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2017年12月07日

闇の雄叫び 15 (潰えた選択肢)






訪問医療の主治医に精神病院宛の紹介状を書いて貰ったのは、父を施設から自宅に連れ帰ってから僅か1ヶ月ほどのことだった。
いわば、我が家は1ヶ月で父の介護に根を上げたことになる。
もっと詳しく述べれば、日々、そして夜毎発せられる父の雄叫びや悲鳴に耐えられなくなってのことだった。
例えるならそれは、テレビのサスペンスドラマ等でよく目にする殺人シーンの、崖やビルから突き落とされた被害者が発する断末魔の叫び声を想像して貰えれば分かり易いと思うが、その叫びが耳をつんざく程の大音量で断続的に繰り返されるのである。いったい何十回、何百回、崖から、ビルから落ちるのだと、呆れるどころか深刻な恐怖すら覚える始末となる。
当然のことながら、夜間は睡眠不足というより殆ど眠れない。
近所迷惑を考えると、雄叫びが始まったらどうにかしてでも宥めたり制するしかなく、だがそれをしたからといって、必ずしも直ぐに大人しくなる訳でもない。
よって、単に当事者家族だけが耳栓をして眠ってしまえばそれで済むという問題ではなくなるのだ。
それが夜毎繰り返される。
”根競べ”などという何処か将来性や解決性のある次元ではなく、ただそれをするしかない状況にひたすらに追い込まれての義務的作業を繰り返すだけなのである。そこでは殺意さえ覚えることになり、この口さえ塞げば、この口さえ塞げば、この口さえ塞げば楽になるのにと、出来よう筈もない妄想を抱き恐れおののくことになる。



(いつもいつも、どうしてお前という男はこうなんだ!)

(俺だって明日仕事があるんだ、いい加減、眠らせてくれ!!)

(どれだけお前のせいで振り回され、世間に頭を下げ、とことん散財してきたと思ってるんだ!)

(それともこれは、何かの試練なのか!!)

(何かの罰なのか!!)

(俺やお袋が、お前にいったいどんな仕打ちをしたと言うのだ!!)

(何かの仕返しなのか!?)

(何が気に入らなくて、毎日毎日こうも夜通し騒ぐんだ!!)

(頼む、いい加減、眠ってくれよ・・・)

(俺だって眠りたいんだ・・・)

(頼む・・・)

(マジ殺すぞ・・・)



認知症患者に何を思っても仕方がないのは判っていたが、抑えようのない感情が日夜噴出するだけだった。
そんな困窮しきった後先に辿り着いたのが、精神病院という最終的な選択肢だった。
もう、どうにもこうにも、それに縋るしかなかなく、ただぐっすり眠ってみたかったのである。

そんな最中での精神病院との入院面談は、我が家にとって、俄かに希望をもたらすものだったといえよう。
そこではどんなに暴れようが、どんなに大声で叫ぼうが、全く問題ありませんという病院側の受け入れ姿勢に、我が家はどれほど救われることになったか計り知れない。
さらには、費用の面でも認知症特化型の老人ホームに居た頃と比べると約1/3程度となり、諸々の経費を合わせても月額合計10万円前後とのことだった。



(これなら家計をギリギリ遣り繰りすれば、何とかやっていけるかもしれない・・・)

(会社辞めなくて、済むかもしれない・・・)



精神病院に入院する当事者の現実というものを、管理人は知りもしなければ、あまり知りたいとも思わなかった。ただ、精神病院側から言われることになった、「入院後の患者の扱いについては、すべてこちらに任せてもらう」との言葉からは、他の病院や老人施設とは一線を画した別次元の扱いが生じる場合もあるのだろうと察することも出来た。
具体的にそれはどういう扱いなのか計り知ることは出来なかったが、既に我が家自体がどうしようもない次元まで来ていたのが現実である。なので、あとの一切合切を、精神病院に丸投げするしかなかったのである。



(とうとう俺は、親を精神病院送りにするのだな・・・)



つい1ヶ月ほど前、老人施設で危篤状態になった父を哀れに思い、急遽自宅に連れ戻した筈だったのが、今またこうして、今度は精神病院に送ろうとしている自分とは、息子とは、いったい何なのかと自問し呆れ自嘲する。
自分の親の面倒くらい、どうして子として看られなかったのかと、その不甲斐無さや無能さ、そして脆弱さに嫌気を覚え、自身を呪いたい程の衝動に駆られ落ちる。

自分の親の面倒を看るということは、こうも悲劇的で壊滅的なことの繰り返しなのかと、その現実にのた打ち回り、これまで都度自身が決断してきたことを振り返り、そこに垂れ流してきた結果の遣り切れなさに一人闇に呑まれ苛まれる。
これが親を看るという現実であり、看られなくなった現実なのだと。

だが、どう思おうが、結局はどうすることも出来なくなったというのが本当の現実である。
自分を自嘲しようが呪おうが、手も足も出せなくなったのが真実なのだ。



(親の介護とは、不毛以外の何者でもないのか・・・)



そう、改めて悟ることになる。





主治医からの紹介状を携え精神病院を訪れた日、そこで意外な現実を知らされる。
それは、父が若い頃から持っていた循環器系の疾患に対する懸念だった。



「当院では、入院患者さんがどんなに暴れようが、大声を上げようが、それは一向に構わないのですが、この疾患がある以上、受け入れは無理です」



そこが、残された最後の受け入れ先でもあった。
ただ愕然とし、何処までも呆然とするしかなかった。
この病院こそ、どんな粗暴な者でも受け入れてくれるのだと信じ、藁にも縋る思いで辿り着いた筈だったのが、父が兼ねてから持ち合わせていた一つの持病により、それは唐突に潰える事となる。

親に対する様々な思案や罪悪感らしきを払拭しきれないまま、それでもどうにかこうにか決断した筈だった事案は、そこであっさりと差し戻され、父が自宅を離れ入院するということは完全に無くなった。
これが父という男なのだと、その日で何度思い知らされたことになっただろうか。



(親父よ・・・ 結局お前という男は、とことんまで、俺を、我が家を、潰す気なんだな・・・)



以前から、時折不意に思い浮かんでは掻き消していた映像が脳裏に浮かぶ。
それは、介護で手が回らなくなって会社を辞め、やがて生活自体に行き詰ってガソリンを浴び、家もろとも火を放つ自身の絵ヅラというものだった。
父はそんな息子の脳裏を知ってか知らずか、その日も、次の日も、また次の日も、大声で喚き散らし、雄叫び続けるだけである。


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posted by ココカラ at 01:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 介護
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