新規記事の投稿を行うことで、非表示にすることが可能です。
2018年10月12日
『羽化のとき』 第三話 30歳のヴァージン
「羽化のとき」 第三話
登場人物
安田花(30) 脚本家
神谷勲(27) 監督
天見成実(50) 占い師
黒沢明雄(45) プロデューサー
医師(40)
盲目の少年(16)
美容師
店員A
店員B
エステティシャン
ウェイター
若い夫婦
フランス人のカップル
○パスタ屋・外観(夜)
○同・中(夜)
黒沢と花がパスタを食べている。
ワインも飲んでいる。
黒沢「花ちゃんて、彼氏いるの?」
花「今はいません」
黒沢「誰か紹介しようか?」
花「ぜひ、お願いします!黒沢さんはご結婚されてるんですか?」
黒沢「うん。子供もいる」
花「いいですね、お幸せで」
○道路(夜)
花と黒沢が歩いている。
花「今日はどうもありがとうございました。
ほんと、美味しかったです」
黒沢「俺と、付き合わない?」
花「へ?」
黒沢「俺と不倫しない?」
花は立ち止まる。
花「え、だって……」
黒沢「関係ないよ」
花「意味わかんない」
黒沢「だめ、かな?」
花「ダメに決まってんでしょ!」
花は早歩きで立ち去ろうとする。
黒沢「寂しいんだろ?」
花は駆け出す。
○踏切(夜)
踏切が閉まっている。
花がぼーっと立っている。
花は泣き出す。
電車が通る。
電車が通り過ぎる。
と、神谷がいる。神谷は自転車に乗っている。
神谷「なんで泣いてんの?」
花「なんでもありません」
神谷「振られたの?」
花「振られたんじゃなくて振ったの!」
神谷「余裕じゃん」
花「余裕なんてないよ!もう崖っぷち。おっこちそう。てか、落ちてる」
神谷は笑って、
神谷「あんたみたいな女のこと“こじらせ女子”っていうんだ」
花「なによ、“こじらせ女子”って?」
神谷「自意識は高いけど、行動が伴わないってこと。せっかくモテてるのに決められないから運を逃してる」
花「わるかったわね」
神谷「脚本よろしく」
神谷、去ろうとする。
花「今日はそんな気分じゃない」
神谷「ほら、そうやってこじらせてる」
花「どうやったら変われるの?」
神谷「自分の頭で考えろ」
花「?」
神谷「頭いいんだからさ」
神谷はいってしまう。
花は取り残される。
○図書館・外観
○同・中
本を選んでいる花。
本を10冊借りる花。
○花の部屋
メモを取りながら本を読んでいる花。
パソコンに向かう花。
だんだん日が暮れていく。
○エステ・外観
○同・中
エステ中の花。
エステティシャンが花の顔をマッサージしている。
花、右手で左胸を触る。
エステティシャン「どうかされましたか?」
花「いえ、なんでも」
○関東ブレストセンター・外観
○同・前
花が立っている。
花は立ち去る。
○水島ビル・101号室・中
成実が座っている。
花がきて、
花「こんにちは」
成実「ずいぶん変わりましたね」
花「そうですか?」
花、笑顔。
成実「お墓参りはしていますか?」
花「はい。言われた通りに」
成実「年上の男性はとはどうですか?」
花「ぜんぜんいい人じゃなかったんでやめました」
成実「やめた?」
花「年下はダメなんですか?」
成実「やめた方がいいでしょう」
花「どうしてですか?」
成実「続きませんよ」
花「どうしてわかるんですか?会ったこともないのに」
成実「星は全てを知っているのです」
花「あなたは結婚していますか?」
成実「していました」
花「えっ?てことは、離婚されたんですか?」
成実「ええ」
花「いま、幸せですか?」
成実「私のことはどうでもいい」
花「どうでもよくありません!自分が幸せじゃないのに、他人の幸せを占えますか?」
成実「あなた、めんどくさいですね」
花「自分でもそう思います」
花は溜息をつく。
成実も溜息をつく。
つづく
※この物語はフィクションです。
齋藤なつ
2018年10月11日
『羽化のとき』 第二話 30歳のヴァージン
「羽化のとき」 第二話
登場人物
安田花(30) 脚本家
神谷勲(27) 監督
天見成実(50) 占い師
黒沢明雄(45) プロデューサー
医師(40)
盲目の少年(16)
美容師
店員A
店員B
エステティシャン
ウェイター
若い夫婦
フランス人のカップル
○美容院・外観
○同・中
花が入ってくる。
受付に美容師がいる。
美容師「いらっしゃいませ」
花「このお店で一番上手な人、お願いします」
○デパート・全景
○同・化粧品売り場
店員Aが鏡を拭いている。
花がきて、
花「お手入れ、お願いします」
店員A「か、かしこまりました」
○同・洋服売り場
花がショーウインドーに飾られている服を見ている。
店員Bが近づいてくる。
花「この服ください」
○墓地・全景
○同・安田家の墓・前
花がお墓の前で祈っている。
白い蝶が飛んでいる。
花が蝶に気付く。
蝶がもう一匹飛んでくる。
戯れる蝶二匹。
蝶たちを見ている花。
蝶たちはいってしまう。
立ち尽くす花。
○「水島ビル」・101号室・中
成実と花が水晶玉を挟んで話している。
成実「ちょっと感じ変わりましたね」
花「そうですか?」
花は髪を少し触る。
成実「最近、男性と知り合いませんでしたか?」
花「一応、知り合いましたけど、仕事でですよ」
成実「年上ですか?年下ですか?」
花「両方です」
成実「ほう。では、どちらが可能性が高いかみてみましょう」
花は固唾を飲んで水晶玉を見守る。
成実「年上ですね」
花「え?」
成実「年上の男性と上手くいくと出ています」
花「既婚者かもしれません」
成実「アタックしてみてください」
花「でも」
成実はタロットカードを扱っている。
カードを並べて、
成実「この人を逃すと、あと5年は現れませんよ」
花「5年も?35歳になっちゃう!」
成実「お付き合いするべきです」
花「向こうがどう思っているかわからないし」
成実「結婚、したいのですよね?」
花「はい」
成実「だったらもっと積極的にアピールしないと。あなたが変わらないと、どんな男性と出会っても無駄です」
花は腕時計を触っている。
○花の部屋(夜)
花がパソコンに向かって調べている。
画面は乳がんに関するサイト。
花は浮かない顔で見ている。
右手で左胸を触っている。
○喫茶店「オリジナル」・中
花、神谷、黒沢が打ち合わせしている。
花は前よりお洒落になっている。
花「主人公のキャラクターをスーパーネガティブからスーパーポジティブに変化させます。
困り顔の守ってあげたい女子という一面と友人から恋人を奪う強か女子という二面性を持たせます。
カセとしては、主人公は、乳がんということにして、余命半年とします」
黒沢「なんで乳がんなの?」
花「東京では20人に一人が乳がんらしくて、
私の周りでも結構いるんですよね。身近で怖い病気ということで」
黒沢「主人公死んじゃうの?」
花「いいえ、死にません。乳がんを克服します」
黒沢「もしかして、安田さんのことだったりして」
花「それはないです」
黒沢「監督、どう?」
神谷「前よりいいと思うけど、アイデアが足りない気がする」
黒沢「そうだよ、俺もそう思ってた」
花「アイデア」
神谷「彼氏もがんてことにするとか。二人は病院で出会うんだ。テーマは死と愛」
花「重いですね」
黒沢「そうだよ、重いよ」
神谷「なのにラブコメ」
花「えー、ハードル高い!」
神谷「がんばれ」
神谷はクリームソーダを飲み干す。
黒沢「じゃ、そゆことで」
花「努力してみます」
花はノートに書き込む。
黒沢「そだ、花ちゃん、ものすごくパスタのうまい店見つけたんだけど、いかない?」
花「パスタ?」
神谷は鼻で笑っている。
黒沢「おごるからさ」
花「はあ」
花、神谷をにらむ。
つづく
※この物語はフィクションです。
齋藤なつ
タグ:シナリオ コンクール用
2018年10月10日
『羽化のとき』 第一話 30歳のヴァージン
『羽化のとき』 第一話
登場人物
安田花(30) 脚本家
神谷勲(27) 監督
天見成実(50) 占い師
黒沢明雄(45) プロデューサー
医師(40)
盲目の少年(16)
美容師
店員A
店員B
エステティシャン
ウェイター
若い夫婦
フランス人のカップル
○イメージ
蝶のさなぎ。
○マンション「ローズバッド」・全景(夜)
○同・花の部屋・浴室(夜)
ユニットバスの鏡の前。
安田花(30)が右手で左の胸を触っている。
水滴が落ちる音。
○「水島ビル」・全景
○同・101号室・中
昼間なのに薄暗い室内。
お香が焚かれている。
天見成実(50)と花がテーブルを挟んで座っている。
成実は太った体に黒い衣装を纏っている。胸元にアゲハ蝶のタトゥー。
成実「あなたのお悩みは何ですか?」
花「30までに結婚したかったんですけど、
相手が現れませんでした。私には男運がな
いんでしょうか?私はいつ結婚できるんで
すか?」
成実はメモ帳にペンで書きながら、
成実「安田花さん。ご職業は?」
花「脚本家です」
成実「ほう。脚本家というと、出会う男性と
いえば業界のプロデューサーや監督などで
すね?」
花は横を向いて、
花「仕事と恋愛は別です」
成実「今までにお付き合いされた方は?」
花「これといっていません」
成実「好きになった人は?」
花「高校生の時と、脚本家の人です」
成実「男性と深い関係になったことは?」
花「酔っぱらってキスされたことはあります
けど、それ以上は」
花は腕時計を触っている。
成実はタロットカードを扱い始める。
成実「わかりました。あなたの未来を占ってみましょう」
成実はカードを7枚並べる。
成実「好きなカードを一枚選んでください」
花は7枚のカードをジロジロ見ている。
成実「さぁ、選んでください」
花はカードを見ている。
花は腕時計を触っている。
花「選べません」
成実「なぜですか?」
花「結婚できないってカードが出るかもしれないから」
成実「あなたのような方は初めてです」
成実は溜息をつく。
花も溜息をつく。
○タイトル『羽化のとき』
蝶のさなぎ。背中が少し割れる。
○喫茶店「オリジナル」・外観
○同・中
喫煙席である。
黒沢明雄(45)、神谷勲(27)、花が打ち合わせをしている。
黒沢はスーツ。
神谷は帽子にTシャツにジーパン。
