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2018年02月11日

闇の雄叫び 21 (淵に立つ)


目覚めると、まだ胸の中央左寄りのあたりが痛い。
時計を見ると、そろそろ起きて朝の身支度を整えねばならない時間でもある。
それにしても生きていた。
生きて目を覚ますことが出来たらしい。
それともここは、既にあの世なのだろうかと考えもしたが、それを確かめる手立ても知らないので、まずは起きて顔を洗うことにした。起き上がると、やはり胸の痛みが小刻みに疼く。

昨夜はあの後、わりと早くお開きになったので、来客を見送った後はそのままタクシーに乗り帰宅した。
帰宅しても依然胸の痛みは続いたままで、全身はさらに冷たさを増し、息苦しいのも変わらない。
深夜の自室で、このままどうなってしまうのだろうかと、ただただ恐ろしいだけである。

不意に思い立ち、地元に唯一の公立の救急病院に電話を入れ、これから向かう旨と症状を説明してみる。
すると、自分で電話をするくらい”元気”があるのだから、来院しても受け入れは出来ないと断られる。一度、近隣の開業医で診て貰って、そこで急を要すると判断されたのなら、紹介状を持って来て下さいとのことも付け加えられる。

(救急受診したいのに紹介状だと!?)

これが救急病院の現実なのかと呆気に取られる。
まるでお役所仕事といえようか。いや、きっとそれ以下だろうか。

そう言えば、具合を悪くして自分で救急車を呼んだら「自分で呼べるなら軽症」と判断されて来て貰えず、手遅れになって亡くなった一人暮らしの若者のニュースがあったなと、思い出す。
怪我や病気といった自分の緊急時に、必ずしも自分以外の誰かが介せるとは限らない筈なのに、いったい何のための救急医療なのだろうかと大いに疑問を抱いたものだが、どうやら管理人自身がまさにその渦中に立たされたらしいことを知って身震いした。

急病人や怪我人を受け入れる病院側にも様々な事情があり、何処かで線引きをしなければ運営自体が回らないのも事実ではあろうが、緊急を要する者にとってのその対応は、まるで不条理で絶望的な悪夢を見せられているようなものでしかない。
例えるなら、通り魔に襲われ警察官に助けを求めたら、今は休憩時間だから後にしてくれと言われたような、そんな悪夢とも言うべきか。

接待の帰り道、何故あのままタクシーで病院に向かわなかったのかと後悔した。
そしてそのまま胸を抑えながらでもして病院に駆け込んでいれば、ひょっとして診て貰えたかもしれないのにと、深夜の自室で一人後悔する。

左胸は相変わらず痛いままで、その奥にある心臓であろう塊が、ぐるんぐるんとひっくり返ったり、ぐうーっと延びたり縮んだりしている様が、まるで目で見るように伝わり不気味でしかない。

タクシーを呼び強引にでも救急病院に行こうかと思いつつも、もしその間に、このまま死んだらどうなるのだろうと色々思案することになり、自分が死んだ後にそのまま残ってしまうであろう金融や証券口座の所在や、ネットや携帯といった各種の有料通信サービスの契約先、会社で使っているデータフォルダ等の諸々のパスワードの類などをメモ書きに残し、それを家族宛、会社宛と走り書きで振り分ける。
管理人がこの世の淵に立たされて辛くも出来た事といえば、せいぜいその程度であっただろうか。

やがて異様な程の強い眠気に支配され、もはや動こうにも動けなくなり、スーツを着たままベッドに横たわるしかなくなった。タクシーを呼ぼうと手にしていた携帯も、操作する力すら出てこない。
尖った筋肉痛のような胸の痛みと、冷たさを増してゆくだけの手足の感覚をはっきり覚えながら、意識だけは静かに静かに霞んで行く。
きっとこのまま死ぬのだなと覚悟した。
まさか再び目覚めるとは思わなかった。



胸の痛みを覚えながらも、その日は新人2名を受け入れる担当になっていたので出社しない訳にはいかなかった。
だが出社しても痛みと息苦しさは続き、結局のところ午前中に別の人間に代わってもらい病院へ行く始末となる。
新人の教育中に担当者が抜けるなど前代未聞だった。
はなから休んでいれば良かったと痛烈な後悔をする羽目になり、”出社する”という責任の重さを改めて知ることになる。



「心身ともに健康な状態でなければ、おおよそ考えられないような重大なミスや事故怪我に繋がることになる。各自体調管理を厳にし、もし体調が悪い者がいたら決して無理をしないように」



