば、
アレが私を探し当て、私が憑依される確率は
下がるのではないか。
ここまでの長文たいへん失礼しましたが、
大雑把な書き方では読んだ方の記憶に残らないと
思ったのです。
読んだ方には申し訳ないのですが、
犬に噛まれたとでも思ってください。
ご自分の生存確率を上げたければ、
この話を少しでも多くの方へ
伝えることをおすすめします。
2018年05月05日
神降ろし【肝試し・怖い話】
大学生になって初めての夏が近づいてきた、金曜日頃のこと。
人生の中で最もモラトリアムを
謳歌する大学生といえど障害はある。
そう前期試験だ。
これを無事にやり過ごし単位を獲得しないことには、
せっかくの夏も存分に楽しめない。
大学で出来たまだ少し距離感のある友人達(AとBとする)と、
翌週から始まるテストに備えて、
俺の部屋で試験勉強に励んでいてた時、
A「試験勉強ウゼー。飽きた。
ちょっとここらで気分転換しねぇ?」
と言い出した。
B「んじゃ、どうする?ゲームでもする?」
もう一人の友人が応える。
A「時期的にはちょっと早いけど 肝試しとか?」
B「いやw女もいなくて、 『キャー!B君コワーイ!』とか、
キャッキャウフフもないから メリットねーじゃん」
A「俺らまだ、つるみはじめてから日が浅いだろ?ここらで
友情を深めるイベントをと思ってさ」
ちょっと引き気味で、
B「お前・・・まさかガチ(ホモ的な意味で)じゃねーよな?」
A「んなわけあるかwww気分転換にはいいと思うんだけどな俺は。
実はこの近くで、 それっぽいポイントを見つけたんだ。
んで、実は昼間のうちに準備もしてきてたりするんだが」
俺「準備済みとか段取り良すぎだろw」
Bは最初嫌がってたが、目的地が
噂の心霊スポットとかじゃなくて、
チャリでいける距離にあるただの無人の神社だとわかると、
しぶしぶだが了承した。
一方、俺は怪談とかは結構好きで、肝試しにも乗り気だった。
俺は全くの零感なもんで、中学生の頃に、
地元で仲の良かった友人達と有名心霊スポットに行ってみても、
何か見たり、何かが起こったりってことは、
今まで一度もなかったから、
まぁ気楽に考えてたんだな。
目的地の神社に到着して、
A曰く、
「別に心霊スポットって訳でも無いから、
みんなでウダウダ言いながら 行って帰ってだったら、
なんの面白みも無い。
だから、ちょっとした準備をして、 ルールを決めてやろうぜ」
とのこと。
肝試しのやり方は、
1、 3人でまず神前に入りお参りして、
神様に肝試しのお断りをする。
(3人とも小心者だったので・・・)
2、 神社の裏手で、 火が燃え移る恐れの無い場所に
風除けを立てて、蝋燭 (アロマキャンドルで代用)を3本設置。
3、 神社の入り口まで戻る。
4、 一人づつ順番に 先ほどの蝋燭のところまで行き、
行ってきた証拠に蝋燭に火を灯して 帰ってくる。
5、 全員が終ったら、 全員で蝋燭の元に戻り、
火を消して蝋燭と風除けを撤去。
6、 最後に神前で、「おさわがせしました」 と御詫びして帰宅。
というもの。
じゃんけんで、B、A、俺の順番となった。
内心で最もビビってそうに見えたBが一番最初だったので、
大丈夫かとか思ってたが、目に少し恐怖の色が見えたものの、
当然のことだが、何も起こらなかった様で普通に戻ってきた。
次に行ったのがAだが、
さすが肝試しの発案者だけあって、
全く平気な様子で戻ってきた。
そして、最後の俺の番となった。
小さな神社であるため、
鳥居をくぐるとすぐに神社の拝殿が見える。
夜の神社というだけで不気味ではあるが、
この日は風もあまりなく月明かりも出ていたので、
それほど恐怖感はなかった。
拝殿を通り過ぎ、本殿に沿って裏手に回る。
俺達が設置した場所に、二つの炎が灯った蝋燭が見える。