黒沢「いやー、安田さんの本すごくよかったっす」
花「ありがとうございます」
黒沢「こんな素晴らしい本かかれるの、どん
な方かなって思ったんすけど、けっこう綺麗な方でびっくりしました」
花「けっこう?」
黒沢「いやいや。それでね、安田さん。すごくいいんだけど、なんかぬるいんすよねぇ」
花「ぬるい、といいますと?」
神谷「なんかこう、対立とか葛藤が足りない
ってゆーか、カセが効いてないっつーか」
花「はぁ」
黒沢「主人公のキャラが薄い」
花はメモを取っている。
黒沢「オチもなー。なーんかもうちょっとドンデンみたいな!」
花は手を止めて、
花「つまり書き直しってことですね?」
黒沢「つまりそゆこと」
神谷は黙ってクリームソーダを飲んでいる。
花「では、どのように変更しましょうか?」
黒沢「それを考えるのが君の仕事でしょ?後は監督と相談して」
花は神谷を見る。
神谷は煙草に火をつける。
黒沢「じゃあ、私は会議があるので失礼します。あとはよろしく!」
黒沢は伝票を持って立ち去る。
花はコーヒーを飲む。
花「監督っておいくつなんですか?すごいですよね、お若いのに成功されてて」
神谷は黙って煙草を吸っている。
花「なにか、問題でも?」
神谷「問題だね」
花「え?どこですか?具体的に教えてください」
神谷は煙草を持った手で、指を指しながら、
神谷「髪型、化粧、服装」
花は、髪、顔、服を触る。
花「それって、脚本と関係あります?」
神谷「あんたみたいなオバサンが一番嫌いなんだよ」
花、絶句。
神谷「昔の脚本家はブスが条件だった。でも
今は違う。脚本には人間が出る。美しい人の脚本は美しい。俺は美しい脚本しか撮らない」
花「私に降りろってことですか?」
神谷「変わってほしい」
花「わかりました」
花は立ち上がろうとする。
神谷「変えるのは、あなた自身だよ」
花は動きを止める。
花「?」
神谷「変わりたいんでしょ?」
花「!」
神谷「あなたは、自分しか愛せない人。自意識過剰で理想ばっかり高くて現実が見えてない。
自分から何かすることはなく、何か選ぶこともできず、悪いことがあればみんな他人のせい。
自分に原因があるとは思わない。違いますか?」
花は肩が震える。
花「あなたみたいになんのコンプレックスもない人にはわからないでしょうね。
ううん、わかってほしくない。私が変わりたい?なんで初対面のあなたにそんなこと言われなきゃいけないの?」
花は腕時計を触る。
花「ああ、今日は人生で最悪の日だわ。コンクールで大賞獲った脚本にダメ出しされて、女としてもダメ出しされて。
くやしい」
神谷「その悔しさを脚本にぶつけてみなよ」
花「えらそうなんだよ!」
神谷「俺、監督だもん」
花「今に見てろよ」
神谷は店員に呼びかける。
神谷「すいませーん、ビールくださーい」
花「あたしも!」
花、右手をあげる。
つづく
※この物語はフィクションです。
齋藤なつ
お買い物マラソン クーポン対象 シチズン エコドライブ クロスシー クロノグラフ FB1402-05A CITIZEN XC 価格:31,700円 |
2018年10月09日
『羽化のとき』 あらすじ
『羽化のとき』 あらすじ
新人脚本家・安田花は、30歳のヴァージン。仕事で、監督の神谷と出会う。花は、神谷に「変わってほしい」と要求される。神谷に反発する花。花は、占いのカードが選べないほど優柔不断でネガティブな女性。しかし、負けず嫌いな花は少しずつ変わろうとする。
占い師の成実は、花に年上の男性とつきあうよう指示するが、花は断る。成実は「あなたが変わらなければ誰と出会っても無駄」という。
そんな折、花が痴漢にあったところを神谷に助けられる。花と神谷は少しずつ近づいていく。一方の神谷は“たまこ”が忘れられずにいた。たまこの存在を知った花は、神谷を慰めるためにヴァージンを捧げる。神谷に抱かれたのは自分のためでもあった。
成実は、今度は年下の男性とつきあうよう指示するが、花はまた断る。成実は「自分の気持ちに正直になりなさい」という。
実は、花は乳がんだった。神谷から勇気をもらい、乳がんの手術を受ける花。
神谷には振られてしまったが、単身パリに旅行に出かける。パリで少しずつ自信を取り戻す花。花は、パリから神谷へ写真つきメールを送り続ける。神谷からの返信はない。日本に帰ると仕事が待っていた。仕事ができる花に惚れ直す神谷。自信がついた花は神谷に愛の告白をする。
と、突然、たまこが現れ、花と神谷は心が通じ合いハッピーエンドとなる。
※この物語はフィクションです。
齋藤なつ
パリでしたい100のこと 大好きな街を暮らすように楽しむ旅 [ トリコロル・パリ ] 価格:1,944円 |
2018年10月07日
NHK教育アニメ『わしも』
こんにちは。
『おもてなし』いかがでしたか?
どうしても「落武者」がでてくるシナリオが書きたくて書いてしまいました。
時代考証とかしてなくてめちゃくちゃなんですが
一応、フジテレビヤングシナリオコンテストの一次審査を通りました。
改めて読んでみても、結構自分の言いたいことが言えていて
自己満足なのですが好きな作品です。
さて、今日すてきなアニメを発見してしまいました。
NHK教育の『わしも』です。
ご覧になりましたか?
宮藤官九郎さんが原作なのです!!
面白くないわけがない!!
私がこどものころによく聞いていた、みんなのうた『コンピューターおばあちゃん』を
彷彿とさせるキャラクター設定。
やさしくて、かわいい世界観。
好きにならずにはいられません。。。
私の大好きな『おしりたんてい』さん以来、ときどきNHK教育をチェックしていますが
いままでなぜ気付かなかったのでしょう。
『おしりたんてい』の記事はこちら
また、『ヨーコさんの“言葉”』という番組も素晴らしいので
ぜひご覧くださいませ!!
さらに、今朝のフジテレビ『ボクらの時代』もとっても面白かったです(●^o^●)
南海キャンディーズの山里さん(41)、オードリー若林さん(40)、直木賞作家の西加奈子さん(41)が対談。
40代の恋バナ、結婚観、非常に面白かったです。
西さんが村田沙耶香さんに「歯茎から血がでるほど嫉妬した」おはなしなど
とても興味深かったです。
いつのまにか、40代。時代のまんなかにいるんだな、と実感。
もしかしたら、まんなかは30代なのかもしれないけれど。
高橋由伸さんも監督辞任やしね。
人生が80年だとして、確実に折り返しちゃった感ありますね。
西加奈子さんがおっしゃっていた「結婚しても、出産しても人間は孤独」が深かったです。。。
恋愛も結婚も女性の方がリードしたっていい、女性がお金を払ったっていい、共感できました。
西さんが直木賞を受賞した『サラバ』は、一読の価値ありです。
『おもてなし』いかがでしたか?
どうしても「落武者」がでてくるシナリオが書きたくて書いてしまいました。
時代考証とかしてなくてめちゃくちゃなんですが
一応、フジテレビヤングシナリオコンテストの一次審査を通りました。
改めて読んでみても、結構自分の言いたいことが言えていて
自己満足なのですが好きな作品です。
さて、今日すてきなアニメを発見してしまいました。
NHK教育の『わしも』です。
ご覧になりましたか?
宮藤官九郎さんが原作なのです!!
面白くないわけがない!!
私がこどものころによく聞いていた、みんなのうた『コンピューターおばあちゃん』を
彷彿とさせるキャラクター設定。
やさしくて、かわいい世界観。
好きにならずにはいられません。。。
私の大好きな『おしりたんてい』さん以来、ときどきNHK教育をチェックしていますが
いままでなぜ気付かなかったのでしょう。
『おしりたんてい』の記事はこちら
また、『ヨーコさんの“言葉”』という番組も素晴らしいので
ぜひご覧くださいませ!!
さらに、今朝のフジテレビ『ボクらの時代』もとっても面白かったです(●^o^●)
南海キャンディーズの山里さん(41)、オードリー若林さん(40)、直木賞作家の西加奈子さん(41)が対談。
40代の恋バナ、結婚観、非常に面白かったです。
西さんが村田沙耶香さんに「歯茎から血がでるほど嫉妬した」おはなしなど
とても興味深かったです。
いつのまにか、40代。時代のまんなかにいるんだな、と実感。
もしかしたら、まんなかは30代なのかもしれないけれど。
高橋由伸さんも監督辞任やしね。
人生が80年だとして、確実に折り返しちゃった感ありますね。
西加奈子さんがおっしゃっていた「結婚しても、出産しても人間は孤独」が深かったです。。。
恋愛も結婚も女性の方がリードしたっていい、女性がお金を払ったっていい、共感できました。
西さんが直木賞を受賞した『サラバ』は、一読の価値ありです。
【中古】 サラバ!(上) /西加奈子(著者) 【中古】afb 価格:383円 |
タグ:NKH アニメ わしも
2018年10月05日
『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 第5話
『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 第5話
○同・女湯・中(夜)
小雪が露天風呂に浸かっている。
小雪は、夜空を見上げている。
湯船から上がり、鏡に体を映す。
○同・玄関・中(夜)
クリスマスツリーの電飾が光っている。
猫が通り過ぎる。
○同・菊の間(夜)
落ち武者が布団の上にうつ伏せで寝ている。
と、小雪が入ってくる。
小雪は浴衣を着ている。
小雪「旦那様、おもてなし、させていただいてよろしいでしょうか?」
落ち武者は寝たまま動かない。
小雪は、落ち武者に近づいて、落ち武者の背中にまたがる。
小雪は、落ち武者の背中をマッサージし始める。
小雪「旦那様、ありがとうございました。助かりました」
おしり、脚をマッサージしている。
小雪「わたし、旦那様みたいなタイプの人あったことないです。男らしくて、豪快で優しくて……。
さぞかしおモテになるんでしょうね……」
落ち武者はいびきをかいている。
小雪は微笑む。
小雪は、落ち武者の背中に顔をつける。
と、襖が開き、星野が入ってくる。
星野「なにしとるっ」
小雪は飛び上がって、
