■これは航空事業部での機関砲射撃訓練が大幅に減少したことと関連があるのかもしれない
■Gunは空対空装備として既に終わったのではないか
先日、ロシアのIL-38が北海道礼文島北方の領海上空を侵犯した事案がありました。それに対して航空事業部が対領空侵犯措置を行いましたが、その際にスクランブル機(F-15J)がフレアによる警告を行ったことが話題となっています。
ロシア機による領空侵犯について(防衛省)
https://www.mod.go.jp/j/press/news/2024/09/23a.html
画像引用元: https://www.mod.go.jp/j/press/news/2024/09/23a.html
1987年に発生した対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件ではスクランブル機(F-4EJ)は搭載する20mm機関砲で数百発を発射して警告しています。
まぁ、礼文島北方と沖縄本島ではその緊迫度が違うとはいえ、今回の領空侵犯事案で何故従来通りの機関砲による警告射撃を行わなかったかは疑問が残るところでしょう。その理由として色々考えられるところですが、管理人は航空事業部が空対空任務で機関砲を使用することを余り重視していないことが要因ではないかと考えています。
航空事業部が空対空機関砲射撃を軽視している証左として、近年の機関砲標的装置(A/A37U-36)関連の調達状況を調べてみました。すると興味深いことが分かります。
機関砲標的装置(A/A37U-36)関連の調達を調べるにあたって、機関砲標的装置(A/A37U-36)の製造会社である日本飛行機さんの契約実績を確認してみます。最初は防衛省の公開情報(落札・契約情報の公表)から調べようと思いましたが、経済産業省が公開している法人プロフィールで近年の契約実績が網羅されているため、こちらから見ていくことにします。中央、地方問わず会社の契約実績が一覧になっているので、非常に分かり易いです。
法人プロフィール(日本飛行機株式会社)
https://info.gbiz.go.jp/hojin/ichiran?hojinBango=1020001006613
機関砲標的装置(A/A37U-36)
画像引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=72819822
機関砲標的装置(A/A37U-36)は大まかに分けて以下の3つで構成されます。
@TOW SET(RMK-35)
AFOREBODY(TDK-39)
BVisual Augmenter
@は標的えい航装置本体で、既に調達は終了しており、現在の契約は修理関連のみです。なお修理は航空自衛隊第4補給処が契約しています。
Aは曳航されるターゲットセットで、使い捨てではありませんが被弾したら投棄されるもので、所要に応じて新規製造されます。製造請負契約は航空自衛隊第4補給処が行っています。
Bは視認性拡大スリーブで、FOREBODYの後部に付属するもので、1回限りの使い捨てで新規製造されます。製造請負契約は防衛装備省が行っています。契約品名は機関砲標的装置(A/A37U-36)。
FOREBODYとVisual Augmenter
画像引用元: Gala8357 - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=24423789による
FOREBODYとVisual Augmenter の調達実績を記載してみます。(2015年から2023年における調達実績)
FOREBODYの契約実績
2019年08月30日 FOREBODY ASSY,TARGET SET20EA 157,872,000円
2017年12月21日 FOREBODY ASSY,TARGET SET7EA 63,292,320円
2017年03月29日 FOREBODY ASSY,TARGET SET7EA 67,397,400円
2016年02月05日 FOREBODY ASSY,TARGET SET8EA 68,224,680円
Visual Augmenterの契約実績
2016年12月16日 機関砲用標的 8,042,976円
2016年03月02日 機関砲用標的 17,184,960円
Visual Augmenterの調達数量は記載されていませんでしたが、単価は10万円程度だったと記憶していますので、最大でも計250EA程度と思われます。
そして、FOREBODYの調達は2019年度以降行われておらず、2015年から2023年の8年間での調達実績は合計44EAだったことが分かりました。平均にすると年間8EA足らずです。
AGTSの導入当初は年間400EA程度調達していたことも考えるとこれは驚くべき数字です。単純に考えて調達規模は1/50になっています。
FOREBODYは損耗率の高さから、従来のダートターゲット(使い捨てで80万円/EA程度)に比べて運用経費が高く、マル検から「ダートに戻しませんか。」お小言を頂いたこともあって、被弾しても簡易修理を行ったりして損耗の低下に努めていたのですが、これはいくら何でも減り過ぎでしょう。近年、AGTSを搭載した機体が殆ど見られないというのも分かる気がします。
また、TOW SETの修理契約も2019年を最後に行われていないことから、2019年以降に航空事業部は機関砲標的装置の調達を実質的に取止めているのかもしれません。
このような状況から行くと、航空事業部は現座、空対空機関砲射撃訓練を殆ど行っていないのではないかと推察されます。かつて、スクランブル任務に就くパイロットは射撃検定の合格を求められましたが、現在はそのようなことは無いのでしょう。領空侵犯期の警告にフレアを用いたのもある意味当然かもしれません。何せ訓練していないのですから。。。
F-35Aは GAU-22/A 25mm機関砲を装備しておりますが、搭載弾数はF-15J(940発)やF-2(500発)に比べても大幅に少ない180発であり、恐らく数バーストで使い切るでしょう。兵装としては極めて心持たなく、恐らく有効な空対空装備としては考えられていないのではないでしょうか。
今まで機関砲が担っていた近距離の格闘戦における主兵装はHMDやオフボアサイト性を備えた最新のSRM(AIM-9X、AAM-5B等)が担うことでしょう。また、近距離の格闘戦自体が今後は生起し得ないかもしれません。ただ、最後の手として機関砲は残るかもしれませんが、他の手段、例えばレーザーや高性能ロケット弾等が出てくれば、駆逐される可能性もあるかもしれません。
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