「やっぱり何も起きないか」と、
安堵とわずかな失望が入り混じった微妙な心境で、
最後の蝋燭に火を灯した。
その後、もと来た道を戻り友人達の元に戻った。
3人揃った所で、
「やっぱり何も起きねーかー」
「でもなんやかんやで
この雰囲気はちょっと来ねぇ?」
とか無駄口を叩きながら蝋燭の元に戻って、
火の始末をして回収したが、
この時もやはり何も起こらなかった。
最後に、何も起きずに無事帰途につけることのお礼と、
「おさわがせしました」
の御詫びをして拝殿を離れた。
そして、後十数歩で鳥居というところまで戻った時だった。
背筋に氷柱を入れられたような悪寒ともに、
肌が一気に粟立つ感覚に襲われ立ちすくむ。
決して背後を振り返らないように隣を見ると、
AもBも同じものを感じたらしく立ち尽くしている。
俺「まさか・・・な」
A「おいおい、
やっぱ神様怒ってんじゃね?」
軽口を叩いてはいるものの、
その顔に余裕はなさそうだった。
A「出口の自転車のところまで 後ちょっとだし、
土産話が出来ると思って、 いっせいので振り向いてみようぜ」
B「バカいうな。こういうのは
見ない方がいいって相場が決まってる。
このまま振り向かずに、チャリ乗って帰るべきだろ」
そんな中その時の俺はというと、今ままで霊体験を
一度もしたことがなかったこともあり、
恐怖よりも好奇心が勝っていて、
俺「いやいや、 コレこそが肝試しじゃね?
これはいっとくべきだろ」
そんなこんなで、ウダウダ言ってる間にも、
背後の気配は徐々に濃密になっていく。
Bも俺とAに押され、結局全員で一斉に振り向くことに。
最初にぱっと見た限りでは、
月明かりに照らされた神社の境内には何も見えなかったが、
目を凝らしてみると、自分達と拝殿の間あたりに、
黒い水溜りのようなものが見える。
「あんなところに水溜りなんてあったけ?」
さっき通ってきた時には、
確かにそんなものはなかったはずだ。
気付くと、つい先ほどまで聞こえていた微かな葉音も止んでおり、
耳が痛いほどの静寂に包まれている。
とぷんっ
小石を川面に投げ込んだような水音が、
微かに聴こえたような気がした。
見ると、先ほどの黒い水溜りのようなものに、
波紋が広がっている。
そこからゆっくりと、
漆黒の2本の手の様な物が水溜りから突き出され、
何かが這い出そうとしているように見えた。
その時、あれは幽霊とかそんな生ぬるいものではない、
もっと禍々しい何かだと自分の直感が告げていた。
頭のようなものがぬるりと持ち上がってきたところで、
俺達は弾かれたようにその場から逃げ出した。
自転車に飛び乗り、元来た道を全力で走る。
当然後ろを振り返って確認する余裕などなかった。
3人とも這々の体で、元いた俺の部屋に転がり込んた。
部屋のドアにしっかりと施錠した後、まだ恐怖の余韻が残る中、
「なんだよアレ。 やばいやばいやばいやばい」
「俺、幽霊とか見たこと無いけど、アレは絶対やばいって。
雰囲気的に幽霊とかの レベルじゃねーよ」
沈黙が恐ろしくて、みんな口々に意味の無い事を言い合っていた。
しかし、その後しばらくたっても、神社で見た何かが追って来ている
様子がなかったので、電気を点けっぱなしにして、
ミニコンポから音楽を流しっぱなしにした状態で寝ることになった。
恐怖感からか目が冴えて全然眠れなかったが、
朝日がカーテンの隙間から差し込む頃には、
それまでの緊張感からうとうとし始めていた。
その時に夢を見た。
その時に見た夢というのが、風景も何もなく真っ暗な場所に、
肝試しに使った蝋燭が3本立っており、その内の1本に炎が灯るというもの。
目が覚めてから聞いて見ると、AとBも同じ夢を見たらしい。
全員が同じ夢を見ていた、