小雪「なにしとるって、あんたこそ、なして?」
星野「おまえが男連れ込んでるってきいたから!」
小雪「は?冗談じゃねぇ!お客様だ!マッサージしてただけだ」
星野「お客様?いつからお客様にマッサージなんかした?」
右手を前に出しながら、
小雪「これは、お・も・て・な・し、だ!」
星野「おもてなす?やりすぎだべ!おまえ、この男に特別な感情あんじゃねえのか?」
小雪「はぁ?」
落ち武者が、起きて、
落ち武者「うるさい!なにごとじゃ?」
星野「だれだ、この坊さんは?」
落ち武者「坊主ではない」
小雪「だいだい、あんた出て行ったくせに!」
落ち武者「ほう、三行半か……」
星野「み、三行半て!こいつに離婚届見せたのか?」
小雪「見せてないよ!」
星野「きさま、どこの寺の住職だ?」
落ち武者「坊主ではないと申しておるだろ!」
星野「なんなんだよ、そのしゃべり方!このくそじじい!」
落ち武者は立ち上がって、
落ち武者「くそじじいとは、聞き捨てならぬ!拙者、数えで33だぞ!」
落ち武者は三本指を立てる。
星野「年下かよ!」
小雪「え、ため?」
落ち武者「おぬしを切る!」
落ち武者は、辺りを探す。
落ち武者「刀はどこへやった?」
小雪がなだめて、
小雪「旦那様、落ち着いてください!」
落ち武者「拙者を侮辱しおった!切る!」
星野「上等じゃねえか!」
小雪「やめてください!」
落ち武者、星野、取っ組み合う。
と、恭子が長刀を持って入ってくる。
恭子「わーーー」
加奈子も入ってくる。
加奈子「きゃーーー」
小雪「お母さん!」
恭子は、落ち武者と星野の間に割って入って、
恭子「喧嘩両成敗。喧嘩両成敗」
一瞬、シーンとする。
落ち武者が豪快に笑って、
落ち武者「まいった、まいった。ちと熱くなりすぎた。すまなかった」
星野「俺は……俺は、俺は一生星野だ!」
加奈子が離婚届を持ってくる。
星野は離婚届を破る。
小雪「おかえりなさい」
星野「ただいま」
小雪「一発、殴らせて」
星野は、目をつぶって、歯を食いしばる。
小雪が、星野に平手打ちする。
星野「いってえ」
小雪は、涙をボロボロ流す。
落ち武者がニヤニヤ笑う。
恭子と加奈子も笑顔。
○同・男湯・中(夜)
落ち武者と星野が温泉に浸かっている。
星野「ほんとに失礼しました」
落ち武者「わかればよい」
星野「女房を取られそうになるまで、わからないなんて、俺は本当の馬鹿です」
落ち武者「そうじゃな」
星野「旦那様には?」
落ち武者「嫁か?おる。子もおる。もうしばらく会っていないが……」
星野「旦那様はどちらから?」
落ち武者「拙者は京より逃げてまいった」
星野「京?まさか京都じゃねえよな……逃げて?たいへんでしたね……」
落ち武者「……」
星野「俺も、逃げようとしたけど、やっぱりやめた」
落ち武者「拙者が言うのもなんじゃが、逃げてもろくなことはない」
星野「そうですね」
落ち武者「今いる場所が天国じゃ」
星野「天国か……」
星野、夜空を見上げる。
○同・女湯・中(夜)
小雪、恭子、加奈子が温泉に浸かっている。
小雪「迷惑かけちゃってごめんね」
加奈子「でもよかったです。女将さんたち寄りが戻って」
恭子「あんた、あの落ち武者にちょっと惚れてなかった?」
小雪「実は、ちょっとね」
加奈子「えー」
小雪「正直にいうと、相手をかえたら妊娠するかもって、ちょっと思った。あ、これ、
純平には絶対言わないでね!……浮気っていうのとは少し違くて。
なんていうか本能的に優秀な遺伝子を求めてしまったっていうか」
恭子「それわかる!」
加奈子「えー。ぜんぜんわかんない」
加奈子はお湯にもぐる。
恭子「結婚してみれば、わかるわよ」
小雪「そうだね。結婚してみないとわからないことっていっぱいあるね」
恭子「子供ができてみて、初めてわかることもいっぱいあるしさ」
小雪「だよね。独身の時は白黒テレビだったのが、結婚したらカラーになって、母親に
なったら、ハイビジョンになるのかもって思ってさ」
加奈子「進化するんですね」
恭子「ま、そんな単純なもんじゃないけどね」
加奈子「深いっす」
加奈子、お湯にもぐる。
○同・夫婦の部屋(夜)
星野と小雪が布団に入っている。
猫が布団の上で寝ている。
星野「ごめんな。俺、心を入れ替えて仕事がんばるから」
小雪「夢はいいの?」
星野「いい。俺の夢は、小雪とここで暮らすことだ。一度捨ててみてわかった」
小雪「ひでえな」
星野「小雪の夢は、おっかさんになるこどだったよな?」
小雪、無言。
星野「不妊治療してみっか?」
小雪「え?」
星野「おめえがいやなら、やらなくていい」
小雪「興味ないって言ったらうそになるけど。
科学的なのがどうもな。子作りって、なんていうか神の領域っていうか……」
星野「んだな。ごめん、余計なことしゃべって」
小雪「ううん」
星野「久しぶりにやるか?」
小雪「うん」
小雪が星野の上に乗っかる。
星野と小雪は笑う。
○銀山温泉(夜)
夜空に流星。
○同・全景(朝)
晴れている。一面銀世界。
○「ほしの旅館」・玄関(朝)
小雪が扉を開けると、眩しい光が入ってくる。
星野が小雪を突き飛ばす。
小雪は、雪の中に埋もれる。
小雪は、星野に雪をぶつける。
じゃれ合う二人。
見つめ合って、抱き合う。
と、赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。
耳をすます二人。
○同・階段(朝)
小雪と星野が、階段を上がっていく。
○同・菊の間(朝)
小雪と星野が襖を開ける。
と、赤ちゃんが泣いている。
赤ちゃんは赤いマフラーを巻いている。
小雪が赤ちゃんを抱き上げる。
赤ちゃんの後頭部には、2センチほどの切り傷。
小雪は、ハッとしてカレンダーを見る。
カレンダーは12月25日(クリスマス)。
星野「天からの授かりものだ」
小雪「んだね……」
小雪は、赤ちゃんを星野に抱かせる。
小雪「ちょっと待ってて」
小雪は、駆け出す。
○鬼子母神・全景(朝)
○同・参道(朝)
小雪が、走ってくる。
お地蔵さんの前までくる。
お地蔵さんがいなくなっている。
小雪は、白い溜息をつく。
○中井家・全景(夜)
イルミネーションが光っている。
○同・子供部屋(夜)
加奈子(33)と翔太(4)がベッドに寝ている。
翔太「赤ちゃんは?」
加奈子「大切に育てられたよ」
翔太「僕みたいに?」
加奈子「そう、翔太みたいに」
加奈子、翔太の頭をなでる。
翔太「お父さんには内緒だよね?」
加奈子「そう。内緒」
翔太「ぼく、大きくなったら落ち武者になる」
加奈子「えー」
翔太「おやすみなさい」
加奈子「おやすみ」
加奈子は翔太に布団をかける。
加奈子は電気を消す。
加奈子はリビングのドアを開ける。
と、ドアの向こうに落ち武者の後ろ姿。
〈終〉
※この物語はフィクションです。齋藤なつ
○同・女湯・中(夜)
小雪が露天風呂に浸かっている。
小雪は、夜空を見上げている。
湯船から上がり、鏡に体を映す。
○同・玄関・中(夜)
クリスマスツリーの電飾が光っている。
猫が通り過ぎる。
○同・菊の間(夜)
落ち武者が布団の上にうつ伏せで寝ている。
と、小雪が入ってくる。
小雪は浴衣を着ている。
小雪「旦那様、おもてなし、させていただいてよろしいでしょうか?」
落ち武者は寝たまま動かない。
小雪は、落ち武者に近づいて、落ち武者の背中にまたがる。
小雪は、落ち武者の背中をマッサージし始める。
小雪「旦那様、ありがとうございました。助かりました」
おしり、脚をマッサージしている。
小雪「わたし、旦那様みたいなタイプの人あったことないです。男らしくて、豪快で優しくて……。
さぞかしおモテになるんでしょうね……」
落ち武者はいびきをかいている。
小雪は微笑む。
小雪は、落ち武者の背中に顔をつける。
と、襖が開き、星野が入ってくる。
星野「なにしとるっ」
小雪は飛び上がって、
小雪「なにしとるって、あんたこそ、なして?」
星野「おまえが男連れ込んでるってきいたから!」
小雪「は?冗談じゃねぇ!お客様だ!マッサージしてただけだ」
星野「お客様?いつからお客様にマッサージなんかした?」
右手を前に出しながら、
小雪「これは、お・も・て・な・し、だ!」
星野「おもてなす?やりすぎだべ!おまえ、この男に特別な感情あんじゃねえのか?」
小雪「はぁ?」
落ち武者が、起きて、
落ち武者「うるさい!なにごとじゃ?」
星野「だれだ、この坊さんは?」
落ち武者「坊主ではない」
小雪「だいだい、あんた出て行ったくせに!」
落ち武者「ほう、三行半か……」
星野「み、三行半て!こいつに離婚届見せたのか?」
小雪「見せてないよ!」
星野「きさま、どこの寺の住職だ?」
落ち武者「坊主ではないと申しておるだろ!」
星野「なんなんだよ、そのしゃべり方!このくそじじい!」
落ち武者は立ち上がって、
落ち武者「くそじじいとは、聞き捨てならぬ!拙者、数えで33だぞ!」
落ち武者は三本指を立てる。
星野「年下かよ!」
小雪「え、ため?」
落ち武者「おぬしを切る!」
落ち武者は、辺りを探す。
落ち武者「刀はどこへやった?」
小雪がなだめて、
小雪「旦那様、落ち着いてください!」
落ち武者「拙者を侮辱しおった!切る!」
星野「上等じゃねえか!」
小雪「やめてください!」
落ち武者、星野、取っ組み合う。
と、恭子が長刀を持って入ってくる。
恭子「わーーー」
加奈子も入ってくる。
加奈子「きゃーーー」
小雪「お母さん!」
恭子は、落ち武者と星野の間に割って入って、
恭子「喧嘩両成敗。喧嘩両成敗」
一瞬、シーンとする。
落ち武者が豪快に笑って、
落ち武者「まいった、まいった。ちと熱くなりすぎた。すまなかった」
星野「俺は……俺は、俺は一生星野だ!」
加奈子が離婚届を持ってくる。
星野は離婚届を破る。
小雪「おかえりなさい」
星野「ただいま」
小雪「一発、殴らせて」
星野は、目をつぶって、歯を食いしばる。
小雪が、星野に平手打ちする。
星野「いってえ」
小雪は、涙をボロボロ流す。
落ち武者がニヤニヤ笑う。
恭子と加奈子も笑顔。
○同・男湯・中(夜)
落ち武者と星野が温泉に浸かっている。
星野「ほんとに失礼しました」
落ち武者「わかればよい」