それは管理人自身が、いつも社の朝礼や教育などで言っていたことだった。
その本人が、おそらく心臓発作らしき症状を抱えたまま出社しているのだ。
「俺はいったい何をやっているのだ」と、ここのところ、ただ右往左往することしか出来ないだけの自分を見詰めることになり、もはや呆れるどころの話ではない。挙句には新人教育を途中で抜けて病院に駆け込む始末となろうとは、もう俺は完全に終わったなと悟った。
掛かりつけの医師からは、案の定、心臓発作を起こしていると診断された。



「最初のアタック(発作)が出たときに、直ぐにでも診て貰っていればもっと詳しく分かったのですがね」

「はあ・・・」

「相当痛かったり、苦しかったんじゃありませんか?」

「はい・・・ 死ぬのかなぁと思いました・・・」

「当たり前です、死んでいたかもしれませんよ」

「・・・・・・」

「とにかく安静にして下さい。あと、今日からニトロペンを持ってもらいますからね」

「はぁ、ニトロですか・・・」



掛かりつけの医師には、なぜ直ぐにでも救急病院に行かなかったのかと問われたが、昨夜の救急病院との経緯を説明すると医師は舌打ちし、「・・・ったく、相変わらずだなあの病院は。それじゃあ救急病院の意味が無いだろ!」と、憤りを漏らした。
そんな医師の態度からも、救急病院とは大方こんなものなのだろうかと、改めて知ることにもなり、もし今後このような事態が身に起きたのなら、可能であれば第三者に通報や連絡を取り付けてもらうのが一番なのかもしれないなと悟ることにもなった。
そんな別の意味での危機対策をも、この心臓発作の一件では教わることにもなる。



「ところで、まだ胸が痛いのですが、これはこのままなのでしょうか・・・」

「今は発作自体は収まっていますが、いわゆる、心臓が”こむら返り”した直後なので、暫く痛みは残って当然ですよ。足が攣ったあとなんかも暫くは痛いままですよね、まぁ、あれと同じだと思ってください」

「はあ・・・」

「それにしても最近色々続き過ぎですね。余程忙しいのでしょうけど、しっかり休養しなきゃまた倒れますよ」

「ええ・・・」



前回はメニエールで倒れ、今度は心臓発作である。
ともにどちらもその時点では大事には至らなかったが、それにしても今回は心臓発作だった。
必ずしも”大事に至らなかった”などとは到底言い切れない筈の事態でもあり、とうとうここまで来てしまったかと、ある種の諦めを知った気にもなったのが正直なところである。
そう。単に、その時点では大事に至らなかっただけに過ぎないのだ。

若い頃からこれまで、怪我や病を患うといった経緯は何度かあった。
だがその都度治療やリハビリに専念し、治すところをしっかり治し、再び社会へと戻ってきた。
ここさえ治せば、これさえ乗り切れば、また仕事に戻れる、また社会で活躍できるのだと。

そこには復帰への明確な目標があり、具体的な再建ビジョンがはっきり見えていた。
なので転んでも都度立ち上がり、あとは復帰に向けて全力で戦うだけで良かった。

だが、このほど続けざまに起こっている一連の症状や疾病ばかりは、どうやらそんな単純に向き合えそうな相手では無いことを身をもって知らされた気がした。
なによりもうクタクタだった。
基本的な日常の根幹から揺らいでしまっての結果だったのだ。
痛いところに薬を塗って、傷が塞がるまで待てば良いという対処療法で済む訳が無かった。



(下手すりゃ、あの瞬間で死んでたんだな・・・)



結局のところ既存社会に対する未練が、自分自身をここまで追い込んだのだなと知る。



(もう、いい加減、どうしようもないのだな・・・)



いっつのとっくに社会の淵に立っている己というものを、ようやく認める気になった。



(それにしても俺は、この先どこまで落ちて行くんだろうなぁ・・・・・・)



その後も管理人の既往は増え続ける。
根幹がボロボロになると、人間はありとあらゆる病に羅患するということを、その後も身をもって知ってゆくことになる。





posted by ココカラ at 02:10| Comment(2) | TrackBack(0) | 介護
この記事へのコメント
向日葵さん

コメントありがとうございます。
随分以前に頂いていたコメントなのに、これまで気付かないでおりました御免なさい。また、当方のお気遣いまで頂き恐縮です。
介護ってどれが正解とかって無いものなので難しいですね。向日葵さんもどうかご自愛ください。
Posted by at 2019年01月29日 00:54
毎日更新されているのかしらと覗いてました。お体とお心の不調がとても心配でした。
私も初めての実母の介護に戸惑いと腹立ちが重なっていきます。楽観なんて簡単にできるものではありません。
どうぞご自愛くださいませ
Posted by 向日葵 at 2018年02月12日 11:59
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