ということに気持ちの悪さを覚えながらも、
その日は解散となった。
その日(土曜日)の夜、再び同じ夢を見た。
暗闇に蝋燭3本が立っている。
前回と違ったのは、3本の蝋燭の2本目に炎が灯ったこと。
目が覚めてから、何かを暗示しているようで気味が悪かったが、
週明けの試験のこともあったので、あまり外出もせず勉強に励んだ。
予感していたことだが、日曜日の夜にもやはり同じ夢を見た。
今度は3本目の蝋燭に炎が灯された。
何か嫌なもの予感させる夢だったが、
試験をサボるわけにもいかず大学に出かけた。
同じ講義と試験を受ける予定だった、AとBが来ていなかった。
気になりながらも、
その日予定されていた講義と試験を無事に終え、
とりあえずAの携帯に連絡を取ってみたところ、
少し混乱をしていて要領を得なかったが、
A曰く、
「2本目の蝋燭が灯った夢を見て
目覚めた日に、神社にいたアイツが来た」
ソレに気を取られたからなのか、
何も無い階段で足を踏み外し
足を骨折して、今は病院だという。
今度はBに連絡とったところ、
Bも似たような感じで、
自転車で事故に遭い入院中とのこと。
とりあえず、二人とも生きてはいることがわかり
ホッとしたものの、
次は確実に自分の番ということに気付き、
ジワジワと恐怖感がせりあがってくる。
そんなところに突然声をかけられ、
座っていたキャンパス内のベンチから
思わず飛び上がりそうになる。
声をかけてきたのは同じ地元出身で、
幼馴染の姉である2つ年上のCさんだった。
C「なーに、しけたツラしてんの?」
俺「なんだ、Cさんですか
脅かさないでくださいよ・・・」
Cさんは知り合いを探すように、
周りをちょっとキョロキョロしながら、
C「別に脅かすつもりはって・・・うわっ!!」
C「ちょっと、D君(俺のこと) なんてモノ連れてんの」
俺「ちょっ・・連れてるって 何の話ですか?
何か視えるんですか。
ってか、Cさん視える人なんですか?
そんな話今まで一言も 言ってなかったじゃないですか」
C「ちょっと、一気に質問しないでよw」
ここで、Cさんについての説明と、
Cさんから聞いた話をまとめる。
Cさんについて。
・地元の幼馴染の姉。(長女Cさん、長男Eさん
(神道関連の某大学生)、次男F(幼馴染)の3姉弟)
・地元の神社の娘。
・昔からいろいろと 視える性質だそうだが、
わざわざ人に喋ることでも無いし、
喋ることで鬱陶しいの (そういうのが好きな人間)に、
まとわりつかれるのも嫌だから とのこと。
聞いた話。
・何か得体の知れないものが憑いてる。
(人間の霊とかで無く、良くわからんらしい)
・話を聞いた限りでは、 物理的に害を与えるというよりも、
精神に障るタイプのヤツっぽい。
・憑かれたままだと、 碌な目に遭わないはず。
下手すりゃ死ぬかも、とのこと。
その話を聞いて、今も視えるか聞いてみたら、
C「ほら、あの並木のあたり見てみ?」
と言ってCさんは、向こうに見える並木道を指差した。
俺「講義や試験を終えた学生が、
ぞろぞろ帰ってるのが 見えるだけですが・・・」
C「じゃ、メガネ外してもう一回。
歩いてる人の足元あたりに注目!」
俺「!!!!」
周りの風景や人はぼやけて見えるのに、
辛うじて人の形に見える、
漆黒のタールのようなものの上半身が、
這うような姿勢のまま静止しているのが、はっきり視える。
C「見えた?
クロウリングケイオス(crawling chaosかな?)
って感じだよねw」
俺「Cさん。実家の神社で
巫女さんとかもされてましたよね?
お払いとか出来ないんですか?」
C「無理無理w自分に変なのが
まとわり憑かないようにすることで 精一杯。
実家継ぎ損なってなけりゃ 出来たかもだけどw」
C「それにしても何したの?