星野「女房を取られそうになるまで、わからないなんて、俺は本当の馬鹿です」
落ち武者「そうじゃな」
星野「旦那様には?」
落ち武者「嫁か?おる。子もおる。もうしばらく会っていないが……」
星野「旦那様はどちらから?」
落ち武者「拙者は京より逃げてまいった」
星野「京?まさか京都じゃねえよな……逃げて?たいへんでしたね……」
落ち武者「……」
星野「俺も、逃げようとしたけど、やっぱりやめた」
落ち武者「拙者が言うのもなんじゃが、逃げてもろくなことはない」
星野「そうですね」
落ち武者「今いる場所が天国じゃ」
星野「天国か……」
星野、夜空を見上げる。
○同・女湯・中(夜)
小雪、恭子、加奈子が温泉に浸かっている。
小雪「迷惑かけちゃってごめんね」
加奈子「でもよかったです。女将さんたち寄りが戻って」
恭子「あんた、あの落ち武者にちょっと惚れてなかった?」
小雪「実は、ちょっとね」
加奈子「えー」
小雪「正直にいうと、相手をかえたら妊娠するかもって、ちょっと思った。あ、これ、
純平には絶対言わないでね!……浮気っていうのとは少し違くて。
なんていうか本能的に優秀な遺伝子を求めてしまったっていうか」
恭子「それわかる!」
加奈子「えー。ぜんぜんわかんない」
加奈子はお湯にもぐる。
恭子「結婚してみれば、わかるわよ」
小雪「そうだね。結婚してみないとわからないことっていっぱいあるね」
恭子「子供ができてみて、初めてわかることもいっぱいあるしさ」
小雪「だよね。独身の時は白黒テレビだったのが、結婚したらカラーになって、母親に
なったら、ハイビジョンになるのかもって思ってさ」
加奈子「進化するんですね」
恭子「ま、そんな単純なもんじゃないけどね」
加奈子「深いっす」
加奈子、お湯にもぐる。
○同・夫婦の部屋(夜)
星野と小雪が布団に入っている。
猫が布団の上で寝ている。
星野「ごめんな。俺、心を入れ替えて仕事がんばるから」
小雪「夢はいいの?」
星野「いい。俺の夢は、小雪とここで暮らすことだ。一度捨ててみてわかった」
小雪「ひでえな」
星野「小雪の夢は、おっかさんになるこどだったよな?」
小雪、無言。
星野「不妊治療してみっか?」
小雪「え?」
星野「おめえがいやなら、やらなくていい」
小雪「興味ないって言ったらうそになるけど。
科学的なのがどうもな。子作りって、なんていうか神の領域っていうか……」
星野「んだな。ごめん、余計なことしゃべって」
小雪「ううん」
星野「久しぶりにやるか?」
小雪「うん」
小雪が星野の上に乗っかる。
星野と小雪は笑う。
○銀山温泉(夜)
夜空に流星。
○同・全景(朝)
晴れている。一面銀世界。
○「ほしの旅館」・玄関(朝)
小雪が扉を開けると、眩しい光が入ってくる。
星野が小雪を突き飛ばす。
小雪は、雪の中に埋もれる。
小雪は、星野に雪をぶつける。
じゃれ合う二人。
見つめ合って、抱き合う。
と、赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。
耳をすます二人。
○同・階段(朝)
小雪と星野が、階段を上がっていく。
○同・菊の間(朝)
小雪と星野が襖を開ける。
と、赤ちゃんが泣いている。
赤ちゃんは赤いマフラーを巻いている。
小雪が赤ちゃんを抱き上げる。
赤ちゃんの後頭部には、2センチほどの切り傷。
小雪は、ハッとしてカレンダーを見る。
カレンダーは12月25日(クリスマス)。
星野「天からの授かりものだ」
小雪「んだね……」
小雪は、赤ちゃんを星野に抱かせる。
小雪「ちょっと待ってて」
小雪は、駆け出す。
○鬼子母神・全景(朝)
○同・参道(朝)
小雪が、走ってくる。
お地蔵さんの前までくる。
お地蔵さんがいなくなっている。
小雪は、白い溜息をつく。
○中井家・全景(夜)
イルミネーションが光っている。
○同・子供部屋(夜)
加奈子(33)と翔太(4)がベッドに寝ている。
翔太「赤ちゃんは?」
加奈子「大切に育てられたよ」
翔太「僕みたいに?」
加奈子「そう、翔太みたいに」
加奈子、翔太の頭をなでる。
翔太「お父さんには内緒だよね?」
加奈子「そう。内緒」
翔太「ぼく、大きくなったら落ち武者になる」
加奈子「えー」
翔太「おやすみなさい」
加奈子「おやすみ」
加奈子は翔太に布団をかける。
加奈子は電気を消す。
加奈子はリビングのドアを開ける。
と、ドアの向こうに落ち武者の後ろ姿。
〈終〉
※この物語はフィクションです。齋藤なつ
価格:2,480円 |
2018年10月04日
『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 第4話
『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 第4話
○同・菊の間(夜)
落ち武者が酒を飲んでいる。
と、ドンドコドンドコ太鼓の音がする。
フラダンスの恰好の小雪と加奈子が入ってくる。
驚く落ち武者。
フラダンスを踊る小雪と加奈子。
緩やかなダンス。
喜ぶ落ち武者。
曲が変わり、激しい太鼓のリズム。
小雪がソロで情熱的に踊る。
落ち武者は拍手する。
ポーズを決めて微笑む小雪。
落ち武者「そなた、なまえは?」
小雪「小雪と申します」
落ち武者「小雪か。いい名じゃ。褒美をとらそう。なにがいい?」
小雪「……」
落ち武者「赤子か?」
小雪はポッと赤くなる。
小雪「いいえ」
落ち武者「子がほしいのであろう」
小雪「なんにもいりません」
落ち武者「旦那はどうした?」
小雪「……」
落ち武者「出て行ったのではないのか?」
小雪「どうして?」
落ち武者「わしと一夜をともにするか?」
小雪「……」
落ち武者「まあ、よい、わしはどっちでもかまわん」
落ち武者は、ごろんと横になる。
小雪は、座りこんでいる。
加奈子が困った顔で見ている。
○同・恭子の部屋(夜)
恭子が電話をかけている。
恭子「あ、純平さん?今どこにいるの?……え?電車の中?小雪が、男の人と……いいの?」
純平の声「男ってだれです?」
恭子「落ち武者」
純平の声「は?落ち武者?なにいってるんです?」
恭子「とにかく、小雪が誘惑されてます。いいんですね?」
純平の声「俺には、あいつを幸せにしてやる資格がねえす」
恭子「夫婦に資格なんてあるの?」
純平の声「すんません」
恭子「純平さん!」
電話が切れる。
と、加奈子が来て、
加奈子「大女将、こんなものが!」
加奈子、離婚届を見せる。
恭子「10年間、かわいがってあげたのに、恩知らず」
加奈子「お似合いのカップルだったんですけどね……」
恭子「孫ができないのはアイツのせいよ」
加奈子「わからないじゃないですか」
恭子「絶対アイツのせい」
加奈子「大女将……」
恭子は離婚届をグシャグシャにする。
加奈子「あああ、ダメですって!」
加奈子は離婚届けを奪い取る。
加奈子は離婚届けのしわを伸ばす。
○駅・全景(夜)
○同・ホーム(夜)
星野が列車から降りてくる。
○「ほしの旅館」・外観(夜)
雪がやんでいる。
○同・厨房(夜)
ガスがつけっぱなしになっている。
鍋から煙が出ている。
○同・夫婦の部屋(夜)
小雪が、星野の写真を見ている。
ケータイを取り出すと、着信が1件。
星野からである。
小雪は、かけ直す。
留守電になってしまう。
小雪は、星野の写真を見ている。
と、猫が足元にくる。
猫を抱き上げて頬ずりする小雪。
○同・菊の間(夜)
落ち武者が横になっている。
と、襖の向こうで声がする。
女の声「旦那様」
と、襖が開き、加奈子が顔を出す。
落ち武者「おお、たぬきか」
加奈子「たぬきって……」
落ち武者「よばいか?」
加奈子「よばいじゃありません!」
落ち武者「?」
加奈子「女将さんを誘惑しないでください!」
落ち武者「誘惑などしておらん」
加奈子「してるじゃないですか!」
落ち武者「拙者は人助けをしておるだけじゃ」
加奈子「人助け?」
落ち武者「願いごとを叶えるのじゃ」
加奈子は爆笑して、
加奈子「そんな、神様みたいなこと」
落ち武者「どっちかというと仏様じゃな」
落ち武者は、顔をかく。
加奈子「いいですか、女将さんに近づかないでくださいよ!」
落ち武者は、ニヤニヤ笑っている。
加奈子は、襖を閉める。
○同・恭子の部屋(夜)
恭子が離婚届を見ている。
恭子は鼻をクンクンと動かす。
○同・廊下(夜)
煙が充満している。
加奈子がきて、血相を変える。
加奈子「火事だーーー」
○同・菊の間(夜)
落ち武者は横になっている。
小雪は、襖を開けて立っている。
小雪は、落ち武者の背中を見つめている。
と、加奈子の叫び声がする。
小雪「えっ?火事?」
小雪が駆け出す。
○同・厨房・外(夜)
加奈子と恭子が右往左往している。
小雪がきて、
小雪「ここね!はやく消さなきゃ!消火器どこ?」
加奈子が消火器を持ってくる。
小雪「かして!」
小雪、加奈子から消火器をうばう。
小雪、使い方がわからない。
小雪の着物に火がうつる。
小雪、慌てて手で消す。
恭子「だれか、たすけてー」
と、落ち武者が現れる。
落ち武者がタライを持ってくる。
タライには雪が山盛り。
落ち武者「どけ!どけ!」
小雪がどく。
落ち武者は、火に向かって豪快に雪をかける。
ジュージューと音がする。
煙がモウモウ立ち込める。
落ち武者は、上半身裸である。
落ち武者「さがっておれ!」
落ち武者は、駆けて行ってタライに雪を盛って戻ってくる。
落ち武者は火に向かって雪をかける。
落ち武者は汗を流している。
小雪は、落ち武者の肉体に見とれている。
落ち武者「大丈夫か?」
小雪は、腕に火傷をしている。
落ち武者が、小雪を抱き上げ、玄関の方へ向かう。
小雪は、あらがう。
○同・玄関・中(夜)
加奈子が玄関の扉を開ける。
落ち武者が、小雪をお姫様抱っこで連れてくる。
○同・玄関・外(夜)
落ち武者が、小雪を雪の中におろし、火傷した腕を雪で冷やす。
小雪は、落ち武者に見とれている。
加奈子、恭子が、自分も火傷しているとアピールしている。
落ち武者は、無視。
○同・厨房・中(夜)
ガス台の辺りが黒くなっている。
小雪、恭子、加奈子が立っている。
恭子「お鍋の火止めるの忘れちゃった……」
