雑多ブログ（上海赴任のぼやき）

ムームーサーバー



夕方の公園は、静かな黄昏の空気に包まれていた。涼しい風が木々の間を抜け、落ち葉がカサカサと音を立てる。公園のベンチに座る直哉（なおや）は、手元のノートを見つめてため息をついた。

「また失敗か…」彼は小声で呟きながら、もう一度今日のスケッチを眺めた。何度描いても、彼の頭の中にある完璧なイメージには到底及ばなかった。

「何度やっても同じだ。才能がないんだろうか…」直哉は自嘲気味に笑った。子供の頃から絵を描くのが好きだった彼は、美術大学に進学することを夢見ていた。しかし、現実は厳しく、何度も挑戦した入学試験に落ち続けていた。

そんな時、彼の隣に一人の老人が座った。白髪交じりの髪に、深いシワが刻まれた顔。老人は穏やかな微笑みを浮かべながら、直哉のスケッチに目をやった。

「おや、なかなか上手じゃないか。」老人の声は温かく、どこか懐かしい響きがあった。

「…ありがとうございます。でも、僕には才能がないんです。」直哉は視線を落とし、絵を見せたことを少し後悔した。

老人は首を振り、「そんなことはないさ。君の絵には、確かに努力と情熱が込められている。それが一番大切なことだよ。」

「でも、何度やっても結果が出なくて…。もう諦めようかと思っているんです。」

老人は静かに微笑み、遠くの夕焼けを見つめた。「昔、私も同じような経験をしたことがある。何度も挑戦して、何度も失敗した。でも、ある時気づいたんだ。どんなに小さな一歩でも、前に進むことが大切なんだと。」

直哉はその言葉に驚き、老人の顔を見た。「どういう意味ですか？」

「大きな成功は、一朝一夕には成し遂げられない。少しずつでも、毎日続けることが大切なんだ。たとえ小さな進歩でも、それは確実に君をゴールに近づける。」老人の目は、遠い過去を見つめるように優しかった。

その言葉に直哉は胸を打たれた。諦めかけていた自分が恥ずかしくなった。彼は深く息を吸い込み、心の中に小さな決意を固めた。

「ありがとうございます。もう一度頑張ってみます。」

老人は満足そうに頷き、「そうだ、君ならできるよ。」と言って、ベンチから立ち上がった。

その夜、直哉はいつもより長くスケッチに取り組んだ。たとえ完成しなくても、少しでも前進できるように。一歩一歩を大切にすることを忘れずに。

それから数ヶ月後、直哉は再び美術大学の入学試験に挑んだ。結果は見事合格。彼の顔には、自信と喜びが溢れていた。

あの日の公園で出会った老人の言葉が、直哉の心に深く刻まれていた。どんなに小さな一歩でも、前に進むことが大切だと。そして、その小さな一歩が、彼の人生を大きく変えたのだった。

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