普通に心霊スポットとか 行ったぐらいじゃ、
あんなの拾ってこないよ普通www」
俺「マジ笑い事じゃないですよ。
神社で肝試ししただけですよ。俺ら」
C「うーん」
何か含みのある様子で軽く唸ると、
急にCさんが俺の手を引いて腕を絡めて、
C「ま、こんなトコで立ち話もなんだし、
ちょっと飲み屋にでも行こうか?奢ったげるからさ」
このCさん。
あんまり女性っぽく無いサバサバした性格だけど、
見た目は無造作に後ろで束ねた長い黒髪で、
和装が似合いそうな美人さん。
なので、こんな話をしてる時なのに、
ドキドキしてたのは内緒だ。
C「私とくっついてたらとりあえずは大丈夫。
あと、君は結構運がいいね。
弟(長男の方)が実家の用事ついでに、
私のトコに寄る予定あるんだ。
後2時間くらいで着くはずだから、 安心して良いよ」
そう言いながら、グイグイ俺を引っ張っていく。
結局、2人で個室のある飲み屋に入り、
先ほどの話の続きをすることに。
飲み屋に腰を落ち着けて、事の経緯を説明し、
いろいろ聞いた話をまとめると以下。
(聞いた時にわからなかった言葉とかは、
後でググッて補足しています)
・Cさんではお払いが 出来ないことについて。
普通、神職自体には、霊とかその他諸々を払う力は無い。
祀ってる神様の力を借りないことには払えない。
そもそも神職は巫覡に端を発しているので、
霊を成仏させたりする坊主とは違う。
神様の力を借りるには、相応の舞台装置が必要。
つまり、神社の外では、
依り代とかがなければ大したことは出来ない。
・神社の境内は神域のはず。
なんであんなのがいるのか?
坊主の作る結界とは違い、
神社は神を降ろすための舞台装置
(神を降ろし易くすための場)にすぎない。
神域とは、舞台装置である
神社に神が降りることによって、
始めて力を発揮する。
神職や管理者がいたり、
キチンと定期的に祀られてる神社は、
神域として正しく機能しているため、
おかしなものは寄り付かない。
逆にそうでない神社は、
何か寄せるための舞台装置だけがある状態。
色々とおかしなものが集まってくるので危険。
ここまで話を聞いて、疑問に思った事を聞いてみた。
俺「なんでEさん(長男)が来たら 安心なんです?
さっきの話だと、神職自体に払う力はないんでしょ?
ましてやEさんて、今まだ在学中で、
正式な神職になって無いでしょ。
それとも、Cさんと二人で 力をあわせれば何とかなるって、
そういう話ですか?」
C「違う違う。確かに神職自体に 払う力はないってのは、
Eに関しても当てはまるんだけどね。
ただ、あの子は色々と特別な訳。
うちの神様に守られてるんだよね。
具体的な効果範囲はわからないけど、
少なくともEの視認できる範囲内には、
幽霊とかその他もろもろの、
危害を加えるものは近寄れない」
俺「それを聞いて気付いたんですけど、
もしかして、地元の心霊スポット とかで肝試しした時に、
何もおこらなかったのって・・・」
C「そう、いつもEいたでしょww」
俺「でも、なんでEさんだけ そんな特別扱いなんです?
そもそも、神様が1人だけを守ったりとかあるんです?