小雪「もう、お母さん……」
加奈子「わたしがついていながら、すいません……」
小雪「この程度で済んでよかったね……」
恭子「ごめんなさい」
小雪は、涙ぐむ。
小雪「もうやだ」
小雪は、包帯の腕を握りしめる。
小雪「もう、女将やめたい」
加奈子「そんなこと言わないでください」
小雪「ぜんぜんお客さんこないし。子供出来ないし。雪凄いし」
恭子「小雪……」
小雪「東京いこうかな?」
恭子「いいよ。好きにしていいよ。無理して旅館継がなくても」
小雪「今更なによ!お母さんが旅館つぶしたくないってゆうから!小さいころから女将
になれって育てられたから……だから今までやってきたのに……」
恭子「お前がなりたくて女将になったのかと……」
加奈子「そうですよ、大女将みたいな立派な女将さんになりたいってゆってたじゃないですかぁ」
小雪「疲れた」
恭子「……」
加奈子「……」
小雪が出ていく。
つづく
※この物語はフィクションです。齋藤なつ
○同・菊の間(夜)
落ち武者が酒を飲んでいる。
と、ドンドコドンドコ太鼓の音がする。
フラダンスの恰好の小雪と加奈子が入ってくる。
驚く落ち武者。
フラダンスを踊る小雪と加奈子。
緩やかなダンス。
喜ぶ落ち武者。
曲が変わり、激しい太鼓のリズム。
小雪がソロで情熱的に踊る。
落ち武者は拍手する。
ポーズを決めて微笑む小雪。
落ち武者「そなた、なまえは?」
小雪「小雪と申します」
落ち武者「小雪か。いい名じゃ。褒美をとらそう。なにがいい?」
小雪「……」
落ち武者「赤子か?」
小雪はポッと赤くなる。
小雪「いいえ」
落ち武者「子がほしいのであろう」
小雪「なんにもいりません」
落ち武者「旦那はどうした?」
小雪「……」
落ち武者「出て行ったのではないのか?」
小雪「どうして?」
落ち武者「わしと一夜をともにするか?」
小雪「……」
落ち武者「まあ、よい、わしはどっちでもかまわん」
落ち武者は、ごろんと横になる。
小雪は、座りこんでいる。
加奈子が困った顔で見ている。
○同・恭子の部屋(夜)
恭子が電話をかけている。
恭子「あ、純平さん?今どこにいるの?……え?電車の中?小雪が、男の人と……いいの?」
純平の声「男ってだれです?」
恭子「落ち武者」
純平の声「は?落ち武者?なにいってるんです?」
恭子「とにかく、小雪が誘惑されてます。いいんですね?」
純平の声「俺には、あいつを幸せにしてやる資格がねえす」
恭子「夫婦に資格なんてあるの?」
純平の声「すんません」
恭子「純平さん!」
電話が切れる。
と、加奈子が来て、
加奈子「大女将、こんなものが!」
加奈子、離婚届を見せる。
恭子「10年間、かわいがってあげたのに、恩知らず」
加奈子「お似合いのカップルだったんですけどね……」
恭子「孫ができないのはアイツのせいよ」
加奈子「わからないじゃないですか」
恭子「絶対アイツのせい」
加奈子「大女将……」
恭子は離婚届をグシャグシャにする。
加奈子「あああ、ダメですって!」
加奈子は離婚届けを奪い取る。
加奈子は離婚届けのしわを伸ばす。
○駅・全景(夜)
○同・ホーム(夜)
星野が列車から降りてくる。
○「ほしの旅館」・外観(夜)
雪がやんでいる。
○同・厨房(夜)
ガスがつけっぱなしになっている。
鍋から煙が出ている。
○同・夫婦の部屋(夜)
小雪が、星野の写真を見ている。
ケータイを取り出すと、着信が1件。
星野からである。
小雪は、かけ直す。
留守電になってしまう。
小雪は、星野の写真を見ている。
と、猫が足元にくる。
猫を抱き上げて頬ずりする小雪。
○同・菊の間(夜)
落ち武者が横になっている。
と、襖の向こうで声がする。
女の声「旦那様」
と、襖が開き、加奈子が顔を出す。
落ち武者「おお、たぬきか」
加奈子「たぬきって……」
落ち武者「よばいか?」
加奈子「よばいじゃありません!」
落ち武者「?」
加奈子「女将さんを誘惑しないでください!」
落ち武者「誘惑などしておらん」
加奈子「してるじゃないですか!」
落ち武者「拙者は人助けをしておるだけじゃ」
加奈子「人助け?」
落ち武者「願いごとを叶えるのじゃ」
加奈子は爆笑して、
加奈子「そんな、神様みたいなこと」
落ち武者「どっちかというと仏様じゃな」
落ち武者は、顔をかく。
加奈子「いいですか、女将さんに近づかないでくださいよ!」
落ち武者は、ニヤニヤ笑っている。
加奈子は、襖を閉める。
○同・恭子の部屋(夜)
恭子が離婚届を見ている。
恭子は鼻をクンクンと動かす。
○同・廊下(夜)
煙が充満している。
加奈子がきて、血相を変える。
加奈子「火事だーーー」
○同・菊の間(夜)
落ち武者は横になっている。
小雪は、襖を開けて立っている。
小雪は、落ち武者の背中を見つめている。
と、加奈子の叫び声がする。
小雪「えっ?火事?」
小雪が駆け出す。
○同・厨房・外(夜)
加奈子と恭子が右往左往している。
小雪がきて、
小雪「ここね!はやく消さなきゃ!消火器どこ?」
加奈子が消火器を持ってくる。
小雪「かして!」
小雪、加奈子から消火器をうばう。
小雪、使い方がわからない。
小雪の着物に火がうつる。
小雪、慌てて手で消す。
恭子「だれか、たすけてー」
と、落ち武者が現れる。
落ち武者がタライを持ってくる。
タライには雪が山盛り。
落ち武者「どけ!どけ!」
小雪がどく。
落ち武者は、火に向かって豪快に雪をかける。
ジュージューと音がする。
煙がモウモウ立ち込める。
落ち武者は、上半身裸である。
落ち武者「さがっておれ!」
落ち武者は、駆けて行ってタライに雪を盛って戻ってくる。
落ち武者は火に向かって雪をかける。
落ち武者は汗を流している。
小雪は、落ち武者の肉体に見とれている。
落ち武者「大丈夫か?」
小雪は、腕に火傷をしている。
落ち武者が、小雪を抱き上げ、玄関の方へ向かう。
小雪は、あらがう。
○同・玄関・中(夜)
加奈子が玄関の扉を開ける。
落ち武者が、小雪をお姫様抱っこで連れてくる。
○同・玄関・外(夜)
落ち武者が、小雪を雪の中におろし、火傷した腕を雪で冷やす。
小雪は、落ち武者に見とれている。
加奈子、恭子が、自分も火傷しているとアピールしている。
落ち武者は、無視。
○同・厨房・中(夜)
ガス台の辺りが黒くなっている。
小雪、恭子、加奈子が立っている。
恭子「お鍋の火止めるの忘れちゃった……」
小雪「もう、お母さん……」
加奈子「わたしがついていながら、すいません……」
小雪「この程度で済んでよかったね……」
恭子「ごめんなさい」
小雪は、涙ぐむ。
小雪「もうやだ」
小雪は、包帯の腕を握りしめる。
小雪「もう、女将やめたい」
加奈子「そんなこと言わないでください」
小雪「ぜんぜんお客さんこないし。子供出来ないし。雪凄いし」
恭子「小雪……」
小雪「東京いこうかな?」
恭子「いいよ。好きにしていいよ。無理して旅館継がなくても」
小雪「今更なによ!お母さんが旅館つぶしたくないってゆうから!小さいころから女将
になれって育てられたから……だから今までやってきたのに……」
恭子「お前がなりたくて女将になったのかと……」
加奈子「そうですよ、大女将みたいな立派な女将さんになりたいってゆってたじゃないですかぁ」
小雪「疲れた」
恭子「……」
加奈子「……」
小雪が出ていく。
つづく
※この物語はフィクションです。齋藤なつ
2018年10月03日
『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 第3話
『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 第3話
○同・外観(夜)
雪が激しく降っている。
○同・菊の間(夜)
浴衣を着て、赤いマフラーをまいた落ち武者が胡坐をかいている。
落ち武者は坊主頭をなでている。
後頭部に2センチほどの切り傷。
小雪は正座で頭を下げている。
小雪「本当に申し訳ございません」
落ち武者「打ち首じゃ」
小雪「ひぃ」
落ち武者は豪快に笑って、
落ち武者「何かうまいものをくわしてくれ」
小雪「かしこまりました。ただ、生憎料理人
が不在でして、ご了承いただけますと幸いです」
落ち武者「なんでもよい!腹が減って死にそうじゃ!はよもってこい!」
小雪「はい!」
小雪は駆け出す。
○同・厨房(夜)
恭子が味噌汁を作り、加奈子がご飯をまぜている。
小雪が入ってきて、
小雪「ありがとう!」
恭子「こんなことくらいしかできなくて」
小雪「たすかる」
小雪は、手を洗って、おにぎりを作り出す。
恭子「あのお客さん、独身?」
小雪「さあ?」
加奈子「マッチョですよねぇ」
加奈子、嬉しそう。
恭子「マッチョっていうか、セクシー」
恭子、笑う。
小雪「ていうか、ダンディー」
三人で盛り上がる。
加奈子、たくわんを切る。
恭子「純平さんは?」
小雪、かたまる。
加奈子「おにぎりとお味噌汁だけでいいですかね?」
恭子「ねえ、まさか、東京に?」
小雪「聞かないで」
加奈子「お昼の残りがありますけど」
恭子「あの種なし……」
小雪「そ、そうだね、もうちょっと何かあった方がいいかもね」
恭子が暗い顔で鍋をかき混ぜている。
○同・菊の間・中(夜)
落ち武者の前に、おにぎり、味噌汁、
カレーの入った皿が置かれている。
落ち武者はカレーの皿を見て、
落ち武者「これは?」
小雪「カレーでございます」
落ち武者「くそではないのか?」
小雪「めっそうもございません!」
落ち武者「くうてみろ」
小雪「は、はい」
小雪がカレーを一口食べる。
落ち武者「くそではないのか?」
小雪は笑って、
小雪「おいしいですよ。残り物ですいませんけど」
落ち武者は、小雪から皿をうばって、
恐る恐るカレーを食べる。
落ち武者「ほう」
小雪は笑顔になる。
落ち武者「しかし、わしはこれが食いたかった」
落ち武者は、おにぎりをほおばる。
落ち武者「うまい!」
落ち武者は、豪快におにぎりを食べながら、時々味噌汁を飲む。
落ち武者「いつも悪いな」
小雪は、笑顔で曖昧な返事をする。
○走る電車(夜)
○電車・車席(夜)
星野が車窓から夜空を見上げている。
夜空には満天の星。
と、大きな流れ星。
星野は立ち上がる。
星野はケータイを取り出す。
ためらう、が、電話をかける。
留守電になってしまう。
車窓を見る星野。
○「ほしの旅館」・外観(夜)
雪が降っている。
○同・菊の間(夜)
落ち武者が、味噌汁を飲み干す。
落ち武者「あー、うまかった」
お膳の上は全て空になっている。
小雪が、ガラスの器に雪を乗せて運んでくる。
小雪は、落ち武者の前に差し出す。
小雪「どうぞ、お召し上がりください」
落ち武者「毒か?」
小雪「デザートです」
落ち武者「やはり毒か……」
小雪「食べてみてください」
落ち武者は、雪を一口食べる。
落ち武者「!なんじゃ、これは?」
小雪が笑って、
小雪「カルピスです」
小雪は、カルピスのビンをみせる。
落ち武者「か、かるぴ?」
小雪「はい、カルピスです」
落ち武者は、何度も雪を口へ運ぶ。
落ち武者「うまいうまい。気に入ったぞ、かるぴ!もっとくれ!」
落ち武者は、ガラスの器を小雪に差し出す。
小雪「はいはい」
落ち武者「踊りがみたい」
小雪「踊り、でございますか?」
落ち武者「みたい」
小雪「少々お待ちくださいませ」
小雪は下がる。
○同・事務所(夜)
小雪、恭子、加奈子が相談している。
小雪「今から頼んでも、どこも来てくれないし」
恭子「日本舞踊でよければ、あたしが」
小雪「さすが、大女将!」
加奈子「わたし、三味線ひきます」
小雪「頼んだわ!」
恭子と加奈子、やる気満々。
○同・菊の間(夜)
落ち武者が酒を飲んでいる。
小雪が、襖を開けて、
小雪「失礼いたします」
恭子と加奈子が入ってくる。
恭子が正座でお辞儀をする。
落ち武者「……」
加奈子が、三味線をひく。
恭子が日本舞踊を踊り出す。
恭子、落ち武者にウインク。
落ち武者、酒を飲む。
恭子、優雅に舞う。
落ち武者、あくびをする。
小雪が、あせる。
加奈子、落ち着かない。
恭子は、夢中で踊る。
加奈子、三味線をひき続ける。
落ち武者は、居眠りをしている。
小雪は、加奈子に目配せする。
加奈子はうなずき、三味線を弾くのをやめる。
恭子、踊るのをやめる。
落ち武者が目をさまし、
落ち武者「さけ!」
小雪「はい、ただいま」
落ち武者「と、別の踊り」
恭子は、怒って出ていく。
加奈子も出ていく。
○同・事務所(夜)
小雪、恭子、加奈子が相談している。
小雪「ごめんね〜」
恭子「お前が謝ることないさ」
小雪「どうしよう?」
加奈子「あ、アレは?うちらの趣味ですけど」
小雪「趣味?」
加奈子が笑顔で、手でハートマークを作る。
つづく
※この物語はフィクションです。
齋藤なつ
○同・外観(夜)
雪が激しく降っている。
○同・菊の間(夜)
浴衣を着て、赤いマフラーをまいた落ち武者が胡坐をかいている。
落ち武者は坊主頭をなでている。
後頭部に2センチほどの切り傷。
小雪は正座で頭を下げている。
小雪「本当に申し訳ございません」
落ち武者「打ち首じゃ」
小雪「ひぃ」
落ち武者は豪快に笑って、
落ち武者「何かうまいものをくわしてくれ」
小雪「かしこまりました。ただ、生憎料理人
が不在でして、ご了承いただけますと幸いです」
落ち武者「なんでもよい!腹が減って死にそうじゃ!はよもってこい!」
小雪「はい!」
小雪は駆け出す。
○同・厨房(夜)
恭子が味噌汁を作り、加奈子がご飯をまぜている。
小雪が入ってきて、
小雪「ありがとう!」
恭子「こんなことくらいしかできなくて」
小雪「たすかる」
小雪は、手を洗って、おにぎりを作り出す。
恭子「あのお客さん、独身?」
小雪「さあ?」
加奈子「マッチョですよねぇ」
加奈子、嬉しそう。
恭子「マッチョっていうか、セクシー」
恭子、笑う。
小雪「ていうか、ダンディー」
三人で盛り上がる。
加奈子、たくわんを切る。
恭子「純平さんは?」
小雪、かたまる。
加奈子「おにぎりとお味噌汁だけでいいですかね?」
恭子「ねえ、まさか、東京に?」
小雪「聞かないで」
加奈子「お昼の残りがありますけど」
恭子「あの種なし……」
小雪「そ、そうだね、もうちょっと何かあった方がいいかもね」
恭子が暗い顔で鍋をかき混ぜている。
○同・菊の間・中(夜)
落ち武者の前に、おにぎり、味噌汁、
カレーの入った皿が置かれている。
落ち武者はカレーの皿を見て、
落ち武者「これは?」
小雪「カレーでございます」
落ち武者「くそではないのか?」
小雪「めっそうもございません!」
落ち武者「くうてみろ」
小雪「は、はい」
小雪がカレーを一口食べる。
落ち武者「くそではないのか?」
小雪は笑って、
小雪「おいしいですよ。残り物ですいませんけど」
落ち武者は、小雪から皿をうばって、
恐る恐るカレーを食べる。
落ち武者「ほう」
小雪は笑顔になる。
落ち武者「しかし、わしはこれが食いたかった」
落ち武者は、おにぎりをほおばる。
落ち武者「うまい!」
落ち武者は、豪快におにぎりを食べながら、時々味噌汁を飲む。
落ち武者「いつも悪いな」
小雪は、笑顔で曖昧な返事をする。
○走る電車(夜)
○電車・車席(夜)
星野が車窓から夜空を見上げている。
夜空には満天の星。
と、大きな流れ星。
星野は立ち上がる。
星野はケータイを取り出す。
ためらう、が、電話をかける。
留守電になってしまう。
車窓を見る星野。
○「ほしの旅館」・外観(夜)
雪が降っている。
○同・菊の間(夜)
落ち武者が、味噌汁を飲み干す。
落ち武者「あー、うまかった」
お膳の上は全て空になっている。
小雪が、ガラスの器に雪を乗せて運んでくる。
小雪は、落ち武者の前に差し出す。
小雪「どうぞ、お召し上がりください」
落ち武者「毒か?」
小雪「デザートです」
落ち武者「やはり毒か……」
小雪「食べてみてください」
落ち武者は、雪を一口食べる。
落ち武者「!なんじゃ、これは?」
小雪が笑って、
小雪「カルピスです」
小雪は、カルピスのビンをみせる。
落ち武者「か、かるぴ?」
小雪「はい、カルピスです」
落ち武者は、何度も雪を口へ運ぶ。
落ち武者「うまいうまい。気に入ったぞ、かるぴ!もっとくれ!」
落ち武者は、ガラスの器を小雪に差し出す。
小雪「はいはい」
落ち武者「踊りがみたい」
小雪「踊り、でございますか?」
落ち武者「みたい」
小雪「少々お待ちくださいませ」
小雪は下がる。
○同・事務所(夜)
小雪、恭子、加奈子が相談している。
小雪「今から頼んでも、どこも来てくれないし」
恭子「日本舞踊でよければ、あたしが」
小雪「さすが、大女将!」
加奈子「わたし、三味線ひきます」
小雪「頼んだわ!」
恭子と加奈子、やる気満々。
○同・菊の間(夜)
落ち武者が酒を飲んでいる。
小雪が、襖を開けて、
小雪「失礼いたします」
恭子と加奈子が入ってくる。
恭子が正座でお辞儀をする。
落ち武者「……」
加奈子が、三味線をひく。
恭子が日本舞踊を踊り出す。
恭子、落ち武者にウインク。
落ち武者、酒を飲む。
恭子、優雅に舞う。
落ち武者、あくびをする。
小雪が、あせる。
加奈子、落ち着かない。
恭子は、夢中で踊る。
加奈子、三味線をひき続ける。
落ち武者は、居眠りをしている。
小雪は、加奈子に目配せする。
加奈子はうなずき、三味線を弾くのをやめる。
恭子、踊るのをやめる。
落ち武者が目をさまし、
落ち武者「さけ!」
小雪「はい、ただいま」
落ち武者「と、別の踊り」
恭子は、怒って出ていく。
加奈子も出ていく。
○同・事務所(夜)
小雪、恭子、加奈子が相談している。
小雪「ごめんね〜」
恭子「お前が謝ることないさ」
小雪「どうしよう?」
加奈子「あ、アレは?うちらの趣味ですけど」
小雪「趣味?」
加奈子が笑顔で、手でハートマークを作る。
つづく
※この物語はフィクションです。
齋藤なつ
2018年10月02日
『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 第2話
『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』
<第2話>
○同・男湯・中(夜)
半分露天になっている温泉。
落ち武者が湯船に浸かっている。
雪が少し吹き込んでくる。
落ち武者「おーい」
すりガラスの向こうに小雪がいる。
小雪の声「はい」
落ち武者「背中を流してくれんか?」
小雪の声「はい、ただいま」
落ち武者「着物は脱いでくるのだぞ」
小雪の声「え?それはちょっと……」
落ち武者「なんだ?」
小雪の声「恥ずかしいというか、セクハラというか」
落ち武者「恥ずかしがることはない。何もせぬ」
小雪の声「脱がなかったら?」
落ち武者「打ち首じゃ!」
小雪の声「ひぃぃ」
落ち武者「ガハハハ!冗談じゃ」
小雪の声「ちょっとお待ちくださいませ」
落ち武者は、温泉のお湯で豪快に顔を洗う。
○同・同・外(夜)
小雪と加奈子が脱衣所にいる。
着物と刀が置いてある。
小雪は刀を両手に持って震える。
加奈子「ど、どーするんですかー?」
小雪「どーするもこーするも、やるしかないべ」
加奈子「えーーー」
小雪「やるしか」
小雪は、刀を睨みつけている。
加奈子「わ、わたし、大女将呼んできます」
加奈子、走り出す。
○同・同・中(夜)
落ち武者が、湯船から出て、椅子に座わっている。
落ち武者「おーい、まだか!」
と、ガラス戸が開いて、小雪が入ってくる。
小雪は、黒のビキニを着ている。
髪をポニーテールにしている。
落ち武者はニヤリとする。
小雪「お待たせしました」
落ち武者「頼む」
小雪は落ち武者の背中を流す。
落ち武者は、筋肉質でセクシーな体。
小雪、ちょっと見とれる。
落ち武者が立ち上がり、小雪に体を見せつける。
小雪は、顔をそむける。
落ち武者は笑いながら、椅子に座る。
落ち武者「これはなんじゃ?」
落ち武者は、シャンプーのボトルを持っている。
小雪「シャンプーでございます」
落ち武者「なにするものぞ?」
小雪「頭を洗います」
落ち武者「ほう」
小雪「洗いましょうか?」
落ち武者「いい」
小雪「昔、美容院でアルバイトしてたから、洗うのうまいですよ」
落ち武者「……意味がわからぬ」
小雪「洗わせてください」
落ち武者、無言。
○同・恭子の部屋(夜)
恭子はこたつで猫を撫でている。