神社って全国各地にあって、
しかも有名な神様だと分霊でしたっけ?とかされて、
同じ神様を祀ってる神社がいっぱいあるのに」
C「んー。ちょっと長くなるけど良い?」
Cさんより聞いた話。
(特定されない程度にぼかして記載している箇所があります)
・彼女の実家の神社(A神社とする)は、
全国に同じ名前の神社がある。 つまり、総本社の分社。
・ただ、彼女の一族は、
元々は別の神社(B神社とする) を管理してきた一族。
・B神社は今もあるが、 現在その直接的な管理は、
B神社がある地域の町内会が おこなっており、
彼女の実家は、それをサポートする立場。
・B神社は決して大きくは無いが、
延喜式神名帳にも記載されていた、
それなりに歴史のある式内社。(少なくとも千年以上)
・B神社は、全国的に見ても 少し特殊な神社。
(主祭神と建築様式の2点において)
・ある神様を祀っているが、
その神様を主祭神としている神社は、
全国でB神社のみ。
・B神社は、
平安時代以降のある時代に、
戦乱だか災害だかで一度消失し、
近年に再建された歴史を持つ。
・その空白期間、彼女の一族がどうしていたかというと、
当代の神職を依巫として 祀ってる神様を降ろして、
代々引き継いできた。
(満10歳になった時に、
次代の神職を確定させるために、神降ろしの儀式があり、
その後は、当代と次代の間で取り決めたタイミングで、
もう一度神降ろしをして、世代交代を行う。
世代交代の時期が決まってないのは、
儀式的なしきたりよりも、
確実に引き継ぐことを重視したためだと思うとの事)
・一方、彼女の一族がそうまでして
その神様への信仰を守ったのは、
B神社のある地域一帯に、
物凄く強力な力を持った何かがいて、
(人間とって都合の悪い
神様レベルのものなのかもとはCさんの推測)
それを封じる役割を、
その神様が担っていたからとのこと。
・神社が再建されたのは、
表向きには神仏分離令が出た後に、
その地域にも由緒正しい神社があったことがわかり、
これはぜひ再建するべきとの機運があったため、とのことだが、
その地域の鎮守として、
B神社がなかった空白期間が 長かったため、
定期的に彼女の一族が封じるための儀式を
行ってきたけれども、 それでは抑えきれず、
封じてた何かの悪影響が
出るようになっていたから、とのこと。
・それをあらわす証拠が、
再建された時の 建築様式に現れており、
いくら由緒正しいとは言え、
田舎の小さな一神社には ありえない特徴があり、
その再建した時代に、その神社が
重要視されていたことがわかる。
・再建後は、B神社は 鎮守としてきちんと祀られ、
(収穫祭ではあるが秋祭りもある)
定期的にその神社で 儀式を行っているため、
その何かは封じられていると事。
以上のような経緯で、
Eさんは神様の一部を常時降ろしているような状態で、
強力に守護されている。
そのためEさんの周りは、
Eさん自身の体を舞台装置(依巫)とした、
一種の神域のようなものになっているとのこと。
よってEさんにとっては、
俺に憑いている程度のものを払うのは
大したことでは無い、という訳だそう。
場合によっては、
Eさんがこの飲み屋に着いただけで、
憑いていたものは消滅してるかも、
とCさんは笑っていた。
それを実感するエピソードとしては、
Cさんが小学生の頃、
弟が神降ろしの儀式を行った
(弟が次代に確定した)翌日から、
今まで通っていた小学校で
視えていたいろんなものが、
それ以降、全く見えなくなった事を
挙げていた。
Cさんが中学生になった後、
一年後に弟が中学校に通いだした時にも、
同じことが起こり確信したという。
そんな話をしているうちに、
Eさんが飲み屋にやってきた。
Cさんから話を聞いた後だったが、
1年ぶりにあったEさんは、
俺には普通の今時のイケメン兄ちゃんに見えた。
E「久しぶり。
姉さんから電話で聞いたけど、
なるほど、ちょっと『障られて』るね」
そう言うとEさんは、
俺の頭を軽くポンっと叩いて、
E「よし。これで大丈夫」
俺「へ!?もう終わりですか?
もっとこう、祝詞的なものとかは
必要ないんですか?」
(寺生まれのTさんの
『ハァー!!』みたいな、
気合的なものとかもなかった。
本当に軽くポンと頭を触られただけ・・・)
E「ないないwこれでOKだから」
C「うん。頭から伸びてた
紐みたいなのがもう視えないから、 大丈夫」
物凄く拍子抜けしたが、
その後3人で飲んでにうちに帰って寝たが、
例の夢はもう見なかった。
(翌日、入院しているAとBについても、
Eさんに払ってもらった)
AとBが怪我したものの、
最終的にみんな無事だったのでよかった。
得られた教訓としては、
無人の神社には近づくなって事。
で、水溜まりから出て来たヘドロ人間は、
一体何だったんだ?
動物の霊とかか?