と、加奈子が来て、
加奈子「大女将!てーへんです!」
恭子は、猫をこたつに隠す。
恭子「なに?」
加奈子「若女将が落ち武者にヤラれちゃいます!あれ、やっちゃうのかな?」
恭子「ぶっ!なに?ヤラれちゃうって?」
加奈子「ヤバいんですよ、今、お風呂に一緒に入ってて……」
恭子「まぁ、お風呂に?」
加奈子「はい!ヤバくないっすか?」
恭子「新しいサービス、始めたのかしら?」
加奈子「そこ?」
恭子「純平さんはどうしたのかしら?」
加奈子「そういえば、旦那さん、いないっす」
恭子「まさか、愛人?」
加奈子「えーーー」
恭子「どれ、見に行こう!」
恭子と加奈子は走り出す。
○同・男湯・中(夜)
小雪が、落ち武者の頭からお湯をかけている。
落ち武者「刃物を持ってきてくれ」
小雪「は、刃物、ですか?」
落ち武者「ああ」
小雪「いけません!」
落ち武者「なんじゃと?」
小雪「切腹なさるおつもりでは?」
落ち武者は豪快に笑って、
落ち武者「馬鹿者!拙者はそんなことはせん!」
小雪「では、なにを?」
落ち武者「頭を剃ってほしい」
小雪は、鏡越しに落ち武者を見る。
落ち武者の逞しいカラダが鏡に映っている。
○同・同・外(夜)
脱衣所の安全カミソリを手に取る小雪。
と、恭子と加奈子が来て、
恭子「アンタなにそのかっこう?」
小雪「しょうがないじゃない」
加奈子「だいじょぶでした?」
小雪「うん。大丈夫。これから髪を剃ってあげるんだ」
恭子「髪を?」
恭子は、落ち武者の方を見る。
恭子は、色めき立つ。
加奈子「落ち武者の髪を剃る女将なんて、世界中探しても女将さんだけですよ」
小雪は笑って、
小雪「ふふ。そうかもね。でも、私がやらなきゃ」
恭子「まって!私がやる」
小雪「いいわよ、お母さん、邪魔しないで」
恭子「邪魔って、お前、私だって」
小雪「私だって、なに?」
恭子「お前は、旦那がいるだろう、旦那に悪いじゃないか」
小雪は笑って、
小雪「これは仕事だから」
恭子「お前に、もしものことがあったら」
小雪「大丈夫。私はもう十分大人だから」
小雪は笑顔を作る。
小雪は、男湯に入っていく。
恭子と加奈子は見送る。
○同・同・中(夜)
落ち武者が、恭子と加奈子に気付き、立ち上がる。
落ち武者「なんじゃ、あのババアとたぬきは?」
恭子と加奈子は悲鳴を上げる。
小雪「母と従業員です」
落ち武者「母上はわかるが、じゅうぎょううんぬんとは?敵か?」
小雪「この宿の下働きですよ。敵じゃありません」
落ち武者「ならばよい」
小雪が落ち武者の髪の毛を剃っていく。
小雪は、手を止めて、
小雪「あ」
落ち武者は目を閉じている。
恭子と加奈子がのぞいている。
落ち武者の首に血が垂れる。
つづく
※この物語はフィクションです。齋藤なつ
<第2話>
○同・男湯・中(夜)
半分露天になっている温泉。
落ち武者が湯船に浸かっている。
雪が少し吹き込んでくる。
落ち武者「おーい」
すりガラスの向こうに小雪がいる。
小雪の声「はい」
落ち武者「背中を流してくれんか?」
小雪の声「はい、ただいま」
落ち武者「着物は脱いでくるのだぞ」
小雪の声「え?それはちょっと……」
落ち武者「なんだ?」
小雪の声「恥ずかしいというか、セクハラというか」
落ち武者「恥ずかしがることはない。何もせぬ」
小雪の声「脱がなかったら?」
落ち武者「打ち首じゃ!」
小雪の声「ひぃぃ」
落ち武者「ガハハハ!冗談じゃ」
小雪の声「ちょっとお待ちくださいませ」
落ち武者は、温泉のお湯で豪快に顔を洗う。
○同・同・外(夜)
小雪と加奈子が脱衣所にいる。
着物と刀が置いてある。
小雪は刀を両手に持って震える。
加奈子「ど、どーするんですかー?」
小雪「どーするもこーするも、やるしかないべ」
加奈子「えーーー」
小雪「やるしか」
小雪は、刀を睨みつけている。
加奈子「わ、わたし、大女将呼んできます」
加奈子、走り出す。
○同・同・中(夜)
落ち武者が、湯船から出て、椅子に座わっている。
落ち武者「おーい、まだか!」
と、ガラス戸が開いて、小雪が入ってくる。
小雪は、黒のビキニを着ている。
髪をポニーテールにしている。
落ち武者はニヤリとする。
小雪「お待たせしました」
落ち武者「頼む」
小雪は落ち武者の背中を流す。
落ち武者は、筋肉質でセクシーな体。
小雪、ちょっと見とれる。
落ち武者が立ち上がり、小雪に体を見せつける。
小雪は、顔をそむける。
落ち武者は笑いながら、椅子に座る。
落ち武者「これはなんじゃ?」
落ち武者は、シャンプーのボトルを持っている。
小雪「シャンプーでございます」
落ち武者「なにするものぞ?」
小雪「頭を洗います」
落ち武者「ほう」
小雪「洗いましょうか?」
落ち武者「いい」
小雪「昔、美容院でアルバイトしてたから、洗うのうまいですよ」
落ち武者「……意味がわからぬ」
小雪「洗わせてください」
落ち武者、無言。
○同・恭子の部屋(夜)
恭子はこたつで猫を撫でている。
と、加奈子が来て、
加奈子「大女将!てーへんです!」
恭子は、猫をこたつに隠す。
恭子「なに?」
加奈子「若女将が落ち武者にヤラれちゃいます!あれ、やっちゃうのかな?」
恭子「ぶっ!なに?ヤラれちゃうって?」
加奈子「ヤバいんですよ、今、お風呂に一緒に入ってて……」
恭子「まぁ、お風呂に?」
加奈子「はい!ヤバくないっすか?」
恭子「新しいサービス、始めたのかしら?」
加奈子「そこ?」
恭子「純平さんはどうしたのかしら?」
加奈子「そういえば、旦那さん、いないっす」
恭子「まさか、愛人?」
加奈子「えーーー」
恭子「どれ、見に行こう!」
恭子と加奈子は走り出す。
○同・男湯・中(夜)
小雪が、落ち武者の頭からお湯をかけている。
落ち武者「刃物を持ってきてくれ」
小雪「は、刃物、ですか?」
落ち武者「ああ」
小雪「いけません!」
落ち武者「なんじゃと?」
小雪「切腹なさるおつもりでは?」
落ち武者は豪快に笑って、
落ち武者「馬鹿者!拙者はそんなことはせん!」
小雪「では、なにを?」
落ち武者「頭を剃ってほしい」
小雪は、鏡越しに落ち武者を見る。
落ち武者の逞しいカラダが鏡に映っている。
○同・同・外(夜)
脱衣所の安全カミソリを手に取る小雪。
と、恭子と加奈子が来て、
恭子「アンタなにそのかっこう?」
小雪「しょうがないじゃない」
加奈子「だいじょぶでした?」
小雪「うん。大丈夫。これから髪を剃ってあげるんだ」
恭子「髪を?」
恭子は、落ち武者の方を見る。
恭子は、色めき立つ。
加奈子「落ち武者の髪を剃る女将なんて、世界中探しても女将さんだけですよ」
小雪は笑って、
小雪「ふふ。そうかもね。でも、私がやらなきゃ」
恭子「まって!私がやる」
小雪「いいわよ、お母さん、邪魔しないで」
恭子「邪魔って、お前、私だって」
小雪「私だって、なに?」
恭子「お前は、旦那がいるだろう、旦那に悪いじゃないか」
小雪は笑って、
小雪「これは仕事だから」
恭子「お前に、もしものことがあったら」
小雪「大丈夫。私はもう十分大人だから」
小雪は笑顔を作る。
小雪は、男湯に入っていく。
恭子と加奈子は見送る。
○同・同・中(夜)
落ち武者が、恭子と加奈子に気付き、立ち上がる。
落ち武者「なんじゃ、あのババアとたぬきは?」
恭子と加奈子は悲鳴を上げる。
小雪「母と従業員です」
落ち武者「母上はわかるが、じゅうぎょううんぬんとは?敵か?」
小雪「この宿の下働きですよ。敵じゃありません」
落ち武者「ならばよい」
小雪が落ち武者の髪の毛を剃っていく。
小雪は、手を止めて、
小雪「あ」
落ち武者は目を閉じている。
恭子と加奈子がのぞいている。
落ち武者の首に血が垂れる。
つづく
※この物語はフィクションです。齋藤なつ
2018年10月01日
『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 第1話
『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』
登場人物
星野小雪(33) 「ほしの旅館」の女将
落ち武者(33)
星野純平(34) 小雪の夫・「ほしの旅館」の料理長
星野恭子(58) 小雪の母・「ほしの旅館」の大女将
中井加奈子(23)(33)「ほしの旅館」の仲居
翔太(5) 加奈子の息子
赤ちゃん(0)
<第1話>
○中井家・全景(夜)
家の周りは、イルミネーションが光っている。
○同・子供部屋(夜)
クリスマスツリーが飾られている。
中井加奈子(33)と息子の翔太(5)がベッドで横になっている。
翔太「ねぇ、お母さん。あの話して」
加奈子「えー、またぁ?」
翔太「おねがい」
加奈子「サンタさんきちゃうよ」
翔太「会える?」
加奈子「どうかな?」
翔太「プレゼントもらえるかな?」
加奈子「いい子にしてたらきっともらえるよ」
翔太「おはなし」
加奈子「わかったわかった。昔、お母さんが若かった頃……」
翔太が目を輝かせている。
○鬼子母神・前
雪が降っている。
○同・参道
星野小雪(33)が小走りでやってくる。
吐く息が白い。
裸足に下駄を履いている。
足先が赤い。
小さいお地蔵さんの前までくると、おにぎりをそなえる。
小雪は、首にまいていた赤いマフラー
をとり、お地蔵さんの頭にかける。
小雪は、お地蔵さんに向かって祈り、
小走りに去っていく。
○タイトル『おもてなし』
○銀山温泉・全景
大正時代にタイムスリップしたかの様な温泉街。
雪が降り積もっていく。
○「ほしの旅館」・外観
○同・玄関・中
閑散としている。
クリスマスツリーが飾られている。
奥で人の話す声がしている。
○同・事務所
星野純平(34)がコートを着て、大きなカバンを持っている。
ストーブの近くに小雪が立っている。
小雪「イブだってのに、こう人がこなきゃ、やってらんないね」
星野「んだな」
小雪「あっちさついだら連絡してけろ」
星野「……」
小雪「体、きぃつけて」
星野「めもな」
小雪は体をよじらせて、
小雪「やっぱ、春になってからにしだら?」
星野、無言。
小雪「こーんな雪の日にわざわざでかけねくたって……」
星野「10年待ったんだ。10年待って、子供ができねかったら……」
小雪「わがってる。わがってるども。トーキョーで店やるんがあんたの夢だったもんねぇ。
それを承知で婿にきてもらったんだ。だから、やくそくだね」
星野「すまねえ」
小雪は涙を浮かべて、
小雪「生きわがれか、つれえな」
星野「幸せにしてやれなくって」
小雪「だったらいぐな!」
星野「……一緒さくるか?」
小雪「それはでぎね」
星野は離婚届を出す。
離婚届には星野のサインがしてある。
小雪は号泣。
星野は出ていく。
小雪は泣き崩れている。
○同・恭子の部屋
星野恭子(58)と中井加奈子(23)がこたつでみかんを食べている。
恭子「加奈子ちゃん、なんだろ、あの狼みたいな鳴き声」
加奈子「さぁ……。ちょっと見てきます」
恭子「(遮って)ああ、いい、いい」
加奈子「でも……」
恭子「どーせ、野良犬かなんかだろ」
加奈子「そうですね」
加奈子はみかんに手を出す。
恭子「加奈子ちゃん、今夜は予定ないの?」
加奈子「デートですか?」
恭子「クリスマスイブでしょ?」
加奈子「彼氏とけんかしてて……」
恭子「謝っちゃえば?」
加奈子「そういう問題ではないです」
恭子「向こうが悪くても、謝っちゃえば、こっちのもんだってばさ」
加奈子「そういうもんですかね?」
恭子「あたしは謝っちゃうな、すぐに」
加奈子「さすがっす」
恭子「男なんてプライドの塊みたいなもんだから。そいでいて子供なんだから。こまっちゃうよね〜」
加奈子「旦那さんが亡くなって、もう8年ですか……」
恭子は、仏壇の遺影を見る。
○同・玄関・中(夜)
小雪が扉を開けて、外の様子を伺っている。
外は吹雪である。
と、人影が近づいてくる。
小雪は、じっと外を睨む。
小雪、ハッとして叫ぶ。
小雪「あんた!」
人影が小雪の目の前までくる。
落ち武者(33)である。
小雪「ひぃ」
小雪が玄関の中に後ずさりする。
落ち武者は、入ってきて、鎧に積もった雪を払い落とす。
小雪は、尻餅をつく。
落ち武者は、小雪を見下す。
落ち武者「湯を拝借したい」
小雪は、落ち武者を下から上までながめまわす。
落ち武者「おい!きいておるのか?湯だ!湯!」
小雪「は、はい!」
小雪は小走りで走っていく。
落ち武者は、鎧を脱いで、上り框に腰掛ける。
落ち武者は赤いマフラーをしている。
小雪は、タライとお湯の入った桶を運んでくる。
小雪はドキマギしている。
小雪「あ、足元失礼いたします」
小雪が、落ち武者の足元にタライを置く。
落ち武者「なんじゃ、ずいぶん小さいじゃないか?拙者を馬鹿にしておるのか?」
小雪「いえ、とんでもございません!こちらは足湯でございます。いきなり温泉に入ら
れるのはお体によくありませんから。まずはお客様の足を温めさせてください」
小雪、営業スマイル。
落ち武者「あしゆ?ふん!」
小雪は、膝眞づいて落ち武者の濡れた草履を脱がせる。
タライを足の下に入れ、お湯を注ぐ。
小雪「お湯加減はいかがです?」
落ち武者「ぬるい!」
小雪「失礼いたしました。もっと熱いお湯をくんでまいります」
小雪は、桶を持って小走りで去る。
落ち武者は、クリスマスツリーをジロジロ見ている。
○同・事務所(夜)
小雪が、電話のところで、受話器をあげ、11とプッシュする。と、外でドサドサと雪が落ちる大きな音がして、
受話器を置く。
加奈子がきて、
加奈子「女将さん!」
小雪は驚いて飛び上がる。
加奈子「どうしたんですか?」
加奈子は笑う。
小雪「おち、おち、」
加奈子は不思議そうに小雪を見ている。
小雪「落ち武者!」
加奈子「はぁ?おちむしゃ?」
加奈子は笑う。
加奈子「落ち武者がどうしたんですか?」
小雪「でた、きた、いる」
加奈子「え?いる?」
小雪「お客」
加奈子「また〜」
小雪「ほんと、ほんと」
小雪は、指を立てて口に当てる。
加奈子は真面目な顔になり、事務所から顔を出す。
落ち武者の後ろ姿が見える。
加奈子は慌てて顔を隠す。
加奈子「ほ、ほんとだ。落ち武者だ」
小雪「ね」
小雪と加奈子は手を取り合う。
続く。
登場人物
星野小雪(33) 「ほしの旅館」の女将
落ち武者(33)
星野純平(34) 小雪の夫・「ほしの旅館」の料理長
星野恭子(58) 小雪の母・「ほしの旅館」の大女将
中井加奈子(23)(33)「ほしの旅館」の仲居
翔太(5) 加奈子の息子
赤ちゃん(0)
<第1話>
○中井家・全景(夜)
家の周りは、イルミネーションが光っている。
○同・子供部屋(夜)
クリスマスツリーが飾られている。
中井加奈子(33)と息子の翔太(5)がベッドで横になっている。
翔太「ねぇ、お母さん。あの話して」
加奈子「えー、またぁ?」
翔太「おねがい」
加奈子「サンタさんきちゃうよ」
翔太「会える?」
加奈子「どうかな?」
翔太「プレゼントもらえるかな?」
加奈子「いい子にしてたらきっともらえるよ」
翔太「おはなし」
加奈子「わかったわかった。昔、お母さんが若かった頃……」
翔太が目を輝かせている。
○鬼子母神・前
雪が降っている。
○同・参道
星野小雪(33)が小走りでやってくる。
吐く息が白い。
裸足に下駄を履いている。
足先が赤い。
小さいお地蔵さんの前までくると、おにぎりをそなえる。
小雪は、首にまいていた赤いマフラー
をとり、お地蔵さんの頭にかける。
小雪は、お地蔵さんに向かって祈り、
小走りに去っていく。
○タイトル『おもてなし』
○銀山温泉・全景
大正時代にタイムスリップしたかの様な温泉街。
雪が降り積もっていく。
○「ほしの旅館」・外観
○同・玄関・中
閑散としている。
クリスマスツリーが飾られている。
奥で人の話す声がしている。
○同・事務所
星野純平(34)がコートを着て、大きなカバンを持っている。
ストーブの近くに小雪が立っている。
小雪「イブだってのに、こう人がこなきゃ、やってらんないね」
星野「んだな」
小雪「あっちさついだら連絡してけろ」
星野「……」
小雪「体、きぃつけて」
星野「めもな」
小雪は体をよじらせて、
小雪「やっぱ、春になってからにしだら?」
星野、無言。
小雪「こーんな雪の日にわざわざでかけねくたって……」
星野「10年待ったんだ。10年待って、子供ができねかったら……」
小雪「わがってる。わがってるども。トーキョーで店やるんがあんたの夢だったもんねぇ。
それを承知で婿にきてもらったんだ。だから、やくそくだね」
星野「すまねえ」
小雪は涙を浮かべて、
小雪「生きわがれか、つれえな」
星野「幸せにしてやれなくって」
小雪「だったらいぐな!」
星野「……一緒さくるか?」
小雪「それはでぎね」
星野は離婚届を出す。
離婚届には星野のサインがしてある。
小雪は号泣。
星野は出ていく。
小雪は泣き崩れている。
○同・恭子の部屋
星野恭子(58)と中井加奈子(23)がこたつでみかんを食べている。
恭子「加奈子ちゃん、なんだろ、あの狼みたいな鳴き声」
加奈子「さぁ……。ちょっと見てきます」
恭子「(遮って)ああ、いい、いい」
加奈子「でも……」
恭子「どーせ、野良犬かなんかだろ」
加奈子「そうですね」
加奈子はみかんに手を出す。
恭子「加奈子ちゃん、今夜は予定ないの?」
加奈子「デートですか?」
恭子「クリスマスイブでしょ?」
加奈子「彼氏とけんかしてて……」
恭子「謝っちゃえば?」
加奈子「そういう問題ではないです」
恭子「向こうが悪くても、謝っちゃえば、こっちのもんだってばさ」
加奈子「そういうもんですかね?」
恭子「あたしは謝っちゃうな、すぐに」
加奈子「さすがっす」
恭子「男なんてプライドの塊みたいなもんだから。そいでいて子供なんだから。こまっちゃうよね〜」
加奈子「旦那さんが亡くなって、もう8年ですか……」
恭子は、仏壇の遺影を見る。
○同・玄関・中(夜)
小雪が扉を開けて、外の様子を伺っている。
外は吹雪である。
と、人影が近づいてくる。
小雪は、じっと外を睨む。
小雪、ハッとして叫ぶ。
小雪「あんた!」
人影が小雪の目の前までくる。
落ち武者(33)である。
小雪「ひぃ」
小雪が玄関の中に後ずさりする。
落ち武者は、入ってきて、鎧に積もった雪を払い落とす。
小雪は、尻餅をつく。
落ち武者は、小雪を見下す。
落ち武者「湯を拝借したい」
小雪は、落ち武者を下から上までながめまわす。
落ち武者「おい!きいておるのか?湯だ!湯!」
小雪「は、はい!」
小雪は小走りで走っていく。
落ち武者は、鎧を脱いで、上り框に腰掛ける。
落ち武者は赤いマフラーをしている。
小雪は、タライとお湯の入った桶を運んでくる。
小雪はドキマギしている。
小雪「あ、足元失礼いたします」
小雪が、落ち武者の足元にタライを置く。
落ち武者「なんじゃ、ずいぶん小さいじゃないか?拙者を馬鹿にしておるのか?」
小雪「いえ、とんでもございません!こちらは足湯でございます。いきなり温泉に入ら
れるのはお体によくありませんから。まずはお客様の足を温めさせてください」
小雪、営業スマイル。
落ち武者「あしゆ?ふん!」
小雪は、膝眞づいて落ち武者の濡れた草履を脱がせる。
タライを足の下に入れ、お湯を注ぐ。
小雪「お湯加減はいかがです?」
落ち武者「ぬるい!」
小雪「失礼いたしました。もっと熱いお湯をくんでまいります」
小雪は、桶を持って小走りで去る。
落ち武者は、クリスマスツリーをジロジロ見ている。
○同・事務所(夜)
小雪が、電話のところで、受話器をあげ、11とプッシュする。と、外でドサドサと雪が落ちる大きな音がして、
受話器を置く。
加奈子がきて、
加奈子「女将さん!」
小雪は驚いて飛び上がる。
加奈子「どうしたんですか?」
加奈子は笑う。
小雪「おち、おち、」
加奈子は不思議そうに小雪を見ている。
小雪「落ち武者!」
加奈子「はぁ?おちむしゃ?」
加奈子は笑う。
加奈子「落ち武者がどうしたんですか?」
小雪「でた、きた、いる」
加奈子「え?いる?」
小雪「お客」
加奈子「また〜」
小雪「ほんと、ほんと」
小雪は、指を立てて口に当てる。
加奈子は真面目な顔になり、事務所から顔を出す。
落ち武者の後ろ姿が見える。
加奈子は慌てて顔を隠す。
加奈子「ほ、ほんとだ。落ち武者だ」
小雪「ね」
小雪と加奈子は手を取り合う。
続く。
タグ:#脚本 #オリジナル原稿